Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第55話「雷鳴を継承者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 景色が、元に戻る。

 

 固有結界「翻りし遥かなる誠」が解除され、それまであった闇夜の街並みは消え去り、代わって元の深山町へと戻る。

 

 その中で、

 

 ベアトリスに刀を刺したまま対峙する、少年暗殺者の姿。

 

 握る柄に、確かに感じる。

 

 手応えは、あった。

 

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

 響はゆっくりと、刀を引く。

 

 同時に、支えを失ったように、ベアトリスの身体はその場で膝を突いた。

 

 響の放った無明暗剣殺(むみょうあんけんさつ)は、ベアトリスの持つトールの神核を確実に刺し貫いた。

 

 いかに北欧最強の神とは言え、致命傷は免れなかったはずだ。

 

 血振るいをして、刀を鞘に納める。

 

 ベアトリスは倒した。

 

 だが、まだ戦いは続いている。美遊やイリヤ達を援護し、一刻も早くジュリアンの下へ行かねばならない。

 

 踵を返す響。

 

 そのまま歩き出そうとした。

 

「・・・・・・なーるほど・・・・・・成程、なあ」

 

 どこか自嘲が混ざったような笑い声に、思わず響は足を止める。

 

 振り返る、

 

 次の瞬間、

 

 背後から伸びて来た巨大な腕が、響の身体を文字通り鷲掴みにした。

 

「なッ!?」

 

 驚愕する響。

 

 その視界の先で、

 

 倒れたはずのベアトリスが、顔を上げていた。

 

 肥大化した右腕が、響の身体をガッチリと握りしめている。

 

 その強大な腕力を前に、振りほどく事は愚か、身じろぎすらできない。

 

「ば、なん、で・・・・・・・・・・・・」

 

 響の剣は、間違いなくベアトリスの神核を貫いた。

 

 立ち上がる事はおろか、動く事すらままならないはずなのに。

 

「そのむかつくツラ。どっかで見覚えあると思ったら、テメェ、『あいつ』かよ」

 

 言いながら、ベアトリスは響を掴んでいる手とは反対の左手で、己の胸を差す。

 

「テメェに突かれた傷、うずいてうずいてしょうがなかったぜ?」

 

 いながら、ベアトリスは自分の胸をわざとらしくさすって見せる。

 

 そこは以前、第5次聖杯戦争の折、朔月響(さかつき ひびき)の剣によって刺し貫かれた場所である。

 

 無論、もはや傷など存在しない。

 

 しかし、あの時の屈辱は、時を経た今なお、ベアトリスの中で燻り続けていた。

 

「な、何で・・・・・・生きて・・・・・・」

 

 一方の響は、ベアトリスに鷲掴みにされて、完全に身動きを封じられている。

 

 腕も拘束されてしまった為、刀を抜く事すらできないでいた。

 

 否、

 

 それよりなのより、新核を貫いたはずのベアトリスが未だに生きている事に、響は驚愕していた。

 

「ああ・・・・・・悪ィな~」

 

 そんな響の驚愕を楽しむように、更に腕に力を籠めるベアトリス。

 

 同時に、響の身体を掴んだまま、腕を高々と振り上げる。

 

「この程度じゃ、死ねねえんだ、あたしは、よッ!!」

 

 次の瞬間、

 

 自分の拳ごと、響を地面に叩きつけた。

 

「ガァァァァァァッ!?」

 

 全身がバラバラになりそうなほどの衝撃が、少年を容赦なく襲う。

 

 思わず飛びそうになる意識を、どうにかつなぎ止める響。

 

 だが、ベアトリスの暴虐は、そこで留まらない。

 

 2度、3度、4度、5度、6度、7度

 

 容赦なく、響の身体を振り回し、地面に叩きつける。

 

 その度に、ボロボロになっていく響。

 

「何しろ、この程度で死んじまったら、どやされちまうからなあッ 『親父』によォッ!!」

 

