ラブライブ!サンシャイン!! ~平凡な高校生に訪れた奇跡~   作:syogo

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はい、前回のあとがきの通り、今回は曜ちゃん誕生日回です。

※タイトルには「○話」とは書いておりませんが、番外編とかではなく、普通に本編です。

それでは、本編をどうぞ(早く出します!みたいな宣言以外、書くことがない…)。



Birthday story ~渡辺曜~

 

「…そろそろ寝るか。」

 

時刻は10時過ぎ。最初こそ緊張していた居候も、最近はだんだんと慣れてきて。自分の部屋では完全に気を緩められるようになってきた俺は、大きなあくびをしながらいつも朝お世話になっている目覚まし時計の時刻を見ながら、それとなく呟いた。

俺は朝は強い方だが、さすがに夜更かししてからの寝起きはキツイ所がある。そのため部屋の電気を消し、今日も比較的健全な早い時間に床に着こうと思っていた、その時。

とんとん。

俺の部屋のドアが叩かれた。一瞬どきりとするが、すぐに「どうぞ」と返事をする。別にやましい物はない。誰が入ってきても時に問題はないのだ。

 

「しつれいしまーす…。」

 

すすす、と扉を開き部屋に入ってきたのは、やっぱりアホ毛がぴょこんと跳ねている(いつになったら跳ねなくなるのだろうか)、千歌だった。

 

「どうした?何か用事か?」

 

電気を消した薄暗い部屋の中に、ちょうど雲から出た月が明かりを差し込ませる。青白く照らされた室内は、どこか幻想的な光景のような気がした。

それは、同じく月明かりに照らされている千歌も例外ではなく。風呂上がりのパジャマだけ、という薄着も重なり、いつもとは違う雰囲気を醸し出している。

 

「あ、あの…ね…?」

 

急にもじもじと顔を俯かせる千歌。心なしか、顔も赤くなっているような気がする。

ドクン。

いつもとは違う部屋の雰囲気と、千歌のこの反応。この2つの現象は、俺の中の『告白なんじゃないか』という思いを引き出させるのに十分だった。

その瞬間、急に心拍数が上昇する。

…え?マジで?本当に俺告白されちゃったりするの?

意識すればするほど、心臓が早鐘のように打ちたてられる。

いや、落ち着け。まだそうと決まったわけでは、いやでも本当にそうだったら。

様々な感情がぐるぐると渦巻き、軽くパニックに陥っていると。

 

「大事な話があるんだけど…。」

「な、なにかな!?」

 

動揺してか、しどろもどろの返事になってしまう俺。いや、これは本当に告白かも…!!

なんて思っていた俺の思いは、一瞬で打ち砕かれることになる。

次に千歌の口から出た言葉は、告白とは程遠い、まったく関係ないことだった。そしてその言葉は、同時に俺を絶望の淵にたたき落とす破壊力を持っていたのだった。

 

「明日…、曜ちゃんの誕生日なんだけど…。誕生日プレゼント用意しておいてね、って言うの忘れちゃってて…。明日までになんとか、して?」

 

この瞬間、俺は絶望に打ちひしがれると同時に、自分の思い込みに自分で赤面し、これからは雰囲気に惑わされないようにしよう、と膝をがくりと折るのだった。

 

 

●●

 

 

 

ヨーソロー!

どうも、渡辺曜であります!

日付が変わって本日4月17日。この日は私にとって特別な日!

そう、今日は何を隠そう、私渡辺曜が生まれた日___誕生日なのでありますっ!えへへ♪

普通の人にとってはただの気だるげな平日の1日かもしれないけど___私は朝からテンションMAX!

だってね、朝ごはん食べに下に降りたら、さっそくママが私にプレゼントくれたんだ!開けてみたら、なんと前から欲しかったブランドのバッグ!前使ってた物は穴あいちゃってたから…凄い嬉しかった!それとね、千歌ちゃんたちが十千万で誕生日パーティーを開いてくれるんだって♪ホントに最高の1日になりそうだよ…!放課後が凄く楽しみだなぁ…♡

 

 

 

 

●●

 

「さて…。」

 

いつもの時間より20分早く起床した俺は、本日の必須項目、『曜にプレゼント』をどうするか思案すべく、起きたばかりの脳を懸命にフル回転させる。

 

「どうするか……。」

 

