学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
第25話、色々な意味で波乱の展開になります。多分これ、2章に入ったらまた結構ストーリーの流れに手入れしないといけないんじゃないかなぁ・・・(汗)
・・・まぁ、そこは書くときに考えましょうかね。とりあえず、第25話をどうぞ。





第25話 六花動乱編ー8

 

 

 

 「・・・どういう、事ですか。」

 

 微かに震えた声で、シルヴィアがそう聞き返す。その声に答えたのは、またしても無慈悲な声だった。

 

 『どういう事、も何もない。君がその事態を切り抜け生きたとしても、切り抜けられずに死んだとしても、どちらにしろ君という存在には消えてもらう。そういう意味だ。何か問題でも?』

 

 「問題だらけでしょうが!!ふざっけんじゃないわよアンタ達!!無理やりこんなとこに連れてきて、好き勝手振り回した挙げ句、使えなくなったらポイ捨て!?それがアンタ達のやり方なの!?」

 

 今までに無いくらいの怒りと共に、実里が罵声をホロディスプレイの向こうにいるはずの幹部組へとぶつける。しかし、その声に対して返ってきたのはまたしても無慈悲な返答だった。

 

 『これは既に決定事項だ。変更はない。それと、高原実里。君は早く離脱したまえ。これは命令だ。』

 

 「誰が聞くか、そんな命令!この分からず屋が!」

 

 実里はそれ以上怒りをぶつけた所で無駄だと気付いたのか。歯を食いしばり、必死に耐えている。シルヴィアも、何とか感情を押さえているのか、拳を握っている。

 その横から手が伸びてきたかと思うと、それまで静かにしていた悠が彼女達の前からホロディスプレイを引ったくるように眼前へと持っていく。

 

 「・・・なぁ、1つ確認していいか。さっきの言葉、アンタ達はシルヴィアがどうなろうが、どうしようが自分達は関係ないし干渉もしない・・・そういう意味でいいんだな?」

 

 『双月悠か・・・何度もそう言っているだろう。何度抗議されようがこれは決定事項で』

 

 「だったらさ。」

 

 ディスプレイの向こうにいるはずの幹部の言葉を強引に遮り、悠が言葉を続ける。

 

 「シルヴィアがこの場を切り抜けて生き延びて、アンタ達の手を離れようがアンタ達には関係ないよな?」

 

 「「・・・え?」」

 

 シルヴィアと実里が、揃って悠を見る。その顔は、不敵に笑っていた。

 

 『・・・何が言いたい?』

 

 悠の言葉に不穏なものを感じたのか、食いついてくる。

 

 「シルヴィアの身柄は、俺が預かる。アンタ達はもう関係ないし干渉もしないんだから構わないよな?」

 

 「なっ・・・!?」「ちょ、アンタ・・・!?」

 

 悠の言葉に、シルヴィアと実里が揃って驚きの声をあげる。ディスプレイの向こうからも、悠の発言に息を呑む気配が伝わってきた。

 

 「あぁ、ついでに言っとくと俺の関係者が銀河の幹部でさ。今のアンタ達の発言を俺の携帯で録音しといたのとか、シルヴィアの今までの実積含め、彼女をこっちに引き入れられるだけの準備ならとっくに出来てんぜ?まぁ、銀河がシルヴィアをお前らと同じように利用しようって魂胆だった場合は許さんけど。

 てか、ここにいる実里は確保しときたいとか、お前ら馬鹿じゃね?何?アンタ達のとこの手下をこんな場所に突っ込まそうってか。統合企業財体の幹部連中も案外馬鹿なのな。」

 

 その言葉からも、悠が本気なのは明らかだった。そもそも、悠ならシルヴィアのために銀河が相手でも平気で刃を向けかねない、そんな確信めいたものが感じられたのだ。

 

 『・・・そんな事が許されるとでも?大体、彼女と何の関係もない貴様にそんな権限は・・・』

 

