Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第48話「共鳴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、田中、消えた?」

 

 風呂に入り、用意してもらった服に着替え、居間に戻って来た響が見た者は、困り顔を浮かべた一同の姿だった。

 

 首を傾げる響に、凛は嘆息交じりに口を開く。

 

「あんたよりも先にお風呂から上がってきたから、あの子にも服を着せたのよ。そしたら・・・・・・」

 

『田中は「たいそーふく?」以外着ないって誓ってるんですー!! 「たいそーふく?」は、田中のあいでんててーなんですー!!』

 

「とか言いながら、泣きながら走り去っていったわ」

「ん、なるほど、わからん」

 

 流石は田中。安定の斜め上スタイルだ。

 

 彼女の謎行動には、響も美遊も、初めから振り回されっぱなしである。今更その程度の事では驚きもしなかった。

 

「で、田中は?」

「イリヤスフィールと美遊が後を追いかけて行きましたわ。何とか捕まえられれば良いのですけど」

 

 答えるルヴィアの声も、少し険しさが宿る。

 

 今はエインズワースに対して備えなくてはならない時。そこに来て、別行動をとるのは命取りに近い。

 

 何とか、上手い具合に見つけて連れ戻してくれればいいのだが。

 

「ん、行ってくる」

「行ってくるって響、あんたも探しに?」

 

 尋ねる凛に、響は頷きを返す。

 

 田中の行動を把握する事は一般人には無理だ。長らく行動を共にした響や美遊ですら、全くと言って良いほど予測はできないのだから。

 

「人手、多い方が、良い」

 

 そう言うと、響は玄関に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 勝手知ったる冬木の街。

 

 と言うと、少々語弊がある感は否めない。

 

 しかし、流石は並行世界だけあり、中心部のクレーター以外は、ほぼ響の記憶通りの深山町が存在している。

 

 とは言え、明らかに違う点も存在している。

 

 それは、人の気配が全くしないほど。

 

 深山町はベッドタウンの側面もある為、日中は人通りが少ないのは確かだ。

 

 しかし、それでも人が暮らしていれば、街の中には何らかの痕跡や気配が存在している物である。

 

 しかし今、響の目の前に存在している深山町からは、人影どころか人の痕跡すら存在が見られない。

 

 それは、この街が既に、半ばまで放置されたゴーストタウンに近い事を、改めて如実に語っていた。

 

 ほぼ無人と言っても良い街中を、響は歩いていく。

 

「ん、田中、どこ?」

 

 耳を澄ましても、何も聞こえない静寂の世界。

 

 響にとって慣れ親しんだ街並みだけに、余計に不気味に感じられた。

 

 まるで世界中に、自分1人だけが取り残されたような、そんな気持ちにさせられる。

 

 そう言えば、

 

 初めて田中と出会った時も、街の中だった。

 

 ヴェイクに襲撃され、ピンチに陥った響と美遊を助けてくれたのが田中だった。

 

 それ以来、一緒に行動している訳だが。

 

 しかし、田中については、未だに何も判っていない。

 

 どこから来て、どこへ行くのか? なぜ記憶喪失なのか? なぜ体操服なのか? なぜ体温が異常に高いのに平気なのか? そもそも「田中」と言う名前すら、胸のゼッケンを見て、自分達が勝手にそう呼んでいるに過ぎない。

 

 何もかもが、謎のままだった。

 

 とは言え、それらについては肝心の田中自身が記憶を取り戻さない限り、どうしようもないのだが。

 

 其れより今は、田中を見つける事が先だった。

 

「ん、もう少し、山の方、見てみる」

 

 そう言って、踵を返そうとした。

 

 その時だった。

 

 一瞬、感じる気配。

 

 大気が焦げる感触を肌に捉える。

 

 突如、飛来する魔力弾。

 

「ッ!?」

 

 とっさに身を翻す響。

 

 バックステップで跳躍。

 

 着地、

 

 同時に、

 

 顔を上げる。

 

 その視線の先には、

 