あの後千歌から聞いた詳細によると、今日の放課後にここ十千万にスクールアイドル部のみんな(+梨子ちゃん)で集まり、曜の誕生日会を開くらしい。そして、そこでみんな各々持ってきたプレゼントを渡すらしい。(ちなみに、俺以外のみんなは曜の誕生日の事を千歌に事前に教わっていたらしく、準備も万端らしい。なんで俺だけ忘れんだよ。)

会の開始時刻は午後6時。つまり、そこまでにはプレゼントを用意して、十千万にいなくてはならない。

プランとしては、沼津にある大型ショッピングモールに行き、そこで何かしらの物を買い、迅速に戻ってくる、というのがベスト。…だと思う。というかそれしか思いつかない。

学校が終わる時間が午後3時30分。そこからバスに飛び乗り、到着まで1時間。帰りも1時間かかると考えると、プレゼントを選ぶ時間は約20~30分。

 

「曜へ渡すもの、なんとなくでもイメージしとかんと…。30分じゃ絶対決めきれんぞ…。」

 

ケーキ、などはまず論外だろう。恐らく会の料理に出てくるだろうし。となると、小物や雑貨、という事になるのだが…。

生憎、俺は女子にプレゼントなぞしたことがない。ゆえに、小物のアクセサリーだの雑貨だの言われても、さっぱりである。選べる自信はこれっぽっちもない。

 

「ああああ…。どうすればいいんだぁ……。」

 

あれはだめ、これもだめ、とあれこれしている内に、あっという間に20分が経過。スイッチを切るのを忘れていた目覚まし時計が、いつもの時刻にけたたましくなり始めるのであった。

 

………

 

「チクショウ…。なんも思いつかねえよぉ…。」

「ま、まあまあ翔くん…。まだ時間はあるからさぁ…。」

 

若干苦笑いの千歌を、元はといえばお前が教えてくれなかったからだぞ、という目線で軽く目を見ると、ぷいっと視線を逸らされる。…こ、このやろう。

 

「…じゃあ千歌。お前は曜に何をあげるんだ?」

 

これ以上追及してもしょうがない、これからの事を考えよう。と小さくため息をついた俺は、参考程度に千歌のプレゼントを聞いてみることにした。

千歌は俺の怒りが沈んだ事に安堵したのか、再び俺の方へ視線と体を戻すと、

 

「私はね~、みかん!曜ちゃんみかん好きだからさ!いっぱいあげるんだっ!」

 

と、俺が初期構想段階で論外にした『食品』をいきなり出してきた。いや…、まあさ、誕生日だからさ、食べたら消えちゃうものじゃなくて、ずっと残るものがいいかな、みたいな事を思ってたからさ…。

大体、曜の好きな食べ物といえども、誕生日にみかんってどうよ…。と思いながら、相変わらずの明るい笑顔の千歌を眺める。その笑顔からは、誕生日だから。とかそういうのではなく、単に『好きな物』をあげよう。という単純な気持ちが見えてくる気がして。

まぁ、新鮮でいいのかもな…。…みかんだけに。などという全く面白くない洒落を頭に思い浮かべながら(洒落になっているかどうかも謎だが)、さらにあれこれと思案していくのだった。

 

………

 

「曜へのプレゼント…」

「何を用意したのか…」

「教えてくれ、ずらか?」

 

昼休み。結局午前の授業中も全く頭から離れず、そして決まらず。あんまり他の人のプレゼントを聞くのはどうかと思うのだが、この際なりふり構っていられない。

…というわけで。まずは1年生のトリオから聞こうと1年生の教室までやって来たのだ。

最初来た時こそ教室の全員から警戒レベル全開で見られていたのだが、最近はそれも緩んできたように感じる。…逆に俺を見る目が変わったというか。興味があるような感じでちらちらとこちらを見てくる視線を多方向から感じる。…これはこれで肩身が狭いような。

それもこれも、スクールアイドル部にこの子たちが入ったからなんだろうなぁ、と改めてまじまじと3人を見る。…しかし、特にルビィちゃんはまだ男に対して抵抗があるのか、すぐに頬を赤らめてさっ、と視線を外してしまう。いやまぁ、そういうとこもかわいいんだけどね?

