Fate/cross silent   作:ファルクラム

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番外編1「メイドさん強襲事件」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! オーッ ホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 さて、

 

 のっけから、大変失礼しました。

 

 口に手を当て、自らの足元を見下ろしながら、冒頭の高笑い(ばかわらい)をぶち上げている少女は、見事な金髪を縦ロールにセットした、この家の当主、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトである。

 

 一方、彼女の足元に蹲り、屈辱の表情で打ち震えているのは、彼女の(一応の)同僚にして、ライバルであり天敵でもある少女、遠坂凛(とおさか りん)である。

 

 因みに凛は今、なぜかメイド服に身を包んでいる。更にバケツの水を頭からかぶり、ずぶ濡れの状態になっている。

 

 何ともまあ、互いの立場を如実に表している、と言えなくもない状況ではある。

 

 もっとも、加害者(ルヴィア)の方はともかく、被害者(りん)の方は、この状況に対して、甘んじて受け入れている訳ではない。無論の事。

 

 そんな年長者たちの醜い争いを、

 

 この屋敷に住み込む、もう1人のメイドである美遊・エーデルフェルトは、呆れ気味に眺めていた。

 

 

 

 

 

「やってられッかァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ガッシャァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

「なにィィィィィィィィィィィィ!?」

「敵襲かァァァァァァァァァァァ!?」

 

 突如、窓ガラスを割って飛び込んで来た人物に対し、部屋の中で仲良くゲームをやっていた姉弟2人は、思わずゲーム機を放り出して、ヒシッと抱き合う。

 

 いったい何が起きたのか?

 

 ここはエーデルフェルト邸の向かいにある衛宮邸。その2階にある、長女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの部屋。

 

 部屋の中にはイリヤ本人と、彼女の弟である衛宮響(えみや ひびき)がいたのだが、

 

 そこに飛び込んで来たのが、彼女たちの知り合いでもある遠坂凛(メイド服)だった。

 

「あー ッたく!?」

 

 凛は苛立ち紛れに悪態をつくと、イリヤのベッドに勝手に座り込む。

 

「冗談じゃないわよ、ホントに!!」

「ど、どうしてわざわざ窓から・・・・・・」

 

 予期せぬ破壊活動に遭い、ガックリとうなだれるイリヤ。

 

 対して、凛は全く悪びれた様子を見せない。

 

「ムシャクシャしてやった!! あとで直してあげるわよ!!」

《反省の色無しですね、この若者》

 

 呆れ気味に言ったのは、魔法のステッキであるマジカル・ルビーだった。

 

 ルビーは更に続ける。

 

《それにしても凛さん。何ですかその恰好は? さてはとうとう、頭がイカれて・・・・・・》

 

 プププと、笑いを漏らしながらからかい口調で告げるルビー。

 

 だが、その言葉は最後まで告げられることは無かった。

 

 凛はルビーを床に叩きつけると、その体に鋏、カッター、シャーペン、ボールペン、コンパスを次々と突き刺す。

 

 そのあまりの早業に、当のルビーは勿論、イリヤや響も目で追う事は出来なかった。

 

「これ以上、わたしをイラつかせない方が身の為よ?」

《イ、イエス、元マスター・・・・・・》

 

 普段以上に残虐性の高い凛に、いつもはノーテンキなルビーも、身の危険を感じて声を震わせる。

 

「それで、凛・・・・・・・・・・・・」

 

 ようやく落ち着いてきたところで響が口を開いた。

 

「どうしたの? 何その恰好?」

 

 何はともあれ、まずはそこだった。

 

 なぜに凛がメイド服なんぞ着ているのか?

