いよいよこの「黒白の剣と凛姫」も終幕編に入ります。予定としては、今回の話と次の話で終幕を描くつもりでいます。
思えばこの作品は、初めはただ文に起こしてみたい、小説という形にしてみたい、という自己満足欲求から書き始めたものでした。ですが、気づけば何時のまにやらこの作品を読んでくださる方も増え、今では28話まで来ています。
本当に、皆様のお陰です。
・・・余り長くなっても、良くないですね。では、本編どうぞ!
「うぉぉぉあぁぁぁっ!!」
「ぐぅ・・・っ、がぁっ!!」
悠の突きを真っ正直からまともに受け、ぐらつく身体を何とか踏ん張ると刀身を鷲掴みにして強引に引き抜き、そのまま悠ごと投げ飛ばす。追い討ちをかけようと突っ込んだが、そう簡単には悠もさせない。転げる身体を強引に立て直し、飛ぶように迫ってきた相手を蹴り飛ばした。
「これでも、喰らいやがれ・・・っ!」
吹き飛ばされた方向に走り込んできた剣也が横薙ぎに
「顔面やられた分の仕返しだ、クソッタレ。」
と、親指を思いっきり下に向けながらそんな言葉を放つと、糸が切れたように倒れ込む。男はそんな剣也を睨み付けると、地面へと血混じりの唾を吐き捨ててから再び動き出した。
「させっかよ・・・!!」
剣也にまっすぐ向かっていく男の前に悠が割り込み、剣を振るう。それに苛立ったか、男は狙いを変えると悠目掛けて攻撃を仕掛けた。
「・・・っ。流石に、耐えきれないか・・・。」
悠が握る、"村正"と"村雨"。その両方の刃全体に、細かなひび割れが入っていた。刀身にウルム=マナダイトを使っているとはいえ、現代の確立した技術により開発された
「・・・ありがとな。少し休んでてくれ。」
両方の刀にそう呼び掛けながら腰の鞘に2本ともを収めると、腰から鞘を両方とも下ろして地面に横たえる。そして1歩踏み出すと、背中からいつもの相棒ーーー
「・・・ふん。贋作を壊されてようやく抜くか。」
「うっせ。勝手に人ん家の家宝を贋作呼ばわりすんな。てか・・・お前こそ、いつまでも優勢だと思うなよ?」
お互い、そろそろ身体に限界が来てもおかしくはない。それでも、2本の足でしっかりと大地を踏みしめて立ち上がる。
「・・・とりあえず、剣也は休ませなきゃな。」
それだけ言うと、悠は何も言わず、さらに1歩踏み出した。そして、地面を蹴る。
「・・・っ!!」
それは、一体どういう訳か。いい加減にボロボロなはずの身体なのに、悠の動きは最初の鋭さを取り戻していた。いや・・・それどころか、その動きは更に加速している。轟速で突っ込んできた悠の一撃が胸部に命中し、肉が抉れる。痛みに耐えつつ何とか反撃しようとするが、悠は動きを止める事なく続けて斬撃を放ち、その身体に深い傷を負わせていった。
「"流月"・・・!!」
悠が
「ぐぁっ・・・!!」
たまらず動きが止まった所に、男の手刀が胸部の傷をさらに抉る。血飛沫が吹き出、たまらず口から血の塊を吐き出した。男は血塗れの手刀を引き抜きながら、悠の身体を蹴り飛ばす。
ゴロゴロと身体ごと転がるが、悠は強引に両手の剣を地面へ突き立てて何とか立ち上がる。男も悠が与えた傷が少なからず効いていたのか、膝から崩折れる。
(・・・いい加減にやばいな・・・本格的にまずい事になってきた・・・。)
そう内心呟きながら、自分の身体を一瞥する。正直、立っていられるだけ奇跡とすら思える状態だった。
立て続けに切り裂かれ、抉られた胸部はどす黒く染まり果てているし、制服もかなりボロボロで原型をほとんど留めていない。他にも全身に大小様々な裂傷があり、これだけ動けるのが有り得ないとすら思えた。
(何とか、
そんな事を考える間にも、意識が遠退きかける。その刹那ーーー不意に、彼の中に、流れ込んでくるものがあった。
『・・・貴方、強いのね。我流の剣?』
『うん。家は一応古流剣術の家だけど、色々あってね。剣は我流で鍛えてたんだ。ていうか、それを言うなら君の剣こそ凄いと思うよ、俺は。』
(・・・何だ、これ。記憶?・・・まさか、父さんと母さんの?)
