Fate/cross silent   作:ファルクラム

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無印編
第1話「始まりの夜」


 

 

 

 

 

 

 

 始まりの記憶は、地獄だった。

 

 沸き上がる炎が周囲を覆いつくす。

 

 肌を焼く熱が、どう猛な獣のごとく、あらゆる感覚を侵食してくるのが分かった。

 

 ああ、そうか。

 

 唐突に、何の前触れもなく悟る。

 

 自分はこれから、死ぬのだと言う事を。

 

 

 

 

 

 まあ・・・・・・良いか・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、目を閉じる。

 

 遮られる視界が、全てを覆いつくした。

 

 どうせ、何かを誇れるような人生でもなかったのだ。ここできっぱりと幕を下ろすのも悪くはない。

 

 そう思った。

 

 その時、

 

 不意に、

 

 すぐ傍らに、誰かの気配がうごめくのを感じた。

 

 誰だろう?

 

 些細な好奇心が死への誘惑を上回り、閉じかけた瞼を、もう一度開く。

 

 開いた視界に飛び込んできたのは、1人の女性だった。

 

 長い銀色の髪をした女性。

 

 きれいな人・・・・・・・・・・・・

 

 朦朧とする意識の中で、そんな風に思った。

 

「可哀想に・・・・・・・・・・・・」

 

 女性の手が、優しく髪をなでてくれるのが分かる。

 

 すでに感覚を失っている体にも、その心地よさが伝わってきた。

 

 と、

 

 女性のすぐ傍らに、もう1人、誰かが立つ気配を感じた。

 

 音もなく近づいてきたその人物は、静かな声で女性へと語りかけた。

 

「ここの工房の破壊は概ね完了したよ。もう、ここの連中には何もできないはずだ」

 

 抑揚を感じさせない低く抑えたような声は男のものである。

 

 次いで、男はこちらを見下ろしてくる。

 

「その子かい?」

「ええ」

 

 尋ねる男に、女性は頷きを返した。

 

 2人は夫婦だろうか? それとも恋人?

 

 そんな、どうでもいい思考が、頭に浮かんでくる。

 

 心の中で苦笑する。

 

 おかしなものだ。これから死のうとしているというのに、そんな事が気になるなんて。

 

「・・・・・・・・・・・・あの子と、同じくらいの年齢か」

「そうね」

 

 頷いてから、女性は僅かに目を細める。

 

 悲しみに震えているように見える。

 

 そう、彼女は悲しんでいるのだ。

 

 彼女自身のためではなく、今まさに死にゆこうとしている自分のために。

 

 ああ、

 

 きっとこの人は、とても優しい人なんだろう。

 

 こんな人の下に生まれていたら、自分の人生ももう少し違ったものになっていただろうか?

 

 薄れゆく意識の中で、そんなことを考える。

 

 やがて、視界が暗く霞み、何もかもが闇に飲み込まれていく。

 

 最後にもう一度、目の前の美しい女性を視界に収めながら、

 

 視界は、大いなる虚無に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 聖杯戦争。

 

 かつて、そう呼ばれた戦いがあった。

 

 7人の魔術師が、7人の英霊を召還、戦いで勝利を得る事によって、万能の願望機たる聖杯の獲得を目指す魔術儀式。

 

 その道程は決して平坦なものではなく、戦いの度に幾多の犠牲者が出てきた。

 

 過去に行われた聖杯戦争は三度。

 

 しかし、そのいずれの儀式においても失敗。聖杯が顕現する事はなかったという。

 

 以来60年余り。

 

 新たな聖杯戦争が行われたという記録は、残されていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話「始まりの夜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女を見た人間は恐らく、10人が10人、「可愛い」と言う反応を示す事だろう。

 

 流れるような銀色の髪に、珍しい深紅の瞳。日本人離れした容姿はそれだけでも目立っている。

 

 まるで西洋人形を思わせる外見ながら、クルクルとよく動く溌溂とした行動力は、愛くるしさが人に形を取っているとさえ思える。

 

