学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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 皆様、おはこんばんにちは。さて、第26話です。あまり書く事もないので、早速ですが本編をどうぞ。






第26話 六花動乱編ー9

 

 

 

 

 「ぜぇらぁっ!!」

 

 「せぇいっ!!」

 

 大剣と直剣の刃がぶつかり合い、火花を散らす。すかさず迫ってくるニ本目を大剣の腹で防ぐと、力任せにその刃を振り上げた。

 だが、そんな事で倒せるほど目の前の相手は甘くない。飛び上がりで避けると、今度は全身を回転させながら、瞬間的に両手の剣を猛スピードで振り回し、"斬空"を無数に放ってくる。それを、全身を使いながら何とか弾くと忌々しげに舌打ちをした。

 

 「・・・やっぱそう簡単にゃ倒せねーよなぁ。しかも案の定強いし・・・あー、くっそ・・・マジでうぜぇ。」

 

 「一部に負担がかかる動きが出来ないんだから、こっちが優勢になるのは当たり前だろ。ていうか、しぶとさで言ったらそっちも大概じゃないのか。」

 

 汚く毒づく塔牙に、着地から体を起こしながら悠がそう返す。それを聞いた塔牙は、忌々しげに鼻を鳴らした。

 

 「うっせぇな。生憎とこっちは守り重視の動きが元々得意なんだよ。てめぇみたいな脳筋と一緒にすんじゃねぇ。・・・にしても、だ。」

 

 そこで一旦言葉を途切れさせると、塔牙は悠を睨んだ。・・・いや、正確には、その両手に握られた剣を。

 

 「よくもまぁ、2本も認めさせたもんだな。そいつら、何だかんだ気難しい性質だった気がするが。」

 

 「・・・さぁね。父さんと母さんの形見だって渡されて、持ってみたら何でか認められた、みたいな感じだったし。

 ・・・まぁ最も、実際に使う事になるとは思ってなかったけど。」

 

 「ま、それもそうか。んじゃー、ちょうどいいしこいつの性能試してみっか。」

 

 そういうと、塔牙は大剣を地面に突き立てた。

 

 「()()()。」

 

 「・・・っ!!聖閃の魔剣(グロリア=フラム)!!」

 

 背筋を走った悪寒に、咄嗟に左手の聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を突き立て、能力を発動する。同時に、悠を中心として半円状に力場が展開され、直後・・・悠を守る半円の中を除き、地面が凄まじい衝撃と共に陥没する。激しい塵の中、能力で守られた地面に無傷で立ち上がった悠は、その周囲・・・リング状に崩壊した地面を見る。

 

 「・・・重力圧壊、か。随分とえげつない能力だな。」

 

 「おぅ。こいつ、壊撃の墜剣(デクス=バング)ってんだがなぁ。昔、どっからか盗んできたとかいう奴を俺が貰ったんだわ。こいつが俺を認めた理由は分からんが、まぁ認めてくれたんなら使えるもんは使うだろ。」

 

 「・・・壊撃の潰剣(デクス=バング)。レヴォルフで管理されてたけど、6年前に突然レヴォルフの管理下を離れて行方不明になった純星煌式武装(オーガルクス)、か。

 何でまた、そんな面倒な代物を持ってくるんだっての。」

 

 そうぼやきながら、悠は警戒姿勢を取りつつ両手の剣を構え直す。似たような能力に覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)という、これまたレヴォルフの管理下にある純星煌式武装(オーガルクス)の能力である「重力操作」があるが、あちらの能力の本質はあくまでも重力の「操作」だ。対して、壊撃の潰剣(デクス=バング)の能力の本質は重力による「破壊」。重力を徹底的に破壊力へと変換するものであり、両者の間には似ているようで、決定的に異なる差異がある。

 

 「しかしまぁ、よく今のを防げたな。その剣、確か美咲のだろ。厄介な置き土産を残してくれたもんだ。」

 

 「そっちこそ、何でそんなに殺意の塊みたいなバケモン持ってきてんだっての。まともに直撃したら全身の骨折られるレベルだろ、それ。」

 

