Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第45話「最後の対峙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは、終わった。

 

 破壊しつくされた柳洞寺の境内には、冷たい風が吹き、戦場の残滓を清めていく。

 

 ここに倒れるのは敗者たる女性1人。

 

 そして、

 

 立つはただ1人、この聖杯戦争の勝者たる少年のみ。

 

 衛宮士郎は、手にした聖剣を振り下ろした状態で、荒い息を繰り返す。

 

 その視線の先では、地面に仰向けに倒れたアンジェリカの姿があった。

 

 既に戦闘不能になっているのであろう。その証拠に、夢幻召喚(インストール)は解除されている。

 

 と、

 

 士郎の手の中にある聖剣が、軽い初撃と共にカードに戻る。

 

 後には、剣士(セイバー)の絵柄が描かれたカードのみが、士郎の手の中に残された。

 

「・・・・・・・・・・・・黍塚」

 

 このカードの、本来の持ち主だった少年の名を、そっと呼ぶ。

 

 剣士(セイバー)のカードが、ここにあると言う事は即ち、久希はもう・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そこで、考えるのをやめた。

 

 これ以上は、単なる拘泥だ。

 

 久希は既に決断していた。自分の命を投げ打ってでも、士郎を勝利させると。

 

 久希はその約束を守ったのだ。

 

 ならば今度は、士郎が約束を果たす番だった。

 

 剣士(セイバー)

 

 そして、足元に落ちていた狂戦士(バーサーカー)のカードを拾い上げる士郎。

 

 ゆっくりと、倒れているアンジェリカに近づいていく。

 

 彼女が目を覚ます様子は無い。

 

 死んではいないようだが、彼女がこれ以上の脅威になる事は無かった。

 

「・・・・・・お互い、1対1の戦いだったら、勝敗は逆転していたかもな」

 

 アンジェリカ(ギルガメッシュ)は確かに強大な英霊だった。もし1対1で戦っていたなら、いかに固有結界を展開したとしても、士郎に勝ち目は無かっただろう。

 

 だが、士郎は1人ではなかった。

 

 力を貸してくれた英霊エミヤ。

 

 その元となったカードを託してくれた桜。

 

 文字通り、命がけでカードを届けてくれた久希。

 

 それに、

 

「彼女も・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎は自らの手の中にある剣士(セイバー)のカードを見やった。

 

 脳裏に浮かぶのは、遥かなる幻想。

 

 ここではない世界、今ではない場所で出会った騎士王。

 

 共に戦い、想いを通じ、愛を交わした少女。

 

 彼女たちが力を貸してくれたからこそ、士郎はアンジェリカと言う強大な敵に打ち勝ち、道を開く事が出来たのだ。

 

 アンジェリカの傍らに落ちているギルガメッシュのカードを拾い上げる士郎。

 

 既に7枚のカードを揃えている士郎にとって意味の無い行動ではあるが、それでも武装解除はしておくに越した事は無かった。

 

 そのまま、足を引きずるようにして歩き出す。

 

 目指すは大空洞の入り口。

 

 戦いは、確かに終わった。

 

 だが、まだ全てが終わった訳じゃない。

 

 士郎の予想が正しければ、美遊の他にもう1人、そこでは士郎を待っている人物がいるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柳洞寺の裏手に回り、さらに森へ分け入って奥へと進むと教えられたとおりの場所に大空洞の入り口が見えてきた。

 

 夜と言う事もあり、中は暗く一寸先すら見通すのは難しい。

 

 士郎はそんな中を、迷う事無く降りていく。

 

 まるで魔獣の腸の中を進むような感覚。

 

 だが、不思議と迷う事は無かった。

 

 まるでカードと聖杯が引きあっているのかのようだ。

 

 どれくらい進んだ事だろう?

 

 そろそろ半ばくらいまではきただろうか?