 「関係ならあるだろ。幼馴染なんだから。つうかそれを言ったら、今のアンタらこそシルヴィアに干渉する権限無いんだから黙って聞いてろよ。

 それに、さっきから言ってる事が矛盾まみれだぜ?いざ他の統合企業財体にとられそうになったら掌返しとか、道化が過ぎるだろ。滑稽過ぎて笑いも起きないわ。

 ・・・つーかさぁ、ついさっきあんな事抜かしといて今更コイツらが素直に従うわけないだろ。んな事も分からないのかド腐れジジイ共。」

 

 その言葉は、徹底的に相手を煽るものだが・・・その裏に、とてつもなく固い悠の覚悟が隠れているのにシルヴィアと実里は気付いていた。

 一見すると相手を見下したような態度であり、彼の過去も考えれば当たり前の態度かもしれないが・・・それ以上に、「自分の大切なものを二度と好き勝手させない、自分の手で守る」という、強い思いが滲み出ていた。

 

 『・・・双月、悠・・・貴様・・・!』

 

 ディスプレイの向こうで、幹部だろう男が隠しきれない苛立ちを怨嗟の言葉と共に吐き出す。恐らくは周りにいるはずの他の幹部達も同様だろう。

 

 「ハッ、気に入らないか?だったらどうする。わざわざこんな状況の中にアンタらの配下を送り込んででも始末するか?俺はそれでも構わねぇよ。襲ってきたところで全員叩き潰せばいいだけだしな。

 ・・・って、聞いてんのかね。ほれ、何とか言ってみろよ。あぁ?」

 

 悠が追い討ちをかけるようにそう言う。すると、ディスプレイの向こうで「ダンッ!!」と、拳を机に叩きつけるような音がした。

 

 『・・・高原実里、君もシルヴィア・リューネハイムと同様の扱いとする。精々死なないように足掻いてみるんだな。』

 

 そう言うと、一方的に通信は切られた。それを確認すると、悠は小さく息を吐く。

 

 「・・・はぁ。何とかなったかね・・・とりあえず、これで奴等の動きは封じたろ。あとはクローディアと叔母さんに根回しと、二人を安全に逃がす事か。」

 

 と、何やら呟いた悠に、二人揃って何と言っていいやら。とにかく色々と言いたいのだが、悠の無茶苦茶っぷりに言葉が発せられずにいた。

 

 「・・・ね、ねぇ、悠君。何したの・・・?」

 

 「何したのって・・・いや、単にあいつらの言質取ってあいつらが二人に手を出せないようにしただけなんだけど。何でそんな驚いてんだ・・・?」

 

 そんな悠の言葉に、ますます呆れさせられるやら、驚かされるやら。「やっぱ天然無茶苦茶野郎じゃないのコイツ・・・」と、実里の呟きが虚空へと吸い込まれていく。

 

 「何かよく分からんけども、まぁ・・・そういうわけだから、シルヴィアと実里は早く星導館学園に避難しといてくれ。もうじき来るはずだ・・・っと、言ってる側から来たか。」

 

 そう言って、未だに小さくながらも戦闘や悲鳴とおぼしき音が聞こえるなかを、港湾エリアの方から数人の集団が悠達の方へと走り寄ってくる。シルヴィアと実里は少し身構えたが、その集団ーーーやけに体つきのいい防護服を身につけたーーーを率いる先頭の少女を見ると、安心したように息を吐いた。

 

 「大丈夫でしたか、3人とも!?お怪我は!?」

 

 「クローディア・・・何でここに?」

 

 と、シルヴィアがそう尋ねる。本気で驚いているのか、呼び方がいつものものとは違っていた。対してクローディアは、耳につけていたインカムを見せる。

 

 「双月君から通信で頼まれたんですよ。二人をそっちに避難させるのに、何人か人員を連れてきて欲しいと。・・・まぁ最も、こんな状況の中入ってこいなんて無茶苦茶だとは思いましたがね?」

 

 そう言うと、横目で悠を睨む。そんな悠はどこ吹く風、クローディアから自然に目をそらすと、インカムでまた誰かと通信をしている。

 

