学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
随分長くお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。時間はさらに飛んで学園祭前日に飛びます。タイトルが「動乱編」なのに平和な展開を書き続けるのもおかしいですし、何より書くことが無いので(真顔)





22話 六花動乱編ー5

 

 

 

 悠が言った通り、あれから何事もなく、無事アスタリスクは学園祭前日を迎えた。各学園生徒会はそれぞれの仕事に追われ、所属学生達もクラス毎だったり、部活毎の出し物の準備に忙しそうにしている。そんな様子を、学園内の見回りをしながら悠は見ていた。腕には「警備」の二文字が大きくプリントされた腕章がついている。当然の流れと言えば当然だろうが、悠は今回の学園祭でクラスの出し物には参加せず、学園内の警備担当をやる事にしたのだ。

 

 「随分と平和な光景だよなぁ・・・。」

 

 と、誰に聞かせるわけでもなくそう呟く。口調はいつもののんびりしたものだが、その内心は酷く緊張していた。

 その証拠に、手持ち無沙汰の左手が自然と左腰に吊るされた2本の刀へ、さらに胴に巻き付けるようにして固定されている真新しい剣帯の背中側ーーそこに交差して吊るされている鞘に発動体の状態で収められた絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)の柄に触れる。その装備は、今回の件に際して悠が星導館学園の装備局に作成の依頼を出していた物だ。

 日本刀という実体武器を扱うには、どうしても腰のどちらかが埋まる。今回の件で、まず間違いなくこの4本が必要になると直感した悠が直面したのはそこだった。絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)聖閃の魔剣(グロリア=フラム)を空いている方のホルダーに収める手もあるが、それだとこれまでのような2本の同時抜刀が叶わなくなる。 そこで彼が考え出したのが、背中に2本の鞘を固定してそこにそれぞれの剣を収める方法だった。

 これならば、使用する時には鞘に収まっている状態の発動体を引き抜くだけで済むし、「ホルダー開放」から「発動体を取りだし」、「稼動状態(アクティブ)にする」、という3段階を「発動体を引き抜き」、「稼動状態(アクティブ)にする」、という2段階に省略できる。唯一の問題は鞘を背中に固定する剣帯が装着しづらい事だが、装備局に無茶を行って作ってもらったオーダーメイド品だし、装備局の方も別に仕事があるのだろうからこの際文句は言わないようにするつもりだった。

 

 「ここら辺は異常なし、と。あとは・・・外縁の港湾エリアくらいか。」

 

 学園内の地図をホロウィンドウに表示させながら、悠はそう呟く。ウィンドウ上の地図はエリアや建物ごとに色違いの斜線が引かれ、残るは外縁の港湾エリアのみだ。

 

 「能力で隠してるのかとも思って絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力も使ってみたが、何も無かったしな・・・。やっぱり後はここくらいか。」

 

 そう言いながら、港湾エリアに向かおうとして不意に足が止まる。その視線の先にあるのは・・・今でも地方ではよく見るお祭り屋台を丸々巨大にしたような露店に、でかでかとした文字で「揚げ物屋」と書かれた看板。その下にこれまた巨大な文字で書かれた、悠の所属クラス。

 何と言うか、異様だった。周りに露店を出しているクラスは標準的な規模なのに、自分のクラスだけアホみたいにでかいため、明らかに浮いていた。悠が近寄っていくと、それに気付いたクラスメイト達が手を振ってくる。

 

 「どうだ悠、お前がサボってる間にこんな風にしてやったぞ!驚いたか!」

 

 アーッハッハ、とどこぞの小物悪役みたいな高笑いをするクラスメイトを余所に、悠は頭を抱えていた。

 学園祭の規程上、娯楽以外に飲食をやる事が駄目なわけではないし、規模に制限があるわけでは無い。しかし、「他店への配慮」が前提であり、かつ衛生面の関係もあって特に飲食をやる場合は店舗規模の審査が厳しく入る。そのため、今現在悠の目の前に広がっている店舗の規模はまず通らないはず・・・なのだが。

 