 ゲラゲラと、甲高い笑いを上げるベアトリス。

 

 と、

 

「お・・・・・・やじ?」

「あん? 何だ、まだ生きてんのかよ? 面倒くせェなァ」

 

 辛うじて意識を保っていた響が口を開く。

 

 「親父」と言う単語が、響の中で引っかかった。

 

 クロエは以前、ベアトリスの英霊の真名は「雷神トール」だと考察した。

 

 それは神話級の宝具である「悉く打ち砕く雷神の槌(ミョルニル)」を操る事から、ほぼ確実とされていた。

 

 敢えて今更言うまでも無い事だが、宝具は一部の例外を除いて、その本来の担い手である英霊本人以外は使う事はできない。

 

 例えば一時的に保有した程度の英霊では、宝具は担い手とは認めない。

 

 ミョルニルに限って言えば、実際に作成に当たったトヴェルグの兄弟、ブロックとシンドリ。更には、一時的にトールからミョルニルを奪った霜の巨人王スリュム。

 

 彼等もまたミョルニルの「所有者」ではあるが、「担い手」には該当しない。

 

 だからこそ、ミョルニルを扱う英霊はトールだと考えていた。

 

 だがもし、

 

 宝具を、何らかの形で継承した存在がいたとしたら?

 

 そして、その存在が宝具から「担い手」として認められていたとしら?

 

 トールには2人の息子と、1人の娘がいたとされる。

 

 その中でも、神々の黄昏(ラグナロク)と呼ばれる大戦争を生き延び、ミョルニルを奪還、継承したとされる者が1人いる。

 

 勇猛果敢なトールの気質を最も濃く受け継いぎ怪力を誇った神。

 

 トールと巨人族の娘ヤールンサクサの間に生まれた子供。

 

 

 

 

 

 半神半巨人の英雄「マグニ」。

 

 

 

 

 

 それこそが、ベアトリスの中にいる神霊の真名に他ならなかった。

 

 マグニは戦闘実力と勇猛さにおいてはトールに匹敵し、その怪力はトールをも凌駕したとさえ言われる。

 

 そして、何より厄介な事が他に存在する。

 

 それは、このマグニに着いては、一般には殆ど知られていないと言う事だった。

 

 神々の殆どが死に絶えたと言われる神々の黄昏(ラグナロク)

 

 その神々の黄昏(ラグナロク)を生き抜いた僅かな神は、どこへともなく姿を消したとされる。その中にマグニもいた。

 

 これが意味するところは即ち、マグニには死亡した記録がなく、同時に明確な弱点も存在しない事。

 

 それどころか、下手をすれば、まだ生きている可能性すらあると言う事だ。

 

 響の身体を掴んだまま、ベアトリスは凶悪な笑みを浮かべる。

 

「そのザマじゃ、もうさっきみたいに鬱陶しく動き回る事も出来ないだろ?」

 

 言いながら、

 

 体から放電を始めるベアトリス。

 

「そーら、始まったぞ」

「なッ 自分ごと!?」

 

 ベアトリスは響の身体を掴んだまま放電を開始しようとしている。

 

 しかし、それでは響は勿論、ベアトリスも電撃の巻き添えになってしまうはず。

 

 しかし、

 

「ああ、悪ィなァ」

 

 ベアトリスは凶悪な笑みを浮かべたまま言い放つ。

 

「こうなるともう、あたし自身ですら制御できねえんだわ、実際の話」

「ッ!?」

「だからまあ、自爆? まあ、どうでもいいが、一緒に黒焦げになろうぜェッ!!」

 

 どうにかして逃れようとする響。

 

 しかし、先程のダメージに加え、完全に握りしめられた体は、腕一本動かす事が出来ない。

 

「さあッ 終わりが来たぞ!! 今度こそ消し飛びやがれッ!!」

 

 叫ぶベアトリス。

 

 次の瞬間、

 

 強烈な放電が、響の身体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 衝撃波だけを地上に残し、2騎の英霊は空中を駆ける。