…っと、いけないいけない。本題に入らんと。なにせ時間はもう6時間もないのだ。

 

「そうそう。参考程度に、聞いてみたくてさ…。教えてくれない?」

 

両手をぱちん、と合わせて頼むと、3人は若干不思議そうな顔をしたが、すぐに教えてくれた。

 

「えーっと…、マルは、水泳のお話の本をあげるずら。曜さん、水泳部と兼部してますし。親近感が湧く内容なら、楽しく読めるかな、って思って。」

「ル、ルビィは、μ'sのライブDVDをあげようと思ってます…。曜さん、あんまりμ'sの事知らないみたいですから…。これを見て、知って貰おうかなって…。」

「ふっ…。ヨハネが渡す我がリトルデーモンへのm「ありがとな!参考になったわ」ちょっと!!聞きなさいよ!」

 

え、だって、なんか長そうだったし…。

ぷんぷん怒りながら難しい厨二言葉をなんとか訳すと、どうやら某サバイバルホラーゲームの最新作をあげるらしい。曜が怖がる姿を見たいんだそうだ。ふっふっふっと不敵に笑っている。…うん、まぁ…、うん。良いんじゃないかな(遠い目)。

 

「ところで、翔?なんで今になってそんな『参考に』聞きに来たのよ?もうプレゼントは用意してあるんでしょ?」

 

みんな色々考えてるんだなぁ…。と思っていると、善子がもっともな質問をしてきた。…まぁ、普通に考えたら、そう思うよなぁ。誕生会、今日だし。

 

「実はな…。」

 

と昨日の千歌とのやりとりを説明すると、全員そろって苦笑い。顔は、「まぁ、千歌さんだし。」というような諦めと、「可哀そうに…。」という俺への憐れみがはっきりと解るような表情である。

 

「まぁ…。あんたも大変ね…。」

 

善子が、俺の肩をぽん、と叩く。

 

「師匠。…がんばるずら。」

「がんばルビィ!ですよ、先輩!」

 

…後輩たちに慰められるのがこんなに心にくるとは。

鈍く痛む胸を手で押さえながら、自分の教室に帰るのだった…。

 

 

………

 

キーンコーンカーンコーン…。

 

「じゃ!また後でな!!」

「うん、がんばってn…」

 

千歌のエールも聞き終わる前に、帰りのHRが終わった瞬間、教室からダッシュ。…時間にして約3秒。いまだかつてこんなに早く教室から出たのは、自分史上初、ぶっちぎりの新記録である。金輪際こんなに早く教室から出る機会がないことを願いつつ、げた箱で靴を履き替え、バス停に急ぐ。

 

「の、乗ります乗りまーす!!!」

 

今まさに発車しそうだった31分のバスになんとか滑り込みで乗り込む。…あ、危なかった。

これを逃すと次に来るのは30分後。いきなり詰んでしまう。息を切らせながら、バスの一番後ろの席に座る。よし、第一段階クリア。後はモールで買い物をして、帰るだけである。

 

「…って、結局何を買うか全く決まってないんだけどなぁ…。」

 

1年生に聞いた後、曜にばれないようにこっそり梨子ちゃんにも聞いたのだが、梨子ちゃんは、曜の人物絵を描いてプレゼントすると言っていた。…梨子ちゃん、絵も描けるのかよ。マジで凄いな。

絵でもコンクールとかの賞貰ってたりするのかなぁ、と思いつつ。少しでもイメージを固めるため、モールに着くまで携帯で雑貨や小物のアクセサリーを調べまくるのだった。

 

 

……プシュー。

…よし、到着!

バスからショッピングモールの入り口に降り立った俺は、少し急ぎ目に入口をくぐる。さて、何を買うべきか…。

早速案内板を見て、どこへ行こうか大まかに見る。…ここの場所は事前に調べたものの、なにせ実際に来るのは初めてなのだ。転校してくる前のモールだったら案内なぞ見なくても、どこに何があるのか余裕で解るんだけどなぁ…。と思いつつ、周りをきょろきょろしながら、雑貨屋へ向かう。

 

「さて、時間も無い。早く決めないとな…。」

 

残り時間は25分。自分を鼓舞し、雑貨屋へと一人突撃していくのだった。

 

 

●●

 

 

「頑張ってねー………。」

 

すっごい早さで教室から出てった翔くんにせめて応援をしようと思ったけど、それすら聞こえたのかどうか。…ああ、お願い神様仏様μ's様っ!せめて、翔くんが間に合いますように____。

…って、いけないいけない。チカにはチカでやることをしなくてはっ!

