ラブライブ!サンシャイン!! ~平凡な高校生に訪れた奇跡~   作:syogo

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毎度毎度お待たせしまして、申し訳ないです…。
なんとか、1週間に1本は出せるように頑張ります…(毎回こんな事言ってるような…)。
それでは本編、どうぞ。

・UAがいつの間にか3万を超えていました…!本当にありがとうございますっ…!
・お気に入りが200件超えてました…!これからも頑張ります。どうぞよろしくお願いします。



第22話 ~立ちはだかる壁と海の音と~

 

 

 

「…この学院の全生徒数、知ってるの?全員来たとしても…、ここは満員にならない…と思うけど。」

 

 

「「「「「あ。」」」」」

 

 

盲点すぎる善子の言葉(というか普通は気付くと思うが)に、最高潮だった俺たちのテンションはどこへ行ったのか、完全にフリーズする俺たち。

 

「…な、何人…。だっけ…?」

 

おそるおそる手を挙げ、問いかけるのは曜。それを見た善子は、「知ってるくせに…」とでも言いたげのような顔をしながらも、俺たちに現実を突きつける。

 

「…約100人。ここの体育館は、大体………、500~600人は入るわね。つまり…、圧倒的に足りないわ。」

 

600人。

大きすぎる数に、ただただ茫然とする。

つまり…。もし浦女の生徒が全員来たとしても、後500人は必要なわけだ。…ただでさえ人が少ないこの町。ここに来たばかりの俺は何とも言えないが、集めるのは絶望的なのではないだろうか…。

 

「それに。」

「さっきも言った通り…。曲は?…私達、持ち歌なんて当然無いし…。他のスクールアイドルのコピーなんて、あの2人は認めないでしょ、絶対。どうすんのよ…。」

 

絶望的な俺たちに、さらに善子が現実を突く。

 

『オリジナルの』曲。

普段、音楽は日常的に聴く。…だが。聴くのと自分たちで作るのは全くの別物だ。作曲なんてやったこともないし、第一作り方どころか、楽器も何一つ弾けない。

 

「えーっと…。こ、この中で…、作曲できるよー、って方…。いらっしゃいましたらお手をお挙げに…。」

 

……。

一応聞いてみるが……、いるわけない。大体、作曲できたらこんな絶望的表情してないよな…。

 

………ど、どうしよ。

八方塞がりのこの状況。…自然と流れる不穏な空気、沈黙。

広すぎる体育館、作れない曲。大きな課題が俺たちを悩ませていると…、

 

 

「なんとかなるよっ!」

 

普段と変わらない明るい声。沈黙を破ったのは……、千歌だった。

あまりの能天気さに、若干やるせない感情を持ち、小さくため息をつく俺。

 

「…あのなぁ。今の状況ヤバいんだぜ?少しは危機感ってのをだな…。」

「……ききかん?」

 

『ふぇ?』と小首をかしげる千歌。

その後口から出た言葉は、ここにいる他の誰も思いつかないであろう内容で__、かつ、ぶっ飛んだ内容だった。

 

「だいじょーぶだよ!人はいっぱい宣伝すれば、きっとなんとかなるし!曲は…。梨子ちゃんに作ってもらおう!」

 

……はい?

梨子ちゃんに作ってもらう?

あまりに衝撃的な回答に、思わず口が開いてしまう。

 

「………ぷっ。」

 

俺がぽかーん、としていると、後ろの曜が『耐えられない!』かのように噴き出す。

 

「……あっははは!千歌ちゃん!最高だよそれ!…いいねぇ、梨子ちゃんに作ってもらおう!」

「でしょー?めいあんだよねぇ!ねぇねぇ!翔くんもそう思わない!?」

 

…ぽかーん、とする俺。

しかし、あまりの千歌の能天気さに、なんだか自分がバカらしくなってきて。

 

「…はは。」

 

自然と口から笑みがこぼれる。__恐らく曜も同じ事を思ったから笑ったのだろう。

 

