Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第44話「騎士王の援軍」

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の激突が始まった。

 

 向かうべき先に立ち塞がるは、金色の頂。

 

 最強の英霊。

 

 英雄王ギルガメッシュを纏ったアンジェリカ。

 

 対して挑むのは、無銘の英霊。

 

 守護者たる存在を捨て、ただ1人の大切な少女の為に悪であろうとする少年、衛宮士郎。

 

 互いに相容れぬ立場にいる2人が今、全てを賭けて激突していた。

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の門を開き、宝具の一斉掃射を開始する。

 

 アンジェリカは、この英霊の特性を理解している。

 

 一線級の宝具を惜しげもなく擲つ攻撃。

 

 一見すると贅沢で、あまりにもずさんな攻撃のようにも見えるが、実のところ完全に理にかなっている。

 

 本来、戦いとは数と数のぶつかり合いだ。物量の多い方が勝つ。それは戦場における絶対の法則の一つと言える。

 

 まして、その一撃一撃が最強クラスとなれば猶更であろう。

 

 ならばこそ攻める。

 

 ありったけの宝具を放ち、相手を押しつぶす。

 

 ただ1人からなる無敵の軍勢。それこそが、英雄王ギルガメッシュの在り方であると言えた。

 

 放たれた宝具の群れが、アンジェリカに向かってくる士郎へと殺到する。

 

 無数の刃は、そのまま少年の体を貫く、

 

 かに思われた。

 

 次の瞬間、

 

 士郎の背後から飛んできた刃が、アンジェリカの宝具を全て正確に打ち抜き、砕き散らした。

 

「・・・・・・何ッ」

 

 思わず、声を漏らすアンジェリカ。

 

 彼女の放った攻撃は、ただの一撃たりとも士郎を直撃する事は無かった。

 

「・・・・・・侮りすぎたか?」

 

 呟きながら、攻撃を続行すべく更に門を開く。

 

 士郎が斬り込むまでは、まだ距離がある。アンジェリカの一方的な攻撃が可能な筈。

 

 射出される宝具。

 

 今度は、先程よりも数が多い。

 

 これならどうだ?

 

 そう思った次の瞬間、

 

 先の攻撃と、全く同じ光景が現出した。

 

 士郎が放った武具が、アンジェリカの攻撃を全て弾き、砕いて見せたのだ。

 

「馬鹿なッ!!」

 

 流石に、尋常ではないと感じはじめたアンジェリカ。

 

 更なる門を開き、第三波を放とうとする。

 

 だが、

 

 次の瞬間、

 

 士郎が放った武具が、アンジェリカの開いた門に殺到。その全てを叩き潰してしまう。

 

「馬鹿なッ 射出前にッ!?」

 

 これはいったい、どういう事なのか!?

 

 アンジェリカの脳裏に苛立ちが湧き始めていた。

 

「遅いッ!!」

 

 士郎は更なる攻撃を続行。アンジェリカが放つ宝具を撃ち落としていく。

 

 その攻撃は、徐々にだがアンジェリカ本人にも届き始めていた。

 

「クッ!?」

 

 足元に着弾した剣を、後退する事で回避するアンジェリカ。

 

 対して、

 

 士郎は自身に向かってきた宝具を、地面から引き抜いた剣を投擲、撃ち落とす。

 

 その様に、さしものアンジェリカも、焦慮を禁じえなかった。

 

 この固有結界が展開してから、士郎とアンジェリカは完全に攻守逆転している。

 

 士郎が攻めて、アンジェリカが守る。

 

 しかも、アンジェリカは徐々にだが、確実に押され始めていた。

 

 もはや士郎は、アンジェリカの指呼の間に迫っている。後が無かった。

 

「おのれェェェッ!!」

 

 このままでは埒が明かない。

 

 盾の宝具を取り出して展開。士郎の攻撃を防ぎにかかるアンジェリカ。

 

 宝具の撃ち合いでは敵わないと考えてか、守りを固める作戦に切り替えたのだ。

 

 無数の盾が、士郎とアンジェリカの間に積み重ねられ進路を塞ぐ。

 

 射出された宝具は、全て盾の表面に弾かれて砕け散った。

 

 最強クラスの防御を前にして、並の攻撃では用を成さない。

 

 だが、士郎は慌てる事は無かった。

 

「成程。無限の財を振るうその英霊(ギルガメッシュ)は、紛れもなく王の姿だ」

 