 

 そう思った時、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎は足を止めた。

 

 自分の進む前方に、人影を見出したのだ。

 

 誰か、などと誰何をする必要もない。

 

 この期に及んで自分の前に立ちはだかる人間など1人しかいないし、何より、あまりに懐かしさを感じる気配がしたからだ。

 

「・・・・・・・・・・・・随分、久しぶりな気がするよ」

 

 正直、こんな声のかけ方はどうかと思う。自分でも、緊張感に欠けているような気がした。

 

 だが、士郎にはこれ以外の言葉は出て来なかったのだ。

 

「元気にしてたか・・・・・・ジュリアン?」

 

 場違いに問いかけられて、

 

 一義樹理庵(いちぎ じゅりあん)

 

 ジュリアン・エインズワースは顔を上げて士郎を見た。

 

 士郎にとって見慣れた感のある、険しい視線が真っすぐに射抜いてくる。

 

 対して、士郎も沈黙でもって、ジュリアンの視線を受け止める。

 

 思うところも、言いたい事もあるだろう。

 

 士郎の方にも、ジュリアンには言いたい事も、聞きたい事も山のようにある。

 

 だが、それでも、

 

 その全てを投げ捨て、士郎の口から出てきたのは、たった一言だった。

 

「美遊を、返してもらうぞ」

 

 そう、

 

 今の士郎は、既に決断を終えた身。

 

 他の感傷は、既に切り捨てている。

 

 だからこそ、言うべき言葉はそれだけで充分だった。

 

 対して、

 

 しばしの沈黙の後、ジュリアンが口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・それが、人類全てに対する裏切りであったとしても、か?」

 

 かつての親友は、殺気すら籠った声で士郎に尋ねるジュリアン。

 

「この星に満ちた悲劇から、約束された滅びから人類を救える可能性があるのに、個人の・・・・・・たかがお前1人のくだらない感傷で全て無にすると言うのか?」

 

 言いながら、ジュリアンの苛立ちが募っていくのがはた目にも判る。

 

 否、

 

 あるいは何か、葛藤めいた物を感じずにはいられなかった。

 

「・・・・・・笑えねえ・・・・・・笑えねえんだよ・・・・・・そんな物はな、最低の悪なんだよ!!」

 

 士郎を詰るジュリアン。

 

 確かに、

 

 ジュリアンは「個」ではなく「全」を、「1人」ではなく「世界」を見て判断している。

 

 単純な勘定だ。

 

 1人の犠牲で世界を救うのと、世界を犠牲にして1人を救う。

 

 考えれば前者の方が圧倒的に正しい。

 

 話を聞けば、多くの人間がジュリアンの考えに賛同する事は間違いなかった。

 

 だが、

 

 そんなジュリアンの言葉を聞いて、士郎の脳裏には初めて、親友だった少年に対する共感めいた感慨が浮かび上がった。

 

「知らなかった・・・・・・そうだったんだな・・・・・・」

 

 ジュリアンを真っすぐに見据えて、士郎は言った。

 

「お前も、ずっと1人で戦ってきたんだな。ジュリアン」

「ッ!?」

 

 その言葉に、ジュリアンは自分の脳裏に火花が散るのを感じた。

 

「知った風な口をッ!!」

「知ってるんだよ」

 

 激高しかけるジュリアン。

 

 対して、士郎は穏やかな声で制する。

 

「一を殺して全を救う・・・・・・そんな人間を、俺は知っている」

 

 それは、かつて士郎を救った養父。

 

 切嗣は今のジュリアンと同じく迷わなかった。

 

 世界中の人間を救うために、美遊1人を犠牲にする事を良しとした。

 

 だが、

 

 彼の遺志を受け取りながら、士郎は全うする事が出来なかった。

 

 道具として扱うべき美遊に情を移し、非情に徹しきる事が出来なかった。その結末がこれである。

 

 だが、

 

「でもジュリアン、お前は知らないだろう? 美遊の家、朔月家の事を」

 

 その事を今の士郎は、微塵も後悔していなかった。

 