「暗くなっててもしょーがないよっ!とりあえず、できることから1個ずつ!やっていこう?だいじょーぶっ!絶対!」

 

…まだ梨子ちゃんに許可を貰うどころか、話すらしてないのに。宣伝したところで、人が集まるかどうか解らないのに。

その自信は、どこから来るのか。と呆れるのと同時に。

なんとかなるんじゃないか、と思う自分もいて。

 

「…そうだな!くよくよしてたって仕方ないもんな!なんとかなるか!」

 

気がつくと、3人で笑っていた。

つい数10秒前は、絶望のどん底だったのに。

千歌の、特殊な力(?)もとい、性格に感謝するのだった。

 

 

「「「……。」」」

「「「………あのぉ。」」」

「「「私(マル)達、忘れてません…?」」」

 

 

 

 

…あ。

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

「…なるほど。」

「噂の転校生というのは、東京から来た桜内梨子という人で…。」

「ピアノができるから、作曲をお願いしよう…ということずら?」

 

帰り道のバスの中。俺たち2年生で1年生の3人に梨子ちゃんの説明をしているわけなのだが。

…すでに転校生が来ていた、というのは知っていたらしい。…なんというか。やっぱり人数が少ないと流れる情報も早いのか、となんとなくビミョーな気持ちになる。

 

「おう。まぁ…、そんな感じ、かn「それだけじゃないんだよ!」 」

 

俺が1年生の解釈に相槌を打とうとすると、肩から千歌の顔がにょっ、と伸びてきた。

近い距離と女の子特有の良い匂い(下心で言ったのではない、決して)に、いくら慣れてきたとはいえドキドキしていると、千歌から梨子ちゃんについてさらに言いたいらしく、口を開く。

 

「すっごい大人っぽくて、すっごい美人だし!わたし、最初見たとき女子大生かと思ったもん!あ、あとね!東京の音ノ木坂学院から転校してきたんだって!!」

「え!?!?お、音ノ木坂!?!?」

 

千歌の言葉に、バス車内にも関わらず(相変わらず他に一人も乗ってないのだが)、大声で反応した不届き物。…まさかの意外や意外、ルビィちゃんであった。

 

「そ、その梨子さんって!ほ、ほんとにホントに音ノ木坂学院から来たんですかぁ!?」

 

目を、まるでスクールアイドルについて語る千歌と同じように輝かせ、千歌に何度も確認をとるルビィちゃん。…あ、ということは___

 

「「奇跡だよ(ですねっ)!」」

 

はい、確定。千歌と同じように、ルビィちゃんもスクールアイドルが好きらしい。

…まさか、台詞まで被るとは思わんかったが。

輝かしい笑顔と瞳の二人。なんとなくほっこりする風景。…しかし、千歌の次の一言で、この空気が一瞬で壊れる。

 

「なんたって、あの伝説のスクールアイドル、『ユーズ』の学校だもん!運命感じちゃうなぁ~!」

 

ピシッ。

 

空気が__壊れる音がした。

 

「……ち、千歌さん。い、今…、なんて言いました?」

「へ?」

 

ワナワナと震えながらそう千歌に問うルビィちゃん。…しかし、その声と雰囲気はいつものおどおどしていた小動物感はどこへやら、まるで__オーラだけなら、生徒会長そのものになっていた。

 

「え、えーっと…。『運命感じちゃうなぁ』、かな?」

「その前です。」

「……えーっと、、、『ユーズ』の学校?」

 

それを聞いた瞬間、カッ!と目を見開いたルビィちゃんは、いきなり立ち上がり、千歌に向き直る…っておい!バス走行中だっつの!