「あ~あ、外しちゃった。マジであり得ないんですけど。これだから、めんどくさいんだよねー、雑魚狩りはさ」

 

 軽薄に肩を竦める少年の姿がある。

 

 見覚えのあるその姿に、響は内心で舌打ちする。

 

「・・・・・・ヴェイク」

「ああ? ムシケラ如きが僕の名前を勝手に呼んでんじゃないよ。耳が腐るだろうがクズ」

 

 口汚く響を罵るヴェイク。

 

 かつて数度にわたり、響を襲撃した魔術師(キャスター)の少年。

 

 先日の戦いでは、ついに姿を現さなかった存在。

 

 それが、今になって出てくるとは、いったい如何なる次第なのか。

 

 相手の真意を探るように、身構える響。

 

 戦闘の遺志を見せる響に対して、

 

 ヴェイクは面倒くさそうに、深々とため息を吐くと響に怠そうな視線を向ける。

 

「もうね。本当に面倒くさいんだよね君達。さっさと死んで、聖杯を僕らに渡してれば、全部丸く収まったってのにさァ ザコがどうして無駄に粘るかな。空気読んでよね、ほんと」

「・・・・・・勝手な、事を」

 

 傲慢としか言いようがないヴェイクの物言いに、響は怒りを抑えきれない。

 

 美遊を、

 

 自分の大切な女の子を、こいつらは物のように扱っている。

 

 それを考えるだけで、目の前の全てが沸騰しそうなほどの怒りが込み上げる。

 

「美遊は、渡さない」

「だから・・・・・・」

 

 長い嘆息と共に、

 

 ヴェイクは己の胸に手をやる。

 

「そういうの、もう良いっつってんだよ、カスがッ」

 

 同時に、

 

 高まる魔力。

 

 響を呑み込まんとするかのように、増殖し、空気その物を押しつぶしていく。

 

「もう、エインズワースも、何もかも知った事かよッ!! お前ら全員ぶっ殺して、聖杯を僕が手に入れてやるよォ!!」

 

 叫ぶと同時に、

 

 少年の姿は一変した。

 

 髪はボサボサに伸び、肌は青白く変色する。

 

 何より不気味なのは目。

 

 真っ赤に血走り、眼球が飛び出した双眸が響を睨んでいる。

 

 長い、ボロボロのローブに身を包み、飛び出した手には、不気味な色の本が握られる。

 

「さあ、蹂躙の時間だッ この僕の力、思い知るが良いッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響の反応は素早かった。

 

 迫る敵の攻撃。

 

 圧倒的な火力を前にして、

 

 怯む事無く、対峙する。

 

 胸に右手を当てる。

 

 立ち上がる魔術回路。

 

 己が魂に埋め込まれたカードに呼びかける。

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 同時に、着弾する攻撃。

 

 爆炎が躍り、吹き上がる粉塵が視界を塞ぐ。

 

 圧倒的な火力。

 

 その中から、

 

 小さな影が飛び出した。

 

 漆黒の着物に短パン姿。伸びた髪は後頭部で縛り、手には既に抜き放たれた抜き身の刀が光る。

 

 夢幻召喚(インストール)により、ヴェイクの攻撃を紙一重で回避する響。

 

 同時に、一足飛びで間合いを詰めに掛かる。

 

 刀を両手で構え、腰を大きく捻りながら抜き打ちを狙う。

 

 だが、

 

「ハッ」

 

 響の動きを見て、ヴェイクは嘲笑を浮かべる。

 

「馬鹿はこれだから、馬鹿なんだよ!! そんな一つ覚えの攻撃が、この僕に届く訳ないだろ!!」

 

 言いながら魔術回路を解放するヴェイク。

 

 同時に開いた異界の門から、あの触手が無数に姿を現す。

 

「さあ、食われて消えろよォ カァァァァァァス!!」

 

 一斉に、空中の響へと殺到する触手。

 

 だが、

 

「んッ!!」

 

 響はとっさに、魔力で空中に足場を作り、横っ飛びに跳躍。

 

