ラブライブ!サンシャイン!! ~平凡な高校生に訪れた奇跡~ 作:syogo
それでは、本編をどうぞ。
「お願いしまーす!……あ、これ、よければ貰ってください!……これ、よろしければ、どうぞ!」
温暖化の影響だろうか、昼間っからじりじりと日差しが照りつけてくる。俺の目の前を通って行く人々も、春服から夏服へと変えたようで、薄着が目立つ。…そんな4月最後の土曜日の昼ごろ。
「あ、もしよろしければ、コレ、見てみてください!」
「ライブのお知らせでーす!」
「あ、あの…。これ、良ければどうぞっ!」
「興味があれば、見てみてほしいず…、です。」
「あ、あの、こ、これっ!よ、よろしければど、どうじょっ!」
「ふっ…。この冥界への召喚状を受け取ったからには、貴方は必ずやこの地へ来る事でしょう…。」
俺たちは、沼津駅前でライブのチラシを配っていた。
「…ふう。結構配ったなぁ。」
大体配り始めて、小一時間くらい経っただろうか。50枚くらい持っていたライブのチラシは、すべて綺麗にはけていた。…正直、沼津駅にそんなに人は来るのだろうか?と思っていた部分があったが、普通に家族連れやら、学生やら、お年寄りの方々などの老若男女かなりの数がこの駅に出たり入ったりしているので、その点の心配は無用の様だった。
「…というか。もう夏か?結構暑いんだよなぁ…。」
俺はYシャツの裾を捲りながら、真上から降り注ぐ太陽光に目を細める。4月ってこんなに暑かったかなぁ、とぼんやり思いながらとりあえず一旦休憩にしよう、とみんなを呼ぶ。
「おーい!みんな!暑くなってきたし、一旦休憩にしようぜー!こっちこーい!」
俺の声に反応して、みんなが俺のところに集まってくる。近くにあった木陰のベンチに座らせると、あらかじめ用意しておいたスポーツドリンクをバッグから取り出し、みんなに渡す。
「ありがとー…、かけるくーん…。」
「大丈夫か?千歌。お前が一番張り切ってるように見えたけど。」
「うん…。やすめば、ダイジョブだいじょぶ…。」
ドリンクを飲みながら、ベンチにぐてっ、となっている千歌。…まったく、張り切りすぎだっての。
ま、その猪突猛進さが良い部分でもあるとは思うけどな。と、内心少し苦笑いする。
___実は、このビラ配りを企画したのは、ほかでもないこの千歌なのだ。
鞠莉さんにライブの日時宣告をされたあの日。『宣伝』の部分で俺たちがうんうん唸っている時に、
「とりあえず、チラシを作ろうよ!」
と千歌が言った事でこの企画が始まったのだ。…それから千歌はなんと一日でチラシの下書きを作り、その日のうちに完成、さらにその次の日には印刷まで済ませるという、普段の千歌では考えられないほどの迅速な行動をした。千歌の行動力が無ければ、こんなに早くに実行に移すことは困難だった、いや不可能だっただろう。
「へいへい、翔くん。飲み物がぬるいであります。曜ちゃん、キンキンに冷えた飲み物をぐいっとしたいであります。」
やる時はやるんだなぁ…、と俺が千歌にしみじみとしていると、千歌の隣に座っている曜から、飲み物がぬるいとのクレームが。
「しょーがないだろ、バッグに入れといてそのままだったんだから。それに、冷たい飲み物を一気に飲むのは体に良くないんだぞ。」
「うわー、なんかじじくさいよ翔くーん。冷たい飲み物の方が気分爽快じゃん!」
「んなこと言うなら返せぃ。俺の分買うの忘れたし。ちょうどいいわ。」
と、ぶぅぶぅ文句を言う曜に軽くチョップをかまし、手からボトルを取ろうとする…が、なぜかすいっ、とよけられてしまった。
「なんだよ!いらないんじゃなかったのか?」
「え!?い、いや…、だって。そ、その…、間接、きすに…。」
「え?なんだよ、良く聞こえなかったぞ?」
「…///ああもう!やっぱり飲むの!翔くんにはあげないっ!」
と言って、残りを全部ぐいっと飲み干してしまう。…なんだよ、やっぱり喉渇いてたんじゃん。顔も赤くなってるし。
「…ったく。しょうがねぇな。…………ほら、これでいいだろ?お嬢様。」
俺はふう、と肩を下ろすと、手近にあった自販機に行き、流石に2本スポーツドリンクだと口が甘ったるいだろうからな、とお茶を購入し、曜にうやうやしくお辞儀をしながらそれを手渡す。
「あ、ありがと…。」