 年齢的にはまだ10歳になったばかりだというのに、将来の美貌を約束されている気さえする。

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 家族や親しい仲間内では「イリヤ」の愛称で呼ばれる少女とは、そんな女の子だった。

 

 御年10歳。

 

 私立穂群原学園初等部5年1組に在籍する小学生である。

 

 終業のチャイムが鳴ると同時に、イリヤは手早く自分の教科書とノートをランドセルに入れて立ち上がる。

 

 ともかく、少しでも早く目的の場所へ行きたいのだ。

 

「イリヤちゃん、一緒に帰ろう」

「ごめーん。今日はお兄ちゃんと帰る日なの」

 

 誘ってくる友人の桂美々(かつら みみ)に、そう言って謝るイリヤ。

 

 イリヤとしても友達と一緒に帰るのはやぶさかではないのだが、今日はそれ以上に優先したい事情があった。

 

 イリヤの友人一同の中では、割とおとなしい性格の美々は、イリヤのその言葉で大体の事情を察してくれる。

 

 イリヤには高校生の兄がいる。

 

 その兄は学校では弓道部に所属しており普段は帰りが遅いのだが、今日はたまたま練習が休みな為、一緒に帰る約束をしていたのだ。

 

「あ、今日はお兄さん、部活お休みなんだ」

「うん、そうなんだ」

 

 嬉しそうに頷きを返すイリヤ。

 

 イリヤが兄と仲が良い事は、友人たちは皆知っている。だからこそ、イリヤの意思を尊重してくれる事が多いのだった。

 

 荷物をまとめ、教室の出口へ向かおうとするイリヤ。

 

 と、

 

 そんなイリヤの背後に、誰かが立つ気配があった。

 

 笑顔を浮かべるイリヤ。

 

 誰が来たのかは、すぐに察する。

 

 振り返ると、1人の少年がイリヤの背後に立ち、まっすぐに少女を見つめてきていた。

 

 髪を中途半端な長さに伸ばし、肌の色がやや白い印象がある。

 

 年齢相応に小柄な少年。

 

 手足はまだ細く、背はイリヤよりも少し低いくらいである。

 

 しかし、何より特徴的なのは目だろう。

 

 年齢的にはイリヤ達と同じなのだが、同年代の子供に特有の、「あどけさな」や「天真爛漫さ」を見て取ることができない。

 

 茫洋とした瞳には光が薄く、表情を読み取ることも難しい。

 

 イリヤとは別の意味で「人形」めいた少年だった。

 

 だが、

 

 そんな少年に対し、イリヤは構わず笑顔を向ける。

 

「あ、ヒビキ、準備できた?」

「ん」

 

 響と呼ばれた少年は、イリヤに対して短く頷きを返した。

 

 素っ気ない感じだが、それは少年にとっていつも通りの反応。だからこそ、イリヤは別段気にすることなく、少年の手を取った。

 

「よし、じゃあ行こう。美々、また明日ね」

「バイバイ、イリヤちゃん、響君」

 

 手を振る美々。

 

 その姿を背に、イリヤは響の手を引いて教室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 穂群原学園の高等部は初等部と隣り合う形で併設されている。その為、互いの校舎を行き来する事もできる。

 

 その高等部の校門前に、響とイリヤは立っていた。

 

「んー、お兄ちゃん、遅いね」

 

 イリヤは先程から、ピョコピョコとジャンプしながら、校門を出てくる学生達の姿を見ている。

 

 その様子を、下校する高校生たちが、微笑ましそうに見つめながら通り過ぎていく。

 

 イリヤと響はこうして時々、兄を迎えに来て高等部の正門に立っている事が多い為、見知っている学生もいるのだ。

 

 だが、待ち人はなかなか姿を現さない。

 

 彼女の兄は目立つ容姿をしている。出てくれば一目瞭然なのだが。

 

 と、

 

 それまでイリヤの様子を横眼で眺めていた響が、スッと腕を伸ばして指さした。

 

「どうしたのヒビキ?」

「来た」

 

 尋ねるイリヤは、響が指示した方向を見る。

 

 するとそこには、自転車を押してやってくる1人の男子学生がいた。

 

 その姿を見つけ、イリヤは大きく手を振る。

 

