ラブライブ!サンシャイン!! ~平凡な高校生に訪れた奇跡~   作:syogo

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お久しぶりです…。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。もう言い訳はしませんので(けして開き直りではありませんよ!?)本編をお読みいただけると嬉しいです…。

それではどうぞ。


第30話 ~彼女の思いと自分の答え~

_かつてこんなにも開くのに勇気のいる扉はあっただろうか。

 

梨子と別れた後、俺はすぐさま十千万に戻り、勢いそのまま千歌の部屋のドアをノックしようとした。…したのだが。

 

「………っ。」

 

ドアを叩こうとする右手が、ドアに触れる数センチ手前で強張ったまま動かない。後ほんの少し前へ拳を出すだけで、いつも通りの音が鳴る。「コンコン」、というなかなか心地よい音。普段あまり気にしていないものの、あのどこか爽やかさを感じさせる音を俺は少しだが好んでいた。

しかし、今はあの音を出すのをためらっている。ノックをすると、当然ながら部屋から返答があり、部屋の主、千歌がいつも通りの笑顔で迎え入れてくれるだろう。いつもなら何とも思わないが、今俺がここに入ろうとしている理由が理由だから…。

と、梨子との会話で腹が据わったとか何とかぬかしていた癖に、今現在俺はへたれてしまっている。握った拳からは手汗がにじみ出て不快感が発生し、相変わらず体は動かない。心なしか呼吸も若干荒くなってきたような気もしてきて…。傍から見たら完全に変態だろう。

しかし、いつまでもここでフリーズしていても何も始まらない。大きく深呼吸をすると、俺は映画に出てくる突撃部隊の兵士の様な面持ちで、カウントを始める。

 

「よ、よし…。いくぞ。3…、2…、1…。」

「…ゼロ。」

「ほぇ?」

 

ガチャ。

ゼロ、のカウントリミットと同時に振りだされた俺の拳がに触れる…と全く同タイミングで開け放たれたドア。その向こう側から部屋の主が目をまんまるにして俺の目の前にいきなり出現した。…のだが。

漫画じゃあるまいし。と、まさかそんな事を思ってもいなかった俺は、驚きが勝ってしまい。目では認識していたもののそこから腕の停止信号を発することをしないまま、千歌のおでこめがけて動作を続行していた。

つまり、何が起こったのかと言うと…。

 

こっつーん。

 

「あいたぁーっ!?」

 

…全く予想していなかった一撃による彼女の悲鳴が、部屋中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

「い、いやぁー。まさか…、ねえ?あんなにタイミング良くなることなんて想像できないじゃないですか。は、ははは…。」

「…悪いと思ってる?」

「はいすみませんでした誠に申し訳ございません大変失礼いたしました。」

 

西日が水平線のかなたに5割方落ち始め、当たりが薄暗くなり始めている中。俺は電気も付いていない千歌の部屋の中心で若干の冷や汗をかきながら正座をしていた。

 

「結構痛かったんだからね?」

 

そして俺が精一杯の誠意を向けている方向の先には、未だ痛むのかおでこを軽くさすりながら、こちらをジト目で見つめてくる千歌。確かに、おでこの部分を見ると赤くなっている。

改めて「すまん…。」と謝ると、偶然が重なった上での現象のために怒るに怒れないのか、「…まあいいよっ」と案外すんなりと許してくれた。良かった。お詫びになにかする事になったら恐らく{みかん100個}とか言い出すだろうからな…。

 

「それで?何か用事があってきたんでしょ?なにかあるの?」

 

と俺が内心安堵していたところで、いつもの無邪気な表情に戻った千歌から尋ねられる。

 

「…っ。お、おう。」

 

そう。俺の目的は千歌のおでこにノックをしに来た事ではない。千歌に長い間待たせてしまった返事を、自分の思いを伝えに来たのだ。

それを意識した瞬間、激しく胸の鼓動が高鳴り、ひどく口周りが乾燥してきた。体が強張り、思うように制御できない。指先は細かくだが、確かに震えている。今千歌の顔を見続けていられているのが奇跡なくらいだ。それくらい、俺は一瞬で緊張具合の最高潮に達していた。

 

「…千歌。…あの時の、返事なんだけど。」

「…っ!」

 