 更に、向かう先にも足場を作って方向転換。

 

 直線的な機動を避け、相手をかく乱するように空中を動き回る。

 

 イリヤや美遊ほどではないが、響も長い戦いで空中戦のノウハウをある程度掴んでいる。

 

 3次元的な機動は、多数の敵を相手にする特に非常に有効な手段だった。

 

 うねりながら迫る触手を縫うようにして、ヴェイクへと斬り込む響。

 

 ヴェイクも触手を繰り出して響を捉えようとするが、響は触手の動きを見切り、スルリスルリと掻い潜と、自身の間合いまで近付く。

 

「クソッ 羽虫みたいに薄汚く動くんじゃないよッ!! さっさと食われて死ねっての!!」

 

 焦りを感じ、触手を増やそうとするヴェイク。

 

 しかし、その前に響は攻撃態勢を整える。

 

 迫る暗殺少年。

 

 白刃を、大上段から斬り下げる。

 

「ヤッ!!」

「チッ!?」

 

 真っ向から斬り下げられた剣閃。

 

 響が放った縦一閃を、後退して回避するヴェイク。

 

 だが、

 

「んッ!!」

 

 眼光を光らせる響。

 

 すぐさま顔を上げ、後退するヴェイクを睨み据え、同時に刃を返す。

 

 対して、後退しながら魔力弾を放ち、響の斬り込みを牽制しようとするヴェイク。

 

 自身に向かって飛んで来る魔力弾。

 

 しかし響は回避も後退もしない。

 

 自身に飛んで来る魔力弾を全て刀で弾きながら地を駆ける。

 

 命中コースにある魔力弾のみを正確に弾き、ハズレ弾は無視。速度を落とす事無くヴェイクに迫る。

 

「こ、このッ」

 

 正面から突進してくる響に、ヴェイクの焦りはさらに募る。

 

 更に、魔力弾の発射量を増やす。

 

「生意気なんだよ、鬱陶しいムシケラが、死ねッ さっさと死ねッ!!」

 

 殆ど光の壁に等しい奔流が、響へと迫る。

 

 だが、

 

 フッと、

 

 視界が一瞬、光で遮られた瞬間、

 

 響の姿が消える。

 

 次の瞬間、

 

 少年暗殺者の姿は、

 

 ヴェイクのすぐ後ろに現れる。

 

 刀の切っ先を向けて。

 

「んッ!!」

 

 突き込まれる刃。

 

 その一撃が、

 

 とっさに身を反らした、ヴェイクの肩をかすめた。

 

「う、うわァァァァァァ!?」

 

 鮮血と共に、情けない悲鳴が迸る。

 

 斬られた肩から血を撒き散らしながら、無様に地面を転がるヴェイク。

 

 尻餅を着きながらも、必死に魔力弾を放つヴェイク。

 

 狙いも何もない。ただ闇雲に数を撃っているだけ。

 

 対して、

 

 響は、自身に飛んで来る魔力弾だけを冷静に刀で裁く。

 

 先程の攻撃に比べ、明らかに精彩を欠いているヴェイク。

 

 対して、あくまで冷静に対処する響。

 

 やがて、どうにか後ずさって距離を取る事が出来たヴェイクは、荒い息を吐き出し、血走った目を向けてくる。

 

 腰が抜けたように、立ち上がる事すらできないでいる。

 

 響はと言えば、注意深く刀の切っ先を向けながら斬り込むタイミングを計っている。

 

「お・・・・・・前・・・・・・・・・・・・」

 

 絞り出すような、ヴェイクの声。

 

「お前ッ お前ッ お前ッ お前ェェェェェェェェェェェェ!!」

 

 とめどない怒りを撒き散らすヴェイク。

 

 金切声は、「自分の思い通りに死んでくれない響」に、容赦なく浴びせる。

 

 最早、戦闘開始前に見せていた余裕の態度はどこにもない。

 

 ただ無様に喚き散らすだけのガキが、目の前に存在しているのみだった。

 

 対して、響は無言。

 