「おーい、お兄ちゃーん!!」

 

 その呼び声が聞こえたのだろう。相手の方も、自転車を押しながら手を振ってくる。

 

 やや赤み掛かった髪に、柔和な顔付きの少年の顔は、自分を待っていてくれた妹と弟に笑顔を向ける。

 

「何だ、イリヤに響。迎えに来てくれたのか。待たせて悪かったな」

「ううん。ちょうど終わったところだったし」

「問題ない」

 

 イリヤは笑顔で、響は表情を動かさずにそれぞれ兄を出迎えた。

 

 

 

 

 

 衛宮士郎(えみや しろう)、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、衛宮響(えみや ひびき)

 

 この3人は兄妹である。

 

 と言っても、名前からわかる通り、血が繋がっているわけではない。

 

 そもそも彼らの両親からして、色々とあって結婚はしていない。姓が違うのは、その為だった。

 

 そんな中で、両親の実子は唯一の女の子であるイリヤだけ。士郎と響はそれぞれ、両親が、それぞれの事情から養子として引き取った子供たちである。

 

 だが、

 

 長男の士郎、長女のイリヤ、そして末弟の響。

 

 そんな互いの関係などお構いなしに、3人はそれぞれ仲が良い兄妹として、近所でも知られていた。

 

 家族構成は両親と3人のほかに、使用人が2人いる。

 

 日本の一般家庭に使用人がいると言う事は異例、と言うよりも異色に近いように思えるのだが、実際には使用人2人も家族のような扱いになっているため、イリヤ達は全くと言っていいほど気にしていなかった。

 

 以上7人の家族。昨今の日本における一般家庭にしては、なかなかの大家族であると言えるだろう。

 

 もっとも、両親2人は海外関係の仕事で家を空けることが多いため、実質的には兄妹と使用人2人の、合計5人で過ごす事が多いのだが。

 

 その衛宮邸の前に、3兄妹が立っていた。

 

 もっとも、イリヤと響の小学生コンビは、なぜか肩で息をしているのだが。

 

「いや、お前等、何も無理に着いてこなくても」

 

 そんな弟妹達の様子を、士郎は呆れ気味に苦笑して眺めている。

 

 きっかけは士郎の自転車に合わせて走ると言ったイリヤに対し、士郎が「家まで競争」などと言った事だった。

 

 高校生男子が、小学生の弟妹相手に自転車に乗って「競争」も無いと思うのだが、それでも勝負が成立してしまうのが、イリヤと言う少女だった。

 

 彼女の足の速さはなかなかの物であり、士郎が自転車で走っても追随できるほどである。

 

「こんなの、へ、へっちゃらだよ。50メートル走なら、男子にだって負けないんだから」

「付き合わされる・・・方の、身にも・・・・・・・・・・・・」

 

 無理やり笑うイリヤに対し、息も絶え絶えに悪態をつく響。

 

 足の速いイリヤならともかく、響にしてみれば着いていくだけで精いっぱいだった。

 

「まあまあ2人とも。早いとこ着替えて、ジュースでも飲もう」

 

 そんな弟妹達の様子に苦笑しつつ促す士郎。

 

 その意見には、全くの同意だった。

 

 揃って玄関のドアをくぐるイリヤ達。

 

 そんな3人を、落ち着いた感じの女性が出迎えた。

 

「あら、お帰りなさい。珍しいですね、3人一緒だなんて」

 

 使用人のセラである。

 

 この家では家事全般を司っているのがセラである。ちなみに落ち着いた雰囲気で一見すると優しそうだが、怒らせると怖い。ある意味、両親不在の衛宮家が機能を完璧に維持しているのは、セラの存在が大きかった。

 

 一方、

 

「ん、おかえりー」

 

 今のソファーに寝そべり、けだるい感じで3人を出迎えたのはもう1人の使用人であるリズである。

 

 とても「使用人」には見えないが。

 

 テレビの中では、何やらステッキを持った魔法少女風の女の子が、敵に向かって啖呵を切っている様子が映っている。

 

 どうやらリズは、アニメを見ていたようなのだが、

 