そんな事を思う間にも、次々と"それ"は悠の中に入り込んでくる。
『凄い凄い!まさかたった1週間でここまで自分のものにするなんて!』
『まぁ、当たり前といえば当たり前だけどね・・・この1週間、どれだけ君に技叩き込まれた事か。』
流れ込んでくる、記憶の中。悠の知らない、両親の姿があった。その中には他愛ない日常の記憶もあれば、決闘や鍛練の記憶も。1人、自室で辛そうに項垂れている姿も。苦悩の末に、二人が選んだ結末も。そして、結婚式で幸せそうに笑っている二人の姿も。悠が知らない、二人の生の記録があった。
『・・・ねぇ。この子の名前、考えたんだけど。「光」、なんてどうかな。ほら、私達、何だかんだ色々あったでしょう?だから、そういう人を照らしてあげる光みたいになって欲しいなって。』
『・・・良いね、それ。うん、そうだな・・・この子の名前は、「光」にしよう。』
ーーーそしてまた、とある記憶。病室のベッドの上で身体を起こし、大きく膨らんだお腹を撫でながら、美咲と孝弘は口々にそう言葉を交わす。
『ほら、光。お前の弟だぞー。』
『・・・おとーと?』
『そう。光はね、今度からお姉ちゃんになるの。』
ーーーそしてまた、別の記憶。幸せそうに笑う二人に、まだ幼い顔の姉がいる。またしても病室、そのベッドの上で、母が嬉しそうに大きくなったお腹を撫でていた。
『そう言えば、名前、決めてなかったな・・・どうしようか。』
『あ。それなら、もう決めてあるよ。』
そう言って、母がベッド横に備え付けてある木製の引き出しから取り出したのは1冊の日記帳。そこには、彼らが夫婦となってからの記録が連面と綴られていた。その一番後ろ・・・白紙のページに、美咲は引きだしから取り出したボールペンで一つの文字を書く。
『ーーー「悠」、よ。この子の名前。私達みたいにならないように、なんていう酷い理由からだけど。でも、紛れもなく私の本心。』
『・・・そんな事ないよ。君の気持ちはよく分かるから。良いじゃないか、「悠」。』
『・・・ゆー?』
『ゆ、う。弟の名前よ。お姉ちゃんなんだから、ちゃんと覚えてね。』
『・・・ゆう。』
まだ小さな姉の手が、美咲の膨らんだお腹を撫でる。それを、二人が微笑ましく見守っていた。そんな記憶に感化されたのか。同時に、霞んでいた悠の記憶も甦ってくる。楽しかった記憶、辛かった記憶、忘れまいと誓った、自分と両親への宣言。
「・・・あぁ、くそ。意地悪いなぁ、お前ら。」
そう呟きながら、立ち上がる。意識を、引き戻す。奮い立てるように、剣を突き立てる。
「言われなくても、諦めたりしないっての。こんなん見ちゃったら、尚更諦めらんないじゃねぇか。」
そう両手の剣へと語りかけながら、自身を奮い立たせるように大地を踏み鳴らす。顔を上げ、同じように、全身ボロボロになりながらも、自分を見据えて立ち上がった男を睨み返す。
「勝つのは、俺だ・・・!!」
倒す手段がない訳ではない。これまで悠がひた隠しにし、密かに鍛練の中で編み出した、我流の剣。
ただ、問題はその反動に今の悠の身体が耐えられるかどうかだった。技の特性上、"あの技"は強い反動を伴う。五体満足の時の悠でさえ動けなくなるほどの反動に、今の瀕死の身体が耐えられるのか。
(とんでもない賭けだけど・・・やるしかないだろ。)
「・・・行くぜ。」
そう呟くと、悠は
幾ばくかの沈黙。その間に、悠は残りの
ーーーそうだ。それでいい。
ーーー貸しましょう。私達の力を。
ーーー不意に、そんな声が聞こえた気がした。
「・・・っ!!その力・・・貴様、まさか!!」
男が驚愕に目を見開く。悠が両手に握る剣に、明らかな変化が起きていた。
