Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第52話「想い託されし剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それがそこにある事など、誰が想像しただろうか?

 

 決戦を前にして、絶望の顎は既に間近にまで迫っていた、などと。

 

 しかし、目の逸らしようも無く、あらゆる物を呑み込むべく、虚無は眼前にあり続けていた。

 

 見上げる、遥か上空。

 

 深山町全体を覆い隠さんばかりに、巨大な漆黒の立方体が浮かんでいる。

 

 朝起きた一同は、その光景に愕然としたのは言うまでもないことだろう。

 

 まさか、自分達が寝ているその頭上に、敵が既に陣取っていた、などと誰が想像し得ようか?

 

 敵はやろうと思えば、いつでも奇襲を掛ける事が出来たのだ。

 

 それをしなかったのは、こちらを侮っていたのか、それともする必要がなかっただけなのか?

 

 前者ならばまだ良い。こちらを侮ってくれているなら、いくらでも付け入る隙はある。

 

 だが後者の場合、事態は最悪だ。その場合、敵は既に必勝の体勢を整えている事になる。自分達は、圧倒的な的戦力に正面から戦いを挑む事になるだろう。

 

「それで、大きさは?」

《わかんないけど、たぶんクレーターと同じくらい》

 

 即席の司令本部が設置された衛宮邸リビングで、問いかける凛に答えたのはイリヤだった。

 

 イリヤは今、ここにはいない。

 

 空を飛べる美遊と共に、先行する形で偵察に出ているのだ。

 

 俄かに姿を現したエインズワース。それも、考えられる限り、最悪の状況を前に、味方の陣営も急拵ではあるが、態勢を整えつつある。

 

 潜行しているイリヤと美遊。

 

 その後方から、響、クロエ、バゼットが後詰として続行。

 

 凛とルヴィアは指揮、及びオペレーターとして衛宮邸に待機。同時に、戦線離脱を告げられた士郎も衛宮邸に留まっている。

 

 もっとも士郎の場合、万が一、エインズワースが奇襲を仕掛けてきた際の防衛役でもあるのだが。

 

「・・・・・・一辺が2キロ弱、と言ったところですわね」

「上部は積雲越えてるじゃない」

 

 現れた立方体(ピトス)の巨大さに、ルヴィアと凛は、改めて戦慄する。

 

 何はともあれ、敵が圧倒的な力でもって攻め込んで来た事は間違いない。

 

 エインズワースもまた、今回の戦いに本気で挑んできている事が伺えた。

 

 こうなると、守るこちら側としては、どうしても後手に回らざるを得ないのが現状だった。

 

 ところで、

 

「成程、こいつは便利だな」

 

 凛達が使っている通信手段を横から見ながら、士郎が感心したように口を挟んだ。

 

 凛はルビーとサファイアを介する形で、イリヤと美遊が見ている映像を鏡に映し、リアルタイムで起きている事を把握できるようにしてある。

 

 今回の決戦に際し、凛が提案した通信手段である。

 

「機械にできて、魔術にできない事なんて無いのよ」

「定義としては逆ではなくて?」

 

 胸を張る同僚に、呆れ気味にツッコミを入れるルヴィア。

 

 その時、

 

 彼方で遠雷が迸るのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天を裂くように鳴り響いた稲光は、戦場へとひた走るクロエ達の目にも見る事が出来た。

 

「あれはッ!」

 

 クロエ、そして後続するバゼットが足を止める中、閃光が更なる鉄槌を地上へ下す。

 

 その雷の発生源では、

 

 巨大な戦槌を構えた少女が1人、クレーターを背に仁王立ちで佇む。

 

「そんじゃあ、まずは1発、開幕の花火と行くかッ!!」

 

 振り上げられる戦槌。

 

 莫大な魔力に反応して、降り注ぐ雷が収束する。

 

「なッ いきなりッ!?」

 

 一同が戦慄に動きを止めた瞬間、

 