 その様子を見て、イリヤが声を上げた。

 

「あー、リズお姉ちゃんッ 先に見ちゃってる!!」

「ずるい・・・・・・・・・・・・」

 

 響も、イリヤに同調するように、静かに抗議の声を発する。

 

 リズが見ているのは「魔法少女マジカル☆ブレードムサシ」のDVDである。

 

 そう言えば今日は、注文したDVDセットが届く日だったことを思い出す。

 

 本来は日曜朝に放送されていた女児向けのアニメだが、魔法少女の可愛らしさと戦闘シーンの秀逸さが相まって、10代、20代と、幅広い年齢層に支持を受けている。

 

 イリヤと、そして密かに響も、このアニメのファンだったりする。

 

「ねえねえリズお姉ちゃんッ 最初から見ようよ。お願いだから!!」

「・・・・・・・・・・・・リズ」

 

 右と左からリズの腕を取り、おねだりするイリヤと響。

 

 そんな弟妹達の様子に、リズは表情を変えずに頷きを返す。

 

 リズは普段からだらけているのだが、基本的にイリヤ達には優しい。

 

 締めるべき所は締めるセラと、やや甘やかし気味のリズ。

 

 対照的な2人だが、これはこれでうまく噛み合い、衛宮家の機能維持に大きく貢献している。

 

 そんな訳で、イリヤ、響、リズの3人は、揃ってソファーに座り、アニメ鑑賞としゃれこむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高空で、光の弾丸が交錯する。

 

 流星が駆け抜けるが如きその光景は、ある種の幻想的な風景を作り出しており、見る者を魅了する事だろう。

 

 もっとも、

 

 その光景を作り出している者達は、そんな幻想(ロマンチック)とは無縁の状況に置かれていたのだが。

 

 2つの人影が、乱れ飛びながら交錯している。

 

 1人は黒髪を頭の両サイドでツインテールに縛り、赤い服を着た少女。

 

 もう1人は長い髪を金髪の縦ロールにセットし、青い服を着た少女。

 

 そして、両者ともに、手には似たような形のステッキが握られていた。

 

 互いに、年齢は10代後半ほど。

 

 人間が空を飛ぶ、などと言う事態もさる事ながら、2人は先程から人知を超えた戦いを星空の下で繰り広げていた。

 

 金髪の少女が、背後に複数の魔法陣を展開すると、一斉に光弾を撃ち放つ。

 

 対して、ツインテールの少女は機動力に物を言わせて回避する。

 

「だァァァァァァ!! 何で攻撃してくるのよこいつは!! 共同任務だってこと忘れてんじゃないの!?」

《まったく困ったちゃんですねー。結構な本気弾でしたよ、あれ》

 

 怒りをぶちまけるツインテールの少女に対し、手にしたステッキが呑気な声で返事をする。

 

 対して、攻撃を放った縦ロールの少女は、勝ち誇ったような高笑いを上げている。

 

「オーッホッホッホッホッホッホ!! こんな任務、(わたくし)1人でどうとでもなりますわ!! あなたさえいなくなれば、全て丸く収まるんですのよ!!」

《マスターは人でなしと評します》

「黙りなさい、サファイア!!」

 

 こちらもまた、手にしたステッキから冷静な指摘を受けている。

 

 さて、

 

 人間の持つ一般常識に照らし合わせれば、色々と突っ込みどころ満載な光景であるのは間違いないのだが、

 

 それらを踏まえた上で、客観的事実として言える事は、

 

 2人が滅茶苦茶、仲が悪いと言う事だろう。

 

 先ほどから繰り広げられている応酬には、互いに「手加減」という要素が一切見られない。

 

 下手をすれば命を落としかねないレベルである。

 

 それでもなお決着がつかないのは、2人のレベルが相当に高い事。そして両者の実力が、ほぼ伯仲している事が原因だった。

 

 だが、拮抗状態も長くは続かない。

 

 金髪縦ロールの少女は、手にしたステッキを振りかざして叫ぶ。

 

「さあ、わたくしの輝かしい未来の為に、ここで散りなさい。遠坂凛(トオサカ リン)!!」

 