「双月流、我流・極天秘技ーーー!!」
悠が足に力を込めーーー跳んだ。コンマ1秒・・・いや、それすら超越したスピードで、悠が飛ぶ。
「ーーー朧雷!!」
もはやその動きは正に「姿が瞬時に掻き消えた」と表現するのが正しいものであり、人のそれを遥かに越えていた。今まで悠の動きを捉えてきていた男ですら、その動きには反応出来ないようだった。何が起きたのか、理解も出来ぬままに立ち竦む。
そんな一瞬の後、背後に悠が姿を現す。その体勢はまさしく、両手の剣を振り抜いた姿勢。それを確認しようとした直後ーーー男の身体をX字の剣閃が斬り裂き、その身体を宙へと撥ね飛ばし、血飛沫を弾けさせた。
そうして、男の身体が地面に叩きつけられる。そして今度こそ、完全に動きを止めた。
「・・・!!ぐぅ・・・っ。」
悠が苦しげに顔を歪める。身体は硬直し、全身に走る激痛に震えていた。
これが、悠が放った"朧雷"の反動。「自身に残された
「・・・やっと、終わり・・・か?」
そう呟きながら、両手に握っていた
「・・・ふ、はは。ふは、はは、は。」
・・・笑っていた。もうすぐ死ぬというのに。
「・・・何が、おかしい。」
「いや・・・よもや、我が死ぬとは思わなかったのでな。だがまぁ・・・存外死というのも悪くはない。何せ、我らには死という概念が無いからな。こういう感覚は新鮮なのだ。」
「・・・そうかよ。なら、無駄口聞いてないで黙ってろ、死人野郎。」
捨て台詞とばかりに、悠はそう毒を吐く。それを聞いた男は、その言葉に嘲笑を浮かべると目を閉じて息を吐く。ゆっくりと、その身体は灰になり、消えていった。
「・・・早く、行かないと。あいつのとこに・・・。剣也と刀も回収、しねぇと・・・。」
振り返り、フラフラの足で、歩こうとする。そうして足を踏み出して・・・ぐらり、と身体が揺らいだ。不意に足音がして、駆け込んできた人影が倒れそうになる身体を受け止める。
「・・・ぁ・・・?」
意識が朦朧とし、もはや誰かも分からない。だが、悠を抱き止める腕から伝わる温もりはよく知るものだった。
「・・・お疲れ様・・・悠君。早く、帰ろう。ね・・・?」
その声は、涙声らしかった。そのまま悠の腕を担ぐようにすると、ゆっくりと歩き出す。
(・・・後で、謝らなきゃなぁ・・・)
そんな事を思いながら、悠の意識は闇に落ちた・・・。
ー■■■ー
「ぐ・・・っ!?」
切り上げるように振り上げられた鎌の刃がアーネストの服を裂き、僅かに肉を抉った。その背後から割り込んだクローディアがパン=ドラを二閃する・・・が、これを女は長い柄を利用して防ぐ。だが、その隙にアーネストが再び懐に入り込み、すれ違い様に胴を薙いだ。女の身体が跳ねて地面を転がるが、すぐに立て直される。
「・・・流石じゃなぁ、《剣聖》に
そんな事を呟きながら、女はゆらゆらと鎌を揺らした。見れば、女の身体に与えたはずの傷はみるみる塞がっていく。
「治癒能力・・・それが貴方の
「そうよ。まぁ最も、主らのような純粋な
そう言いながら、女は忌々しげに頭を押さえる。どうやら、「負担」というのは頭痛のようなものらしい。
「・・・紛い物だとしても、能力としては形になっているではないですか。此方としては大変厄介極まりないのですが?」
ため息混じりにクローディアがそう言うと、女は苛立ちを隠しきれないという顔でクローディアを睨む。
「・・・何も知らぬ小娘が、よう抜かしてくれるわ。儂らがどんなに苦しんだかも知らぬ癖に偉そうに。軽口もそこまでにしておけよ、お主。」