それは_______翔くんが帰ってくるまで、曜ちゃんになんで翔くんがいなくなったのかばれないようにすること。「翔くんが今日プレゼントを買いに行った」なんてことが曜ちゃんにばれちゃったら、きっと、準備もしないだらしない男の子だって思われて、翔くんが曜ちゃんに嫌われちゃうかも……。元はチカのせいなのに、そんなことは絶対だめだっ!!!

 

「千歌ちゃーん。今、凄い勢いで翔くんが出てったけど…。何かあったの?」

「え!?えーっと…。えっとねぇ…。」

 

ふわぁ!い、いきなり曜ちゃんが来たよ!しかも最初から翔くんの事だし!

ど、どうしよ…。

 

「…千歌ちゃん?」

「ふぇ!?あ、えっとね…。と、といれ!そう、トイレだって!翔くん、さっきからずっと我慢してたみたいで!」

「え?でも、さっき千歌ちゃん、翔くんに『頑張ってね…』みたいな事言ってなかった?」

 

き、聞こえてたのぉ!?!?曜ちゃん耳良すぎでしょ!?

 

「え、えっと…。おなか痛いみたいだったから…。」

 

う、うう…。おなか痛い人に『頑張ってね…』ってなんだよぉ!チカ、嘘つくのがへたくそすぎる…。

でも、曜ちゃんは勘違いしてくれたみたいで。

 

「お、おぉ…。そんなに深刻な腹事情だとは…。翔隊員、頑張ってくれであります!」ケイレイッ

 

曜ちゃんがトイレの方向に向かって敬礼している。よ、良かった…。なんとかばれてないみたい。

 

「じ、じゃあ帰ろ?曜ちゃん、一回家に帰るでしょ?」

「え、でも翔くん待ってた方が…。」

「いいのいいの!ほら、いこっ!!」

 

曜ちゃんの背中をぐいぐい押して、強引に帰る。これ以上ここにいたら、さすがにばれちゃうよ…!

 

「え、え、ちょっと、千歌ちゃーん…!」

 

不思議そうな顔をしている曜ちゃんをぐいぐい押す。もうだめだ!チカ、これ以上はなにも思いつかないよぉ…!とりあえずバスに乗っちゃえば大丈夫だから、曜ちゃんには悪いけど、なにも話さないでただ押し続けよう。うん。

自分の不器用さに内心涙を流しながら、ただひたすら曜ちゃんを押すのでした…。

 

●●

 

 

「ま、まずい…。何も見つからん…。」

 

あれから約20分が経過。いろんな雑貨屋、アクセサリー屋をめぐり、ありとあらゆる物を見てきたのだが、全く決まらない。

…まず、正解が解らない。シュシュ?だとか、髪留めだとかは、色々種類がありすぎて解らない。なんか、大きさも違うみたいだし。もしサイズが違ってたらどうしよう、だとかの不安があって、購入に踏み込めない。まず、髪留めに大きさって何だよ…。そんなもん、男の俺には無縁なので、触った事もないレベルなのだ。全くわからない。よって買えない。さらに、アクセサリー系。これは単純に予算オーバー。桁が一ケタ違う。…場合によっちゃ2ケタ違う。こんなん、バイトもしてない高校生には買えるわけがない。よって却下。

…とまぁ、色々うろうろしているうちに、後5分という状況になってしまったのだ。マズイ、本当にマズイ。

 

「こ、こうなったら子供っぽいかもしれんが、最初の店に置いてあったセイウチのぬいぐるみで…。」

 

と、最初の店に向かって歩き、いや走り出そうとしたとき…。

 

「…!?こ、これは…!!」

 

たまたま目に入った店のアイテムが、俺の心を揺り動かした。…値段も手ごろ。

 

「よし…!!これだ、これしかない!…すみませーん!これ下さーい!」

 

そして買った物をラッピングしてもらい、その後全力でダッシュ。発車20秒前、という所でまたもやギリギリに乗り込んだのだった。

 

………

 

 

……

………ガクンッ!

 

「!?!?」

 

どうやら、神は俺の事をとことんいじめたいらしい。

プレゼントも買った、バスにも間に合った。これで、ギリギリとはいえ、6時には間に合う。…はずだった。

40分くらい乗っていただろうか。俺は時間に追われていた重圧の解放、度重なるダッシュの疲労により、こっくり、こっくりと船を漕ぎ始めていた。

その時。

ガクン、という衝撃とともに、バスが大きく右に傾いた。停車するバス。何事かと思っていると、俺以外誰もいない車内に、車掌さんからの声が響く。

 

「すいません…。どうやら、パンクしてしまったようです。申し訳ないですが、これ以上の走行はできません。」

 

ま、マジでぇ!?