 放たれる、特大の閃光。

 

 流石にまずいと思ったのか、ツインテールの少女は防御姿勢を取る。

 

「だァァァァァァ!? ルビー、障壁張って、障壁!!」

《常に張ってますよ~ ただ・・・・・・・・・・・・》

 

 直撃する閃光。

 

 その中から、黒焦げになった少女が姿を現す。

 

《ここまで強力な魔力砲だと、ちょっと相殺しきれませんね~》

 

 のんきなことを言うステッキとは裏腹に、ツインテールの少女は沸々と湧き上がる怒りを自覚せずにはいられなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・痛い」

《まあ、治癒促進(リジェネレーション)も掛けてありますから、しばらく放っとけば治りますよ》

「いや、治るとかそうじゃなくて、今とっても痛い・・・・・・・・・・・・」

 

 そもそもの原因は、向こうが攻撃を仕掛けてきた事にある。

 

 こちらは、たとえ相性最悪な奴であろうとも、最低限の協力はしてやろうと思っていたのに。

 

 「だと言うのにあいつときたら・・・・・・・・・・・・」

 

「まったく、害虫のようにしぶとい女ですわね。とっとと消えてもらえません事」

 

 見下ろす形で、高慢に告げる金髪女を見上げ、

 

 ツインテールの少女は、堪忍袋が完全に切れるのを自覚した。

 

「そう・・・・・・あんたの気持ちはよーくわかったわ。そっちがその気なら・・・・・・」

《凛さん?》

 

 尋ねるステッキを無視して、ツインテールの少女は胸のポケットから1枚のカードを取り出した。

 

 タロットカードを思わせるその絵柄には、弓を構えた兵士の絵柄が描かれている。

 

「この場で引導を渡してやるわよ!!」

 

 対して、金髪縦ロールの少女にも緊張が走る。

 

「クラスカードを抜きましたわね!! ならばこちらも手加減いたしませんわよ!!」

 

 今まで手加減していたのか?

 

 というツッコミはさておき、こちらもカードを抜き放つ。こっちのカードは、槍を携えた兵士が描かれていた。

 

 カードを掲げる両者。

 

 そして、同時に叫んだ。

 

「「限定展開(インクルード)!!」」

 

 それは特殊な力を秘めたカード。

 

 その力を開放すれば、より強力な攻撃が可能になるのだ。

 

 次の瞬間、

 

 シ――――――――――――ン

 

 カードは当たり前のように何も起こらず、虚しい沈黙だけが場を支配していた。

 

「ちょっとルビー、何やってるのよ!! インクルードよ!!」

「どうしましたのサファイア!!」

 

 焦る2人の少女たち。

 

 しかし、何度試みても結果は同じ。カードからは何の変化も起こる事は無かった。

 

 ややあって、赤い少女が持つルビーと呼ばれたステッキが口を開いた。

 

《やれやれですねー もう、お二人には付き合いきれません》

「なッ!?」

《いいですか。大師父がカレイドステッキ(わたしたち)をお二人に貸し与えたのは喧嘩に使わせるためではなく、お二人が協力して任務を果たすためだったはずです。だと言うのに、この魔法の力を私闘の為に使うだなんて、本末転倒も良いところですねー》

 

 絵に書いたような正論を言われ、赤い少女はぐうの音も返せずにいる。

 

 一方、

 

《ルビー姉さんの言うとおりです》

「サファイア!?」

 

 青い少女が持つステッキも口を開いた。こちらはルビーに比べ、幾分落ち着いた印象の喋り方である。

 

《大師父の命令でルヴィア様が私のマスターとなってまだ数日ですが、任務を無視したその傍若無人な振る舞い・・・・・・恐れながらルヴィア様はマスターに相応しくないと判断します》

「なッ・・・・・・・・・・・・」

 

 言葉遣いは柔らかいが辛辣な指摘に、青い少女も絶句する。

 

《 《ですので・・・・・・・・・・・・》 》

 

 ルビーとサファイアは同時に言うと、それぞれの手からスルリと抜け出る。

 

《 《誠に勝手ながら、しばらくの間、お暇をいただきます!!》 》

 