 ただ、目の前にいる無意味に耳障りな存在を、冷ややかに見つめていた。

 

 そんな響の態度が、更にヴェイクの苛立ちを加速される。

 

「ムシケラの分際でェェェェェェ よくも、この僕を、コケにしやがってェェェ!!」

 

 怒気と殺気を喚き散らすヴェイク。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響は嘆息する。

 

 少年の脳裏には、もはやバカバカしさだけが募り始めていた。

 

 そして、

 

「ん、お前、弱い」

「な、何ッ」

 

 目を剥くヴェイク。

 

 対して暗殺者の少年は、冷ややかな目で魔術師の少年を睨み据えると、はっきりしとした口調で言い放った。

 

「お前、弱い。正直こんなの、時間の無駄」

「な、んだとう・・・・・・」

 

 実際、目の前のヴェイクは、これまで響が戦ってきた、どの英霊よりも弱いと感じた。

 

 アンジェリカやベアトリクス、優離、ルリア、バゼット、更に言えば最初の頃に戦った黒化英霊すら、今のヴェイクよりも強かった。

 

 最早、相手にするのすら、時間の無駄に思えた。

 

「ふ、ふざ・・・・・・け、るな・・・・・・」

 

 絞り出すようなヴェイクの声。

 

 飛び出した眼を、更に血走らせ、口からは涎を吐き出しながら響を睨む。

 

「ムシケラ風情がァァァァァァ この僕を見下すかァ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 対して、響は取り合わない。

 

 無言のまま、刀の切っ先を向ける。餓狼一閃の構えだ。

 

「これで終わらせる」

 

 もう、付き合う気はない。

 

 そう告げる響。

 

 だが、

 

「まだだァ!!」

 

 叫びながら、ヴェイクが何かを取り出す。

 

 響が見た物。

 

 それは、ヴェイクが手にした1冊の本が、風も無いのに勝手にページをめくりだしたのだ。

 

「何をッ!?」

 

 驚く響を尻目に、魔術回路を加速させるヴェイク。

 

「僕は負けないッ この、僕が!!」

 

 叫ぶヴェイク。

 

 同時に、

 

 高まる魔力。

 

 次の瞬間、

 

「負けるはずが、無いんだァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 身の内から迸った触手によって、ヴェイクの身体は一瞬にして呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジル・ド・レイ。

 

 フランス百年戦争当時に活躍したフランスの英雄。

 

 戦争末期、イングランド軍との泥沼の戦争状態が続いていたフランス正規軍を指揮して戦ったのがジルである。

 

 しかし劣勢著しいフランス軍。

 

 誰もが絶望と諦念の淵に崩れ落ちようとする中、

 

 救世主が現れる。

 

 聖女ジャンヌ・ダルクの登場である。

 

 フランス全土が奮い立ち、全将兵が歓喜した。

 

 勢いを盛り返したフランス軍は、聖地オルレアンを奪還。徐々に、栄光を取り戻していく。

 

 その中に、ジルもいた。

 

 彼こそが、最もジャンヌの近くにいて、最もジャンヌを讃えた1人だった。

 

 自分達は勝てる。

 

 勝って、フランスを取り戻せる。

 

 誰もが、そう信じて疑わなかった。

 

 悲劇が、起きるまでは。

 

 運命の、コンピエーニュの戦い。

 

 パリ解放を目指して進軍したフランス軍は敵の罠にかかり、事もあろうにジャンヌが敵の手に囚われてしまった。

 

 やがて、火刑に処されるジャンヌ。

 

 その事実を知り、

 

 ジルは狂った。

 

 狂って、

 

 狂って、

 

 狂って

 

 ついには狂い死にできれば、その方が幸せだったのかもしれない。

 

 しかし、ジルは冷静だった。

 

 冷静に、しかし狂って行った。

 

 多くの子供を凌辱し、その魂を祭壇に捧げ続けた。

 

 全ては、ジャンヌを蘇らせる為に。

 

 やがて、恐怖と共に、彼の名は語り継がれる事になる。

 