「ミス・エンフィールド。一旦落ち着いてくれ。・・・気分を害したのなら謝罪しよう。貴女の過去に踏みいるような事を言ったのならば詫びに刃を受けもしよう。
・・・だが。貴女達がやっている事は単なる八つ当たりでしかない。そんな行為に正統性など無いことは分かっているはずだ。」
アーネストの言葉に、女は何も言わない。鎌を構え直すと、振りかぶり、刃を放ってくる。
「確かに、この世界は異常かもしれない。
・・・だが、それだけが世界の全てじゃないだろう?中には
アーネストは淡々と、そう言葉を続けながら
「・・・それで何かが変わったのか?」
怒りに震えた声で女がそう返した。
「・・・何も変わっていないじゃろうがッ!!未だに世界では
怒りに任せて振るわれる鎌を、淡々とアーネストが弾く。
「・・・確かに、そうですね。貴女の言う通り、今の世界はおかしいのでしょう。」
不意に、背後から声がした。
「それでも、歩み寄ろうとしてくれている人々は確かにいます。私達
目だけを背後へ向ける。クローディアが伏せ気味に、両手の剣を振りかぶっていた。もはや、回避は間に合わない。
「だから・・・だからこそ、貴女達は止めるのです!これ以上、世界に私達
クローディアの両手に握られた剣が、背後から胴を薙ぐ。その正面では、アーネストが
「・・・っ、だったら・・・!」
最後を悟ったのか、激痛に呻く女が歯を食い縛る。
「だったら、儂らの怒りはどこに向ければ良かったのじゃ!!儂らは何のために・・・!!」
女の言葉はそこまでだった。
力尽きた女は白目を向き・・・地面にゆっくりと倒れ込んだ。
ー■■■ー
「
実里の指示が飛び、即座に反応した人形達が引き金を一斉に引く。ビームやらミサイルやらグレネードやら、明らかに室内で放つには火力オーバーな火器がステージ上を埋め尽くす異形の怪物を吹き飛ばす。
「はぁぁぁぁッ!!」
その合間を縫うように走り抜けたシルヴィアがフォールクヴァングのブレードを振り抜くが、イリアの目の前に不意に現れた盾がそれを受け流した。それに驚きを隠せずにいるなか、イリアが今度は大量のライフルを召喚すると一斉にシルヴィア目掛けて弾丸を撃ち込んでくる。何とか身体を捻って回避するものの数発が肌を掠めた。
着地した先に今度は大量の黒烏が嘴を向け、突撃してくる。だがそれは実里が瞬時に飛ばした盾持ちの人形が防ぎ、もう1体飛んできた槍持ちの人形が薙ぎ払った。
「・・・流石は序列1位、といった所ですか。連携も上手く取れている。ですが・・・双月君を相手にするよりはマシですね。まだ私の方が優勢に立てますし。」
「あの人外を比較に出されても困るんだけど、ね・・・!!」
そう言いながら、近接武器持ちの人形を操作して巧みに自衛をする実里を後ろ目に、シルヴィアはフォールクヴァングを構え直す。
「生物だけじゃなくて、銃とか剣まで生み出してくるのか・・・。正直、確かにキツいなぁこれ。」
「私の能力はあくまでも"イメージの具現化・召喚"ですから。生物だけとは一言も言っていませんよ?」
そう言うと、今度は空中に巨大な砲身を大量に展開してくる。
「全砲門掃射。総攻撃。」
イリアがそう言葉を放つ。瞬間、大量に生み出された砲塔が火を吹き、大量の火線を放った。さらに、同時に追加で召喚された異形がその火線の合間を縫って二人に襲いかかる。
「くっ・・・!こん、のぉ!!」
実里が苦しそうにしながらも何とか火線を避け、迫る異形をやり過ごす。シルヴィアも火線を避けながら、迫る異形を薙ぎ払いつつイリアに反撃の1射を放つがあっけなく召喚された巨盾に弾かれた。
「甘いんですよ。そんな簡単に当てられるとお思いで?」
(・・・っ、強い・・・!隙が全然無い!)