 戦槌は振り下ろされた。

 

悉く打ち砕く雷神の槌(ミョルニル)!!」

 

 吹き荒れる雷の閃光。

 

 あらゆる物をかみ砕き、神の雷は己が敵を呑み込まんと迫る。

 

 とっさに、身を翻すクロエとバゼット。

 

 殆ど雷撃砲と称していい一撃は、一瞬早く身を返した2人の頭上を駆け去っていく。

 

「外れたッ!?」

「しかし、やはり出てきましたね」

 

 着地した2人の、視線の先に立つ少女。

 

 ベアトリス・フラワーチャイルドは、不敵な笑みと共に、戦槌を肩に担ぎ直す。

 

「外してやったんだっつーの。初撃で終わっちゃつまんねーじゃん」

 

 北欧神話最強とも言われる雷神トールをその身に宿した少女。

 

 恐らくはエインズワース側の最強戦力。

 

 まず間違いなく、正面に配置してくるであろうことは予想していたが、正に予想通りの展開となった。

 

 他のエインズワース側戦力は、未だに姿を現していない。しかし、間を置かず、こちらに立ち塞がってくる事は予想できた。

 

 その時だった。

 

 ベアトリスの立つ背後に、突如として出現する階段。

 

 更には回廊を経て、巨大な神殿のような建造物が構築される。

 

 恐らくはお得意の置換魔術で隠ぺいしていたのだろう。ちょうど、立方体を上に見る形で形成される。

 

 その回廊の先、

 

 神殿の中心に立つ、1人の少年。

 

 ここまで来れるものなら来てみろ、と言わんばかりに泰然とした様子を見せるのは、見間違いようもない。ジュリアン・エインズワースに他ならなかった。

 

「始めるぞエリカ。今日、ここで、俺の神話を終わらせる」

 

 呟くジュリアン。

 

 同時に、

 

 立方体が開き、内部に納められた無限の泥が溢れ出した。

 

 その流出量たるや、先の戦いにおけるそれの比ではない。

 

 クレーターを受け皿にするような形で流れ込んでいるが、あれでは数時間と待たずにクレーターから溢れ出すのは目に見えていた。

 

 その泥から溢れ出した無限の英霊達。

 

 絶望が、今度こそ世界を覆いつくす事になる。

 

 そうなる前に何としても、ジュリアンを止める必要があった。

 

 その為には、

 

 視線を前に向ける一同。

 

 その先に立つベアトリス。

 

 だが、

 

「えッ!?」

 

 思わず、目を剥く。

 

 立ちはだかるベアトリス。

 

 雷神少女を前にして、

 

 敢然として挑まんとしている、少年の姿があったのだ。

 

「ヒビキ、何してるのッ!?」

 

 声を上げるイリヤ。

 

 先程から姿が見えないと思っていた弟がまさか、いつの間にか敵の真正面に立っていようなどと、誰が想像しえただろう?

 

「響ッ!?」

 

 美遊も悲痛な声を発する。

 

 だが、

 

 響は振り返らず、対峙を続ける。

 

 決めていたのだ。

 

 こいつの相手は、自分がする、と。

 

 ベアトリスが、エインズワース側最強の戦力である事は間違いない。

 

「美遊、イリヤ、クロ、バゼット」

 

 1人1人の名を、振り返らずに呼ぶ。

 

 そして、

 

「ん、みんなは、先行って」

 

 右手を胸の前に掲げる。

 

「こいつは、倒すから」

「ハッ」

 

 響の発言に、ベアトリスは口元に凶悪な笑みを刻む。

 

 あまりにも矮小な存在が、己の前に立つ様は、滑稽以外の何物でもない。

 

「クソジャリがッ あたしを倒すっつったかッ?」

 

 大気を走る放電が増し、そこかしこでスパークが起こる。

 

 だが、

 

 響は構わず、ベアトリスと対峙を続ける。

 