 

 キョトンとした顔で尋ねる響に対し凛も、落ち着きを取り戻すためか、深々と息を吐いてから口を開いた。

 

「わたしだって好き好んでメイド服なんてきてるわけじゃないわよ!! こんな機能性の低い、ヒラヒラした服・・・・・・けど、『これを着ないと働かせない』ってあいつが言うから仕方なく・・・・・・・・・・・・」

 

 悔しさを滲ませる凛。

 

 しかし、話を聞かされた小学生2人は、意味が分からずに怪訝な顔つきをする。

 

「つまり、何したの?」

「情報が断片的過ぎて分かりづらいんだけど・・・・・・」

 

 何がどうなって凛がメイド服を着て、最終的にイリヤの部屋の窓をぶち割る事態に陥ったのか?

 

 その流れが一切見えてこなかった。

 

 そんな中、

 

《鈍いですねー イリヤさんも響さんも》

 

 口を開いたのは、先ほどの拷問から脱出したルビーだった。

 

《つまり端的に言えば凛さんは、金の為にプライドを売ったわけです。ですよね?》

「うぐ・・・・・・・・・・・・」

 

 図星だったのか、言葉に詰まる凛。

 

 ややあって、目をそらしながら高校生少女は、絞り出すように口を開いた。

 

「そうよ・・・・・・今の私にはお金が必要だったの・・・・・・」

 

 

 

 

 

 それは数日前、

 

 カード回収任務が終わった直後の事だった。

 

 屋敷に戻り、落ち着いて身の回りの事を片付けた凛は、愕然とした。

 

 宝石が、無い。1個も。

 

 原因は判っている。

 

 カード回収任務が終わった直後。カードを全て強奪しようとしたルヴィアを追って、凛は大量の宝石を惜しげもなくぶっぱなしまくった。

 

 後先考えずに宝石を消費した結果、今日の、宝石残数ゼロと言う事態に陥った訳である。

 

 宝石魔術を主戦力として戦う凛にとって、宝石は拳銃の弾丸に等しい。それでなくても、日々魔術研究にも宝石は使う。

 

 その宝石が無いと言う事はつまり、魔術師的には終わっているに等しかった。

 

 これは、早急に解決しなくてはならない事態である。

 

 すぐさま街の書店に直行し、タウン情報誌を片っ端から漁る凛。

 

 言うまでない事だが、宝石を買うにはお金がかかる。それも研究に使うともなれば、それなりの量が必要になるのだ。

 

 その為の金を、早急に用立てる必要があった。

 

 普通に、そこらでできるアルバイト程度では埒が明かない。

 

 この際、人体実験の被検体だろうが、財宝発掘の肉体労働だろうが、非合法ギリギリの物でも、金にさえなれば引き受けようと思った。

 

 そんな中、

 

 凛は見つけた。

 

 見つけてしまった。

 

 「それ」を。

 

 

 

 

 

〇ハウスメイド募集

 

 未経験者歓迎

 

 応募年齢:16~20歳(学生可)

 

 必要資格:無し

 

 業務内容:屋敷内の清掃全般

 

 休日:応相談

 

 

 

 

 

 そして、

 

 時給:1万円

 

 

 

 

 

「い、いちまんえんんんんんんんんッー!?」

 

 その瞬間、凛の目が眩んだのは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 しかも備考には、

 

〇黒髪ロング、身長159センチ、B77・W57・H80、ツリ目で赤い服の似合う女性は時給5000円アップ

 

 とまであった。

 

「天職だわ」

 

 完全に目玉が金色(かねいろ)になった凛は、その足で面接会場へ爆走、即応募、即面接、即日採用を勝ち取った。

 

 

 

 

 

「早ッ」

「ん、凛は詐欺に騙されるタイプ」

 

 小学生2人の感想をスルーしつつ、凛は続ける。

 

 しかし、

 

 よくよく考えれば、それはあまりにも都合が良すぎる内容だった。

 

 もっと言えば「遠坂凛にとって、都合が良すぎる」内容だったのだ。

 

 そうして迎えた就業初日。

 

 凛は悪夢を見る。

 

 執事のオーギュストに屋敷内を案内してもらっている時、

 

 現れた当主の姿を見て、愕然とした。

 

「あらあらあらあら、それが新しく雇ったメイドかしら、オーギュスト?」

「さようでございます。お嬢様」

 