 それは士郎にとって、決して譲る事の出来ない、全てを賭けて守り通してきた想いだから。

 

「初代から美遊の代まで、連綿と綴られてきた記録を読んだよ。あらゆる願いを叶えてしまう神稚児・・・・・・その力を独占してきた朔月家が何を願ってきたのか、お前に分かるか?」

 

 それは、決してジュリアンが知らないであろうこと。

 

 もし、知っていれば「全の為に一を犠牲にする」などと言う選択肢は取れなかったはずだ。

 

「彼らはただ、子供の健やかな成長を願った。冨も繁栄も思いのままだったはずなのに・・・・・・親から子への、ごく当たり前の願いだけをかなえて来たんだ。400年もの間、一つの例外もなく・・・・・・」

 

 それがいかにと尊い物であるか。

 

 「特別」な事など何もいらない。

 

 ただ愛しい子供が幸せであれば、それで良い。

 

 代々の朔月家の人々は、ただひたすらにそれのみを願ってきたのだ。

 

「それを、悪だと言うのなら!!」

 

 力強く、前へと踏み出す士郎。

 

 両者の距離が徐々に近づく。

 

 互いに、指呼の間で睨み合う士郎とジュリアン。

 

 そして、

 

「俺は・・・・・・悪で良い」

 

 静かに、それだけ言うと、

 

 士郎はジュリアンの脇をすり抜け、そのまま背を向けて奥へと進んでいく。

 

 後に残ったジュリアンはただ、いつまでも立ち続けているのみだった。

 

 

 

 

 

 足を踏み入れる。

 

 ついに、

 

 ついに、ここまで来た。

 

 あらゆる悲劇と、

 

 あらゆる困難とを乗り越え、

 

 ついに、

 

 衛宮士郎は、この場所へと足を踏み入れたのだ。

 

 大空洞の最奥部。

 

 祭壇のようになった台地の上に、

 

 彼女はいた。

 

 地に描かれた魔法陣。

 

 その中央に据え置かれた寝台の上に、

 

 美遊は横たわっていた。

 

 懐かしさが、込み上げてくる。

 

 1か月以上も会っていなかった妹は、すこし大人びたデザインのドレスを着せられ、眠る様に目を閉じていた。

 

 と、

 

「お・・・・・・にい・・・・・・ちゃん?」

 

 気配に気づいたのだろう。

 

 美遊はうっすらと目を開けて、士郎を見た。

 

 ああ、

 

 美遊だ。

 

 愛しい妹が、間違いなく今、目の前にいる。

 

 そう思うだけで、士郎は震えがくるのを止められなかった。

 

「随分と、待たせちまって、ごめんな」

 

 ここに来るまでに、あまりにも時間がかかってしまった。

 

 もっと早くに助けに来たかった。

 

 その後悔が、士郎の心に押し寄せてくる。

 

 次の瞬間、

 

「・・・・・・どうして、来たの?」

 

 美遊の口から出たのは、予想外の糾弾だった。

 

 立ち尽くす士郎

 

 美遊の目は、そんな士郎を哀し気に見つめる。

 

「あの人たちに聞いた・・・・・・お兄ちゃんと切嗣さんがわたしを拾ったのは、わたしの力を使うためだっ・・・・・・て・・・・・・わたしはただの道具で、使い方を見つけられなかった切嗣さんの代わりに、エインズワースがわたしを使って世界を救うんだって・・・・・・」

 

 それは、士郎が美遊に対して行った、たった一つの裏切り。

 

 あらゆる願いを無差別に叶える「聖杯」として産まれてしまった美遊。

 

 その事を、士郎はずっと彼女に隠してきた。

 

 真実を伝えず、欺瞞に欺瞞を重ねた結果、士郎はまたしても妹を傷付けてしまったのだ。

 

「なのに今更・・・・・・どうして来たの!?」

 

 道具として拾ったのなら、道具として使い捨ててほしかった。

 

 否、いっそ、エインズワースにさらわれた時に見捨ててほしかった。

 

 そうすれば・・・・・・

 

 そうすれば、士郎がこんなにもボロボロに成り果てる事は無かったのに!!