 言いながら、士郎は手にした炎の剣を上空に投擲。

 

 同時に、結界に突き刺さっている身の丈を超える大剣を取り、柄を握りしめる。

 

「それ故に、お前は浅薄に見下すんだッ たった一振りを極限まで練り上げる、『担い手』の力を!!」

 

 一閃される大剣の一撃。

 

 その剣が、アンジェリカを守る盾を一撃の下に吹き飛ばしていた。

 

 無数の財を誇る英雄王ギルガメッシュ。

 

 比類なき武勇を誇る大英雄ヘラクレスとは対極ながら、彼もまた間違いなく最強の英霊である。

 

 綺羅星の如き宝具の数々。その原点となる武具をすべて所有するギルガメッシュには、凡百の英霊はおろか、たとえどんな大英霊であっても太刀打ちは不可能なように思える。

 

 だが、たった一つ、

 

 英雄王には致命的な弱点がある。

 

 それは、

 

 たとえ無数の財を持っていても、ギルガメッシュ自身は、それを保有しているだけであり、担い手として使いこなす事は出来ないと言う事だ。

 

 担い手は、己の武勇の誇りに賭けて宝具を極限まで使いこなす事ができる。

 

 だが、ギルガメッシュにはそれが無い。

 

 勿論、使用する事はできる。

 

 だがそれは、剣はただの剣として、槍はただの槍として振るっているだけに過ぎず、秘められた力を極限まで引き出す事は出来ない。

 

 相手が、ただの英霊ならそれでもいい。たとえ相手が究極の武勇を誇ったとしても、圧倒的な数の力を持つギルガメッシュなら容易に蹂躙できる。

 

 だが、

 

 英霊エミヤ。

 

 そして、その力を振るう衛宮士郎が相手では、例外中の例外が起こってしまう。

 

 士郎(エミヤ)の振るう宝具。

 

 固有結界「無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)」。

 

 一度見た事がある武具なら、どんな物であっても複製可能な特性を持っている。

 

 しかも、ただ見た目を真似るだけではない。

 

 その武具に込められた概念や想い、そして担い手の為した武勇や技術に至るまでまで模倣してしまう。

 

 真に迫る贋作は、もはや真作と変わりなかった。

 

 更にもう一つ、

 

 アンジェリカ(ギルガメッシュ)が射出攻撃を行う際、門を開き武具を取り出すと言う行程が必要なのに対し、士郎(エミヤ)の場合、見た瞬間に武器を複製して射出する事ができる。

 

 つまり攻撃にかかる時間が少ない分、士郎はアンジェリカに対し、常に先手を取る事ができるのだ。

 

 落下してきた炎の剣を掴む士郎。

 

 既にアンジェリカは剣の間合いに捉えている。

 

 必中必殺の距離。

 

 剣を振り翳す士郎。

 

 炎の刃は、横なぎに一閃された。

 

 次の瞬間、

 

「なッ!?」

 

 驚いたのは、士郎の方だった。

 

 士郎の剣は、アンジェリカを斬る事無く、虚しく通り過ぎてしまった。

 

 置換魔術。

 

 アンジェリカは士郎の斬線の軌跡上を空間置換する事で、攻撃を回避したのだ。

 

「浅薄なのは貴様の方だ。舐めるな、我らエインズワースを」

 

 アンジェリカが告げると同時に、

 

 士郎の足元の空間が消失。

 

 その体は、遥か数十メートル上空に「落下」した。

 

「やられたッ!?」

 

 舌打ちする士郎。

 

 以前、ジュリアンにやられたのと同じ、空間置換だ。

 

 アンジェリカは士郎の足元を上空の空間に繋げ、士郎の体を放り投げたのだ。

 

「貴様の戯言に付き合う気は無い。児戯は終わりだ」

 

 言いながら、手を翳して門を開くアンジェリカ。

 

「来い、千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)万海灼き払う暁の水平(シュルシャガナ)

 

 空中に口を開く巨大な門。

 

 その中から、およそ人の手による物とは思えないほど、巨大な剣が二振り現れた。

 

 千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)万海灼き払う暁の水平(シュルシャガナ)

 

 メソポタミア、キシュ市の都市神ザババの佩刀。

 

 その巨大な刀身は文字通り山ほどもあり、およそ人が振るう事は決して許されない規模を誇っている。

 