 

 ぶつかり合う両者。

 

 互いに手にした剣を振り翳し、相手を必殺せんと斬りかかる。

 

「ぬんっ!!」

「フッ」

 

 大剣を振り翳すシェルド。

 

 対して、士郎は短い呼吸と共に、黒白の双剣を繰り出す。

 

 激突する2騎の英霊。

 

 空中で繰り出される斬撃の応酬。

 

 ややあって、

 

 両者は地上へと降り立つ。

 

 睨み合う、士郎とシェルド。

 

 互いに、

 

 無傷。

 

 仕掛けたのは、士郎が早かった。

 

 地を蹴ると同時に、真っ向からシェルドへと斬りかかる。

 

 だが、シェルドの反応も早い。

 

 突撃してくる士郎を見据え、大上段から大剣を振り下ろす。

 

 空気を切り裂くような、強烈な剣閃。

 

 しかし、シェルドの斬撃が士郎を紅の弓兵を捉える事はない。

 

 士郎はとっさに空中に宙返りを撃ちながら跳び上がり、同時に双剣を捨てて弓矢を投影する。

 

 空中で体勢を整える間もなく、士郎は射撃開始。

 

 足場のない、不安定な攻撃ながら、その狙撃は正確にして無比。

 

 3連射された矢は、シェルドの背中向けて疾走する。

 

 だが、

 

「甘いッ!!」

 

 シェルドは振り向きざまに、大剣を一閃。

 

 自身に向かって来た矢を切り落とす。

 

 着地する士郎。

 

 再び、手には干将・莫邪が握られる。

 

「やるな。流石は、第5次聖杯戦争の勝者。簡単には倒せんか」

 

 大剣を構え直すシェルド。

 

 対して、士郎は返事をせずに、いつでも斬りかかれるように双剣を構える。

 

 嘘のように体が軽い。

 

 剣は思った通りの奇跡を描き、飛んでいく矢は数ミクロンのブレすらない。

 

 まるで、自分の身体ではないかのようだ。

 

 否、

 

 実際、士郎の身体ではないのだろう。

 

 既にこの身の大半は、英霊エミヤに置換されている。

 

 能力が上がっているのは、その為だ。

 

 だが、

 

「構うかよ」

 

 今は、その事が何より好都合だ。

 

 故にこそ、士郎は美遊を、そして仲間達を守るために戦う事が出来るのだから。

 

 再び地を蹴る士郎。

 

 対して、

 

「無駄だ!!」

 

 短い声と共に、シェルドも前に出る。

 

 干将と莫邪を投擲する士郎。

 

 同時に、手には次の双剣が握られ、更には大剣(オーバーエッジ)化する。

 

 シェルドが双剣を回避し、態勢を崩したところで、一気に斬りかかる。

 

 そのつもりだった。

 

 だが次の瞬間、

 

 シェルドに当たった刃は、けんもほろろに弾かれてしまった。

 

「なッ!?」

 

 驚く士郎。

 

 そこへ、大剣を振り翳したシェルドが迫った。

 

 振り下ろされる長大な刃。

 

 その一閃を、

 

 士郎は上空に跳躍して回避。

 

 同時に宙返りする士郎。

 

 上下逆さまな視界で弓矢を投影、一気に5連射する。

 

 しかし、結果は同じ。

 

 放たれた矢は、全てシェルドの身体に当たって弾かれてしまう。

 

「噂に違わず・・・・・・と言ったところか」

 

 舌打ちしながら着地する士郎。

 

 対して、シェルドは悠然と、大剣を下げてこちらに歩いて来る。

 

 英雄ジークフリードは、邪竜ファーヴニルの地を浴びて、鋼の如き肉体を持つに至ったと言われる。

 

 その特性が、夢幻召喚(インストール)したシェルドにも受け継がれ、士郎の攻撃を無効化しているのだ。

 

 と、

 

 そこでシェルドは動く。

 