 姿を見せた金髪縦ロール。

 

 もはや説明不要のルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの姿に、凛は遅ればせながらようやく事態を悟る。

 

 つまり、全てがこの女の計略だったわけだ。凛をこの事態に陥れるために、ずいぶんとまあ、迂遠な手を使った。

 

 壮大すぎる無駄遣い、と言ってしまえばそこまでだが、それを可能にしてしまうのがエーデルフェルト家の財力だった。

 

「とぉーってもよく働いてくれそうですわねぇ・・・・・・」

 

 完全に獲物を捕らえたハイエナの目をするルヴィア。

 

 対して凛は、もはや言葉も出ない。

 

「良い人材を確保したわオーギュスト。みっちりねっとり、バッキバキに教育してあげなさい」

「承知しました。足腰が立たなくなるまで仕事をたたき込むとしましょう」

 

 実に楽しそうな主従の会話を聞きながら、凛は己が獣の巣に落とされた事を如実に悟るのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・と言う訳で、職場環境は最悪だけど、背に腹は代えられない凛さんは、泣く泣くメイドをやっているのでした」

「はあ・・・・・・とんとん拍子の転落人生だね」

《何て面白・・・・・・痛ましい話なんでしょう》

 

 同情気味のイリヤの横で、若干本音を漏らすルビー。

 

「そっか、そんなにお金に困ってたんだね」

「くうッ 子供にこんな目で見られる日が来ようとは!!」

 

 イリヤの温かい眼差しに、余計に傷つく凛。100パーセントの善意なだけに、ダメージも大きい。

 

「これ、あげる。少ないけど」

「いらないわよ。しまっときなさい」

 

 取りあえず、響が憐れみと共に差し出したブタさん貯金箱は引っ込めさせた。

 

「でも、こうして逃げてきたってことは・・・・・・」

《だいたい予想着きますねー》

 

 嘆息交じりに呟く、イリヤとルビー。

 

 対して、凛も白状するように口を開いた。

 

「・・・・・・仕事内容と給料については何ら文句は無いわ。と言うか、あの時給の為なら大概の事は我慢するつもりでいたのよ」

 

 そりゃそうだろう。

 

 今日日、日本のアルバイトで時給1万5000円も支払う企業など皆無以下である。あるとすれば、よほど裏社会に漬かり切った汚れ仕事くらいな物だ。

 

 今すぐにでもお金が必要な凛にとっては、たとえ仇敵(ルヴィア)に頭を下げてでも耐えていくしかないところである。

 

「でもね!! 何なのよ、あのオーギュストとかいう執事はッ!! わたしのやる事全部にいちゃもん付けて!! 窓枠ツツーって指でなぞって、『貴女の国ではこれで掃除したと言うんですか?』とか言っちゃって!! リアルであんな事するやつ初めて見たわよ!!」

《やめてーッ!? オホーッ!? 千切れる千切れるッ!!》

 

 ルビーをガジガジと歯噛みしながら叫ぶ凛。

 

 と、今度はスイッチが切れたように、ガックリと項垂れると、歯型のついたルビーを放り捨てる。

 

「ううん、でも耐えたのよ、わたし。仕事だもの、お金もらうためだもの、これくらいで負けちゃいけないって・・・・・・」

「緩急激しいなあ」

「カルシウム不足?」

 

 ジェットコースターみたいな凛のテンションに付いていけないイリヤと響。

 

 小学生たちのコメントを無視して凛は続ける。

 

「でも、あの金バカだけは我慢ならなかった!!」

「「怖ッ」」

 

 おどろおどろしく声を震わせる凛に、震えあがる響とイリヤ。

 

「パワハラにも限度があると思うのよね。まあ、詳しくは省くけど、

 

・ケツキック

・雑巾バケツ

・高笑い

・身体的特徴に対する不適切な発言

 

 この辺のキーワードから、察していただけるかしら?」

 

 今度は随分と、判りやすい読解問題だった。

 

「で、まあ、結果として・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

「ふっざけんなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 ガッシャァァァァァァァァァァァァン!!