 

「……ぶっっっっっっぶ~~~ですよぉぉぉ!!!!」

 

そしてものすごい剣幕で千歌の顔前に接近すると、どこかで聞いたことのあるダメ出しを千歌にぶつけた。

 

「まさかまだ居るとは思いませんでしたよぉ!『μ's(ミューズ)』のことを『ユーズ』なんて呼んでる人!!」

「いいですか!?μ'sは!ギリシア神話に登場する文芸(音楽、詩歌、舞踊、学問など)の女神から来てるんですよ!そんな安直な読み方だったら『you's』になっちゃうじゃないですか!まさかず~っとそう呼んでたんですか!?あの伝説のスクールアイドルを!!」

「う…、うん。」

 

全員、開いた口が塞がらない。

『μ's』の読み方が『ミューズ』だったのは知らなかったのであ、そうだったのかと思ったが、それよりルビィちゃんの豹変ぶりにただただ驚いている。

 

「こ、今度から…、はっ…き、気を…はーっ、つ、つけて下さいぃ…。」

 

慣れない大声を出したからなのか、酸欠気味のルビィちゃん。ぜはーっ、ぜはーっ、と呼吸を繰り返している。…だ、大丈夫か?

 

「…ルビィちゃん、前からスクールアイドルに関する事だと目の色が変わってたけど…、ここまでの豹変ぶりは初めてずら……。」

 

と、今までずっとルビィと一緒に居た花丸ちゃんも、ただただ驚いている。よ、よっぽど千歌の間違えが気に障ったんだな…。

 

いつも通りの誰もいない車内で、親友の花丸でさえも知らなかったルビィの新たな一面を知るのだった___

 

 

 

 

………

 

 

 

「じゃ、また明日な。曜、善子、花丸ちゃん、ルビィちゃん。」

「だからヨハn…「ヨーシコー!」って曜!なによそれ!」

「ま、また明日っ!」「おやすみずら~。」

 

いつも通り賑やかな沼津組を見送り(そういえば曜のやつ、しれっとヨーソローと違うこと言ってたな)、俺と千歌はいつも通り十千万へ……。

ではなく。

その隣に建つ一軒家____桜内家に赴いた。

 

「まさか本当に来るとは思ってなかったぜ…。」

「え?じゃあ、他になにか方法あるの?」

 

あ、いや、それを言われちゃ弱いんですけども…。

そう。俺たち2人は、先程千歌が言った案を早速実行に移すべく、交渉のために梨子ちゃんの家に来ているのだった。

いやね?確かに他に方法は思いつかないわけだけれども。いきなり梨子ちゃんの家に突撃しなくても良いと思うんだ僕。いや、別に女の子の家のインターホンを押すのが怖いとか、梨子ちゃんのお父様が出てきてすっげぇ怖い空気になるのが嫌だとか、そういうことではないんだよ?うん……。

と、頭をブンブン振りながら悶絶している俺を見て、千歌が若干引く。…まぁ、傍から見たら完全に不審者だもんな。

 

「…なにやってんの翔くん?インターホン押すからねー?」

「ああやめてちょっとまだ心の準備が

 

『ピンポーン』

嗚呼…、無情にも鳴り響くインターホンの音。せめてお父様だけは出ないでくださいお願いしますぅ……。

 

…。

……。

………。

 

時間にしては数秒だっただろう。しかし俺はその時間が無限にも感じられた。

やがてインターホンの受話器を取る音が聞こえ、スピーカーから、梨子に負けず劣らずの綺麗な声が聞こえてきた。

 

「はーい。どなたですか?」

 

すると千歌は、いつも通りのフレンドリーさ全開で、

 

「えっと、梨子ちゃんの友達の高海千歌っていいます!梨子ちゃんいますかぁ?」

 

と、本人と違う人が出ても全く動揺しない反応。…マジかよ、ホントにコミュ力高すぎだろ…。

 

「ちょっと待ってね……。…梨子ー!お友達が来てるわよー!」

 

千歌の受け答えに、すぐに梨子ちゃんを呼んでくれる梨子ちゃんのお母さん(恐らくだが)。うん、良い人だ。…しかし、声綺麗だな。歌手でもやってそうn「お待たせ。」

 