 

 自らが定められた運命よりも、自分のせいで士郎がこんなにも傷尽き果てた事に、美遊は泣いていた。

 

 涙ながらに自分を詰る美遊。

 

 対して、

 

 士郎は静かに微笑んだ。

 

「そんなの・・・・・・考えるまでもない」

 

 言いながら、掲げる手。

 

 その手の中に握られた8枚のカードが、魔力にあおられて舞い上がり、美遊と士郎を囲むように円を描いて空中に配置される。

 

 剣士(セイバー) アーサー・ペンドラゴン

 

 弓兵(アーチャー) ギルガメッシュ

 

 槍兵(ランサー) クー・フーリン

 

 騎兵(ライダー) メドゥーサ

 

 魔術師(キャスター) メディア

 

 暗殺者(アサシン) ハサン・サッバーハ

 

 狂戦士(バーサーカー) ヘラクレス

 

 そして、

 

 この聖杯戦争における、イレギュラー中のイレギュラー。

 

 弓兵(アーチャー) エミヤ

 

 合計8枚のカードが、聖杯に反応して輝きを増す。

 

「俺は『お兄ちゃん』だからな。妹を守るのは、当たり前だろ」

「ッ!?」

 

 その言葉に、美遊は涙を流して息を呑む。

 

 理屈なんていらない。

 

 兄が妹を守るのは当たり前の事だから。

 

 そこに善も、悪も関係なかった。

 

「どうすれば良かったのか、ずっと考えていた・・・・・・間違い続けてきた俺だから、この選択肢ももしかしたら、間違いかもしれない・・・・・・だけど、この願いだけは、本当だから」

 

 言いながら、

 

 士郎は膝を突き、美遊の手を取る。

 

「・・・・・・我、聖杯に願う」

 

 静かな声で詠唱する。

 

 それは、兄から妹へ贈る言葉。

 

 ただ只管、妹の幸せのみを願って戦い続けてきた男が願う、たった一つの事。

 

「美遊がもう、苦しまなくてもいい世界になりますように・・・・・・

 

 優しい人たちに出会って・・・・・・

 

 笑い合える友達を作って・・・・・・

 

 あたたかでささやかな、幸せを掴めますように」

 

 言い終えた瞬間、

 

 頭上に魔法陣が展開される。

 

 聖杯の術式が起動したのだ。

 

 同時に、寝台が砕け、美遊の体は空中に浮きあがり始める。

 

「おにい・・・・・・ちゃん」

 

 徐々に見えなくなっていく兄の姿を見て、美遊が呟きを漏らす。

 

 士郎はその姿を、地上から静かに見送る。

 

「と、そうだった・・・・・・・・・・・・」

 

 最後にもう一つ、忘れずつに付け加えておこうと思った。

 

 こんな事しても「あいつ」は喜ばないかもしれない。

 

 却って怒るかもしれない。

 

 だがこれはある意味、意趣返しでもある。味方のくせに、さんざん好き勝手にやってくれた「あいつ」に対する。

 

「まあ・・・・・・せいぜい、頑張って取り戻せよな・・・・・・今まで何もできなかった分を・・・・・・・・・・・・」

 

 この場にいない「友」に語り掛ける士郎。

 

 そして、

 

 そのまま力尽きて、仰向けに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 久希はまだ、生きていた。

 

 だが、その身は既に半ば以上、「死」に漬け込まれていた。

 

 魂に縫い付けられたクラスカードは、急速に久希自身を侵食していくのが判る。

 

 肉体はただ、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すだけの存在に成り果てていた。

 

「ぐ・・・・・・あ、ああ・・ァァ、ァァァァ・・・・・・・・・・・・」

 

 歯を食いしばって、こぼれ出る悲鳴を噛み殺す。

 

 今の久希にできる抵抗は、それのみだった。

 