「ハボアッ!?」

 

 凛は手近にあった(高価そうな)壺でルヴィアの頭を強打。

 

 現在に至る、と言う訳である。

 

 

 

 

 

「カッとなってやっちゃった」

「お、殴殺事件だァァァァァァ!?」

「家政婦は見た? ミタ? ミタゾノ?」

《人の頭蓋は壺よりも薄いんですよ凛さん!!》

 

 あまりと言えばあまりの事態に、イリヤや響は勿論、普段はふざけ気味なルビーですら、本気でツッコミを入れる。

 

 だが、一同の驚きに対して、凛はイリヤのベッドにふて寝して背を向ける。

 

「大丈夫よ、どうせあいつは殺しても死なないし。て言うか死んでくれたら、それはそれで問題無いわ」

「法的に大問題だよ!!」

「警察呼ぶ?」

 

 ツッコミを入れるイリヤと響。

 

 対して、ふて寝したままの凛は、嘆息交じりに呟きを返す。

 

「・・・・・・・・・・・・ま、元からうまくいくはずなかったのよ」

 

 思えば、仕事内容を把握した時点でやめる。と言う選択肢もあったのだ。多少グレードを落とせば、他に働き口もあっただろうし。

 

 しかし、金に目の眩んだ凛は、そうしなかった。

 

 それが今回の事態に繋がったのだ。

 

 だが、覆水は盆に返らない。起こってしまった事は、覆しようがなかった。

 

「話せて少しはスッキリしたわ。突然悪かったわね」

 

 起き上がった凛は、いつもの調子に戻っていた。

 

 対して、イリヤ達も、落ち着いた調子で話しかけた。

 

「それは良いけど・・・・・・でも・・・・・・」

《これからどうするんですかー?》

 

 事情は分かったが、凛にとって事態は全く好転していないのも事実である。

 

 お金を稼ぐのはどうするのか?

 

「やっぱりあげる?」

「いらないから」

 

 再度、響が差し出したブタさん貯金箱を引っ込めさせると、凛はさばさばした調子で肩を竦めた。

 

「どうするも何も・・・・・・これで私はクビだろうし、他のバイトを探すしかないわね」

 

 要するに、ある程度のお金が入ればそれで良いのだ。割り切ってしまえば、何も最悪な職場環境に甘んじている理由は無い。

 

 その時だった。

 

「それで良いんですか?」

 

 掛けられた静かな声に、一同は窓の外を向く。

 

 そこには、エーデルフェルト家に仕える、もう1人のメイドが佇んでいた。

 

「ミユッ」

「ん、おはよ」

 

 美遊は礼儀正しく「おじゃまします」と言うと、窓際で靴を脱いで部屋の中に上がり込んで来た。

 

 その静かな瞳が、真っすぐに凛を見る。

 

「お金が必要なんですよね、凛さん」

「う、それは・・・・・・」

「うち以上の高給なアルバイトが、他に見つかるとは思えません」

「・・・・・・・・・・・・判ってるわよ」

 

 小学生女児に論破される高校生と言うのも色々あれだが、美遊の言っている事は完璧な正論であるため、凛としても反論の余地は無かった。

 

「けど、これ以上、あのバカの相手はやってられないのよ」

 

 そう言ってそっぽを向く凛。

 

 理屈では判っていても感情が伴わない。そんな感じである。

 

 その時だった、

 

「・・・・・・・・・・・・わたくしが謝罪する、と言っても?」

 

 再び発せられた言葉に、一同は再度、窓の方を見る。

 

 すると今度はそこに、今回の騒動の大元である、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが佇んでいた。

 

 この事態には、流石の凛も呆気に取られた。

 

「ルヴィア・・・・・・あんた、どうして・・・・・・・・・・・・」

 

 殊勝な態度で佇むルヴィアに対し、凛も毒気を抜かれたように見つめ返す。

 