彼女自身は武器らしい武器を持っていない。そのため、近づきさえすれば何とかなる・・・そのはずだが。
全くもって、距離を詰める事が出来ない。異形が彼女の周囲に厚く展開されているのもあるが、何より彼女の能力行使による召喚が速すぎるのだ。
「・・・その程度ですか?」
イリアが冷たい視線のまま、そうシルヴィアを見下ろしてくる。
「・・・そうだね。じゃあ、本気でいくよ・・・っ!!」
そう返すと、地面を蹴って駆け出した。同時に、力強い歌声が空気を震わせる。
「・・・っ、この歌は、ライブの時の・・・!」
その歌は、シルヴィアが孤児院にいた頃に作ったという歌だった。その歌声が空気を震わせると同時に、異変がイリア達を襲う。
「・・・っ!?身体が、重いっ・・・!」
それまでは軽かった身体が、急に重くなる。移動もままならない程に身体に重圧がかかっていた。周りを見れば、自分が召喚した異形や兵器にもその影響が出ているらしい。
対して、シルヴィアの方は動きが良くなっていた。単純にこちらの動きが鈍くなっただけではなく、彼女自身の身体能力が強化されているらしい。
実里の人形が抱える銃火器が火を吹き、周りの異形を一掃する。その最中を駆け抜けたシルヴィアが迫ってくるのを、イリアは複数の剣を召喚して応戦した。しかし多大な重圧がかかるなかで剣を操作するのは厳しく、シルヴィアの身体能力が強化されているのもあって中々当たらない。
「・・・っ!!」
シルヴィアが迫り来る刃の間を駆け抜け、イリアの心臓に刃を突きつける。
「・・・動かないでください。能力も停止して。少しでも何かしようとしたら、心臓を突きます。」
その声ははっきりとしたものではあったが、刃を握る手は細かに震えていた。
「・・・無駄ですよ。貴女には殺せない。貴女は、自分が少しでも大事だと思った人には、優しすぎます。・・・そんな貴女だから、巻き込みたくはなかったのですけど。」
シルヴィアがぴくり、と震える。
「どういうこと・・・?巻き込みたくなかったって、何?」
実里も驚いたのか、イリアの能力が停止したことで異形が、兵器が消滅していく中、呆然とした顔でそう問いかける。それに対して、イリアは弱々しく笑いながら言葉を続けた。
「そのままの意味ですよ。行動を起こすにあたって、貴女達を遠ざけるために色々と手を打った。全ては貴女達を遠ざけるためでした。
・・・まぁもっとも、結果はこの様ですが。我ながらもっとやりようを変えるべきだったと後悔している所です。」
「・・・もしかして、最初悠君をライブに誘った時に暗に反対したのはそのため?」
「・・・流石に聡いですね。えぇ、そうです。私達の行動方針上、双月悠という人間は間違いなく都合が悪いし、障害になる。なるべく貴女達とは近づかせたくなかった。
それが上手くいかなかったから、今度は実力行使に出たのですがね。」
『実力行使』・・・その言葉に、実里は何か思い当たったらしい。
「・・・まさか、私達が大怪我をさせられた時?」
「あの時は、苦労しました。嫌がる仲間を何とか説得して、死なない程度の威力の弾頭を用意させて、直撃させないよう細心の注意を払わせて。予定では、もう少し病院にいる予定のはずで、今回の行動はもっと早くに実行予定だったのに。
その後も色々と手は打とうとしましたが、結局どれも無駄でした。貴女達を遠ざけるには遅すぎた。どうしようもなかったのですよ。」
「・・・そっか。」
シルヴィアが、静かに口を開く。