しかし、声はすんなりと出た。千歌もこんなに緊張をして、こんな思いをして、俺に思いを打ち明けてくれていた。そう考えただけで、自然と口は動いた。

その言葉に反応した千歌が、ビクッ、と小さく反応する。さっきまで合っていた目線が外れ、少しうつむいてしまう……、が、決心したのだろう。数秒後目線を俺の瞳へと戻した。

 

「うん…、聞くよ。」

 

先程の無邪気な表情とは一転、真剣な面持ちになる千歌。

俺は軽く息を吸い込むと、…3週間考えた、俺の『答え』を___告げた。

 

「俺は、千歌のことが……

 

 

 

 

 

_____好き、なのかもしれない。」

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

肯定とも否定ともとれない曖昧な俺の答えに、千歌は困惑の表情を浮かべる。

確かに、この一言では全く返事にはなっていないだろう。…そう。俺の『答え』はまだ終わっていない。

俺は軽く一呼吸置くと、目の前でやはりしどろもどろしている千歌に向かって、頭を下げた。

 

「…まず。これだけは謝らせてほしい。返事、こんなに遅くなってごめん。まさか、俺なんかが告白されるなんて思ってもみなかったからさ。しかも、一番距離の近い人から。」

「…ほんとだよ。3週間も待つなんて。すっごく不安だったんだからね…?」

 

頭を上げ、再度千歌の顔を見上げると、その瞳からは一筋の涙が伝っていた。彼女はこの3週間、さっき俺が返事を返そうとする時に味わったような緊張と、さらに告白に対する不安をずっと抱いていたはずだ。俺はさっき一瞬感じただけでもとても苦しいものだったのに、それを3週間も。…俺は罪悪感でいっぱいになり、再度頭を下げる。

しかし、彼女が欲しているのは、謝罪ではなく、告白への返事なのだ。これ以上彼女にこんな思いをさせないためにも、俺は更なる沈黙の後、続きを切り出した。

 

「__この3週間、ずっと。千歌、お前のことを見てきた。考えた。何度も何度も自分に問いかけた。『俺は千歌のこと、どう思ってるのか?』って。…でも、答えは出なかった。」

 

千歌は黙って俺の話を聞いている。いつの間にか彼女の目から涙は止まっていた。

 

「ここにやって来た最初の日から、俺は千歌と一緒にいたよな。まだ大して時間は経ってないけど…、俺が今まで出会ってきた人の中で、一番親しい、近い関係になったと思ってる。だから。だからこそ。俺は答えが出せなかったんだと思う。」

「…今日やっと答えが出たんだ。近すぎたが故に、出せなかった結論。…これから言う事は、かなり最低な部類に入る事だと思う。…それでも、これが俺の『答え』なんだ。」

 

俺はここで一旦話を区切ると、ゆっくりと深呼吸。

___前置きは話した。次。次の一言で、俺の『答え』が出る。

小刻みに震える唇を感じながら、言葉を、『答え』を、発した。

 

 

 

「千歌の事、『好き』だとはまだ言えない。だから…、この気持ちが千歌に向かっているものなんだと俺の中ではっきりした時……、今度は俺から言わせてほしいんだ。」

 

 

 

そして俺は頭を下げた。…自分では解っている。こんな告白の返事、傍から見たら「とりあえずキープで、後々いいなと思ったら付き合おう。」という様な解釈になる。しかし、これが俺の今の結論であり『答え』。今はどれだけ時間を与えられても変わる事はないだろう。

…千歌のことも傷つけたに違いない。「最低だ」と思われただろう。こんな男からの告白を後にまた受けるなんて地獄だ。と思われているのかもしれない。

 

「…かける、くん。」

 

数秒、あるいは数分。長いようで短かったような、そんな曖昧な沈黙の時間の後、頭を下げ続けていた俺の頭上から、彼女の、俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「…っ。」

 

…頭を上げるのが怖い。千歌の表情を見るのが怖い。何を言われるのか…、想像が怖い。

しかし、俺はそんな事を考えてはいけない。思ってはいけない。どんなに考えた末の結論でさえ、俺は千歌の事を傷つけたのだろうから。

100分の1秒にも満たないであろう一瞬で俺は息を吸うと、ゆっくりと……、彼女の、千歌の表情と目線を合わせた。

 

「ありがとう…っ!」

 

そこには、これ以上ないくらいの笑顔で俺を見つめている彼女がいた。

 