玄関のドアが開き、そこから出てきたのは、俺たちの望みであり希望。相変わらず美人の梨子ちゃんだった。

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

「ここが私の部屋。」

 

「立ち話もなんだから。」と俺たちを家に上げてくれた梨子ちゃん。玄関を通り、2階の一室へ通された。どうやらここが梨子ちゃんの部屋らしい。

何というか…。ザ・女の子の部屋、という感じだ。部屋に入った瞬間漂ってくる、フローラルな良い香り。床には薄ピンクのカーペットが敷かれ、小さい丸テーブルが一つ。右の壁際には、化粧棚?のような鏡付きの台と、勉強机、そして恐らくこれで練習しているのだろう、電子ピアノが並べられている。左の壁際にはシングルベッドと小さな本棚。手前の壁にはクローゼット。そして正面の壁には小さな窓が付いている。そこから光が差し込み、この部屋全体を優しく包み込んでいるかの様だ。

 

「あ…あんまりじろじろみないで///」

 

俺と千歌がほへー、と部屋を見渡していると、どこか恥ずかしそうにする梨子ちゃん。まあ、確かに見られる方はちょっと恥ずかしいかもな。この辺にしておこう。

 

「お茶、淹れてくるね。適当に待っててね。」

 

そう言って、下に降りて行く梨子。…うーん、なんて良い子なんでしょ。

 

「そりゃー!」

 

ボフッ。梨子ちゃんがいなくなった瞬間。千歌が梨子ちゃんのベッドにダイブ。おいこら。確かに適当にしててとは言ってたけども。それはテキトウすぎだ。

 

「全く…。少しは梨子ちゃんを見習ったらどうだ?見ろよ、この女の子らしい部屋。…それに比べてお前ときたら。」

 

節操のかけらもない千歌の行動に、思わずため息が出る俺。

 

「なんだとー!」

「事実を言ったまでだ。」

「むきーっ!」

 

怒ったときにむきーっ、何ていう奴初めて見たよ俺。

そんなこんなでギャーギャー言い争っていると、お盆にお茶を淹れたカップを乗せてきた梨子ちゃんが登場。若干苦笑いしながらテーブルにカップを並べた。…どうやら聞こえていたらしい。

梨子ちゃんの反応で千歌も気付いたのか、急に縮こまり、のそのそとベッドを降りてテーブルにやってくる。…超恥ずかしい。

 

「え、えーっと…。それで、用事ってなにかな…?」

 

空気を察した梨子ちゃんが、ためらいがちに話を切り出す。お、大人すぎる…。

 

「あ、えっとな。梨子ちゃんって、ピアノが出来るんだろ?」

 

先程の失態を帳消し、もとい忘れるべく、真面目な顔つきにした俺は、梨子ちゃんに質問する。

 

「え?ピアノ?……そんなに上手くないけど。一応、出来るよ?」

 

片手でかぶりを振りながら、遠慮がちに告げる梨子ちゃん。え、そうなのか?と一瞬思ったものの、梨子ちゃんが座っている場所の後ろにある机が視界に入った瞬間、その思考を撤回。さっきは良く見てなかったが、机の棚にいくつかの『○○コンクール優勝』だの、『××コンクール最優秀賞』だののトロフィーが飾ってある。…おい!謙遜しすぎだろ!思いっきり実力者じゃねぇか!

もうちょっと自信持てよ…と思いつつ、ここに来た理由である、核である質問を投げかける。

 

「その腕を見込んで、お願いだ!千歌達のライブの曲、作ってくれないか…!」

「え…。………えええええ!?」

 

部屋中に、梨子ちゃんの驚きの声が響き渡った。

 

 

 

………

 

 

 

「「お願いします!このとーり!!」」

 

オレンジ色の西日が差し込む梨子ちゃんの部屋で、俺と千歌は揃って土下座。

 

「え…、えっと…!と、とりあえず顔上げて?ね?」

 