そんな漫画みたいな事あるかよ、しかもこのタイミングに!?と思うが、さっきの衝撃と今右に傾いているバスが真実を告げていることは明らかだった。

 

「すいませーん!次に来るバスは何分後ですかー!?」

 

焦りからか、つい大きくなってしまった声で車掌さんに聞くが、そんなにすぐには来ない。最低でも30分は待つだろうと言われる。

それを聞いた瞬間、俺は座席から立ち上がり、運賃はいらない、という車掌さんにここまでは運んでもらったんだから、と最寄りのバス停までの運賃を払うと、外に出る…。と同時に十千万に向けて走り出した。

時計を見ると、残り20分。

 

「ちくしょう…。なんて日だよ…!」

 

万に一つの可能性。間に合うことを信じて、俺は全力で夕暮れの道を全力で走るのだった……。

 

 

●●

 

 

さてさてっ!十千万に到着!

マウンテンバイクを駐輪場に停めた私は、裏口から十千万、もとい千歌ちゃんの家に入る。

 

「おっじゃましまーす!」

「おっ!来たな!今日の主役が!」

 

中に入ると、出迎えてくれたのは美渡ねぇ。私、千歌ちゃんの家には小さいころからしょっちゅう行ってるから、私、美渡ねぇも志満ねぇもホントのお姉ちゃんみたいな感じに思ってて。

 

「ヨーソロー!千歌ちゃん、どこにいる!?」

 

なーんて、軽い口調でいつも話してるんだっ!

 

「千歌なら、たぶん自分の部屋にいるよ。…まったく、少しは手伝えってのに。」

 

ブツブツと呟く美渡さんに苦笑して、2階にある千歌ちゃんの部屋に向かう。いつも行く慣れた千歌ちゃんの部屋への道を鼻歌を歌いながら歩いていると。千歌ちゃんの部屋の手前で『翔』と書かれたプレートが下がっている部屋を見つける。…あ、そういえば翔くん、千歌ちゃんの家に住んでるんだっけ。

 

「…いいなぁ。」

 

ぼそっ、と呟いた瞬間、顔が一気に赤くなる。い、いや、別に私も翔くんと一つ屋根の下で暮らしたいとか、そーいうわけじゃ…///

ちょっとは、……あるけども。

 

「わー!!なしなし、今のなしっ!!!」

 

両手をバタバタと振って、さっきの言動を取り消しにかかる。…でも、赤くなった顔は、しばらく戻らなくて。

逃げるように、千歌ちゃんの部屋へと入る。

 

「お、おはヨーソロっ!」

「よーちゃん、もう夕方だよー?それに、朝学校で会ったじゃん!」

「そ、そーだね、えへへ…。」

 

いつもと変わらない幼馴染に安堵する。…いつのまにか顔の火照りは治まったようだ。

 

「あ、そういえば翔くんは?部屋にいるの?」

 

顔の火照りが治まったからか、抵抗なく翔くんの事を聞く。

 

「えっ!?いや、えっとぉ…。…そう!うん、部屋にいるよ!」

 

さっきから翔くんの事になると慌てたようになる千歌ちゃん。…どうかしたんだろうか?

 

「あ、そおなんだ。…そういえば、浦女でおなか痛い、とか言ってたよね。どれどれ、ここはひとつ具合でも聞きに行ってきますか。」

 

そう言って部屋に行ってみようと方向転換すると、

 

「だ、だめぇー!!」

 

という千歌ちゃんの声が。…え、ええ?なんで?

 

「か、翔くん、まだおなかいたいんだって!だから、まだ安静にしてるらしいからっ!!」

「え、ええ…?だったら、普通はトイレに行くんじゃ…?」

 

やっぱり慌てている千歌ちゃんの謎の言動に私は首をかしげる。…なんでさっきから千歌ちゃんは私を翔くんから離そうとするんだろ…?