 神が振るいし巨大な刃が二振り、上空から士郎目がけて落下してくる。

 

 対して、空中にある士郎には、回避する手段は無い。

 

 だが、

 

「お、おォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 士郎(エミヤ)の目は、落下してくる千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を捕捉。その細部に至るまで精査する。

 

 同時に結界内から、全く同じ剣を引きずり出す。

 

 虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)

 

 いかに士郎の固有結界が出鱈目な性能を誇っていても、流石に神造兵装まで完全再現する事は出来ない。せいぜい、見た目が同じ張りぼてを作るのが精いっぱいだった。

 

 だが、それでも同等の質量の物をぶつけた事もあり、千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)の軌道が逸れる。

 

 間一髪、巨大な刀身は、士郎の真横、僅か数センチのところを落下していった。

 

 だが、油断はできない。

 

 もう一本の巨大な刃が、既に眼前に迫っている。

 

 万海灼き払う暁の水平(シュルシャガナ)は、刀身の炎を撒き散らし、士郎を呑み込まんと迫ってくる。

 

「うおォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 対して再度、投影魔術を起動する士郎。

 

 同じく、張りぼての神造兵装が出現する。

 

 絶・万海灼き払う暁の水平(シュルシャガナ)

 

 同等の巨大な剣が、再びぶつかり合う。

 

 次の瞬間、視界全てが、灼熱の閃光によって埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹に深々と突き刺さった杭。

 

 その様子を久希は、信じられない面持ちで見つめていた。

 

「な・・・・・・なん・・・・・・で・・・・・・これ、は・・・・・・・・・・・・」

 

 傷口から血が流れ出し、半身を朱に染めていく。

 

 喉からあふれる、熱い塊。

 

 吐き出すと、大量の鮮血が地面に飛び散った。

 

 いったい、何があったのか?

 

 信じられないと言った面持ちの久希。

 

 と、

 

「クックックックックック」

 

 その耳に聞こえてくる、くぐもったような笑い声。

 

 辛うじて動かす事の出来る首を回し、久希は声のした方を見る。

 

 そこには、

 

 黒いコートを着込んだ、幽鬼のような男が、口元に笑みを浮かべて佇んでいた。

 

「ようやく、隙を見せたね。ベアトリスとの戦闘が終わるのを、待った甲斐があったよ」

「ゼスト・・・・・・エインズワース・・・・・・・・・・・・」

 

 鮮血をほとばしらせながら、久希は相手の名をつぶやく。

 

 その間にも腹の穴からも血が噴き出る。明らかに、致命傷だった。

 

「なに、失敗続きで私もいささか格好がつかなくてね。こうして、息をひそめて君が油断するタイミングを待っていたのだよ。君がベアトリスに気を取られている隙に、ね」

「クッ!!」

 

 ゼストの声を聞きながら、久希は渾身の力で剣を振り翳す。

 

 そのまま旋回させ、自身の腹に突き立っていた杭を根元から斬る。

 

「・・・・・・・・・グッ」

 

 激痛に耐え立ち上がる久希。

 

 そのまま杭に手をやると、力任せに引き抜く。

 

「があッ!?」

 

 たちまち、大量の血が流れ落ちる。

 

 想像を絶する激痛に、飛びかける意識を必死に引き留める。

 

 命は、急速に失われていくのを感じた。

 

「・・・・・・・・・・・・ほう?」

 

 そんな久希の様子を、ゼストは少し感心したように鼻を鳴らしながら見る。

 

 自分の腹に刺さった杭を強引に引き抜けば、一気に大量の血を消費して死に至る事くらい、医療知識が無くても分かりそうなものである。

 

 それでも尚、そうしたと言う事は。

 

 久希はまだ、勝負を投げていないと言う事だ。

 

 その証拠に、ゼストの視界の中で、久希は剣を振り翳すのが見えた。

 

「あ・・・・・・あ・・・・・・アァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 斬りかかる久希。

 

 だが、

 

 そこには、先程まで見せていた剣の冴えなど、微塵も無い。

 

 ただ重荷を背負ってふらつく事しかできない少年がいるだけだった。

 

 案の定、ゼストが無造作に振るった槍によって久希の剣は弾かれ、少年自身も地面に倒れ込んだ。

 

「がはッ!?」

 

 衝撃と共に、地面に叩きつけられる久希。

 

 同時に、その体は光に包まれ、胸元から剣士(セイバー)のカードが排出される。

 