 そこに感じる苦痛は、地獄という言葉すら生ぬるい。

 

 自分が他人によって浸食され、消えていく恐怖は、筆舌に尽くしがたい物があった。

 

「フム・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな久希を見下ろしながら、ゼストは何の感慨も無く言葉を漏らす。

 

「どうやら、やはりだめなようだね。瀕死なところにカードを埋めたのがまずかったかな? せめてもう少し体力が残っていれば違ったかもしれないが」

 

 言いながら、手を伸ばすゼスト。

 

「まあ、仕方がない。どのみち死ぬ人間にこれ以上付き合うのもなんだし、カードだけ返してもらおうかね。それは、君には過ぎたる物だし」

 

 そう言って久希の体に触れようとした。

 

 次の瞬間、

 

 久希の身体から、強烈な光があふれだした。

 

「なッ!?」

 

 思わず、目を剥くゼスト。

 

 その光は、ゼストの姿をも包み込んで広がっていく。

 

「な、なんだこれはッ!? いったい・・・・・・・・・・・・」

 

 最後まで言い切る事が出来ず、ゼストの姿は光に飲まれて消えていく。

 

 そして、久希自身も、

 

「・・・・・・これ、は・・・・・・・・・・・・士郎、さん?」

 

 言っている間にも、光は強くなっていく。

 

 最後に、クスッと笑う久希。

 

 まったく、

 

 強引なんだから。

 

 それを最後に、光が消え去る。

 

 後には何も、その場に残る物は存在しなかった。

 

 

 

 

 

 仰向けに倒れた士郎。

 

 既にそこには、彼以外何もない。

 

 美遊も、

 

 そして、彼女を「聖杯」たらしめていた魔法陣も、完全に消え失せていた。

 

 美遊は旅立った。

 

 どこか、遠い世界へと。

 

 結局のところ、この滅びゆく世界では美遊は幸せになれない。

 

 だから、どこか別の幸せな世界に、逃がすしかなかったのだ。

 

 同時に、士郎は自らの身体から、急速に力が抜けていくのを感じている。

 

 考えてみれば、不思議だったのだ。

 

 あの自宅で暗殺者(アサシン)と戦って以来、連戦に次ぐ連戦だった。

 

 ついには宝具まで使用した士郎。

 

 その戦いを支えた魔力は、いったいどこから来ていたのか?

 

 美遊だったのだ。

 

 知らずに繋がっていた美遊との接続(パス)が、士郎に戦うための魔力を送り続けていたのだ。

 

 その美遊が異世界に旅立った今、士郎を支える全てが失われたのである。

 

「・・・・・・俺はもう、一緒にいてやれないけど」

 

 その妹に、

 

 士郎はそっと語り掛ける。

 

「大丈夫だよな美遊・・・・・・きっとお前なら、すぐに友達もできるさ・・・・・・・・・・・・」

 

 囁く士郎。

 

 そこには、後悔も浮かび上がる。

 

「もっともっと・・・・・・

 

 色々と教えてやりたかったな・・・・・・

 

 そういや、海に連れていく約束、忘れてた・・・・・・

 

 まずいなぁ、怒ってるかな美遊、怒ってるよなぁ・・・・・・

 

 まあでも、俺もちょっとは頑張ったし・・・・・・

 

 許してくれよな・・・・・・

 

 美遊・・・・・・・・・・・・

 

 どうか、幸せに・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎は確かに、誰かを救う正義の味方にはなれなかったかもしれない。

 

 衛宮切嗣の息子としては、失格だったかもしれない。

 

 だが、

 

 妹を守る兄には、なれたと思う。

 

「勝ったよ・・・・・・・・・・・・切嗣」

 

 天にいる父へ、息子は誇らしく拳を突き上げる。

 

 それは、正義を目指しながら悪であり続けた少年の、紛う事無き勝利宣言だった。

 

 

 

 

 

第45話「最後の対峙」      終わり

 


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