なぜか急にしおらしくなった曜は、お茶を少し飲むと俯いてしまった。なんだ、顔赤いし、熱中症か?と俺が曜の肩に手をかけようとした瞬間。意を決したように、いきなりガバッ、と上に向き直ると、さっきのお茶を俺に向けてきた。
「そ、その…///私はもういいから、後は、飲んで…いいよ?」
「お、おう…?そ、そうか?」
ぐぁぁ可愛いぃぃ!!なぜかわからんが、うるんだ瞳+上目づかいで俺の事を見つめてくる曜にドキっとしながら、俺は曜からお茶を受け取る。
「じ、じゃあ、貰うな…?」
「う、うん…///」
俺はお茶の飲み口をゆっくりと近づける。ちらり、と目線をやると、なぜか俺の口元を凝視する曜。飲み口が近付くにつれ、曜の顔もますます赤くなって___
「や、や、やっぱりだめーー!!!」
俺が飲み口に口をつける直前、いきなり立ち上がった曜が俺からお茶をひったくると、そのまま一気に飲んでしまった。え、ええぇぇ……。
「そんなに飲みたかったんなら、無理する事ないっつの…。じゃ、自分の分買ってくるよ…。」
「「「な、なんで気付かない(ずら)(んですか)…。」」」
「「わ、私の飲み物、あげればよかった…///」」
自販機に向かおうとみんなに背を向けたとき、千歌、花丸ちゃん、ルビィちゃんのため息が聞こえた気がするのは、……恐らく気のせいなのだろう。
その後しばらくも曜の顔は赤いまま。…俺は曜の行動の真意が全く読めないまま、その後もビラを配るのだった。
………
「うう…。やってしまった…。」
湯船の中で顔を鼻まで付けて、ぶくぶくとさせる。そんな事をしても、今日の後悔が消えるわけもなく…。
「一回は、決心したんだけどなぁ…。か、間接キス///」
そこまで口に出すと、途端に恥ずかしくなって、今度は頭まで湯船を被る。…………数秒して、また再浮上。うう、今絶対顔赤い。これって絶対お風呂だからじゃないよね___
「明日、翔くんに謝らないとなぁ…。…で、でもでも!翔くん普通そうにしてたし…。なんであんなに挙動不審だったのか聞かれたら…///」
ほんとに、無自覚って、ずるいと思う。
「ああ…、翔くんがあんなに鈍感じゃなければなぁ…。これじゃ私だけ変な人だよ…。」
___でも、もし翔くんが、私の気持ちに気づいたら?
「うわー!考えただけでも恥ずかしいっ!!と、とりあえず明日は謝っとこう、う、うん。そうしよう!」
そして再度湯船の中へ…。
___その日の入浴は、普段の時間の2倍近く入っていたのでした。
………
1日飛んで月曜日。筋肉痛の腕に若干顔をしかめながら、浦女への坂道を登る。昨日、美渡さんにかなりしごかれたからな…。「土曜日休んだんだから、倍は働けぃ!」って。おかげでインドアな俺は両腕がバッキバキ。ため息をつきながら、隣を歩いている千歌をちら、と見る。どうやらこちらは元気いっぱいなようで、軽くスキップぎみに歩いている。やっぱり普段から活発な子は違うな…。と改めて自分の非力さにうなだれていると。
「………そうだ。」
俺の横を歩いていた千歌が、いきなりぴたっ、と歩くのを止める。その顔は、さっきまでのご機嫌な表情とは違い、いやに真剣な顔をしている。
「なんだ?急に止まって。遅刻するぞ?」
俺は千歌の急な行動の意味が解らず、疑問顔で尋ねる。すると、急にこちらへ向きを変えた千歌が、パァァ…!と顔を輝かせながら、
「合宿をしよう!!」
などと言い出したのだった。
「えーっと…?つまり、ライブのための体力作り&練習、さらにみんなの絆を強めるために合宿をする、という訳か…?」
時は流れて昼休み。屋上に集まった俺たちは、いまだ若干興奮気味の千歌をなだめつつ、改めて千歌の言った事を確認した。
「そう!5月の最初って、4連休でしょ?だから、その期間に千歌の家で合宿しよう!ってことだよっ!」
なぜかもう決まった気でいる千歌が、キラキラと目を輝かせる。……、それを見てまた可愛いと思ってしまう俺。しかし、それには騙されん!と、ギュっ、と目をつぶり、現実面での話を千歌に告げる。
「あのなぁ…。合宿って意見には賛成だけど、さすがに急すぎだろ?十千万、GWなんて絶対客が大量に来るだろうし、部屋も無いだろ。それに、俺たちも手伝わなくちゃいけないし。…第一、みんなの予定とかだってあるだろ?厳しいんじゃないか?」
俺の反論に、待ってましたとばかりに二ヤリと笑う千歌。ふっふっふ…、と不敵な笑い声をあげる。…な、なんだ?