「舐めてんじゃねえぞッ ザコがァ!!」

 

 四方に散る雷撃。

 

 次の瞬間、

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 叫ぶ響。

 

 魔力回路が稲妻よりも速く、少年の体内を駆け巡る。

 

 光に包まれる響。

 

 その姿が、一気に書き換えられる。

 

 普段着姿から、英霊の姿へ。

 

 漆黒の着物に、同色の短パン。

 

 髪は伸びて後頭部で結ばれる。

 

 腰の鞘に納められた、一振りの日本刀。

 

 そして、

 

 その上から纏われる、浅葱色の羽織。

 

 英霊、斎藤一(さいとう はじめ)の凛とした戦姿が現す。

 

 今回は様子見は無し。

 

 初手から全力で行くつもりだった。

 

「ん・・・・・・行くぞ」

 

 低く呟く響。

 

 同時に、少年は地を蹴った。

 

 

 

 

 

 戦闘を開始する、響とベアトリス。

 

 その姿を、イリヤ達は遠目に見ながら歯噛みするしかない。

 

 どうやら初めから、イリヤ達を出し抜いてベアトリスに当たる事を狙っていたらしい響。

 

 既に戦闘が始まってしまっている以上、今更引かせる事も出来ない。

 

「仕方がありません。こうなった以上、ここは響に任せて、我々は先に進みましょう」

 

 バゼットの提案に、頷くしかない一同。

 

 改めて、神殿の方に目を向ける。

 

「ったく響の奴、抜け駆けして。帰ったら、絶対、お仕置きしてやるんだから」

 

 弟の行動に憤慨を見せるクロエ。

 

 しかし、それは同時に、この戦いから無事に帰る事を願った祈りでもある。

 

 無事に帰ってきてほしい。

 

 そうでなければ、叱る事も出来ないのだから。

 

 その為にも、一刻も早く、ジュリアンが陣取る神殿の「本丸」に攻め込まないといけない。

 

 しかし、

 

 誰もが考える通り、そう易々とは事は運ばない。

 

 駆け抜けた4人が間もなく「神殿」に続く、橋に取り付こうとした時だった。

 

 突如、旋回しながら飛来する一振りの刃。

 

 イリヤ達の前に突き刺さる。

 

「なッ!?」

 

 動きを止める一同。

 

 その少女たちを前に、

 

 ガシャ   ガシャ   ガシャ

 

 耳障りな甲冑の音を響かせ、橋の向こうから揺れる足取りで歩いて来る長髪の女。

 

 首を90度に曲げ、バイザーの隙間から見える双眸は、明らかに狂気の濁りを見せる。

 

「ええ・・・・・・はい・・・・・・判りました、大丈夫ですよ。ふふッ 先輩ったら・・・・・・私が先輩の頼みを断るはずないじゃないですか。任せてください。刃物の扱いには、ちょっと自信があるんです」

 

 怖気を振るような声。

 

 地を這いずる響きと共に、女は刺さった剣を無造作に抜き放つ。

 

 それは、

 

 この場にあって、最も「絶望」を体現した存在。

 

「・・・・・・間桐、桜」

 

 かつての兄の友人を前にして、美遊の戦慄と緊張に呑まれようとしてた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 イリヤもまた、自らの前に立ちはだかる存在を目にし、愕然としていた。

 

「あなたはッ!?」

 

 驚くイリヤ。

 

 その視線の先に立つのは、自分と同い年くらいの少年。

 

 そして、

 

 城に囚われていたイリヤにとって、最も親しかったと言っても過言ではない人物。

 

「シフォン君ッ!?」

 

 名前を呼ばれ、少年は哀しそうな目でイリヤを見詰める。

 

 その姿が、この先に起こる激突が不可避である事を如実に語っていた。

 

「来て、しまったんですね。イリヤさん」

 

 相変わらず丁寧で、静かな声。

 