「時間は、それ程ある訳ではない。すまないが、一気に決めさせてもらう」

 

 囁くように告げると、大剣を掲げるシェルド。

 

 同時に、

 

 刀身から魔力が迸る。

 

 周囲を圧する黄昏色の輝き。

 

 その様に、

 

 士郎は目を細める。

 

「・・・・・・・・・・・・宝具を使う気か」

 

 圧倒的な魔力量。

 

 先の戦いにおいて、シェルドが「幻想大剣天魔失墜(バルムンク)」を使うところは、士郎も目撃している。

 

 その威力はアーサー王の「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」にも匹敵するだろう。

 

 天才剣士、沖田総司をもってしても、辛うじて相打ちに持ち込むのがやっとだった相手である。まともな撃ち合いでは、士郎は敵わない。

 

 ならば、

 

 掲げる右手。

 

I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)!!」

 

 同時に、魔術回路を最大起動し、思い描いた宝具を呼び出す。

 

 開かれる、薄紅色の花弁は5枚。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 次の瞬間、

 

幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)!!」

 

 振り下ろされると同時に、黄昏色の閃光が迸った。

 

 

 

 

 

 膝を突くシフォン(バーサーカー)の姿。

 

 対して、

 

 イリヤは斧剣を振り切った状態のまま立つ。

 

 イリヤの放った射殺す百頭(ナイン・ライブズ)はシフォンを直撃。

 

 明らかなる大ダメージを、中華の武人に与えていた。

 

 地面に座り、身動き取れずにいるシフォン。

 

 荒い呼吸が口から洩れ、胸の傷痕からは尚も鮮血が噴き出している。

 

 その様を見て、イリヤは堪らず叫ぶ。

 

「もうやめて、シフォン君!!」

 

 夢幻召喚(インストール)中の少年に、少女の声が届くかどうかは判らない。

 

 しかしそれでも、イリヤは叫ばずにはいられなかった。

 

「これ以上、私達が戦ったって意味ないよ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「それよりエリカちゃんはッ!? あの子を助ける方法、一緒に探そう!! みんなで探せば、きっと見つかるはずだよ!!」

 

 それは、イリヤの心からの叫び。

 

 エインズワースは、この世界を救うと言った。

 

 だがエリカは、自分が死ぬことが望みだと言った。

 

 もし、この破滅の先に、エリカの死があるのだとしたら。

 

 イリヤは何としても、それを止めたかった。

 

 エリカを助け、この世界も救う。

 

 それこそが、イリヤの願い。

 

 その為には何としても、シフォンたちの協力は不可欠だった。

 

 と、

 

「エ・・・・・・エ、リカ・・・・・・・・・・・・」

「シフォン君ッ?」

 

 イリヤの声にこたえるように、シフォン(バーサーカー)が身を起こすのが見えた。

 

「エリカ・・・・・・マモル・・・・・・ボク、ガ・・・・・・カナラズ」

 

 途切れ途切れに、

 

 しかしはっきりとした口調で言い放つシフォン。

 

 次の瞬間、

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮を上げる狂戦士(バーサーカー)

 

 イリヤの射殺す百頭(ナイン・ライブズ)をまともに食らい、その身は既に満身創痍。

 

 戦う事は愚か、立つ事は愚か、四肢が繋ぎ留められている事すら、既に奇跡に等しい。

 

 現に、咆哮を上げるだけで、その身より鮮血が飛び散るのが見える。

 

 いかに理性を排除した狂戦士(バーサーカー)とは言え、激痛を感じないはずがない。

 

 神経が焼ききれそうなほどの激痛。

 

 しかし、

 

 シフォンは耐えた。

 

 渾身の力でもって、再び立ち上がる。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 吹き上げる咆哮。

 

 天を衝かんとするかのような雄叫びは、まさしく少年の魂の叫び。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼方より響く嘶き。

 

 同時に、力強く大地を蹴る音が聞こえてくる。

 