千歌ちゃんには悪いけど、やっぱり怪しい。

そう思って、やっぱり翔くんの部屋に行ってみよう。と部屋を出ようとすると、『ぴんぽーん』とインターホンの音。

 

「あ!!ほ、ほら!きっとほかのみんなだよっ!さ、さ!した行こ!」

「ちょ、ちょっとぉ!?千歌ちゃぁーん!?!?」

 

なんとなくホッ、としているような千歌ちゃんにまたまた背中を押されて、(しかもさっきより力つよい!)下に降りると、玄関先には梨子ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん、ルビィちゃんが。

 

「こんにちは。」

「ふっ、ヨハネ、降臨!」

「こんにちは。…善子ちゃん、挨拶はちゃんとするずら。」

「こ、こんにちはっ!」

 

…って、あれ?もうみんな来たの?と思って時計を見ると、ぴったり午後6時。

 

「み、みんないらっしゃーいっ!さ、さ!早く上がって!こっちだよ!」

 

と、千歌ちゃんがみんなの事を促して、誕生会の会場らしい宴会場に案内する。

がらっ、とふすまを開けると、そこにはたくさんの料理が。…す、すごい。こんな量、食べきれないよ…。

 

「ずら~!」

 

あ、さっそく花丸ちゃんが目を輝かせてる。…確かに、このおいしそうな料理目の前にしてたら、食べたくなるよね。私も、おなか空いてきちゃった。

 

「早く食べたいずら~。ねえルビィちゃん?」

「だ、駄目だよ花丸ちゃん。まだ翔先輩が来てな……、」

 

来てない、と言おうとしたのだろうか。そこではっ、と口を噤むルビィちゃん。…え?何か翔くんにあるの?

 

「翔くんなら、2階にいるはずだよ?ねえ千歌ちゃん?」

「……え?う、うん!いるよ!」

 

やっぱり翔くんの事になると落ち着かなくなる千歌ちゃん。

 

「え?師匠、もういるず「…っ!ズラ丸!」」

 

そこで、ぽろりと漏れた花丸ちゃんの言葉。…その瞬間、私はほぼ確信した。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、翔くん…。いないんでしょ。千歌ちゃん。」

 

 

 

 

●●

 

 

「…はぁっ。…はぁっ、はっ、はっ…。はぁっ…はぁっ…。」

 

と、………と、とうちゃ、く。

ぜはーっ、ぜはーっ、と息を切らせながら、よろよろと十千万の入口へ。時刻は……、午後6時5分。やばい、遅刻だ…。

明日は起き上がれんかもな…。これまで生きてきた中で一番必死に走った気がする。と息を整えながら、回らない頭でぼーっとそんなことを考える。…卓球部じゃなくて、陸上部だったら間に合ってただろうなぁ。

 

「…って、はっ…、はっ…、……そんなこと考えてる場合じゃない。は、早く行かないと…。」

 

玄関を通り、事前に千歌に教わった通りの宴会場へ。玄関の靴の数を見るに、もうみんなは揃っているようだ。

さて、どうやって言い訳しようか、と思いながらふすまに手をかける…、という所で、中から「ま、待ってよーちゃん!」「放してよ千歌ちゃん!」よいう千歌と曜の声が。あ、このパターン知ってる。と思い、瞬間的にふすまから手を離そうとしたが……。遅かった。

 

「千歌ちゃんの言う通りなら、2階にいるんだよね!?私、呼びに行ってくるから!」

 

がらっ。

曜の若干声を荒げながら、目の前に現れた。流石に3回目。完全に展開を読んでいた俺は、曜が現れた事には全く動じなかったのだが…。大きな誤算が。

それは、曜の勢いが強すぎたこと。

恐らく、ふすまを開けると同時に飛び出すような感じで出ようとしたのだろう。一瞬で俺に接近してきた。……それによって、何が起きたのかというと。

ぼふっ。

曜が、俺の胸に突撃してきた。しかも軽く頭を乗っける、みたいな少女漫画のような感じではなく…、結構な衝撃で。

反射的に俺は急に来た衝撃の原因、曜を少し後ずさりすると同時に両手で抱きとめる。彼女に目線を向けると、まだ自分がどんな状況に陥ってるのか、解っていないような様子だった。

 

「いつつ…。よ、よお、曜。悪い、遅くなった。」

「………………え?」

 

俺の胸に顔を埋めていた曜が、ちら、と視線を上げる。俺と視線が完全に合った瞬間、曜は自分の置かれている状況が完全に理解できたようで…。

ボッ、と音が出ているような勢いで顔が真っ赤に染まり、目が見開かれ、口をぱくぱくさせる。

 