人に土下座などされたこと無いのだろう。どう対処していいかわからず、あたふたしている。

しかしそんなことは知ったこっちゃない。日本古来の最上位の頼み方(かどうかは知らんが)である、土下座をただひたすら続ける俺たち。

ぶっちゃけ、ここで断られたら後の方法が無い。まさか音楽の先生に頼むわけにもいかないし、俺たちじゃ根本的に不可能。頼みの綱は俺たちの目の前であたふたしている梨子ちゃんしかいない。

 

「「お願いします!!」」

 

そのことからか、焦りからかより声が大きくなる俺たち。ただひたすらに頼む。頼む。頼む。お願いだ、届けこの思い。

 

「…自信がないの!」

 

その時、ずっとあたふたしていた梨子ちゃんが、若干涙ぐみながら言った。

顔を上げる俺たち。

 

「…私ね、ここに来る前は、東京でコンクールとかにちょくちょく出てて。…いくつか、賞も貰ったこともあって。ピアノ、楽しかったの。」

 

机の方に振りかえり、トロフィーを見つめてふふ、と笑う梨子ちゃん。

 

「1曲まるまるじゃないけど、少し作曲とかもしてみたりしたこともあったの。…だから、作曲はできない事もない。」

 

こちらに視線を戻し、でもね、と口調を弱める。

 

「…ここに来る前のコンクールでね。私、弾けなかったの。そのコンクールはね、今までで一番大きなもので。ホールもけた違いに大きかったの。」

 

梨子ちゃんの表情が、だんだんと険しいものになっていく。

 

「…それでも、いつも通り、練習通り。そうやって弾けるはずだった。今までそうだったから。お辞儀をして、ピアノの席に座って…、さぁ弾くぞ、って時にね。いきなり頭が真っ白になっちゃったの。おかしい、こんなこと今まで無かったのに。指が動かなくて。そのまま弾かずに、席を立って退場したの。」

 

梨子ちゃんは、悔しそうな表情で、さらに続ける。

 

「それ以来、私はコンクールに出なくなったの。せっかく大きなコンクールに呼んでもらったのに、期待に答えられない事しちゃったことが心に響いちゃって…。人前に出るのが怖い、とかじゃないんだけど。失敗したらどうしよう。期待はずれだったらどうしよう。…そんな事ばかり考えるようになっちゃって。」

「そんな時、お父さんの転勤の話が出てね。言い方悪いかもしれないけど、新しい場所、しかも人が少ない田舎だったら…、変な重圧感じなくてすむかもって。それで…、ここに来たの。引っ越しが終わって、砂浜で海を見てたらね。『海って静かだなぁ。』って。都会の重圧に疲れてた私は、海はどんな感じなんだろう、って思って、それで飛び込もうとしてたんだ。」

「…!そうか、それであの時…!」

 

脳が梨子ちゃんとの出会いを再生する。「海の音が聞きたい」って、あの時は大分危ない人だと思ってたけど、そういう経緯があったのか。凡人の俺には解らないけど、海の中でなにか感じたいことが梨子ちゃんにはあるのだろう。

 

「…ええ。そういう事。ごめんなさい。話が長くなっちゃって。」

 

話が終わると、さっきまでの険しい表情が消え、元のキリっとした美人顔に戻る。

 

「だから、そういうわけで私は__「じゃあ、海の音を聞きに行こうよ!」 」

 

できない、と梨子ちゃんが言いかけたところで、千歌の明るい声がそれを遮った。

…っておい、今とんでもないこと言わなかったか?

 

「…千歌?確認していいか?……今、なんつった?」

 

俺の問いかけに、いつもと変わらない能天気ボイスでリピートする千歌。

 

「海の音。聞きに行こうよ!って。」

 

…聞き間違えじゃなかった。えっと?つまりそれって…

 

「このまだ肌寒い季節に、海にダイブしようってことで間違いないか?」

「うん!」

 

即答かい。ちょっとは考えろよ…

 

「アホか!この前梨子ちゃん止めるとき、『嘘…、まだ4月だよ…!?』とか言ってたの、お前じゃないかい!」

 

素早く否定に入る俺。こいつの事だから、「だいじょーぶだいじょーぶ!」とか言い出しかねん。梨子ちゃんを止めたときのお前の理性を呼びさませ千歌!