 対して、ルヴィアは神妙な顔つきで歩み寄る。

 

「恥ずべきのは・・・・・・わたくしの方だと言う事ですわ」

 

 静かに告げられる、和解への誘い。

 

 それはそうと、

 

「なんでみんな、窓から入ってくるのかな?」

「ん、やっぱ警察呼ぶ?」

 

 ヒソヒソと話し合う、イリヤと響の姉弟。

 

 そんな2人のやり取りを無視して、ルヴィアは続ける。

 

「貴女との確執からつい辛く当たってしまったけれど・・・・・・ようやく気付いたのです。こんな形で貴女を屈服させても意味は無い、と」

「ルヴィア・・・・・・・・・・・・」

 

 これまで見た事も無いようなしおらしい態度のルヴィアに、凛は心を揺らがせる。

 

 そう、

 

 自分だって、別にルヴィアといがみ合いたい訳ではない。

 

 ただ、時計塔以来の確執が長く尾を引き、「やられたらやり返す」と言う習性から抜け出せなくなっていただけなのだ。

 

 凛に手を差し伸べるルヴィア。

 

「貴女との決着は、いずれ正々堂々とつけて見せますわ。けど、それと仕事は別の事。もう、私情を挟むような真似はしないと誓いましょう。だから、帰ってきなさい遠坂凛(トオサカ リン)

 

 ルヴィアは、ただの傲慢な成金お嬢様ではない。

 

 彼女もまた、由緒正しきエーデルフェルトの血統を受け継ぐ、誇り高い今代の魔術師であり貴族なのだ。

 

 魔術師は魔術師らしく、貴族は貴族らしく、卑怯なふるまいは決してしてはならない。

 

 ルヴィアの在り方が、そう語っていた。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・廊下の掃除が、まだ終わってなかったわね」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと、凛は立ち上がる。

 

 どうやらそれが、凛にとって和解の受け入れだったようだ。

 

「凛さん・・・・・・」

「ったく、これで逃げたら、まるでわたしが仕事放棄しただけのダメ人間じゃない」

 

 美遊の言葉に対し、照れ隠しのように言う凛。

 

 次いで、ルヴィアを見た。

 

「やるわよ。仕事は仕事。ルヴィア(あんた)がそれを判っているなら、それで良い」

 

 

 

 

 

 その後、

 

 凛は壊れた窓を魔術で元通りに直し、ルヴィア、美遊と共に帰って行った。

 

 雨降って地固まる。

 

 いがみ合っていた2人は和解を果たし、より強い絆で結ばれたのだ。

 

 やはり、自分たちに近しい人間がいがみ合っているのは、子供たちにとっても嫌な事であることは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、

 

 ここで終わってくれれば、全てが美しく纏まっていたのだが、

 

 誠に残念なことに、イリヤは見逃さなかった。

 

「見たよね、ルビー・・・・・・ヒビキも」

《見ちゃいましたねー》

「一瞬だったけど・・・・・・・・・・・・」

 

 3人はそう言うと、嘆息交じりに頷きあう。

 

 それは部屋を後にする直前、

 

 凛の背を見ながら、ルヴィアが浮かべた顔。

 

 そこに浮かんだ邪悪な表情は、忘れたくても忘れようがない。

 

「こんな面白い玩具、手放してなるものか」

 

 その表情は、明らかにそう語っていた。

 

「・・・・・・また近い内に、窓割られそうな気がするよ」

《今度は鉄板でも仕込んでおきますか?》

「それか、こっちからかち込む?」

 

 そう言うと、3人はそろってため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

番外編「メイドさん強襲事件」      終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

 

 

「ハアァァァァァァァァァァァァ!? 560万円!?」

「貴女が壊した壺の代金ですわ!! オーッホッホッホッホッホッホ!!」

「373時間はタダ働きですね・・・・・・・・・・・・」

 

 愕然とする凛と、勝ち誇るルヴィア。

 

 1人、美遊は呆れたように嘆息するのだった。

 


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