 「またあいつ職権濫用しやがったな・・・」

 

 そう呟くと、深い溜め息をついた。実は、悠のクラスに現・生徒会副会長ーーー海原春樹という奴がいるのだが、そいつがこれまた面倒極まりない。自分のクラスと悠達クラスメイトの事を一番に考える奴なのだが、まぁそこはいいのだ。問題は他クラスに関してである。

 何しろこの男、自分のクラスと悠達クラスメイトには滅法甘く、「他クラスの事など知らないな。俺とクラスメイト達が良ければ俺にとっては他の事など些事だ。」とナチュラルにディスった挙げ句、部費などの面で厳しく当たってさらに相手の首を絞める奴なのだ。

 天然なので悪いという自覚がないし、そのために反省もしない。要するに超絶質が悪い。しかも悠を除いた大半のクラスメイトは自分達がいい思いを出来ているのでむしろ称え上げてしまい、尚更手がつけられないという悪循環。

 

 「何だ、やけに物々しい装備をつけていると思えば双月か。」

 

 と、不意に背後から声がかかる。振り向いてみれば案の定、件の海原がやたら書類の入った分厚いファイル片手に歩み寄ってくるところだった。

 

 「お、帰ってきたか。悪いなー、色々と頼んじゃって。運営委員会には話通してもらえたか?」

 

 「あぁ、バッチリだ。きっちりと筋道立てた説明をして納得させてきたぞ。ただ、規模が規模だからな。シフトに関してはクラス人数を半々ずつで回す事になるんだが、構わないか?」

 

 「おうよ。確か一般開放は8時から18時までだろ?半々だとしても5時間くらいだしどうって事ねぇさ。」

 

 悠を尻目に、そう言うとクラスメイト達は興奮気味に話し合いながら店の準備を進めていく。その様子を見守りながら、何やら書類を書いている春樹へ歩み寄っていくと、彼が口を開いた。

 

 「出来れば俺も手が空けばいいんだがな・・・こちらはこちらで生徒会として当日は色々やらなければならん。出来れば双月が代わりに入ってくれると助かるんだが、何とかならないか?」

 

 「生憎と、俺は警備時間が午前中から午後まで跨ぐから無理だ。それに俺とお前を抜いても30人いるんだから、午前と午後の半々で分かれても15人いるし回していけるだろ。つうかそもそも、話を聞く限りじゃこの規模で店をやりたいって言ったのあいつらなんじゃないのか。」

 

 悠がそう言うと、春樹は珍しく本気で呆れた溜め息をついた。

 

 「流石に今回ばかりは俺もどうしたものかと悩んだがな・・・。あいつらが楽しそうに話し合っているのを見ていたら、無下にするわけにもいかなくなったんだ。自分で言うのもアレだが、ようやく自覚できたよ。何と言うか、俺はつくづく近縁の事になると甘いらしい。」

 

 「今更やっとか・・・俺や一部の奴等はとっくに気付いてたぞ?本人が自覚できなきゃ意味がないって事で黙ってたけどさ。」

 

 「ぬぅ・・・」と苦い顔をする春樹を見ながら、悠は深い溜め息をついた。その顔を店の方へと向けてみれば、騒がしく話し合いながら楽しげに準備を進めていくクラスメイトの姿がある。

 

 「・・・ま、こういうのが1つくらいあってもバチは当たらないだろ。最近は何かと物騒だからな、こういう光景があっても悪くはない。」

 

 そう呟く悠の顔はどこか安堵しているようで、しかしどこか無理をしているように見えて。その顔を見た春樹は、何となく不安を覚えたものの、結局言葉には出さなかった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 外縁を取り囲むように存在する港湾エリアは、その名が指す通り港としての役割に特化している。その用途は主にアスタリスクが存在する湖の岸側にある衛星都市や空港から物資を貨物船で搬入する事であり、現にエリア内には巨大な倉庫やクレーン、そして照明用の街灯がたくさんあるという(夜吹談)。