 夢幻召喚(インストール)が解け、普段着姿に戻る久希。

 

 その体からは、尚も鮮血が流れ出る。

 

 もはや、少年の命は救いようがない事は、火を見るよりも明らかだった。

 

「無駄な足掻きはやめたまえ」

 

 そんな久希を見下ろしながら、ゼストは嘲弄を込めて告げた。

 

「醜い有様は晩節を汚すと知り給え。せめて、最後は潔く散るべきだと私は思うがね」

 

 既に確定した勝利を前に、余裕の態度を見せるゼスト。

 

 久希にはもはや、戦う事は出来ない。

 

 あとはカードを回収して終わり。

 

 そう思った。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・生憎ですが」

 

 久希は鮮血に濡れる口に、

 

 尚も不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

「潔い死、なんて僕には無縁ですよ。これでも結構、罪深い人生を送ってきましたからね、それに・・・・・・・・・・・・」

 

 言いながら、久希は自分の胸元にあるカードに手をやる。

 

 そしてもう1枚。

 

 先程、ベアトリスから奪った狂戦士(バーサーカー)のカードを添える。

 

 血まみれの手で、カードを掴む久希。

 

「あなたの勝ちだなんて、誰が決めたんですか?」

 

 久希がそう言った瞬間、

 

 久希の手の中にあるカードが、光に包まれていく。

 

「なッ これは・・・・・・・・・・・・」

 

 驚くゼストを目の前に、カードが消えていく。

 

 対して久希は、これまで自らの剣として振るい続けてきたカードを見やりながら、静かな口調で言い放った。

 

「さあ行け、セイバー。士郎さんの元へ・・・・・・・・・・・・」

 

 久希が呟いた瞬間、

 

 2枚のカードは久希の手から消失し、どこかへと飛び去って行った。

 

 その様子を、ゼストは嘆息交じりに眺める。

 

「・・・・・・やられたな。転移魔術とは」

 

 久希は自分が円蔵山にたどり着けず、敗北する事も予期していた。

 

 しかし、仮に道半ばで倒れたとしても、カードだけは士郎に届けなくてはならない。

 

 そこで、予め剣士(セイバー)のカードには、座標を決めた転移魔術を施し、万が一の場合は士郎に自動で送り届けられるようにセットしておいたのだ。

 

 勿論、久希には転移魔術などと言う高度な魔術は使用する事は出来ない。

 

 だが、魔術行使に必要な術式を、魔道具等も扱う裏社会の商人から予め買っておいたのだ。

 

 道具さえあれば、後は最低限の起動キーだけで術式は発動できる。

 

 聖杯戦争に参加すると決めた時点で、戦闘用の術式と共に買っておいたのが、功を奏した。

 

「これで・・・・・・士郎さんの勝ちだ」

 

 満足そうに呟く久希。

 

 致命傷を受けたにも拘らず、その顔は満足そうだった。

 

 聖杯戦争は士郎の勝ち。ならばもう、少年に思い残す事は何もなかった。

 

 その時だった。

 

 パチ

 

 パチ

 

 パチ

 

 パチパチパチパチパチパチ

 

 突然鳴り響く、拍手の音。

 

 響はどうにか視線だけを動かして、音の方向を見る。

 

 すると、

 

「いや、素晴らしい。その執念、勇気、努力。君の全てが称賛に値する。率直に言って感動した。わたしは今、初めて君に敬意を表するよ」

 

 ゼストは倒れている久希に対し、妙に弾んだ声で告げた。

 

 その様に、久希は言いようのない不気味さを感じる。

 

 カードの回収ができなかったことは、ゼストにとって痛恨だったはず。にもかかわらず、その事に対する悔恨が微塵も感じられない。

 

 いったい、ゼスト・エインズワースとは何者なのか? その背後にある闇に、底知れない物を感じずにはいられない。

 

 そんな久希に対し、ゼストは歩み寄る。

 

「本当に素晴らしい。叶うなら、君と一晩、心行くまで語り明かしたい気分だよ」

 

 言いながら、ゼストは倒れている久希の傍らに膝を突くと、コートのポケットに入れておいたものを取り出した。

 

「これが、何か判るかね?」

「カー・・・・・・ド?」

 

 見間違えるはずもない。それは聖杯戦争に必要な魔術礼装であり、英霊の魂を宿したクラスカードだった。

 

 絵柄には暗殺者(アサシン)が描かれている。

 

 それを、いったいどうしようと言うのか?