「・・・ねぇ、イリアさん。やっぱり止めよう、こんな事。私も実里も、イリアさんがどんな苦しい思いをしたかは知らないし、分からないけど・・・でも、こんな形で別れるのは嫌だよ。私も、実里も。何なら悠君だって。」
「・・・今更、遅いですよ。ここまで来てしまった以上、今更引き返す事なんて出来ません。それに、自首したところで事態が事態ですから。死罪は免れないでしょう。」
イリアが諦めきったように、そう返す。彼女の言葉が事実なのもあり、何も言えなくなる。
「そうだとしても・・・」
「・・・ふざけないでよ。」
シルヴィアの言葉を遮るように、その後ろに立つ実里がそんな言葉を吐く。
「実里・・・?何を言って・・・」
「ふざけんなってのよ!!巻き込みたくなかった、だから何!?その時点で私もシルヴィアも結局巻き込まれてるじゃない!!綺麗事言わないでよ!!」
実里の言葉に、イリアは何も言わない。シルヴィアはシルヴィアで、実里の怒りに驚いたのか言葉を失っていた。
「勝手にこんな事始めて、関係ない人達まで巻き込んで!!しかもいざ自分達が追い詰められたらそんな簡単に諦めるわけ!?冗談言わないでよ!!せめて自分たちがやった事の後始末くらいはしなさいよ!!私達が知ってるイリアさんは、そんな無責任で最低な人じゃない!!私達が知ってるイリアさんは、責任感があって、いつもしっかりしてて、優しい人だよ!!」
「っ・・・!」
実里の言葉に、それまで何の反応も示さなかったイリアの身体がぴくり、と小さく跳ねた。
「・・・イリアさん。」
シルヴィアも、静かにイリアへと声をかける。
「・・・これだから、貴女達とは会いたくなかったのに。」
そう小さく呟くと、イリアは不意に立ち上がり、目を瞑ると空中へ両手を掲げるように上げた。そして、彼女の能力をここまでシルヴィアや実里達には見せてこなかった使い方で発動する。
「・・・これは・・・。」
見れば、戦いの中で少なからず破壊されていたはずのバラストステージが、イリアの手から放たれる光の粒子が触れたところから瞬く間に修復されていくではないか。その光の粒子は、天井もすり抜けて上へも飛んでいく。
・・・そうして、数十分が経っただろうか。イリアが小さく息を吐きながら手を下ろす頃には、アスタリスクーーといっても実際は外縁居住区と行政区が切り離された状態だがーーーは、元の姿を取り戻していた。
「イリアさん・・・今、何をしたの?」
「・・・私の能力を使って、既に切り離されているアスタリスクの外縁居住区と行政区以外の中央区エリア全てを『召喚』という形で現実に上書きしました。今頃は、全てのエリアが元通りになっているでしょう。
・・・これが、私に出来る後始末です。」
イリアがさらりととんでもない事を口にする。ただただシルヴィアと実里は驚きを隠せずにいた。
「・・・まぁ、最も。代償に私自身を世界へ差し出さない事には無理な芸当ですがね。」
そう呟く彼女の身体が、不意に光りだした。身体の一部が剥離しては、光の粒子になって宙へ消えていく。
「・・・イリアさん!?」
「・・・行きなさい。この上の、シリウスドームに。貴女の大切な人が、いるはずです。・・・2度と、離れたくないんでしょう。早く行かないと手遅れになりますよ。」
「ちょ・・・待ってよ!行け、って・・・そんな急に!」
シルヴィアの焦ったような言葉に、イリアは小さく笑う。
「・・・さようなら、シルヴィアさん。実里さん。・・・あぁ、最後に1つだけ。貴女達と過ごした時間は、楽しかった。それだけは、嘘ではないですよ。・・・それじゃ。」