 「・・・まぁ、いいでしょう。お二人はこの方達の誘導に従って避難してください。後は私達が。」

 

 そう言うと、防護服の集団が周囲を警戒するようにしながら、「こちらへ」、とシルヴィアと実里を促す。二人は少し不安そうにしながらも、悠がこちらに向けて確かに頷いたのを見ると何も言えず、とりあえずは頷き返した。

 

 「双月君、私達はこの場を制圧しましょう。夜吹君から状況は聞いていますね?」

 

 悠は頷くと、再び腰に提げていた"村正"と"村雨"を抜いた。そのまま駆け出そうとする悠の背中に、シルヴィアは声をかける。

 

 「悠君!」

 

 シルヴィアの呼び掛けに、悠の体が止まる。

 

 「・・・気をつけて!」

 

 その一言に、悠は右手で"村雨"を握ったまま、後ろ手にぐっと親指を立てる。そして、今度こそ駆けていった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「"稲鎚"!!」

 

 "鐵華の魔剣"《ブレイヴ=スレイス》が唸りをあげつつ地面へと叩きつけられ、周囲に衝撃波を撒き散らす。その威力は凄まじく、光を中心に直径10mほどの地面を余裕で吹き飛ばし、連携しつつ光を倒そうと迫っていたリクとアリアをも弾き飛ばす。

 

 「見かけによらず、相当なパワーファイターです事・・・!」

 

 「あぁ、全くだ。これじゃまともに戦えもしないね。」

 

 二人が揃ってそんな事を言うのを、光は体を起こしつつ見る。

 実のところ、彼らの言う通り、光は技術で相手を上回るテクニカルファイターというよりは、力押しで相手を圧倒するパワーファイターだ。彼女の場合はその力押しに技術が加わったが故にハイブリッドファイターと化しているだけの事である。

 

 「まぁ、そうだとしても。僕達は負けませんけど・・・ね!」

 

 「えぇ、全くもってその通・・・りっ!!」

 

 そう言うが早いか、二人が同時に地を蹴った。光を中心として、半円を描くようにそれぞれが動きながら距離を詰め、剣を構えて迫る。

 

 (挟み撃ち狙いか・・・それでも!)

 

 剣を水平に構えつつ、低い姿勢から薙ぎ払いの構えを取る。双月流・烈技、"這蛇"。戦国期、当時の双月流当主が敵の足を刈り取るために編み出した技だ。後に剣と徒手空拳の両方で扱えるように改良もなされた技であり、現代においても相手の足を刈り取る技として有効な技である。

 まぁ最も、この場でこの技を出したのはそれが目的ではないが。

 

 「ふっ・・・何をしようが!」

 

 「そうね・・・どんな技を出そうが!」

 

 二人が光を挟み撃ちにしようと、両脇から迫ってくる。あと数mでその手に握られた剣が光に届く・・・その僅かな瞬間に、光は刃を放った。

 

 「"這蛇"!!」

 

 振るわれた刃が抉ったのは彼らの足・・・ではなく、光を中心とした地面だった。激しい風圧で二人の足が止まると同時に、さらに地形が破壊され、大量の塵が舞う。光の狙いは、そこにあった。

 

 「がっ・・・!?」

 

 視界を潰され、さらに風圧で強引に動きを止められたリクの腹へ光の鋭い蹴りが入る。そこから素早く体を翻し、猛スピードで刃を横薙ぎに、"斬空"を放つ。それもまたクリティカルヒットし、今度はアリアが吹き飛ばされた。

 ・・・そこまでは、光の読み通りだったが。

 

 「・・・ぐぁっ!?」

 

 突如として飛んできた"干将"が、光の左脇腹を切り裂いて飛び抜けていった。鮮血が散る中、ブーメランが如く切り返してくるそれを何とか弾く。

 

 「流石に、ただではやられませんよ・・・。」

 

