学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。長々とお待たせしてすみませんでした。第16話でございます。
悠の方は努めて静かな感じにしていきたいなぁと。





第16話 寄り添いと静穏、悠の覚悟

 

 

 「てか、思ったんだけどさ。悠のお姉さんってブラコン?」

 

 「ぶふっ!?」

 

 と、いきなりな夜吹の爆弾発言に悠は危うく食事を喉に詰まらせかけた。横から自然な流れで差し出された水をもらって飲み干すと、夜吹を非難げに見やる。

 

 「いきなり何言い出すんだよ、夜吹・・・危うく喉に詰まるとこだったじゃないか。」

 

 「いやぁ、何かなぁ。お前ら見てるとただの姉弟に見えないんだよ。やり取りとか、接し方とか。」

 

 そう夜吹が言うと、悠の横で山盛りのご飯を頬張っていた光がふてった顔をした。・・・口にありったけのご飯を詰め込みながら。

 

 「ふぃふへひな。ひょっふぉふぉくふゅなだけでけんふぇんなきょうだいあいだよ。」

 

 「頼むから口に物入れながら喋んないでよ、汚い。あと何言ってるか分かんない。」

 

 すると、光はご飯を飲み込んでから改めて、

 

 「失礼な、特殊なだけで健全な姉弟愛だよ、って言ったの。おーけー?」

 

 などと言った。その発言に、悠は激しく溜め息をつく。ユリスと夜吹はと言えば、何とも言えない曖昧な表情だ。

 

 「特殊な、って時点でブラコン認めてるようなものじゃん・・・しかも姉弟愛って言ったってほぼ一方通行だし。てか、何で最後ひらがな英語・・・?」

 

 「英語苦手だし、あと日本人だからねー。英語なんて話せなくても問題なし!」

 

 「いや問題大有りだろ!?色んな場所から学生が集まるアスタリスク(ここ)で外国語話せなくてどうすんのさ!?コミュニケーション困るよ!?」

 

 「だったらコミュニケーション取らなきゃ無問題じゃないかなー?」

 

 「現実的に考えて無理だろ!?てか、コミュ障の姉とか何それ嫌だ!」

 

 ・・・とまぁ、こんな具合だが。そんな風に話す悠は、二人もよく知っている、『どこか抜けていて、よくぼけーっとしているツッコミ役、可哀想な苦労人」の悠だった。

 

 「悠、ちょっと落ち着けよ。ここ食堂だぞ、食堂。」

 

 「・・・あ。」

 

 と、ようやく自分が今いる場所を思い出したのか、周りを見渡してから、苦笑いでペコペコ頭を下げる。

 

 「ちくしょう、話に乗るんじゃなかった・・・嵌められた・・・。」

 

 「いや、そんなつもりは無かったんだけど・・・?」

 

 と、きょとんとした顔でそう言う姉をジト目で見つつ、悠は座り直すと残っているハンバーグ定食をかきこんでいく。やはりというか何というか、ユリスと夜吹はどう入っていけばいいか分からず、曖昧な表情で二人の様子を見守っていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・じゃ、また明日ね。ちゃんと寝るのよ、悠。」

 

 「分かってるよ。心配しなくても、夜更かしなんかしないって。」

 

 「本当かなぁー・・・。」

 

 ぐいー、と思いきり顔を近づけて、光が悠の顔を覗き込んでくる。それを押し退けると、悠は「おやすみ」とだけ言ってさっさと男子寮の方へと戻っていってしまう。その背中を見ながら光はむすっとした顔をし、ユリスはユリスで悠の背中を見ながら溜め息をつき、夜吹は悠の後を追って男子寮へと帰っていった。

 

 

 「お前、大分大事にされてんな。羨ましいわー。」

 

 「大分ってか、あれは過保護の部類だと思うけどね・・・てか、羨ましいって言うけど、夜吹って一人っ子なの?」

 

 食後の運動も兼ねて、男子寮に戻ってきた二人は5階までエレベーターを使って上がりながらそんな会話をしていた。まだ夜吹の中では「悠の姉のブラコン話」は終わっていなかったらしい。

 

 「いや、一応姉貴が居るっちゃあ居るんだがな。あんまし仲良くないんだわ。ちょっと実家の環境がアレなもんでな・・・」

 

 あー・・・、と納得と同情の入り交じった表情で悠は頷いた。家の事情ともなれば、確かにそうなっても仕方がない。その場の環境というのは、自分達が思っている以上に影響が強いのだ。

 

 「・・・悪い、あんまし話したくないよね、そういうの。ちょっと無神経だった。」

 