「………よ。」

「……よ?」

「…よーそろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

え、ええ…。それ、悲鳴にも使うのかよ…。

曜の叫び声が、十千万にこだまするのだった_______

 

 

 

「い、いやあー、すまん!遅刻しちゃって…。…曜、さっきはごめんな?」

 

俺は両手を合わせ、みんなに謝罪する。…特に、曜には色んな意味で念入りに。

 

「い、いいよいいよ!そんなに遅れてないし…?」

 

さっきの事を思い出したのか、また顔を赤くする曜。…うん、もうこの話題を出さない方がよさそうだ。

 

「さ、さあさあっ!みんな集まった事だしっ、座って座って!曜ちゃんはここだよっ!」

 

と、千歌がみんなを促すとともに、曜を長テーブルの端___いわゆる、『お誕生日席』に座らせる。

みんなが思い思いの場所に座り、それを千歌が確認すると、ペットボトルのふたを空け、グラスにジュースを注いでいく。

 

「…さあ!では、今日の主役の曜ちゃん!乾杯の音頭をお願いします!」

 

全員にグラスが行きわたった事を確認した千歌が、曜におもちゃの王冠を被せつつ(そんなんあったんか)、乾杯の音頭を依頼する。

 

「…えっ!?え、ええっと…。み、みんな、今日はこのような会を開いてくれて、どうもありがとう。か、乾杯っ!」

 

かんぱーい、と曜に合わせてみんなでグラスを合わせて音を鳴らす。それを皮切りに、なんとなく微妙な空気を残したまま、曜の誕生会が始まった。

 

 

 

「さてさて!それじゃあまずは、誕生日プレゼントを曜ちゃんにプレゼントだ!」

 

ぐーっ、とグラスのジュースを飲みほした千歌が、料理を食べる前にあげよう、と提案した。おっと、いきなりか。と多少身構えたものの、ここに来るまでは絶望しかなかったが、今はプレゼントも持っているし、しかも自信がある。遅かれ早かれ渡すのだ、と。特に断る理由がない俺とみんなは了承する。

 

「じゃあ、私からね!……はい、どーぞ!」

 

私から、と言った千歌が、いきなりテーブルの下に顔を潜り込ませ、何やらごそごそ始めた…、と思いきや。大きな箱を引っ張り出して、すぐにテーブルから顔を出してきた。朝、千歌から聞いていた通り、どうやらみかんが大量に入った段ボール箱らしい。…そんなところに隠してあったのか。

 

「うわあ!こんなにいっぱい…!ありがとう、千歌ちゃん!」

 

曜がそれを見た瞬間、目を猛烈に輝かせる。お、曜はみかんが好きなのか。と思うと同時に、本当に食品でも良かったのか…、というなんともいえない悔しさのような感情が。

その後、この場にいるメンバーひとりひとりが曜にプレゼントを渡していく。

曜は、全員のプレゼントをとても喜んで受け取っていた。そして…、最後に俺の番がやってきた。

 

「じゃ、最後は俺だな…。……曜、誕生日おめでとう。」

 

俺はラッピングしている袋を入れておいた鞄から取り出し、曜に手渡す。

 

「うわぁ…!!ありがとう!開けてもいい?」

「おう、これ、見た瞬間にビビッときたんだ。自信あるぞ?」

「ほんと?えへへ、楽しみだなぁ。」

 

そう言って曜が袋に結んである袋を解き、中から俺のプレゼント____『YOU』と前面に書かれた黄色い帽子(キャップ)を取り出す。

 

「うわぁ…!!すごい!私の名前が書いてある!」

 

俺のプレゼントの全貌を見た曜は、より一層目を輝かせる。

 

「凄いだろ?これ見つけた時、もう一瞬!で決めたぜ。」

「ありがとう!!これ、すっごく気にいったよっ!…えへへ、被っちゃお♡」

 

喜んでくれて何よりだ。早速帽子を被ったニコニコ顔の曜を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「え、ええーっと…。」

「それは…。」

「か、翔…。」

「ど、どう考えても」

「『あなた』の方のYOUずら…。」

 

…ん?何か言ったか?

後ろを見ると、全員が『それはないわー』とでも言いたげな顔。…ええ!?なんでぇ!?