「これはッ!?」

「馬の、蹄?」

 

 イリヤとバゼットが訝る中、

 

 駆け抜ける、美しい馬。

 

 長い鬣に、深紅の毛並み。

 

 鋭い眼差しは、自らの主を真っ向から見据えている。

 

 何より、力強く大地を蹴るその巨体は、通常の馬より明らかに一回り大きい。

 

 かつての誇りある主に応えるべく、

 

 時空を超えて、一代の英雄が駆けてくる。

 

 馬は呂布奉先(シフォン)の傍までくると、主を気遣うように一回りしてから身を寄せてくる。

 

 対して、シフォンも手を伸ばし、馬の首を愛おし気に撫でる。

 

 長らく共にあった戦友との再会。

 

 シフォンは改めて方天画戟を手に取ると、馬の背にひらりと飛び乗る。

 

 後漢最強の武人を名実ともに謳われた呂布奉先。

 

 彼の下には、彼を慕う多くの者たちが参集した。

 

 しかし、それは何も人間ばかりとは限らない。

 

 呂布が、己が騎乗するに最もふさわしいと認め、ある意味で生涯で最大の友とも語った存在。

 

 中華に並ぶ物無しとも言われた、最強の一騎。

 

 赤兎馬(せきとば)

 

 まさに、英雄が騎乗するに相応しい、堂々たる姿であった。

 

 主の叫びに応え、赤兎馬は英霊の座から時空を超え、自ら馳せ参じたのだ。

 

 赤兎馬の背に跨るシフォン。

 

 大きな嘶きを見せる赤兎馬。

 

 同時に、シフォンは方天画戟を右手で持って構える。

 

 その様たるや、正しく万夫不当の英雄に相応しい、堂々たる戦姿だった。

 

「来ますッ!!」

「うんッ!!」

 

 バゼットの声にこたえるイリヤ。

 

 斧剣を持ち上げて構える。

 

 次の瞬間、

 

 深紅の英傑馬は疾走を開始した。

 

「バゼットさん、下がって!!」

 

 対して、斧剣を振り翳して迎え撃つイリヤ。

 

 だが、

 

 呂布自身の膂力に加え、赤兎馬の突破力まで加わった攻撃は、ただただ凄まじいの一言に尽きた。

 

 斧剣と方天画戟が激突した。

 

 次の瞬間、

 

 弾き飛ばされたのは、イリヤの方だった。

 

「あァっ!?」

 

 そのまま勢いを殺しきれず、地面に転がるイリヤ。

 

「イリヤスフィール!!」

 

 見ていたバゼットが声を上げる中、

 

 シフォンは巧みに手綱を引き反転。

 

 馬首を翻すと、再び突撃してくる。

 

「クッ!!」

 

 対抗するように、斧剣を振り上げようとするイリヤ。

 

 しかし、シフォンの攻撃の方が早い。

 

 すれ違いざまに振るわれる方天画戟が、立ち尽くすイリヤを大きく吹き飛ばし、背後の民家へと激突。そのまま周囲一帯を衝撃で薙ぎ払う。

 

 更に追撃を掛けようとするシフォン。

 

 だが、

 

「やらせないッ!!」

 

 鋭い声と共に、シフォンの背後に踊る影。

 

 イリヤの危機に、前へと出るバゼット。

 

 拳を振り上げてシフォンに迫る。

 

 だが、

 

 シフォンは余裕を感じさせる動きで、背後へと振り返った。

 

 

 

 

 

 クロエの放った3対6刀の干将・莫邪が桜を切り裂く。

 

 同時に、漆黒の少女は、力を失って膝を突いた。

 

 周囲に聳え立つは、荘厳な白亜の城。

 

 そこにあるだけで見る者全てを魅了し、又、あらゆる外敵を跳ね除けるような力強さを感じる。

 

 宝具「今は遠き白亜の城(ロード・キャメロット)

 

 それは、今は失われたアーサー王の居城。

 