 んなもんどうでもいいし知らねーよ、とでも言いたげに刀牙は肩を竦める。それ以上何かを聞いても無駄なのだろう、と判断した悠は、口を真一文字にすると改めて両手の絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を構え直す。悠が纏う雰囲気が変化したのを感じ取ったのか、刀牙も先程まで浮かべていたヘラヘラ笑いを消すと真剣な顔で壊撃な潰剣(デクス=バング)を担ぎ上げるように構え直した。

 

 「・・・っ!!」

 

 ーーー先に動いたのは、刀牙だ。

 大剣を水平に構え、振りかぶるようにして突っ込んでくる。それを見据え、悠も地面を蹴って走り込む。

 距離が詰まった瞬間、横薙ぎに振るわれた巨大な刃を身体を低く屈めつつ回避、同時に右の絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)でいなす。即座に左手に握った聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を振るうが、それを猛スピードで1周回ってきた刃が横から叩いてきた。

 

 「ぐぅ・・・っ!」

 

 横に刃を弾かれ、体勢が崩れそうになる。それでも何とか踏ん張り、必死に脇腹を捩って大剣の刃を回避するとそのまま体全体を低い位置で回転させつつ地面に転がって距離を取り、素早く起き上がって剣を構え直した。

 

 (遠心力で強引に振り回してくるとか、冗談じゃねぇぞ!ただでさえ1撃が重いってのに・・・!)

 

 そんな事を内心考えながら、悠は目の前に迫る刀牙へと鋭い目を向け、反撃に出る。一文字に振るわれた刃を半身で回避し、逆手に剣を握った拳を刀牙の腹へと叩き込んだ。すかさず同じように右拳を鳩尾へ入れ、アッパーの要領で上半身を浮かせるとジャンプ回転しながらの右踵落としを脳天目掛けてぶちかまし、左足で膝蹴りからの回転蹴りで吹っ飛ばす。

 双月流体術が一、烈技・「飛燕・撃舞」。左右で強烈なパンチからの上半身にアッパー、浮いた所に高速踵落とし、連続蹴りを立て続けに叩き込む大技。実用性を追及した、殺傷性ばっちりの体術である。

 

 「げほっ・・・、げほっ・・・」

 

 吹き飛ばされた刀牙は、若干ふらつきながらも立ち上がる。その口元からは、少しだが流血していた。何も言わずに、大剣を構えながら突撃してくる。

 

 「・・・っ、早く倒れろよ、馬鹿が!!」

 

 苦い顔をしながら、そう吐き捨てると悠も迎撃にかかる。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 悠と刀牙が刃をぶつけ合っていたその少し遠くで、水無月剣也と嵐洞辰馬も戦闘の真っ最中だった。剣也が巨大な大剣なのに対し、辰馬は槍型の武装。取り回しは圧倒的に剣也の方が悪いはずだが、それでも勝負は拮抗していた。

 もう何百もぶつけ合った刃と穂先が互いに再び弾かれ、互いに距離を取る。

 

 「・・・驚いたな。そんな巨大な刃を、そうも軽々と扱うとは。」

 

 「あんなジジイと一緒にすんな。そもそも純星煌式武装(オーガルクス)にちゃんと所有者として認められてりゃ、重いとか、扱いづらいなんて思わねぇ。所有者なのに重いとか扱いづらいとか感じるなら、そりゃ純星煌式武装(オーガルクス)が完全にはそいつを認めてねぇ証拠だ。」

 

 「なるほど・・・確かに道理だ。」

 

 そんな事を言い合いながら、辰馬が再び穂先を薙ぎ、剣也がそれを弾き返す。

 

 「・・・時に聞くが。お前はなぜ双月悠の為に戦っている。奴を守るメリットでもお前にあるのか?」

 

 「・・・んなもん聞いてどうする?アンタには関係ねぇだろ。」

 

 そう切り捨て気味に言いながら振るった刃を、辰馬が穂先で受け止め、地面に縫い付ける。

 

 「まぁ、確かに直接的な関係はないが。如何せん、無関係の者には手を出さないと決めているのでな。お前はこの件に限って言えば、正に部外者なのでね。」

 

 「・・・要するに、今なら見逃してやるから尻尾巻いて逃げろってか?」

 

 実に不機嫌そうに顔をしかめた剣也に、辰馬は「そうだ」と首肯する。それを見た瞬間、剣也の中で何かが音を立てて切れた。

 

 「少し黙れよ、クソ野郎・・・」

 