 そう言いながら、リクがよろよろと立ち上がってくる。その手には先ほど光を襲った"干将"が握られており、何故かその刃は発光を強め、"鐵華の魔剣"《ブレイヴ=スレイス》と同じくらいの大きさになっていた。

 

 「えぇ・・・そうね。全く持ってその通りだわ、リク。こんな簡単にやられてはつまらないもの。」

 

 アリアも立ち上がってくると、"莫耶"を正眼に構える。その刃は、"干将"と同様に発光を強め、刃の大きさも最初の比では無くなっていた。

 

 「・・・"干将"と"莫耶"の能力か・・・。」

 

 まずいなぁ、と思いながら光は裂かれた脇腹を左手で押さえながらも、"鐵華の魔剣"《ブレイヴ=スレイス》を右手に構え直した。

 "共鳴"。夫婦剣、すなわち1対で1本の剣であるという特性が能力として発現したもので、使用者同士が深く結ばれていればいるほど出力を強化する能力だ。最も、二人が1本ずつしか所有できないという代償の他、前提条件として使用者が男女であり、かつその使用者同士が深く結ばれたカップルである必要があるが。

 

 「えぇ、使用者として認めさせるのには少しばかり苦労しましたが。いざ認めると、これでもかと手に馴染むんですよ。」

 

 手の中で、"干将"をクルクルと器用に回しながらリクがそう話す。その言葉は嘘ではないらしい。

 

 「さぁ・・・反撃です!」

 

 その声で、二人が同時に動いた。先ほどまでのピッタリ合わさった動きとは違う、それぞれに僅かな緩急をつけた動き。

 

 「くぅっ・・・!」

 

 正面から迫ってきたリクの剣撃を何とか弾き、時間差で背後から突き出されたアリアの"莫耶"を押さえ込む。その背中に、素早く回り込んだリクが"干将"を振るう。ギリギリでアリアを弾き飛ばし、回避には成功したものの、その背中には僅かながら切り傷が出来ていた。

 その後も何とか弾きはするのだが、時間差でくる攻撃に反応が遅れ、小さな傷を蓄積させていく。

 

 (駄目だ、やっぱり反応が遅れる・・・このままじゃ・・・!)

 

 内心でとにかく思考を巡らせながら、必死に打開策を捻りだそうとする。しかし、どんなに考えても、幾重もの傷を負った今の体で出来る策は浮かばない。

 

 「「そろそろ、終わらせます・・・!」」

 

 そう言って、二人が時間差をつけながら挟み込んでくる。蓄積していた傷で少なからずダメージを負っていたからか、光は対応しようとしたものの体が思うように動かなかった。

 

 (・・・ここまで、戦ったのに・・・!)

 

 流石の光も、諦めて目を瞑ってしまう。リクとアリアの刃が迫り、あと数mでその刃が彼女へと届く・・・その刹那。

 

 「・・・悪いが、彼女にそれ以上手を出すのは止してもらおうか。」

 

 そんな声と共に、二人を猛スピードで白い影が追い抜いた。その影は二人を追い抜いた直後、身を翻すと土埃を上げながら光の正面で止まる。それは、まさに光を背に庇うような格好だ。

 その手に握られた長剣が轟速で振るわれ、咄嗟にそれを防いだリクとアリアは激しく吹き飛ばされた。

 

 「彼女には、少々縁があってね。ここで彼女を死なせる訳にはいかないんだ。僕としても、そしてこの場にはいないが、彼女の弟君のためにもね。」

 

 目を開けた光が、そしてリクとアリアが、目の前に現れた男の正体に気付き・・・驚きに目を見開く。

 

 「な、馬鹿な・・・なぜ貴方のような人物がここに・・・!」

 

 「嘘でしょう・・・!貴方がこの場に来る事は想定には・・・!」

 

 「何で・・・こんな所に、貴方がいるの・・・?」

 

 その身を白一色の制服に包み、その手に握られた長剣もまた白一色。その姿は正に騎士が如し。

 

 「なぜ貴方のような人がこの場にいるんです・・・!アーネスト・フェアクロフ!」

 