 ここに来る事が出来るのは、港湾エリアと学園敷地の間を隔てる幅長の水路を泳ぐか、貨物船を利用した都市部から学園地下を通って繋がる車両ルートか、あるいは学園内部から繋がる地下道くらいのものだが、車両ルートは学園から許可を受けた車両しか通れない決まりであるため、必然的に学生が港湾エリアへ行こうとすれば学園内部から地下道を通っていく事になる。

 

 「しっかしまぁ、本当にこんな場所があるとはなぁ・・・隠匿のためとはいえ、大掛かりが過ぎるだろ。」

 

 そんな事を呟きながら、悠はオレンジ色のランプで照らされた自動搬送レールに併設されている道を進んでいく。この地下道は元々、星導館の専門スタッフが使用しているものであり、何故か学園案内図からも消されているなど徹底して隠匿されているものだ。悠がここに入ってこられたのはひとえに、夜吹が協力としてこの通路の位置を教えてくれたからだった。

 カツン、カツンと、足を踏みしめる度に靴音が響く。一見すると不用心に見えるが、悠はその道が「少なくとも今は」安全である事を知っていた。

 

 (まさか絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力を索敵に使う事になるとは思ってなかったが・・・まぁ使わないよりはよほど安全だしな。)

 

 そんな事を考えながら、安全を確認済みの通路を迷い無く突っ切っていく。そうして、僅かながら見えてきた光を目指して行くと道が僅かずつ上に上がっていき・・・不意に視界が開けた。

 

 

 「・・・予め聞いてはいたけど、まさかこんなとは・・・。」

 

 そう呟くと、周りを見渡してみる。夜吹の言う通り、港湾エリアは悠達学生が知っているものとは一線を画する雰囲気だった。

 周りは巨大な倉庫とコンテナに囲まれ、そのコンテナを運ぶためのクレーンが見る限りでも相当にある。貨物を運搬する車両用の道路が整備され、それを囲むように等間隔で街灯が設置されていた。その雰囲気はどこか暗く、学園内とはやはり違うものだ。

 

 「・・・さて、そろそろやるか。今までとは違って、範囲も必要な星辰力(プラーナ)も大分跳ね上がるんだが・・・まぁ、やるしかないよなぁ。」

 

 そういうと、背中の鞘から黒い方の発動体ーーー絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を抜き放った。星辰力(プラーナ)を込め、その刀身を顕現させる。

 

 「・・・ふんっ!!」

 

 そして・・・稼動状態(アクティブ)へと移行した絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を逆手に持つと、地面に突き立てた。同時に星辰力(プラーナ)を込め・・・絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力を、港湾エリア全体を対象に顕現させる。

 

 「()()。」

 

 たった一言、そう呟いたその刹那。絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の刀身から波動が放たれ、港湾エリア全体を撫でていく。それは確実に港湾エリアを走り抜け・・・()()()()()()()()

  

 「万物の絶断」。森羅万象、質量の有無、物理性・概念性を問わず、悠が対象としたあらゆる物を絶ち、切断する。それが絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力だ。

 質量を持った物体は勿論のこと、魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)の能力や純星煌式武装(オーガルクス)の能力のような形を持たないエネルギー的物体や、概念的物体までも原理的には斬り壊す事が可能である。というか、悠は既に魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)の能力による攻撃を破壊する事でそれを証明している。

 

 悠がこの日、星導館学園全域でやっていたのは絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力を用いた徹底索敵だ。魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)至上主義者達がそう呼ばれ、かつ彼ら自身その名を公言しているのは、彼らが自分達の優位性・能力の絶対性に自信を持っているから。だからこそ、悠はその思考を利用した。

 何か仕掛けているとすれば、それは能力により仕掛けられた物。なぜなら、奴等は自分達の能力を絶対視しているから。だからこそ、悠は絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力で広範囲に「破壊」の力を走らせた。

 