 

「私は実はね、このカードをより有効に活用する術を研究しているのだ。エインズワースの技術は確かに素晴らしいが、私は、より人と英霊を強く結びつけるにはどうすれば良いか、日々考えているのだよ」

 

 ゼストは暗殺者(アサシン)のカードを手の中で弄びながら説明を続ける。

 

 いったい、どうしようと言うのだろうか?

 

 久希が見ている目の前で、ゼストは口の端を釣り上げて笑みを見せる。

 

「そして思い至ったのだよ。『カードその物を魂に縫い付け、より高いレベルで融合させてみたらどうか』とね。まあ、その実験も、私自身には成功したのだが、そこから先がなかなかうまくいかなくてね」

「ま・・・・・・さか・・・・・・」

 

 ゼストの言わんとしている事を察し、声を上げる久希。

 

 対して、ニィッと笑みを見せるゼスト。

 

「ちょうど良いから、君に協力してもらう事にするよ。なに、安心したまえ。うまく英霊と融合できれば、君は助かるだろうさ。もっとも、その間に死よりもつらい苦痛が待っているがね。仮に失敗したら、私が責任を持って、君を『処分』してあげよう」

「や、やめ・・・・・・」

 

 久希が制止する間もなく、

 

 ゼストは久希の腹に空いた穴に、自らの腕ごとカードを突っ込んだ。

 

「アアアアアァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 襲い来る苦痛。

 

 神経を焼き切るほどの地獄の激痛を前に、久希は意識を失う事も許されず、自分の中で何かが変質していくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたり一面に炎と破壊がもたらされる。

 

 その壮絶な光景こそが、行われた戦いの凄まじさを如実に物語っていた。

 

 地面にどうにか着地する事に成功した士郎は、そのまま膝を突き、肩で荒い息を繰り返す。

 

 千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)万海灼き払う暁の水平(シュルシャガナ)を迎撃し、どうにか軌道を逸らす事が出来た物の、消耗も半端な物ではない。

 

 下手をすれば脳が焼ききれそうな疲労感の中、

 

 それでも士郎は立ち上がって見せた。

 

 まだだ。

 

 まだ、ここで倒れる訳にはいかない。

 

 目の前の英雄王を打ち破り、美遊の元へ行くまでは。

 

 そんな士郎の戦意に応えるように、固有結界は尚も綻びを見せる事は無い。

 

 対して、

 

 アンジェリカは、立ち上がる士郎を不快気に見据える。

 

「張りぼてとは言え、神造兵装を投影して尚、この世界を維持するか・・・・・・つくづく、貴様の存在は破綻しているな」

 

 言いながら、手を翳すアンジェリカ。

 

 同時に、彼女の足元に門が開き、そこから剣の柄が姿を現す。

 

「我々の綴る、在来人類最後の神話にとって、貴様は汚点になりかねない」

 

 剣を引き抜くアンジェリカ。

 

 同時に、その刀身を中心に暴風が吹き荒れる。

 

「その忌々しい能力も、不可解な魔術行使も、死人めいたおぞましい信念も、全て斬り裂こう、貴様の世界ごと」

 

 掲げられた剣。

 

 刀身が回転する、その奇妙な剣を見て、士郎は状況も忘れて思わず驚嘆する。

 

 その剣は、英霊エミヤの目をもってしても、複製はおろか解析すらできない。

 

 間違いなく、英雄王ギルガメッシュが持つ、最強にして至高の一振り。

 

 あの剣に敵う武具など、この世のどこを探しても存在しないだろう。

 

「光栄だな・・・・・・そんな物まで浸かってくれるとは。もっとも、それに見合う剣は、この世界にはどこにもない」

 

 言いながら、士郎は魔術回路を最大起動。

 

 結界内部を活性化させ、そこに突き立てられた全ての武器に指示を送る。

 

「だから、不作法で悪いが・・・・・・・・・・・・」

 

 結界が、

 

 否、

 

 大地の全てがざわつく。

 

 突き立てられていた剣が一斉に引き抜かれ、アンジェリカに向けて殺到していく。

 

 その様、まさしく「無限」。

 

「返礼は、(おれ)の全てで代えさせてもらう!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 一斉攻撃を仕掛ける士郎。

 

 ほぼ同時に、アンジェリカも魔力を充填した剣を振り翳す。

 