それだけ言うと、イリアはそれっきり目を瞑って黙ってしまう。シルヴィアが声をかける間もなく、イリアの身体は光の粒子になって、宙へと昇っていった。
「・・・イリアさん・・・。」
シルヴィアが、小さく彼女の名前を呼ぶ。当たり前だが、返ってくる言葉はない。
「・・・シルヴィア。」
「・・・行こう、実里。シリウスドームに。・・・迎えに、行かないと。」
微かに涙が滲んだ声で、シルヴィアが振り返り、昇降エレベーターに向かう。かける言葉が見つからず、実里は黙ってシルヴィアの後を追った。
ー■■■ー
「・・・ホントに、元通りになってる・・・。」
エレベーターを上がり、地下水路から地上にでる。空は明るくなっており、太陽が高く上がっていた。そして、破壊されていたはずの街は元の姿を取り戻している。一連の動乱が始まったのが昼過ぎ頃。対して、高層ビルの外壁に取り付けられている時計が今現在示しているのは翌日の朝11時過ぎ。約23時間が過ぎていた計算だ。どこからか、大量のサイレン音も聞こえてくる。
「シルヴィア。とりあえず、シリウスドームに行きましょう。早くあいつらを見つけないと。」
「・・・そうだね。悠君達も戦ってるはず。」
そう言うと、所々に助からなかった犠牲者の遺体が転がる中、シリウスドームへ向かう。そのシルエットを確認すると、何とも言えない懐かしさを感じた。
シリウスドームの、空いたままの入口から中に入る。上層階へと上がるための階段を上がり、観客席に入る。
「・・・っ!!」
・・・いた。双月悠と水無月剣也・・・二人がよく知る二人が、ボロボロの状態でステージ上にいた。悠は全身を切り裂かれたのかあちこちが出血でどす黒く染まっており、制服はもはやその意味をなしていない。足取りもフラフラだった。剣也も、身体から血を流した状態で倒れこんでいる。
フラフラの足取りで歩きだした悠を見て、たまらずシルヴィアは観客席を駆け降り、駆け寄った。ギリギリ、倒れ込みそうになった悠の身体を受け止める。
「・・・ぁ・・・?」
悠の左目は完全にやられ、唯一見えている右目も焦点があっていない。そんな様子からも、悠が凄まじい死闘の最中にいた事は容易に察しがついた。
「・・・お疲れ様・・・悠君。早く、帰ろう・・・。ね?」
涙混じりの声でそう呼び掛けてから、悠を少し背負うように腕を支えて歩き出す。床に横たえてあった2本の刀も回収し、剣也を背負って歩いてきた実里と共に選手用の入場口からエントランスへ向かう。先ほどよりもサイレンが近くなってきた所や
ーーー発生から、約23時間。後にアスタリスクの歴史に「六花動乱」の名で記される事になるこの動乱は、ようやく決着を見た。
皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
えー・・・まずはお詫びを。
本っ当にすみませんでした!!(ガチ土下座)
いやね、大学の勉強やらバイトで新しく人入ってきてそのフォロー任されるやらで色々あったんです、いやマジで。ホントすみません。
とりあえず、「六花動乱」はこれで収束を見ます。次話はその後日談的なものですね。といっても、月末と8月初めに大学がレポートやらテストやらあるんでまた執筆出来ないんですが。いやもうね、自分でもどんだけ読者様待たせる気だと呆れ果てております・・・。執筆始めたらまた活動報告に書くので、それまでお待ちくださいという形です。本当、待たせてばっかですみません。何とかしないとなぁ、これ・・・。