 その反応を悠が知覚するのと同時に・・・嫌な感覚が走る。絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を引き抜きつつ横っ飛びをするようにその場を飛び退くと、悠の横にあったコンテナの上から飛んできた人影が、先程まで悠がいた地面を叩くように斬った。さながら、全力の"雷槌衝"を食らったかのように地面に亀裂が入り、表面だけとはいえ強化コンクリートを粉砕する。何とかそれを回避し、体勢を立て直した悠が見たのは・・・異様な存在だった。

 漆黒の鎧に身を包んだ、中世に存在したという「聖騎士」を思わせる風貌。顔は兜に隠れていて見えず、兜に空いている横長のスリットから微かに見える中身は暗く、虚ろ。全身からどす黒い癪気を放ち、その手に同じく漆黒の大剣を持っている姿は鋭い威圧感をもたらしていた。この場合、どちらかと言えば「暗黒騎士」と言った方が良いだろうか。

 

 (何だ、こいつは・・・!?魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)の能力で生み出された存在ならさっきので消滅させられてるはず・・・純星煌式武装(オーガルクス)だとしても同じことだ・・・だとしたら、こいつ・・・!?)

 

 そこまで考えた所で、悠は思考を止めると舌打ちしながらも腰から2本の刀を引き抜いた。眼前では全く同じ風貌をした騎士が悠の四方八方、コンテナの陰から次々と現れてくる。

 

 「くっそ・・・いくら何でもこの数はハンデ有りすぎだっての・・・!」

 

 そう毒づきながら、何とか切り抜けようと刀を構えた時。突如として頭上から火球が降り注いだ。それが悠を囲むように迫ろうとしていた騎士達を巻き込み、爆発を起こす。咄嗟に腕で守った顔を上げると、空から見知った少女がゆっくりと降下して来ていた。その手に吊り下がるようにして、姉もいる。そして、その傍らにもう一人。

 

 「悠君っ!!」

 

 降り立つや否や、食いぎみに抱きついてくる。顔をとそのいきなりの行動にこの中で一番動揺していたのは、紛れもなく悠だった。だって、目の前にいるのは・・・本来ここにいるはずのない少女ーーーシルヴィアその人だったから。

 

 「何で、ここにいるんだよ・・・!?いや、ていうか何でここに来た!?」

 

 「悠君が危ないと思ったからでしょ!?」

 

 シルヴィアの剣幕に、悠は言葉を失う。よく見れば彼女の目尻には涙が滲んでいた。

 

 「・・・ごめん。」

 

 「・・・私、言ったよね。悠君に守られるだけは嫌だ、私も皆も悠君を守るって。・・・だから来たんだよ。」

 

 そう言って目尻を拭うと、シルヴィアは周りを振り返ってから、腰に提げていた2つの煌式武装(ルークス)を起動するとスタンドマイクの形をした愛用武装ーーー銃剣一体型煌式武装(ルークス)・フォールクヴァングへと変える。新手の登場に警戒してか、距離を詰めてこなかった騎士達が剣を構え直した。

 

 「お前は独りで頑張ろうとしすぎだ。少しは周りを頼れと言ったろう。」

 

 と、ユリスが呆れるように言い。その横で、姉が険しい顔をしながら同じく純星煌式武装(オーガルクス)の切っ先を騎士達へと向ける。

 

 「全部が終わったら後で説教だからね、悠。」

 

 「・・・分かったよ。」

 

 少し小さく溜め息をつくと、悠は両手に持っていた刀ーーー「村正」と「村雨」を構え直すと、星辰力(プラーナ)をありったけ込めた。それに呼応するように、村正の刀身は虹色に、村雨の刀身は紫色に輝き出す。

 

 悠や光は勿論、9代目以降の代々の双月流当主すら知らなかった事だが・・・この2本は、ただ鉄を打っただけの物とは根本からして異なる。その刀身を構成しているのは、ウルム=マナダイトの原石・・・それを加工した物なのだ。「神腕」と称された9代目だからこそ出来た事であり、ウルム=マナダイトそのものを武器として転用するなど、現代の落星工学理論で言えば「まずあり得ない」滅茶苦茶な技法である。しかし、ウルム=マナダイトを武器として転用した、という意味では「世界で最初に生み出された純星煌式武装(オーガルクス)」と言えるだろう。まぁ最も、此方の場合は現代の純星煌式武装(オーガルクス)の形式や理論である「ウルム=マナダイトをコアとして、星辰力(プラーナ)を元に刃等を展開する」という物とは異なるため、より正確に言うのであれば「擬似純星煌式武装(オーガルクス)」と言った方が良いかもしれないが。