「原初へ帰れ!!」

 

 振り下ろされる乖離剣。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

 次の瞬間、

 

 両者は激突する。

 

 アンジェリカが放つ、世界を斬り裂くほどの斬撃と、士郎が放つ無限の剣。

 

 それはまさに、怒涛と怒涛のぶつかり合い。

 

「無駄だ!!」

 

 剣を振るいながら、アンジェリカが叫ぶ。

 

「たとえ全ての剣を束ねても、『究極の一』には届かぬ!!」

 

 アンジェリカの言う通り、

 

 全ての剣が、斬り裂かれていく。

 

 名剣、宝剣、業物、神剣、聖剣、魔剱、妖刕、邪剣、鋭刃、鈍

 

 一切の区別は無い。

 

 拮抗するかに見えた両者。

 

 だが、それも一瞬の事でしかなかった。

 

 徐々に、士郎が押され始める。

 

 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)の放つ、天地をも斬り裂く斬撃は、たとえ無限の剣を持ってしても抗しきれる物ではない。

 

 ありとあらゆる剣を斬り裂き、衝撃は士郎へと迫る。

 

 その様を、真っすぐに見据える士郎。

 

 その瞳には、諦念にも似た色が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 やはり、

 

 

 

 

 

 やはり、駄目だったのか?

 

 

 

 

 

 俺じゃ、届かなかったのか?

 

 

 

 

 

 所詮俺は、何者にのなれない『偽物』に過ぎなかったのか?

 

 

 

 

 

 美遊

 

 

 

 

 

 黍塚

 

 

 

 

 

 桜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫る衝撃波。

 

 既に致死の斬撃は士郎の眼前まで迫っている。

 

 無限の剣は押し返され、斬り裂かれていく。

 

 旦夕に迫る、士郎の運命。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに、呼ばれた気がした。

 

 それは、あの時、

 

 久希に剣士(セイバー)のカードを見せられた時にも聞いた。

 

 顔を上げる士郎。

 

 その視界の先で、

 

 今にも士郎を斬り裂かんと迫っていた衝撃波が、

 

 縦に裂かれ、左右に散っていくではないか。

 

「なッ!?」

 

 目を見開く士郎。

 

 まるで、モーセの十戒のように分かたれる衝撃波。

 

 驚いたのは、アンジェリカも一緒である。

 

「な、何が起きた!?」

 

 驚く2人の目の前で、

 

 一振りの剣が、姿を現した。

 

 鞘に収まった一振りの剣。

 

 金色の魔力を放つ剣は、天地を分かつ衝撃をも防ぎ止め、士郎を守る様に、英雄王の前に立ちはだかっていた。

 

「この・・・・・・剣は・・・・・・」

 

 その剣を見て、士郎は唸り声を上げる。

 

 鞘に収まったままの状態ですら、圧倒的な存在感を放っているのが判る。

 

 いったい、何が起こったのか?

 

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎の脳裏に響く、少女の声。

 

 聞き覚えは無い。

 

 だが、果てしない懐かしさが込み上げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早くッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が急かすように告げる声。

 

 同時に、鞘に収まったままの剣が、輝きを増す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私」を使いなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 促されるまま、剣の柄を握る士郎。

 

 そのまま、一気に鞘を払う。

 

 溢れ出る金色の魔力。

 

 圧倒的な質量は、清浄な空気を持って、その場を圧倒していく。

 

 光り輝く刀身は、およそ人の手による物とは思えない清廉さを誇っていた。

 

 剣を振り翳す士郎。

 

「クッ やらせるわけにはッ!!」

 

 再度、乖離剣を振り翳そうとするアンジェリカ。

 

 だが、もう遅い。

 

 再度の魔力を放つだけの時間は、彼女には残されていない。

 

 そして、

 

 アンジェリカは見た。

 

 あるいは、それは幻だったのかもしれない。

 

 光り輝く魔力の向こう側、

 

 剣を振り翳す士郎。

 

 その傍らに、

 

 共に剣を取り構える、蒼いドレスを着た美しい少女の姿。

 

 次の瞬間、

 

約束された(エクス)・・・・・・」

 

 士郎は剣を振り下ろす。

 

勝利の剣(カリバー)!!」

 

 迸る閃光。

 

 その光は奔流となり、

 

 立ち尽くすアンジェリカを呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

第44話「騎士王の援軍」     終わり

 


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