 かつて円卓の騎士たちが、日々研鑽を積み、そしてともに笑いあった、遥かなる故郷。

 

 盾兵(シールダー)サー・ギャラハッド。

 

 円卓の騎士の1人であり、「最高の騎士」と謳われたランスロット卿とペレス王女エレインの間に生まれた子供。

 

 その出自故に両親からは疎まれ、成人するまで修道院に預けられ育つ事になる。

 

 しかし、魔術師マーリンに見いだされたギャラハッドは、「父をも超える」と言われた才能を如何無く発揮して、ごく短期間のうちに頭角を現していく事になる。

 

 アーサー王から受勲を受け、「呪われた席」と言われた「円卓13番目の席」に座る事を許されるギャラハッド。

 

 やがて、アーサー王から絶大な信頼を寄せられたギャラハッドは、王の悲願である聖杯探索の旅に出る事になる。

 

 武もさる事ながら、その心を大きく評価された騎士である。

 

 そのギャラハッドこそが今、美遊の中にいる盾兵(シールダー)に他ならなかった。

 

 先の戦いで、敵の武器を奪い取る戦い方をした桜。

 

 しかし、ギャラハッドを夢幻召喚(インストール)した美遊の盾だけは奪われる事は無かった。

 

 その事実を考慮し、美遊は作戦を立てた。

 

 もしかしたら、ギャラハッドの宝具なら、桜を止められるかもしれない、と。

 

 効果は絶大だった。

 

「あァ あァァァァァァッ・・・・・・あァァァあァァあァァァァァァあァァァァあァああァァァァァァァァァァァァあァァァァァァァァァあァァァァァァ!!」

 

 頭を抱えて、のたうち回る桜。

 

 狂乱、と称していいほどにのたうち回る桜。

 

「何か、予想以上なんですけど?」

「いったい、何が・・・・・・」

 

 仕掛けたクロエと美遊も、唖然とするほどに桜の状態は普通ではなかった。

 

 鶴翼三連の傷だけではない。

 

 何か別の存在により、桜は狂乱していた。

 

 狂っているのは桜本人なのか?

 

 あるいは、彼女の中にいる英霊なのか?

 

「何にしても。チャンスね!!」

 

 言いながら、干将・莫邪を投影するクロエ。

 

 動きを止めている桜。

 

 この千載一遇の好機を、逃すつもりは無かった。

 

「喰らえッ!!」

 

 斬りかかるクロエ。

 

 弓兵少女は、最大戦速で疾走。

 

 立ち尽くし、もだえ苦しんでいる桜。

 

 クロエが間合いに入った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・そっか」

 

 

 

 

 

 ギロリ

 

 と言う擬音が聞こえそうなほど、不気味な視線を接近するクロエに向ける桜。

 

「この人たちがいなくなれば良いんですよね。そうすれば、苦しいのも痛いのも、全部なくなって、先輩と2人っきりになれますね」

 

 最悪の判断と共に、剣を振り上げる桜。

 

 既に、クロエは剣の間合いに入っている。

 

 今更、攻撃のキャンセルはできない。

 

「やばッ」

 

 顔を引きつらせるクロエ。

 

 マスクの下で、桜が不気味な笑みを刻んだ。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上書き(オーバーライト)夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 可憐な詠唱。

 

 同時に、

 

 今にもクロエに斬りかかろうとしていた桜の背後に現れる、可憐な姿。

 

 ゆったりとした薄いドレスに身を包み、髪には王冠のような飾り。

 

 そして、

 

 手には歪な形の短剣が握られる。

 

 魔術師(キャスター)メディア。

 

 その幼い頃の可憐な姿を身にまとった美遊が、

 

 手にした短剣を、桜の身体に突き刺した。

 

 

 

 

 

第55話「雷鳴を継承者」      終わり

 




断っておきますが、

例の馬面ケンタウロスではありませんので、その点はご了承ください(苦笑

つーか、あれは無い。

もっと他に出す物無かったのかよ。

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