 ドスの聞いた低い声と共に、辰馬を弾き飛ばす。

 

 「無関係の人間には手を出さねぇ、だ?ふざけんなよオイ。だったら悠は何なんだ?あの二人は何だ?てめぇが尊敬してたっつぅ悠の親は何なんだよ。どいつもこいつも元を辿りゃ丸っきり部外者だろうが。それを関係者に仕立て上げたのはてめぇらクズ共の行動だろ。違うか?反論あんなら言ってみろよ。」

 

 それに対して、辰馬は何も言わない。ただ乱暴に、力任せに振り回される刃を弾く。

 

 「だんまりか。だろうな。てめぇらに弁解の余地なんさ微塵もありゃしないんだから。要するにてめぇら、辛い目に合わされたんだから自分達には復讐する権利があるって言いたいだけだろ?てめぇらの身勝手に関係ない連中巻き込んでんじゃねぇぞクソが。何が復讐だよ?ここで平和に笑ってた連中がお前らに何かしたか?」

 

 剣也が放ったもう何度目かも分からない一撃が、衝撃を止めきれなかった辰馬を吹き飛ばす。

 

 「・・・っ、今の世間の現状を、当たり前に受け入れている時点で同罪だ!」

 

 「ざっけんな!!」

 

 「・・・っ!」

 

 今までに無い顔で、剣也が激昂する。その剣幕に、辰馬は言葉を失った。

 

 「てめぇらのせいでどれだけ苦しんだ奴等がいると思ってやがる!!見て見ぬふりしてるが、結局てめぇらがやってる事はテロ以外の何でもねぇだろうが!少なくともてめぇは気付いてんだろ!そうでもなきゃわざわざ悠にお前が戦う理由を教えるわけがねぇ!そうだろうがよぉ!!」

 

 激情のままに振るわれた刃にまたしても吹き飛ばされる。剣也の方はただ力任せに刃を振るっているだけだが・・・明らかに、辰馬の反応が遅い。

 

 「・・・っ、分かったような事をっ・・・!!」

 

 「てめぇは自分がこんな事やってる理由に悠の親引っ張り出してるだけだろうが!現実逃避のための口実にしてんじゃねぇぞ!

 自分がやってる事を正当化したいからあいつの親の過去を引っ張り出してるようにしか見えねえんだよ、ヴォケがぁぁぁぁ!!」

 

 「・・・っ!!」

 

 今度は、完全に反応が遅れた。力任せに振り下ろされる刃は眼前まで迫っており、もはや防ぎようもない。

 

 (・・・なら、どうすれば良かったんだ・・・!?俺は、ただ、あの二人に報われて欲しくて・・・なのに、何故・・・!!)

 

 『・・・俺は、別に自分の名前が生家から消えようがどうでもいいのさ。現状(いま)さえ守れれば十分なんだから。』

 

 『考え方によっては、解放されたって見る事も出来るからねー。ある意味、正解だったのよ。これも。』

 

 (・・・!)

 

 不意に、そんな言葉が脳裏をよぎる。それは紛れもなく、自分が尊敬していたあの二人の声で・・・そして、彼らにとっての転機となった、あの日に言われた言葉だった。

 

 (・・・あぁ、そうか。・・・そんな簡単な事に、なぜ気づかなかったんだろうな。)

 

 二人の言葉の真意をようやく悟り、内心で辰馬は自嘲する。あの時は、怒りと無力感で熱くなりすぎて気づかなかった事に。

 

 

 

 

 

 ・・・初めから、二人は周りを恨んだりなどしていなかった。美咲/孝弘がいて、孝弘/美咲がいて、辰馬がいて。そんな日常さえ守れれば、それで十分だったのだろう。その証拠に、彼らはこのアスタリスクを去る最後の日まで、笑っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 (・・・俺は、何をやっていたんだろうな・・・これじゃ、二人に合わせる顔もない。・・・まぁどのみち、血に汚れすぎたこの手では、二人がいるだろう天国に行くなぞ到底無理だろうが・・・。)

 

 ・・・そんな思考を最後に、辰馬の意識は永遠の闇に落ちた。もはや、その罪を償う命も、時間もない。・・・それでも、最後に、彼にとって最も大切で、最も気づくべき事に気付けたのは、彼にとって幸いだったかもしれないが。