「……は。」

 

思わず漏れる俺の疑問符。当然だ。感謝されることなんて俺は何一つしていない。中途半端な返事で彼女を困惑させ、傷つけた筈だ。なのに、……なぜ。

 

「『かもしれない』『まだ』、って事は、まだ千歌にチャンスはあるってことだよね…?少しでも私に惹かれてくれたんだよね?……嬉しいな。ホントに嬉しいよ…!」

「っ…!?」

 

……俺の両目から、止めどなく涙が流れ始めた。

胸が締め付けられる思いだった。こんなに純粋な彼女の気持ちに応える事が出来ない自分と、最低な返事に輝く目で、それでも俺に好意を向けていてくれる彼女に。

俺に泣く資格なんてないのに。早く泣きやまなくてはいけないのに。その思いとは裏腹に、そう思えば思うほど涙の粒は大きくなる。

 

「…え!?ちょ、ちょっと翔くん!なんで泣きだすの!?と、とりあえず泣きやんでよ~!」

 

それを見て慌てた千歌が、どこからかタオルを持ってきて俺の顔に押し付ける。俺は嗚咽を混じらせながら何度も深呼吸し、何とか涙を全てタオルに落とす事が出来た。

 

「…落ち着いた?」

 

優しく問いかけながら、俺の顔を軽く覗き込む千歌。その優しさがまた俺の涙腺を刺激したものの、「ああ、大丈夫」と答えながら頭にタオルを押しあてそれを抑制した。

 

「いきなり泣き出しちゃうんだもん。びっくりしたよー。…なんで泣いちゃったの?」

「はっきり決められない俺自信と、俺のあんな答えに笑顔のお前が、……眩しすぎて。」

 

そう答えた俺の言葉に、ピンと来ていないような表情をする千歌。__俺はそんな千歌にこう、掠れた消え入りそうな声で質問を投げかけた。

 

「…なんで、あんな中途半端な俺の答えに、そんなに…、前向きでいてくれるんだ。なんで、まだ俺の事を好きでいてくれるんだ。…3週間だぞ?3週間。こんなに長い間お前の事を不安にさせて、挙句の果てにあんな返事をしたんだぞ?なんで…、なんで笑ってくれるんだよ…?」

 

 

「だって、好きなんだもん。それだけだよ。」

 

 

そうやって、いつもの笑顔で千歌は答えた。

 

「普通に聞くとひどいように聞こえるかもしれないよ。なんていうんだろ…?あ、そう!『キープ』発言。そんな風に聞こえるような翔くんの言葉だったけど、私は知ってるから。翔くんが優しい事。」

「きっと、私のためにいっぱいいっぱいいっぱーい悩んで、考えてくれて。それであの答えになったんだよね?確かに、あの3週間はとっても不安だった。それでも、こうやって翔くんの気持ちを聞く事が出来たから。…さっきはちょっと泣いちゃったけどね。」

 

えへへ、と笑う千歌を見て、俺はまた涙をこぼしてしまう。膝元に置いていたタオルに涙が落ち、シミがひとつ、またひとつと増えていく。

 

「だから、さっきの返事はとっても嬉しかったんだ!翔くんがたっくさん悩んだ上での、あの答え。少しでも千歌の事が気になってくれてるってことだもん!」

「ち…、ちか……。」

「だからね!!」

 

そう言って俺の鼻先15センチまで距離を詰めると、

 

「これからばんばんアピールしていくから、覚悟しといてねっ!」

 

と、腰に手を回して俺を抱きよせながらそう言った。

その瞬間、まるで洪水といっても事足りないくらいの涙が両目からあふれ出た。

 

「…っ。くっ……。ううううう…。」

 

 

 

そうして抱きしめられた俺は、ついに抗う事を止め、彼女の肩で何時までも泣き続けた。

強く抱きしめる彼女の両腕とは裏腹に、俺の両腕は最後まで彼女の腰に回る事は……、無かった。




本当に大変長らくお待たせいたしました。
ようやく次話投稿するに至りました。どうもあけましておめでとうございます…(遅い

今後も少しずつではありますが執筆を続けていきます。
初期のころよりスピードはがっくりと落ちてはしまっておりますが、首を長くお待ちいただけると幸いです…。
今年もよろしくお願いいたします。

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