 罰が悪そうに悠がそう言うと、夜吹は何でもなさそうに笑う。

 

 「まぁ、気にすんなよ。正直、実家とはほとんど付き合いないからな。一人の方が気楽で助かるし。・・・と、着いたぞ、5階。」

 

 話し込んでいる内に、何時の間にやら5階まで上ってきていたらしい。5階の階段口を出て、自分達の部屋へと戻ってくる。指紋認証をパスして中に入ると、自動でエアコンと電気がついた。

 

 「夜吹、俺先に風呂入ってくるから。留守番よろしくね。」

 

 「はいよ。俺はまだやる事あるし、ゆっくり入ってこい。」

 

 そう言って、着替えの寝巻きと入浴用品を抱えて部屋を出ていく悠の背中を見送ると夜吹は枕元にあったPCを手元に持ってきて起動した。さらにポケットから携帯端末を取りだし、姉から渡された例の名簿ファイルを開く。同時に、PCではアスタリスク行政府が公開している行政府職員の名簿一覧を開いていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・で、ここが定数だからこの数字を代入する、と。これが基本式だからね。定数とか代入とかは、他の分野でも使うから覚えておくように。」

 

 ーーー翌朝。教室に、教師の声が静かに響く。その窓際の席で悠は授業を聞きながら、頭では別の事を考えていた。

 

 『手術が終わり次第、こっちから連絡を入れておくから。受付にも言ってあるから、学校終わりにでもお見舞いに来たらいいよ。』

 

 昨日の帰り際、月峰医師に言われた言葉を思い返し、悠は放課後に第一病院に行く事にした。シルヴィアとペトラさんは手術があるからすぐには無理かもしれないが、少なくとも実里とイリアさんからは何があったか話が聞けるだろうからだ。

 

 (流石に星猟警備隊(シャーナガルム)とW&Wは動いてるだろうし、銀河も疑惑晴らしに躍起になってるからなぁ・・・面倒くさい事にならなきゃいいけど。とりあえず、叔母さんと姉さんには一言言っておかなきゃ・・・)

 

 「・・・じゃあ、ここは悠にやってもらおうかな。おーい、悠ー。」

 

 「・・・え?あ、はい!」

 

 いきなり指名されて、若干焦りぎみに返事をする。ちなみに案の定間違いをし、授業後に先生にやんわりと叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「聞いたぞー、悠。お前、朝イチの数学でさっそく叱られたらしいじゃん。クラスメイトが笑ってたぞ。」

 

 時は変わって、昼休み。いつも通り学食に来た悠達は、列に並びながらそんな会話をしていた。内容は相も変わらず、他愛もない馬鹿話である。

 

 「ほんっと、そういう情報には耳が早いよね夜吹は。しょうがないじゃん、立て続けに色々あったから頭の整理が追い付かないんだからさ。そりゃ脳内フリーズもするよ。」

 

 「お前の脳内フリーズはいつもの事じゃね?」

 

 「失礼な。ぼーっとしてるのは別の事考えてるからであってフリーズしてるわけじゃないぞ。」

 

 「似たようなもんだろ。つーか眠い・・・」と言いながら、夜吹は大きな欠伸をした。また夜更かしをしたらしい。

 

 「人に夜更かしするなって言っといて自分は夜更かしするとか、夜吹って本当に意味わかんない事するよねぇ・・・あ、おばちゃん、ハンバーグ定食のご飯大盛お願い。」

 

 夜吹にそう返しつつ、順番が来たのでいつものを注文。このおばちゃん、悠がいつも同じ物を頼むからか顔を覚えられたらしく、注文が言い終わらない内にオーダーを伝えている。

 

 「いっつも同じ物ばっか食べてると栄養が偏るぞ。たまには他のも食べたらどうだ・・・。」

 

ユリスが呆れ気味にそう言うと、夜吹が同意するようにうんうんと頷く。いつもの和食定食を頼む夜吹を横目で見ながら、夜吹にだけは言われたくないなぁと心底思う悠であった。

 

 

 「お、いつもの席はやっぱ空いてるな。ラッキー。」

 

 しめた、と言わんばかりに夜吹が駆け寄っていき、席を確保する。ちょうど窓際の席であり、中庭がよく見えるので3人は好んでよくそこに座っている。何故かは知らないが、学食や寮の方に隣接する大食堂が満杯になる事はほとんどないので悠達は毎回確実にその席を確保出来ていた。

 

 「そう言えば、悠。今日の放課後はどうするのだ?」

 