 しかし、聞こえるシフォンの声からは、明らかな緊張が伝わってきた。

 

「できれば、あなたには来てほしくないと思っていました。ほんの数日ではありましたが、あの城で言葉を交わし、共に時を過ごしたあなたには」

「シフォン君、そこをどいてッ」

 

 イリヤは叫ぶ。

 

 叫ばずにはいられなかった。

 

 たとえ、それが無意味な事だと知っていたとしても。

 

「私は、ジュリアンたちを止めなければならないのッ そうしないと・・・・・・」

「残念です」

 

 イリヤの言葉を、シフォンの断定するような口調が遮る。

 

 それは、どこか自分に向けたような言葉。

 

 自らの退路を断ち、前へと進む事を強調するような言葉だった。

 

「僕は・・・・・・僕たちは、あなた達を行かせるわけにはいかない。ジュリアン様の為・・・・・・そして」

 

 言いながら、

 

 シフォンは手を、自らの胸の前に掲げる。

 

「あれは、まさかッ・・・・・・・・・・・・」

 

 驚愕するイリヤ。

 

 あの仕草は、彼女の弟がよくやる物だった。

 

「エリカの為に!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 シフォンの魔術回路に、奔流が走った。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 叫ぶと同時に、

 

 光に包まれるシフォン。

 

 その内側では、肉がみるみるうちに盛り上がり、手足は伸び、筋肉が付き、華奢だった少年の身体は一気に巨大化していく。

 

 中華風の衣装が身に纏われ、頭には長い羽根飾り、分厚い甲冑が纏われる。

 

 最後に、手に巨大な長柄の武器が握られる。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮を上げるシフォン。

 

 そこには、先程までいた少年の面影は一切なく、ただ己の敵を殲滅し尽くす事にのみを目指す狂戦士(バーサーカー)の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 跳躍する雷神少女。

 

 手にした戦槌が、大上段に振りかぶられる。

 

「オッラァァァァァァ!!」

 

 振り下ろされる一撃。

 

 ただ、その一撃で、大地が微塵に粉砕される。

 

 飛来する、巨大な岩塊。

 

 その中を、

 

 空中を駆けるようにして、響が迫る。

 

 浅葱色の羽織を靡かせ、ベアトリスへと迫る響。

 

 その速度たるや、目で追う事すら困難な程である。

 

 瞬きをした瞬間には、既に少年の姿はベアトリスの懐へと飛び込んでいる。

 

「んッ!!」

 

 抜刀する響。

 

 銀の刃が、ベアトリスへと迫る。

 

 だが、

 

「おっとッ!?」

 

 ベアトリスはとっさに身をのけ反らせて回避する。

 

 すかさず、刀を返し、斬り込もうとする響。

 

 だが、

 

「甘ェ!!」

 

 雷撃を纏った戦槌を振り抜くベアトリス。

 

 放電が響を襲い、その小さな体を弾き飛ばす。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、空中で体勢を立て直そうとする響。

 

 だが、その前にベアトリスは動いた。

 

「ハッ!!」

 

 もがく響をあざ笑うかのように、ベアトリスは再び攻撃態勢に入る。

 

「ジャリガキがッ あたしに勝とうなんざ100年早いんだっての!!」

 

 振り下ろされる戦槌が大地を砕き、無人となっている家々を破壊し尽くす。

 

 衝撃波が周囲に飛び散り、一気に更地と化した。

 

 出来上がる、吹きさらしの荒野。

 

 その大地に降り立つ少年。

 

 響は無言のまま、刀の切っ先をベアトリスへ向ける。

 

 対して、

 

「ハッ」

 

 響に対する嘲笑を隠そうともせず、ベアトリスはこれ見よがしに戦槌を肩に担ぐ。

 

「テメェ、弱いなァ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響は無言。

 

 ただ、真っすぐに切っ先を向け続ける。

 

 そんな少年の態度が気に入らないのか、ベアトリスは捲し立てる。

 