 

 「・・・いい加減に疲れたろ。休めよ・・・もう、あんたは縛られなくていいんだから。」

 

 せめてもの慈悲だというように、剣也は足元に大の字で倒れている辰馬へそう言葉をかける。胴を絶ちきられ、全身を血に染めて・・・しかしその顔は、憑き物が落ちたように静かな表情だった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・っ、いい加減に倒れろって!!」

 

 絞り出すように叫びながら、振り下ろされた刃を避けるとその手から潰撃の墜剣(デクス=バング)を吹き飛ばし、その顔を殴り飛ばす。だが、フラフラになりながらも刀牙はまた立ち上がってきた。その様子に、悠は強く歯噛みをする。

 さっきから、ずっとこの繰り返しだ。悠がいくらぶっ飛ばしても、刀牙はフラフラで立ち上がり、刃を向け、あるいは殴りかかってくる。目はもはや虚ろで、焦点もあっていない。ただ、何回やられてもゾンビが如く立ち上がってくるのだ。いくら覚悟が定まっているとはいえ、親類を傷つける事に抵抗を覚えない訳ではない。最初こそ怒りで躊躇いなくやっていたものの、何度もやっているうちに、本来の優しい部分が抵抗を覚えだしていた。

 

 (くそっ・・・何で、倒れないんだよ!)

 

 ギリ、と歯噛みをする。そんな時、不意に刀牙がボソリと何かを呟いた。

 

 「・・・で、・・・が・・・」

 

 目は虚ろで意識は朦朧とし、足元も覚束ない。口だけが小さく、何かを呟いている。

 

 「・・・何で、そんなに笑ってられんだよ・・・」

 

 「・・・っ。」

 

 刀牙が呟いたその言葉に、悠は言葉を失った。・・・彼が、誰に対して言っているのか、分かってしまった。

 

 「何で、辛くないんだよ・・・?何で・・・」

 

 「・・・やっぱり、そうか。」

 

 刀牙は・・・今、自分の記憶の中にいる美咲達・・・両親と会話しているのだろう。口ではあんな事を言いながら・・・本心の部分では、彼も美咲を・・・悠の母を嫌ってなどいなかった。

 

 ・・・彼が本当に苛立っていたのは、悠でも、美咲でも、孝弘ですらなく。美咲達のーーー両親の、何でもないように笑うその姿と、両親を疲れ果てさせた、無自覚な周りの人間にこそだった。

 

 曲りなりにも「家族」であるが故に、複雑な気持ちだったのだろう。確かに孝弘も美咲も、自分より才能はあるし、強い。それが理解できていたからこそ、嫉妬もしたけれど、それを圧し殺して、彼らを受け入れられた。・・・彼らがアスタリスクでどんな思いをしたか、それを知るまでは。

 

 ・・・許せなかったのだ。人間としても立派で、剣の腕も申し分ない二人が、星脈世代(ジェネステラ)の生まれというだけで忌み嫌われ、あるいは実力があるからと、人知れず必死に積んできた努力を「天才だから」の1言で片付けられたのが。そして、そんな思いをしたにも関わらず、いつものように笑っていられる二人の姿が。

 

 「家族」であるがゆえに、その人の成りを、努力を、よく知っている。知っているが故に、とてもそんな事実を、光景を、許す気になれなかった。

 

 

 「怒って、良かったんだ・・・泣いて、良かったのに・・・」

 

 「・・・確かに、そうだ。」

 

 悠の言葉に、刀牙の言葉が途切れる。その目は、悠を見ていた。

 

 「・・・確かに、母さんも父さんも、そうする理由があった。・・・でも、何でそうしなかったか。」

 

 そこで一旦言葉を切り、顔を上げる。

 

 「元々、そういう人間だったんだよ。父さんも、母さんも。人を恨もうなんて考えない、怒りをぶつけようとも思わない。ただ、仕方のない事だったんだって。そう受け入れて、そうして前を見て、歩いてく。

 ・・・昔から、あっけらかんとしてたからな。二人とも。ずっと、ああやって生きてきたんだろ。

 嫌な事も、辛い事も、仕方のない事だったって、もう終わった事だって受け入れて、現状(いま)を過ごす。そうやって、ずっと。」

 