 そのまま飛び去って行く、2本のステッキ。

 

「ちょ、ちょっとー!!」

「コラァッ!! ステッキの分際で、主人に逆らうの!!」

《もっと、わたし達に相応しいマスターを捜して戻ってきますよ》

《失礼します、元マスター》

 

 飛び去って行く、ルビーとサファイア。

 

 と、思い出したようにルビーは急停止して振り返った。

 

《ああ、それと凛さん、ルヴィアさん、一つお教えしますが・・・・・・もう転身は解除しましたので、早く何とかしないと、そのまま落下しますよ》

 

 それだけ言い置いて、飛び去って行くステッキ達。

 

 次の瞬間、

 

 思い出したように、2人の少女は急落下を始めた。

 

「だぁぁぁーッ お、落ちるー!!」

「おのれ、許しませんわよ、サファイアー!!」

 

 悲鳴交じりの捨て台詞を残し、

 

 少女たちは夜の街へと墜落していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かに聞こえてきた振動に、響は顔を上げた。

 

 机の上には、学校で使う教科書とノートが乗っている。

 

 宿題をやっている最中に感じた違和感に首をかしげる。

 

「・・・・・・・・・・・・地震?」

 

 呟いてみるものの、特に揺れが継続して起こっているわけではない。と言う事は、地震の線は薄そうである。

 

 気のせいだろう。

 

 そう思って、宿題へと戻ろうとした。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 やはり、気のせいだとは思えない。もし本当に地震だとしたら、もっと大きな本震が来るかもしれないのだ。

 

 響は部屋を出ると、その足で隣にあるイリヤの部屋へと向かった。

 

「イリヤ、いる?」

 

 呼びかけるものの、中から返事はない。

 

 時間を確認すると、いつもイリヤが風呂に入っている時間だと言う事を思い出す。

 

 仕方がない。上がるのを待とう。

 

 そう思い、踵を返す。

 

 その時だった。

 

 キンッ

 

「ッ!?」

 

 何か、警報めいた耳障りな音が、鼓膜の奥で鳴り響いたような気がした。

 

 その正体を探るように、響はスッと目を細める。

 

 今のが何なのか、響には判らない。

 

 しかし、すぐ近くで何かが起こっているような気がした。

 

「・・・・・・・・・・・・外?」

 

 先程の地震と言い、何か気になる。

 

 一応、確かめておいた方が良いと感じた響は、その足で玄関へと向かった。

 

「およ、ヒビキ、どした?」

「ちょっと」

 

 階段を降りようとしたところですれ違ったリズにそう言うと、そのまま玄関を出て外へと向かう

 

 子供らしい好奇心に導かれて、家の裏へと向かう。

 

 そこは屋内では風呂場がある場所のはず。

 

 そこで、

 

「離しなさいってばッ!!」

「いや、だから離れないんだってば!!」

《諦めが悪い人ですね~》

 

 複数の人間が争う声が聞こえる。

 

 覗き込む響。

 

 そこで、

 

 響にとってよく見慣れた人物が、あまり見慣れない格好で、明らかに年上と思われる女性と、手にしたステッキを取り合っている光景があった。

 

「・・・・・・・・・・・・何やってるの、イリヤ?」

「は、ひ、ヒビキ!?」

 

 呼ばれて、イリヤは慌てた調子で振り返る。

 

 その恰好は、ピンク色を基調としたフリフリのドレス。

 

 ありていに言えば「マジカル☆ブレードムサシ」を連想させる、魔法少女風のコスチュームだった。

 

 

 

 

 

第1話「始まりの夜」      終わり

 




主人公紹介

衛宮響(えみや ひびき)

誕生日:11月20日
身長:131センチ  
体重:32キロ
イメージカラー:灰白色
特技:ゲーム(シューティング系、RPG系、アクション系、カードゲーム等)
好きな物:家族、友達、甘い物
嫌いな物:苦い物
天敵:■■■■■

備考
衛宮家の末っ子で、士郎、イリヤの弟。口数が少なく茫洋としており、何を考えているのか分からないところがある。

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