 そんなリクの言葉を、微笑を浮かべたまま、その男・・・アーネスト・フェアクロフは、黙って受け止めた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「怯むな!一般市民の避難が完全に終わるまで耐えるんだ!」

 

 「言われなくても、やってやりますよ・・・!」

 

 場所は代わり、現在は切り離されてしまった、行政エリアに隣接する中央区域の大交差点。標準装備のアサルトライフルを構え、星猟警備隊(シャーナガルム)が迫ってくる無数の鎧武者を迎え撃つ。

 

 「奴等をこれ以上進ませるな!何としてでも食い止めろ!」

 

 「グレネード、放て!」

 

 背後から、大量のグレネードが鎧武者目掛けて投げつけられる。地面にぶつかった衝撃で爆発し、鎧武者達を襲う。しかし、爆発煙の中から現れたその姿は傷ひとつ無い。

 

 「・・・馬鹿な・・・あれだけの爆発を受けて、まだ無傷なのか・・・!?」

 

 その光景に、否応なしに足が震えてくる。本当にこんな奴を倒せるのか、と。

 そんな様子を見てか知らずか、鎧武者達は勢いづいたように走ってくる。

 

 「ヒィッ・・・!」

 

 隊員の中でも随分若い・・・新入りらしい男が恐怖に顔を歪めた。それを叱咤する初老の男・・・それに狙いを定めたのか、鎧武者が駆け出した。

 

 「・・・!?ちぃ・・・っ!」

 

 銃では無理と判断したのか、初老の男は腰から剣型の煌式武装(ルークス)を抜いた。それを手に突撃しようとして・・・その横を、閃光が如く誰かが駆け抜け、突撃してきていた鎧武者をすれ違い様に叩き斬る。胴を両断され、たまらず鎧武者の体は星辰力(プラーナ)の粒子を放出しながら崩壊していった。その誰か・・・よく見れば自分達より年下で、しかも学生服からして現役の学生らしい少年は立ち止まると、顔だけ振り返ってこちらを見る。

 

 「ここは俺が押さえます!一般市民の避難を最優先にしてください!」

 

 その力強い声は、とても少年とは思えないくらいで。そして同時に、彼の言葉に強い説得力を持たせるものだった。

 

 「・・・分かった!だが君も無理はするなよ!持たないと思ったらすぐに逃げてくれ!」

 

 そんな声を少年の背中にかけながら、隊員を急かしつつ避難誘導に向かう。その少年ーーー悠はそれを確認すると、改めて右に握った絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)と左の聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を構え直した。

 

 「ホント、無差別もいいとこだな・・・早めに元凶捕まえねぇと。」

 

 そう呟きながら、鎧武者達の群れに斬り込んだ。振るわれた刀を右の絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)でいなし、返す刃で胴を薙ぐ。その背後からさらに迫ってきた鎧武者の腹に左の聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を突き込み、振り飛ばす。その背後に回り込んだ鎧武者が刃を横薙ぎに振るってくるが、それをしゃがみ回避した悠は低い体勢からのサマーソルトでその腹に蹴りを叩き込んだ。それでも、鎧武者達は絶えず向かってくる。

 

 (いちいち相手をしてもキリがない、か・・・なら、一気に仕留める!) 

 

 横薙ぎに振るわれた刃をしゃがみ回避すると、悠は即座に両手の剣へ星辰力(プラーナ)を込め、瞬時に巨大化したそれを振るう。

 

 「双月流・烈技・・・"這蛇・双嵐"!!」

 

 巨大化した刃が横薙ぎに360度、複数回転しながら振るわれ、残っていた鎧武者達を薙ぎ払う。

 "這蛇・双嵐"。"這蛇"を二刀流で振るい、かつ回転数を増やして破壊力を増した派生技。体幹がしっかりしていなければバランスを安定させた回転も、一気に周りの敵を排除できるだけの破壊力も出せない技だ。