 悠の言葉に、刀牙は小さく、「・・・そうだったのか」と、呟く。そのまま、まるで糸が切れたように、仰向けに倒れ込んだ。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 ・・・悠達が、決着を着けた頃。中央区・シリウスドーム前。

 

 「・・・確かに見事な連携だが、脅威というほどじゃないね。彼女だって、予想外の一撃を食らってさえいなければ遅れなど取らなかっただろう。

 ・・・君達の実力は、これが限界か。」

 

 アーネストが落ち着き払った声音でそう言いながら、目の前に立っているリクとアリアを見る。当の二人は、激しく息を切らしていた。

 

 「・・・これが、『剣聖』の実力・・・違いすぎる・・・!」

 

 「・・・有り得ない・・・何もかも有り得ないわ・・・!勝てるわけ無いじゃない、こんなの・・・!」

 

 アーネストは、そう毒づく二人の視線を悠然と受け止める。その背中を見ながら、身体を背後の電柱に預けて座り込んでいる光は二人の言葉を反芻していた。

 

 「・・・当たり前でしょ。貴方達じゃ、アーネストには勝てないわよ。連携攻撃に関しては、たった二人の貴方達より、5人のメンバーを束ねてきたアーネストの方が圧倒的に練度は上なんだから。連携の何足るかを一番知ってる人に、二人だけの連携しか知らない貴方達じゃ敵わないわよ。」

 

 その言葉が聞こえたのか、アーネストはふっと笑うと、顔を引き締め、防御に徹していたさっきまでとは打って変わって激しい攻勢に出た。

 

 「っ!?ぐぁっ・・・!」

 

 目の前に一瞬で迫ったアーネストが白濾の魔剣(レイ=グラムス)の束を振るい、リクを吹き飛ばす。それを見たアリアが背中へ"莫耶"の刃を振るうが、それを見越していたアーネストは回し蹴りで"莫耶"を蹴り飛ばし、振り向き様に白濾の魔剣(レイ=グラムス)を振り下ろす。何とか間一髪でかわしたアリアだが、そんな間すら許さないと言わんばかりに掌底打ちが飛んでくる。容赦なく吹き飛ばされたアリアは、何とか体勢を立て直したものの、たった一撃で相当なダメージを負っていた。

 

 「かっ、はぁ・・・っ、はぁ・・・っ。」

 

 何とか空気を取り込んで立ち上がろうとしたアリアの眼前に、アーネストが仁王立ちする。

 

 「・・・さようならだ。」

 

 白濾の魔剣(レイ=グラムス)が振りかぶられ・・・アリアの胴を薙ぐ。そして、その身体が崩れ落ち・・・リクが、その背後で声にならない絶叫と共に崩れ落ちる。

 

 「・・・分かったか。それが・・・今、君が抱いている感情が、君達が何も関係ない、無関係の人々に与えてきたものだ。ここで君達に殺された人々の中には、子供だって居ただろう。あるいは大切な家族や、恋人だって居たかもしれない。

 ・・・君達が、それを奪った。壊したんだ。なら、これは当然の報いだろう。恨みたければ恨んでも構わないが・・・その前に、自分の行動を省みる事だ。」

 

 それだけ言うと、アーネストは白濾の魔剣(レイ=グラムス)を仕舞って電柱にもたれ掛かっていた光を横抱きに抱えあげ、歩き出す。

 声をかけようとしたものの、アーネストの顔を見た光は結局何も言わず、黙ったまま、落ちていく意識に身体を預けた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 異変が始まってから、およそ8時間弱が経過。夕暮れが迫る中、現状、まだ避難が終わっていない人々は近くの外縁居住区を脱離した場所に星猟警備隊(シャーナガルム)の誘導の元、大量に並べられた緊急避難用ボートへ避難していた。満杯になり次第、順次近くの学園へと避難していく。その中、一際大きな避難ボートへ、重武装の警備に囲まれてシルヴィアと実里が向かっていた。

 その背後へ、不意に声がかけられる。

 

 「ミス・リューネハイム!!」

 

 「・・・っ、アーネスト!?」

 

 小走りに駆け寄ってきたのは、 アーネスト・フェアクロフその人だった。その腕の中には、気を失ったままの光もいる。

 

 「て、光さん!?何で!?」

 