「翔くんなら絶対そう言うと思ったよ。…その事なら、全部もんだいなーし!まず、十千万にはGWにお手伝いさんが来るから、千歌たちが手伝わなくても大丈夫だし、部屋は千歌と翔くんの部屋を使えばいいもんね!それに、みんなの予定だって、さっきメールで聞いたけど、全員大丈夫だって言ったからね!」
「な、なん、だと…!?」
絶対何も考えず言っていたと思っていた朝の発言に、まさか周到な考えがあったとは…!!俺は千歌に驚愕し、1歩たじろぐ……ってちょっと待て。
「部屋…。千歌と、『俺の』部屋を使うって言ってなかったか…!?」
「うん。言ったよ?」
「あほかぁぁぁ!?!?」
雲ひとつない青空へ吠える俺。突然の絶叫に驚いたのか、みんなの肩が若干ビクッ、と震える。
「ど、どうしたの翔くん?」
「どうしたもこうしたもあるか!俺の部屋も使う、ってことは、…その、……寝る時もそうなるってことだろうが!そんなこと出来るか!」
俺の指摘に、「…あ。」という表情の千歌+みんな。途端に顔が赤くなる。さらに俺も意識してしまったせいで、体温が上昇していくのが解る。
「…わ、わたしは別に、いいよ///」
気まずい沈黙が流れて数秒、一番に口を開いたのは曜だった。そうだよ、そりゃあやっぱダメに決まって___って、え?
「わ、私も、榮倉君がいいって言うのなら…///」
「り、リトルデーモンの世話は主の役目だし?べ、べつに…、問題ないわ///」
「おらも、別に大丈夫ずら。」
「わ、わたしも…。先輩なら、だ、だいじょぶだす、ですっ。」
曜を皮切りに、次々とOKの返事をするみんな。…え、嘘だろ?本気で言ってんのか?仮にも俺は男だぞ?
「ちょ、ちょっと待「はい!じ、じゃあ決定と言う事で///」」
俺が異議を申し立てようとするが、千歌に遮られてしまう。って、ちょっと待てマジで!今『決定』って言っただろ!おい、それはマジでまずいって…!!
「そ、それじゃあ翔くん!そう言う事だから……じゃあねっ!」
「よ、よーそろー!」
「ご、ごめんなさいっ!」
「き、来るべき審判の日が楽しみねっ!じ、じゃっ!」
「ほら、ルビィちゃん。早く行くずら。」
「は、花丸ちゃ…、せ、先輩。失礼しますっ!」
「ち、ちょっと待てってーーーー!!!」
そして、俺の反論を聞くことなく、そそくさと教室に帰って行くみんな。そしてタイミング良く鳴るチャイムの中、……俺はその場に立ち尽くすのだった。
こうして決まってしまった4日間の合宿。
……俺の理性は持つのでしょうか。
果南「なんだ、やればできるじゃん!」
俺「で、でしょう?だからハグは勘弁…。」
果南「じゃ、この調子で次も頑張って行こうか?」
俺「ひぃぃぃぃ!!!」
…さて、次回からは合宿がスタートです。美少女達と同じ屋根の下、翔クンの身には何が起きるのでしょうか?
お楽しみに。