 怪人「青髭」と。

 

 

 

 

 

 その様子は、空中からイリヤと田中を捜索していた美遊からも見えていた。

 

 一瞬、感じた魔力反応。

 

 向けた視界の先で、何か巨大な物が蠢くのが見えた。

 

「あれはッ!?」

 

 見覚えがある。

 

 それ自体は、美遊も何度も見ていたのだから。

 

 蠢く触手。

 

 周囲の全てを喰らいつくすように、大きく肥大化していく。

 

 同時に、

 

 その触手を切り払いながら、民家の屋根の上を飛び回る、少年の姿も見えた。

 

「響ッ!!」

 

 自分の彼氏が奮闘する姿を見て、美遊はとっさに急降下を掛ける。

 

 触手は四方から響に迫り、今にも呑み込もうとしている。

 

 間に合わない。

 

 そう判断した美遊は、とっさに手にしたステッキを掲げる。

 

「サファイア、魔力砲射!!」

《了解です美遊様。存分に》

 

 淡々とした、それでいて美遊が最も安心できる声音と共に、魔力がステッキに集中される。

 

 次の瞬間、放たれる魔力砲。

 

 空中から、垂直に放たれる閃光。

 

 その一撃が、今にも響に襲い掛かろうとしていた触手を正確に撃ち抜く。

 

 美遊は、さらに手を止めない。

 

 次々と放たれる収束魔力砲。

 

 そながら狙撃銃並みの正確さで、触手を撃ち抜いていた。

 

 振り仰ぐ響。

 

 美遊が高度を下げるのは、同時だった。

 

「響、手をッ!!」

「美遊!!」

 

 伸ばされた手を、とっさに掴む響。

 

 同時に、美遊は魔力の足場を蹴って上昇。

 

 間一髪、迫る触手から、自身の恋人を救い出す。

 

「ん、ありがと、美遊」

「ううん。それより響、あれはいったい?」

 

 響を腕の中に抱えながら、空中を駆ける美遊。

 

 響も背後に視線を送る。

 

「ん、あれ、ヴェイク」

「ヴェイクって、あの魔術師(キャスター)の?」

「ん」

 

 とは言え、今やヴェイクは完全に原型をとどめていない。

 

 無数の触手が寄り合い、巨大な怪物を形成している。

 

 一応の形としては、無理をすれば蛸に見えない事もないが、それにしても怖気を振るうほどに奇怪なのは確かだった。

 

 目測でも、大きさは既に30メートルを超えている。殆ど怪獣である。

 

「多分、宝具使った」

「宝具? あれが?」

 

 俄かには信じがたい美遊。

 

 いったい、如何なる宝具を使えば、あのような姿になるのか?

 

 怪物と化したヴェイクは、巨大な咆哮を上げ、今にも美遊達に襲い掛からんと触手を伸ばしている。

 

「ん」

 

 響も魔力で空中に足場を作ると、美遊の腕から降りて立ち上がる。

 

 眼下には、今にも襲い掛からんとする触手の化け物。

 

 その姿を、少年暗殺者は鋭い眼差しで見据える。

 

「美遊」

「何?」

 

 恋人からの呼びかけに、振り返る美遊。

 

 対して、

 

 響は自身の彼女を真っすぐに見据えて言った。

 

「あれ、倒すの、手伝って」

 

 響の言葉に、美遊は一瞬キョトンとする。

 

 それは、これまでの響からは聞かれなかった言葉。

 

 彼はいつだって、1人で戦おうとした。

 

 全ては、美遊を守るために。

 

 だが、その響が、美遊に助けを求めて来た。

 

 その事が、美遊にはたまらなく嬉しかった。

 

「うん、勿論」

 

 力強く頷く美遊。

 

 少女に否やが、あるはずがなかった。

 

「ん」

 

 伸ばされる手。

 

 その手を取る、美遊。

 

 その瞬間、

 

 2人の心は、完全に重なり合った。

 

 

 

 

 

第48話「共鳴」      終わり

 


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