 「魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)至上主義者の襲撃にあっていた所を助けたんだ。1つ1つは浅いが、かなりの傷を負っている。なるべく早めに処置をする必要がありそうだったからね。出来れば彼女も一緒に避難させてあげてくれないか。」

 

 言われてみれば、光の着ている制服はあちこちが裂け、浅くはあるが出血も見られた。

 

 「一緒に避難するのはいいけど・・・アンタはどうするの、アーネスト。まだ残るつもり?」

 

 実里の問いかけに、アーネストは合間も置くことなく肯定する。もと来た道を振り返り、腰に吊り提げた白濾の魔剣(レイ=グラムス)の発動体に触れる。

 

 「あぁ。まだ避難中の人や、生存者がいるかもしれないからね。それに何より、一刻も早く事態を収束させる必要がある。

 これでも、僕は騎士だ。守らなきゃいけないもの、守りたいものがある。そのためなら、危険な場所だろうと何だろうと、僕は行くよ。」

 

 そう言って、もと来た道を引き返していくアーネスト。その言葉に、シルヴィアは何故か引っ掛かった。

 

 (・・・本当に、良いのかな。このまま、私だけ逃げて。)

 

 数時間前、「気をつけて」という一言だけをかけ、見送った少年の顔が浮かぶ。

 

 (悠君は、戦ってるのに。私だけ、安全なところに逃げてて良いの?)

 

 そんな疑問が頭を離れない。悠が自分と実里を避難させるように言った理由も、その心理も分かってはいるが・・・それでも、心の何処かで「そんなの間違ってる」と、そう言う自分がいる。

 

 『守らなきゃいけないもの、守りたいものがある。そのためなら、危険な場所だろうと何だろうと、僕は行くよ。』

 

 アーネストの言葉が、再び脳裏に反響する。その言葉で、不意に彼女の中に甦ってくる言葉があった。

 

 『シルヴィアを守るためなら、どこだって行くよ。俺が絶対に守る。約束する。』

 

 『なら、私もそうする。悠君を守るためなら、どこだって行く。悠君が守ってくれるみたいに、私も悠君の事守るね。』

 

 ・・・それは、悠とシルヴィアと、実里と。3人がまだ揃っていた頃に、子供なりに、悠がシルヴィアに告白した時の会話。それを思いだし・・・シルヴィアの中で、1つの思いが固まる。

 

 「・・・ヴィ。シルヴィってば!」

 

 ふっと、実里に呼ばれて我に帰る。不安そうに見ている実里や、クローディアがわざわざ連れてきてくれた護衛の人には申し訳ないと思いながらも、来た道を振り返る。

 

 「・・・ごめんなさい。やっぱり私、悠君を置いてはいけない。実里は光さんを星導館学園まで連れていってもらっていい?」

 

 「・・・何言ってるの!悠も言ってたでしょ、避難してろって!私たち、死んじゃったら一生存在を消されたまんまになるんだよ!そんなの嫌でしょ!」

 

 実里がそう言うと、シルヴィアは少しだけ、悲しそうに笑う。

 

 「・・・それは、生きてても変わらないと思うよ。この事態が終わった後にでも、W&Wが私達の名前を出して死亡宣言をしてしまえば、私達は記録上死んだ事になる。どう頑張っても、結果は多分変わらない。

 ・・・だったら、今のうちに『シルヴィア・リューネハイム』として、やれる事はやっておきたいんだ。」

 

 「・・・シルヴィ・・・。」

 

 「・・・ごめん。・・・光さんの事、お願いね。護衛の人達も、ごめんなさい。実里と光さんの事、お願いします。」

 

 そう言うと、踵を返して歩き出す。その背中に、実里はよく似た幼馴染の背中を重ねた。

 

 「・・・全く、誰に似たんだか。」

 

 そう1人呟くと、光をボートに載せてから、護衛の人に頭を下げ、制止も聞かずその背中を追いかけていく。

 

 

 

 




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
さて、投稿まで大分時間が空きましたが・・・漸く書き上げられました。予想以上に時間がかかった・・・。
今までは土日で一気に書き進める事が出来てたんですが、バイトを始めてからはそうもいかなくなってしまいまして。
本当に勝手ですが、次からは特に期限設定とか無しに、時間があるときに書いて、書き上がり次第投稿、という形にしようと思います。
ここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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