 しかし、それを為せてしまうのが双月悠という人間。何せ、当時序列2位と3位の両親に剣を鍛えられ、二人が亡くなった後はもう1人の師匠に連携と反応速度を鍛えられ、アスタリスクに来てからは我流で鍛練を続けてきたのだ。嫌でも体幹やら何やら、とにかくあちこち鍛えられるのも無理はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ほぅ。あの数を一気に殲滅するか。・・・ふむ、どうも俺はあいつの実力を見誤ったらしい。」

 

 「アホか。あれでもみっちり鍛えられてたんだから、甘く見るなって何度も言ってんだろホントに耳ついてんのかテメェ。」

 

 と、背後からそんな会話をする者が2人。その声音だけで、悠はその声の主を特定していた。

 

 「・・・やっぱり来るか。しかも、よりにもよって知ってる仲かよ。」

 

 ゆっくりと、悠は背後へ、身体ごと振り返る。

 

 「お前も随分と血生臭いとこにきたもんだなぁ、悠。ほんっと、誰かに似て正義感が強いこったぁ。」

 

 「・・・その元凶はどこのどいつだよ。それよりさ・・・アンタ達、こんな事してタダで済むと思ってんだろうな?」

 

 悠の顔はそれこそ落ち着いていたが、声音には少なからず怒りが籠っていた。その雰囲気を、二人ーーー双月塔牙と嵐洞辰馬は黙って受け止める。

 

 「・・・確かに、お前の怒りも最もだ。だが、これが我々の理想を為すために最も手っ取り早い手段なのでな。所謂『必要不可欠な犠牲』という奴だよ。」

 

 「・・・調子いい事言ってんなよ、糞外道。『必要不可欠な犠牲』?ふざけんのも大概にしろ。必要不可欠な犠牲なんかあってたまるか。どんなに言葉でごまかそうが、ここで亡くなった人達はお前らの身勝手な理屈で殺された被害者でしかない。ましてや、彼らの死をお前らが語る資格もない。」

 

 熱くなりかけていた言葉を一旦途切れさせると、そこで悠は深呼吸をする。何とか気持ちを落ち着かせると、悠は再び二人へ言葉を放った。

 

 「死にたくないなら、それ以上お前らの勝手な理屈で語るな。これ以上は、本気(マジ)で抑えられそうにない。」

 

 抑えきれない怒気が、星辰力(プラーナ)と共に悠の全身から放出される。流石の二人も怯んだが、戦意を崩すことは無かった。

 今にも刃を抜きそうな、そんな雰囲気の中。悠の右に伸びる道の先から、誰かが歩いてくる。

 

 「おいおい・・・1人で2人相手にしようとか馬鹿じゃねぇのかお前。少しは頭使えよアホ悠。

 それとアンタら。そこのアホを擁護するわけじゃねぇが、ソイツが言う通り、お前らがここで死んだ奴等の事を語るのは筋違いってもんだろ。」

 

 「・・・何でお前がここにいるんだよ、剣也。」

 

 悠が訝しげにそう聞くと、道の先からやって来た水無月剣也・・・悠のもう1人の幼馴染は肩に巨大な大剣を担ぎながら、実に不機嫌そうな顔で悠を見る。

 

 「俺がどこにいようが勝手だろ。大体お前にいちいち話す理由はねぇよ。・・・とか言いたいとこだが、状況が状況だから話してやる。

 うちの生徒会長がさっさとこの状況収めてこいって言ってきやがったんだよ。しかも、よりにもよって序列が高くて確実な実力のある奴等にな。」

 

 「生徒会長って・・・あぁ、悪辣の王(タイラント)か。あんなのが、よくもまぁアスタリスクのために動いたもんだな。」

 

 悠がそう言うと、剣也は不機嫌そうな顔を尚更不機嫌気味に歪め、吐き捨てる。

 

 「どうせ腹にろくでもない考えがあって、今アスタリスクが壊滅したりすると面倒にでもなるんだろ。

 ほんっと、くだらねぇっつうか、頭にくる。・・・んで。」

 