しかし、千歌に至っては大真面目に(全く真面目そうには見えないが)海に入ろうとしているらしく、取り消すつもりはないらしい。

 

「だいじょーぶだよ!そのまま飛び込もうってわけじゃないから!」

「じゃあどうすんだよ!」

 

あやつの頭は本当に読めない。…しかし、次に口から出された言葉は、意外にも定石というか、一般的な方法だった。

 

「淡島に、私の幼馴染がやってる、ダイビングショップがあるんだぁ。そこで海に潜ろう!」

 

そう言って千歌は梨子ちゃんの手を取ると、若干戸惑っている梨子ちゃんに

 

「とりあえず曲のことはおいといて!海の音、聞きにいこうよ!…実は、チカもちょっと興味あるし!海の音!」

 

にしし、と笑いながら言うと、梨子ちゃんは少し考えていたようだったが、

 

「…わかったわ。」

 

と了承してくれた。

 

 

 

 

そしてその後、終始ニヤニヤしっぱなしの千歌と、まだ少し不安げな俺と梨子ちゃんで話し合い、次の日曜日に淡島に行くことに決定。

 

「…大丈夫だろうか。」

 

その後梨子ちゃんの家を出て、自分の部屋に帰ってきた俺は、ボソリと呟く。

しかし、ダイビングという貴重な経験ができるのもまた事実。

 

「とりあえず、美渡さんに次の日曜はお休みさせてもらえるように言っとかないとな…。」

 

そう呟き、期待と不安を胸に持ちながら、1階の美渡さんの元へと行くため、部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

………

 

 

 

「…榮倉、君。…か。」

 

突然の来客が帰り、しん、と静まり返る自分1人しかいない部屋。いつも通りの筈なのに、この静けさが少し寂しい気がして、可笑しいなとクスッと笑う。

 

思えば、少し不思議な人だ。

初めて出会った時(かなり衝撃的な最初だったが)、4月の冷たい海に飛び込もうとしていた私を、懸命に止めようとしてくれた。…結局落ちてしまったけれど、海岸に戻るまで溺れない様に抱きよせてくれてて。あの時の、細身だけどそれでいてしっかりとしか体つきは鮮明に覚えている。男の人にあんなことされたのなんて、初めてだし。…というか、海に落ちて助けられるなんてシチュエーション、普通は無いだろうけども。

今日だって…。スクールアイドル部のために、いきなり土下座までしてくるなんて。…正直、驚いた。

男の人は、なんとなくそっけなくて、プライドが高くて…、なんとなく『怖い』というイメージがあった。

でも、榮倉君は全然違う。

見ず知らずだった私を助けてくれて、自分のことより周りの事を考えてて…。そのためなら今日のように、平気で土下座もしちゃう男の子。

…この気持ちはなんだろう。

もっと、あの人のことを知りたい___

 

榮倉 翔の存在が、自分の中で少しずつ、大きくなっていく梨子なのだった。




やっと最新話投稿できました…!お待たせしてすみません。
もう少し早く次は出せるようにします。(ホントこれ毎回言っててすいません…)
次回は果南回…、と思いきや、話の時間軸上明日は4月17日。…もうお分かりですよね?お楽しみに。



※最後の梨子の心情変化シーンについての補足
「千歌ちゃんも助けたし土下座もしてるだろーがおい作者!」のような疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかしここでは梨子の『男の人に対するイメージ』の変化と翔に対する気持ちの変化が掛け合わさっている部分なので、千歌ちゃんは女の子のため梨子ちゃん脳からは一時的に抜けております。
疑問に思われた方はこの点を踏まえ、もう一度読んでいただければと思います。自分の語彙力の無さで補足を入れなくてはいけない所、お許しください。


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