 

 敵対態勢である事を確認してか、騎士達が先程とは比較にならないほどの殺意を癪気と共に振り撒く。だが、それに臆するものは誰一人としていない。

 

 「分かってると思うけど、無茶だけはしないでね。バックアップは私がやるから。」

 

 シルヴィアの言葉に小さく頷きながら、目線だけ背後に向ける。見れば、姉の背後を守るようにユリスがいた。どうやらあっちも二人一組(ツーマンセル)を取ったらしい。

 

 『Aaaaaー!!』と、凶器に満ちた咆哮を上げながら騎士達が突進してくる。それと同時に、悠達も動き出した。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 剣を振り上げた騎士の胴体を村正で斬り飛ばし、空かさずその後ろからさらに迫っていた騎士の右肩へ村雨を叩きつける。がら空きになった左脇へ迫ってくる騎士をシルヴィアが蹴り飛ばし、別方向から駆けてきていた複数の騎士目掛けて銃砲型煌式武装(ルークス)をぶっ放す。間を掻い潜るようにして迫ってきた騎士達を確認するや否や、即座に立ち位置を入れ替えるように動きつつ悠が村正で胴体を袈裟懸けに斬り裂き、シルヴィアはブレード型煌式武装(ルークス)で騎士の剣を受け流しつつその顔面に零距離砲撃を叩き込む。

 アスタリスクに来てからは顔を合わせる事の無かった二人だが、その連携は完璧と言っても遜色ないものだった。連携した動き自体は元々孤児院にいた頃、「先生」との実戦訓練の中で鍛えさせられていたのだが、その感覚を二人とも忘れていなかったらしい。

 

 「シルヴィッ!!」

 

 悠の一声を合図に、互いにバックステップで間を開ける。直後、二人を狙って突きの構えと共に走り込んできていた二人の騎士が派手にぶつかり合った。鎧同士がぶつかり合い、ガシャガシャと耳障りな金属の衝突音を立てる。

 その二人目掛けて、バックステップから再度前進してきた二人が交差するように刃を振るう。それにより、体が重なりあうようにして密着していた騎士達の身体は真っ二つに両断された。

 

 『Uuu・・・aaaa!!』

 

 やられっぱなしでいる事に業を煮やしたか、騎士達が狂気に満ちた咆哮を上げ、剣を振り回しながら襲いかかってくる。それに臆する事もなく、悠とシルヴィアはそれを迎え撃った。

 

 ・・・正体不明の、中世の鎧を纏った騎士。それを生み出した者は、大きな間違いを犯した。

 1つ、双月悠という人間の力を見誤った事。ただ他より力が強いだけで、他の星脈世代(ジェネステラ)と大差はないと過小評価した。彼の剣の根底にある物ーーー元々持っていた天錻の才、実戦鍛錬の中で鍛え上げられた戦闘技術と生き残るための能力・・・そして何より、「大切な者を守る」という、鋼の如き意志の強さ。それらを見誤った事。

 2つ、双月悠とシルヴィア・リューネハイムの絆の深さ。確かに双月悠にとってシルヴィア・リューネハイムという少女は、彼が守りたいと願う「大切な者」であるし、シルヴィアにとって双月悠という少年は、決して失いたくない「大切な者」である。しかし、彼らの関係は・・・その繋がりは、決してそんな単純な物ではない。彼らはお互いをよく知っているが故にこそ「互いに守り、守られる」関係なのだ。互いをよく知り、互いの実力をよく知っているからこそ、安心して背中を任せられる。その点、魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)至上主義者達がシルヴィア達をダシに悠を狙ったのは悪くない手だったと言えるだろう。最も、手を出した相手が悠という時点で手痛い報復を受けるのが見えきっていたが。早い話、彼らの心の繋がりは並大抵の物ではないという事を見過ごしたのだ。その時点で、彼らが倒そうと思って倒せる相手では無くなっていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 シルヴィアと連携して騎士達を容赦なく薙ぎ倒していく悠を横目に見ながら、光は迫ってきた騎士の首を斬り飛ばした。二つに分かれたそれは、鮮血を散らすこともなく地面に落ちると星辰力(プラーナ)に戻って霧散していく。