 一旦言葉を切ると、剣也はその不機嫌そうな顔を刀牙と辰馬の二人へと向ける。

 

 「テメェらがこの状況引き起こした元凶か?イエスかノーで答えろ。さもねぇと今すぐぶった斬んぞ。」

 

 「・・・随分と不遜な言動だな。だがまぁ、質問されたからには答えよう。答えは、『イエス』だ。」

 

 それを聞いた剣也は、担いでいた大剣をガンッと地面に叩きつけるように突き立てる。

 

 「おい、悠。テメェ、どっちの相手がしたい?」

 

 「・・・は?いや、お前何言って・・・」

 

 「いいからはよ答えろ。お前も斬られてぇのかノロマ。」

 

 剣也の容赦ない暴言に一瞬イラッとした悠だが、今はそんな場合ではないと思い直すと、剣也と並ぶようにして刀牙を・・・実の叔父を眼前に据え、剣を構える。

 

 「オーケー、分かった。ならこっちはもう1人の方の相手をする。

 予め言っとくが、手助けとかするんじゃねぇぞ。ハッキリ言って邪魔なだけだからな。」

 

 「言われんでもお前に手助けなんてしないっての。唯我独尊俺様一番なお前には必要ないだろ。」

 

 「・・・お前後で覚えとけよ。」

 

 そんな会話が終わると、不意に悠は剣也の正面に立つ男ーーー嵐洞辰馬へ視線を向ける。

 

 「調べたよ、父さんと母さんの事。・・・アンタ、本気でこれが二人への弔いになると思ってるのか?」

 

 「・・・無論だ。俺が知る限り、彼らには心休める場所など無かった。強いて言うなら、二人で一緒にいる時間が唯一心休めた時間だろう。

 真田先輩は、このアスタリスクで名を挙げる度に真田本家からの圧力に悩まされ、結局実の血縁から自分を消した。美咲先輩は、星舞祭(フェスタ)や決闘をする度に勝利を求められ続け、対戦相手からは「天才だから」の一言で努力を一蹴され、その結果潰れてしまった。

 ・・・こんなに救われない結末が、あっていいわけがない!二人は本当に良い人だった。素晴らしい人格者だったんだ。そんな結末で終わっていいなど、俺が許せんのだ!!」

 

 抑えきれない激情と怨嗟のこもった声で、辰馬はそう叫ぶ。それを聞いていた悠は、今度は自分の正面ーーー実の叔父へと同じように問う。

 

 「もしかしてだけどさ、叔父さんも同じ理由?こんな事に手を貸してるの。」

 

 「・・・さぁな。忘れちまったよ、そんなの。」

 

 はぐらかすように、叔父はそう小さく言う。その顔が僅かながら複雑そうに歪んだのを、悠は見逃さなかった。

 

 「・・・そうか。なら、俺が勝ったら無理にでも思い出してもらうよ。」

 

 「ハッ、抜かせ。まだまだこっちも現役だからな、そう簡単にゃ倒せねぇよ。」

 

 そんなやり取りの後、どちらからともなく剣を構える。その横で、同じように何かを話していた剣也と辰馬もお互いの得物を向け合う。直後、地面を蹴って、4人が互いにぶつかり合った・・・!

 

 

 





皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
さて・・・何か、色々後の展開を書くにあたって改変をしなきゃいけなくなりましたね(汗)。(自分で書いてるんでぶっちゃけ自業自得)
まぁ、後の展開を書くにあたっては元々考えてた展開だとご都合が過ぎましたし、どっちにしても後の展開に改変を加える必要があったので対して変わらないのかな。

で、今回から悠に煽り属性が加わりました。ちなみに今回から悠の言動や性格に多少変化が起きてますが、これはイメージとして「決意や覚悟を決めた主人公の言動・性格に変化が起きる」のを描写に取り入れたからですね。上手く書けているといいですが。

あまり長くなるのも読者様的に良くないでしょうし、一旦ここで切り上げさせていただきます。ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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