「そんな弱っちい腕で、よくも、このあたしの前に立てたもんだな。ええ? 正直、蟻でも相手しているみてえで、こちとらつまんねえんだよ」

 

 言いながら、戦槌を掲げる。

 

 再び、収束する魔力の雷撃。

 

「そんな訳で、サクッと終わらせるから、よろしく♪」

 

 言い放つと同時に、地を蹴るベアトリス。

 

 暗殺少年に迫る、雷神少女。

 

 あの戦槌は、必殺の一撃。

 

 喰らえば、たとえ英霊化していようが、響の体など微塵に粉砕される事だろう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 判っている。

 

 自分はメンバーの中で一番弱い。

 

 図らずも英霊との置換が進み、戦闘力が上がっている士郎。

 

 リアルバーサーカーと言うべき、圧倒的な力を誇るバゼット。

 

 投影と転移魔術、更には弓を使った遠隔攻撃で、トリッキーな攻撃を行うクロエ。

 

 魔法少女として多彩な攻撃手段を持つイリヤ。

 

 そのイリヤをも上回る魔力を誇る美遊。

 

 その中で、近接戦闘オンリー。しかも、どちらかと言えば速度重視で攻撃力が低めの響は、どうしても皆と比べて見劣りするのは否めない。

 

 迫るベアトリス。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 だからこそ、

 

 仕掛ける。

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 呟きと共に、

 

 少年の広げた左手に通される魔力。

 

 間合いに入ったベアトリス。

 

 次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 少女の顔が、半瞬、確かに引き攣った。

 

 ぶつかる視線。

 

 少年の双眸より放たれた眼光が、真っ向から少女を射抜いた。

 

 確かに感じるその感情は「恐怖」。

 

 次の瞬間、

 

 少年は右腕を振り抜いた。

 

 

 

 

 

 思い出されるのは、昨日の士郎とのやり取り。

 

 包みを少年に手渡す士郎。

 

 自らの想いを託すように、少年の手を取る。

 

「扱いには気を付けろ」

 

 真剣な眼差しで、士郎は並行世界の「弟」に告げる。

 

「切嗣の勘は間違いじゃない。そいつは間違いなく、やばい代物だ」

「ん」

 

 「兄」から受け取りながら、響も頷きを返した。

 

 

 

 

 

 振り抜かれた、少年の腕。

 

 その禍々しい気配に、

 

「ぐッ!?」

 

 ベアトリスはとっさに攻撃をキャンセル、後退を掛ける。

 

 ガードするように差し出した腕。

 

 閃光が、横一文字に駆け抜ける。

 

 一閃。

 

 次の瞬間、

 

 ガードしたベアトリスの手甲が、真っすぐに斬り飛ばされる。

 

 のみならず、その下の腕からも鮮血が噴き出した。

 

「テメェ・・・・・・・・・・・・」

 

 憎しみの籠った瞳で、響を睨むベアトリス。

 

 その視線の先、

 

 振り抜かれた響の腕。

 

 その手に握られた、

 

 禍々しくも美しい、一振りの刀。

 

「何だってんだよ、そいつはッ!?」

 

 其れはかつて、とある世界で1人の剣豪の手に渡り、蔓延る怪異を斬り伏せた一振り。

 

 あらゆる妖を払い、魔を滅し、神をも斬る事を宿命付けられた刃。

 

 彼の刀匠の、最強にして最凶の失敗作。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明神切村正(みょうじんぎりむらまさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低く囁く声と共に、少年の鋭い視線がベアトリスを射抜く。

 

「みんなを、守る為・・・・・・美遊を、守る為・・・・・・」

 

 切っ先は、真っすぐに向けられる。

 

「お前を・・・・・・・・・・・・」

 

 高まる魔力。

 

 同時に、戦機が立ち上がる。

 

「斬る!!」

 

 

 

 

 

第52話「想い託されし剣」      終わり

 


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