 

 (・・・やっぱりね。解呪の耐性を持たせた星辰力(プラーナ)製の人形だわ。しかも、実体を持った素体じゃなくイメージで作ったモノ。絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力でも壊せなかったところを見ると、相当強固な強化付与(エンチャント)で耐性を与えてるわね。ここまでの強化付与(エンチャント)が出来るなんて・・・。)

 

 ユリスの援護を受けながら騎士達を適宜打ち倒し、あるいは消滅させながら光は敵の分析を進めていく。

 

 (でも、物理的な攻撃で倒せているって事は物理耐性までは付与されていないって事。能力耐性だけを付与した所を見るに、これを作った相手は能力の脅威性を重視していると考えられる。・・・まぁ、そういう所から考えても十中八九これを作ったのは魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)よね。)

 

 そんな事を思いながら、背後から迫ってきていた騎士のどてっ腹目掛けて逆手に持った鐵花の魔剣(ブレイヴ=スレイス)を突き込む。星辰力(プラーナ)の核を直接破壊され、騎士はあっけなくその身体を霧散させた。

 気付けば、最初こそ彼らの周囲をこれでもかと囲っていた騎士達の姿は見る影もない。少し離れた場所では悠とシルヴィアが互いを労いあっている所だった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「お疲れ様、シルヴィ。」

 

 「うん、悠君もお疲れ様。・・・にしても、変な敵だったね。」

 

 「そうだな・・・。」

 

 周りを見渡しながら、そう同意する。周りには、あの騎士達がいたという痕跡の欠片すら見当たらない。強いて言うのであれば、戦闘中についた地面の破損くらいか。

 

 「能力耐性を付与された、星辰力(プラーナ)製の人形よ。絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の能力で破壊できなかったのも、恐らくそれが原因。」

 

 「人形、って・・・どういう事だ。」

 

 そんな事を言いながら歩み寄ってくる姉に、悠はそう聞き返す。

 

 「原理的には、アレと同じよ。ほら、悠の友達の・・・高原実里さんだったかな。あの子が持ってる純星煌式武装(オーガルクス)の原理と同じ事。

 星辰力(プラーナ)を材料に見立ててから、そこに自分のイメージを合成して作り出す幻想人形(フィクション・パペット)よ。ちなみに、この幻想人形(フィクション・パペット)はイメージさえしっかりしていれば、原理的には神話生物だろうが何だろうが作れるわね。」

 

 「幻想人形(フィクション・パペット)・・・そんな物を出してくるなんて・・・。」

 

 シルヴィアが驚いたようにそう呟く。そんな時、不意に悠が振り向くと刀の切っ先を虚空へと向けた。その切っ先が指す先、巨大なコンテナの影へと低い声を放つ。

 

 「聞き耳立てて、さっきから気味悪いんだよ。用があるなら正々堂々と出てきたらどうなんだ。」

 

 「・・・ほぅ。意外にバレないものと思っていたが、気付かれたか。流石に他の者が警戒するだけはある、という所だな。」

 

 悠の声に反応して現れたのは、長身痩躯の男性。さほど年はとっていないが、左目には大きな刀傷があり、それを覆うように黒い眼帯が巻かれている。黒ずくめの服装も相まって、いかにも暗部の人間らしい雰囲気を漂わせている。

 

 「・・・ふむ。一体どんな奴かと見に来てみたが・・・顔に似合わず歯応えはありそうだな。まぁ最も、あの人達の息子であれば当然と言えば当然だろうが。」

 