 

「翔くん…。」

「榮倉君…。」

「翔…。」

「師匠…。」

「せ、先輩…。」

 

「「「「「センス無い(ずら)(です)よ…」」」」」

「う、ウソだろぉぉぉ!?!?」

 

ニコニコ顔の曜と、冷たい目線のみんな。

両方から、真逆の視線で見つめられる俺は、どっちが正しいのか解らずにいるのだった…。

 

 

●●

 

 

「はぁ~!今日は楽しかったなぁ~!」

 

時刻は夜9時。部屋の電気も点けずにボフン、とベッドにダイブした私は、今日一日の余韻が抜けないまま、ニヤニヤ顔でまくらに抱きついていた。

 

「ママからはバッグ貰ったし、学校のみんなはお祝いしてくれたし、千歌ちゃん達は誕生会まで開いてくれたし…!プレゼントもこんなにいっぱい♪いや~、最高の1日だったなぁ♡」

 

早速今日ママに貰った鞄を開き、今日貰ったプレゼントを中から取り出す。

梨子ちゃんは私の絵をくれたし、善子ちゃんはゲームソフト。花丸ちゃんは面白そうな本。ルビィちゃんはμ'sのDVD。千歌ちゃんのみかんは大きすぎて自転車じゃ運べないから持って帰ってこれなかったけど。明日取りに行けばしばらくみかん天国だしっ♡

 

「あ、そうそう。…これを忘れちゃだめだよね。」

 

そう言って、頭に被っている『YOU』と書かれた帽子を取り、手に持ってまじまじと眺める。いやー、これ、すっごく良いなぁ…!なんてったって、名前入りだからね!…千歌ちゃん達は、「それは別の意味の『YOU』だ」って言うけど。まあ、気にしない気にしないっ!

 

「…翔くん。『時間無かったのに』、こんなセンス良いプレゼント、ホントに嬉しいよ…。」

 

そう、『時間無かったのに』。

…なんとなくだけど、早い段階で薄々気づいていた。トイレの時はホントだと思ってたけど…。千歌ちゃんの家に行った時には、ほぼほぼ気づいてたよ。

 

「千歌ちゃん、嘘つくのへたすぎだもんなぁ…。」

 

小さなころから一緒にいるのだ、嘘をついている時なんてバレバレだ。…まぁ、今回は不自然にも程があったけど。

多分、千歌ちゃんが今回の事を企画して、翔くんにだけ伝えるのを忘れてたとか、そんなところだろう。いきなり、昨日の夜とか、今日の朝とかに突然言われたんじゃないかな…。そうじゃないと、今日の放課後にプレゼント買いに行くなんて事、ないもんね…。

 

「それにしても、翔くん…。ホントに優しいなぁ…。」

 

普通だったら、プレゼント忘れたとか言って、次の日に買ったりするんだろうけど。私なんかのために、あんなに汗だくになって。十千万に翔くんが来た時、すっごい汗出てたもんね…。

…さっき帰ってくる途中に、パンクしてるバスを見かけたんだけど。もしかして、あそこから走ってきたんだろうか。………うん。多分、そうだろう。十千万前のバス停から走っても、あんなに大量の汗は出ないだろうから。

私に気を使わせないように、あんなに少ない時間で、ばれないように。走ってまで時間に間に合うようにするなんて。…私に、プレゼントを渡すために。

 

「翔くん…。優しすぎるよ…。」

 

その時。

私の中にあった思いは、確かなものに変わった。

もう一度、親友を信じさせてくれた。こんな私を、「かわいい」と言ってくれた。何食わぬ顔で。疲れてただろうに、私に心配させないように、プレゼントをくれた。

_____思えば、初めて出会ったときからかもしれない。

『普通』を自称する、転入生の男の子は。

私に、始めての感情をくれた。

 

 

「私…。翔くんのこと、好きだ。」

 

 

まだ少しだけ肌寒い春の夜は、火照った私にはちょうどよくて。

月明かりが、真っ赤になった私の顔を、優しく照らしていた。

 

 




はい、曜ちゃん回でございました。
ついに、曜の翔クンへの思いが確信に変わりました。いやぁ、羨ましい。

3年生がほぼノータッチ(特に鞠莉)なので、早く出せるように頑張って行きます。そのためには、もっと投稿頻度上げていかんと…。
前々から引っ張っていた男子トイレ問題ですが、こちらは番外編として後々だそうと思ってます。今回の回に出た通り、男子トイレはすでに完成しています。一体どうやって作られたのかはもう少々お待ちを。これは鞠莉回になりそうかな。

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