 そう言うと、鋭い眼光で此方を見てくる。シルヴィアとユリスが微かに後ずさったのを、悠と光がそれぞれ半身で庇うようにしながら睨み返す。

 

 「何を言ってるのかよく分からないし、どうでもいいけどさ・・・1つ答えろよ。あんた、何であんな連中に手を貸してる訳?」

 

 悠の問いに、男性は顔色こそ変わる事は無かったが、声音を鋭いものに変えた。まるでそれは、触れられたくない過去に触れられたようで。

 

 「・・・そうだな。お前達にも関係ある事だ、話してやろう。

 昔、まだ俺がここの学生だった頃、敬愛していた先輩がいた。二人とも境遇は違ったし所属も違ったが、そんな事はどうでもよくなる位にお似合いの二人だったよ。」

 

 そう語る男性の声音は、段々と高揚していった。自慢話でもするかのように、高らかな声で話を続ける。

 

 「俺もよくその二人に同行させてもらったものだったよ。大抵は二人だけで甘ったるい雰囲気になるのが常だったが、そんな光景こそ俺にとっては何よりの報酬だった。

 俺が、誰よりも敬愛していた先輩ーーー双月三咲と、真田孝弘。本当に、素晴らしい二人だった。戦闘技術だけじゃない、人としても、とてもじゃないが盆俗共とは違う領域にいると思わせる、そんな二人だった。」

 

 その名前を聞いた瞬間。悠と光の表情が固まり、その身体が強張った。対称的に、シルヴィアとユリスは怪訝そうな顔をして二人を見やる。

 

 「何であんたが父さんと母さんの事を知ってる・・・!!」

 

 一瞬の後、悠が今まで見せた事もないような形相で男性を睨み付ける。男性の方はと言えば、静かにそれを受け止めるだけだった。

 

 「言っただろう。先輩後輩の仲だよ。・・・あぁ、そう言えば。まだ、お前の質問に答えていなかったな。

 俺があんな連中に手を貸す理由は、ただ1つ・・・()()()()()()復讐だよ。」

 

 「なっ・・・!?」

 

 その言葉に、悠と光は揃って言葉を失う。それも当然と言えば当然だ。素性も知らない人間に自分達が知らない両親の事を話された挙げ句、二人を殺した魔術師(ダンテ)魔女(ストレガ)至上主義者達に肩入れする理由が二人のための復讐などと言われれば混乱だってするだろう。

 

 「実の子供のくせに、何も知らないんだな。呆れて物も言えん。・・・知りたければ、真田家とクインヴェールの学内カウンセリング記録を調べるといい。それで全てが分かるだろう。」

 

 そう言うと、男性は踵を返して背を向けた。直後、その眼前に不可思議な穴が開く。その先には、薄暗く狭い通路が見えた。

 

 「待て!!何処に行くつもりだ・・・!!」

 

 「そう焦る事もない。どうせ直ぐに顔を合わせる事になる。

 ・・・その時に俺の邪魔をするのなら・・・お前達があの二人の子供だろうと関係なく、殺す。」

 

 それだけ言うと、今度こそ穴の向こうへと姿を消してしまう。さっきまで穴が開いていた空間が何事もなく元に戻るのを見ながら、姉がポツリと呟いた。

 

 「・・・どういう事よ、今の言葉・・・。」

 

 そんな声を聞きながら、悠とシルヴィアは思う。

 

 (『復讐』したくなるほどの出来事・・・一体、あいつと二人との間に何があった・・・!?)

 

 (あの人が悠君に敵対している理由に、悠君と光さんのご両親が関係している・・・!?)

 

 

 




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
まず、こちらの都合で投稿が延期になってしまい申し訳ありませんでした。慎んで謝罪致します。
続いて近況報告を。といっても1つしか無いのですが、実は4日前に機種変更をしました。これまで使っていた機種の、最近出たスペックが高いバージョンにしたんですが、中々スマートに動くので感動ものです。

さて、本編ですが。最期の方で重要なカミングアウトをさせてもらいました。これが後で大事になります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。次回も気長に待っていただければ幸いです。

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