 焼き鮭を食べながらそう聞いてくるユリスに、悠はシルヴィアの手術がある事と聞きたい事がある旨を伝えると、彼女は納得した表情で頷いた。

 

 「まぁ、何はともあれ無事に済みそうで良かったじゃん。」

 

 「まぁね。とりあえず、今日は病院に見舞いに行くつもり。ちょうど気になる事も出来たし。」

 

 そう言うと、悠は気合いをいれるかのように、茶碗に残っていたご飯を頬張った。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・要するに、コロンブスって人は確かに開拓者としての一面があるけど、同時に征服者としての一面があるのも事実なんだ。アメリカ大陸の発見者って部分がクローズアップされがちだけどね。・・・と、時間かな。明日はこの続きからやるから、教科書とプリントを忘れずにね。じゃ、今日は解散。寄り道しないようにね。」

 

 6限目の世界史の授業が終わり、担任が教室を出ていくと周りの学生は口々に喋りながら帰りの準備を始めた。そんな中、悠もさっさと荷物を纏めると携帯端末で姉と叔母に病院に行く旨をメールで伝えてから、寮には直接戻らず徒歩でアスタリスクの中央区へと向かっていった。

 

 『あぁ、双月君か。シルヴィアさんとペトラさんの手術は無事に終わったよ。今、ちょうど電話しようと思ってたんだ。』

 

 「そうですか・・・ありがとうございます。それで、今から見舞いに行きたいんですけど、大丈夫ですかね?」

 

 『あぁ、大丈夫だよ。シルヴィアさんとペトラさんの麻酔は直に切れるし、他の二人はもう目を覚ましてるからね。』

 

 「分かりました。ありがとうございます。」と、そう言って通話を切る。星導館は言わずもがな、各学園がそれなりに敷地を持っているため、中央地区まで徒歩で行くとなると少しばかり時間がかかるのだが悠にとっては対した距離ではない。

 そもそも目的地である第1病院は外縁居住区内にあるため、中央区の商業エリアにある第2病院に比べればかなり近い方である。そして、今悠が歩いているのは学園敷地とアスタリスク市街地を繋ぐ鉄橋。それさえ渡ってしまえば、第1病院はほぼ目と鼻の先だ。逸る足を何とか抑えつつ、ゆっくりと鉄橋を渡っていく。

 

 

 鉄橋を渡りきり、居住区に建ち並ぶ家々を通りすぎていく内に真っ白な建物ーーー第1病院に辿り着く。昨日の今日だからか、見舞いに来たらしい人が大勢いた。その人々の間を縫うようにして受付へ辿り着くと、605号室に見舞いに来た旨と面会証を見せる。

 あっさりと通してもらえ、エレベーターで6階に上がった所でシルヴィアの病室から出ていく黒服の二人が見えた。大体の正体は予想がついたが、あえて無視して通り過ぎようとする。

 が、流石に相手が相手。そう簡単にやり過ごせる訳が無かった。

 

 「・・・そこの君。」

 

 「・・・何ですか?」

 

 背後から呼び止められる。先程すれ違った黒服の二人が、訝しむように自分を見ていた。その胸には、ある統合企業財体のマークが小さく刺繍されている。

 

 「W&W所属の方が、何か用ですかね。大変な状況なのに、こんな所で油を売ってる場合ですか?」

 

 無意識にではあるのだが挑発的にそう言うと、片方が露骨に不機嫌な顔をした。それを制止し、もう一人の黒服が言葉を返す。

 

 「その大変な状況を何とかするためにここに来た。一通り状況確認は終わったからね、今から本部に報告に行く所さ。・・・ところで、君はここに何の用だ?」

 

 「605号室に見舞いですけど。何か問題が?」

 

 久し振りに統合企業財体の関係者を見たからか、悠の顔は無意識の内に険しく、声音も殺気を帯びた低いものに変わっていた。それに気圧されたからか、片方は身を引いているものの、もう一人の方はその視線を真正面から受け止める。流石に企業財体の関係者だから、こういう人物には馴れているらしい。

 

 「605号室にはW&W(うち)が母体の学園の生徒がいる。見たところ君は星導館の学生らしいが、他学園の生徒がわざわざ見舞いか?」

 

 その発言に、悠はどうしようもなく苛立ちを覚えた。早い話、この黒服達はシルヴィアや実里に余り人を近づけたくないらしい。「シルヴィアや実里はうちが母体の学園生徒なんだから近付くな」、という所か。

 

 「他学園の生徒とか以前に、俺は605号室にいるシルヴィアのライブ関係者なんで。それともライブ関係者程度じゃ見舞いも駄目なんですかね?」

 

 これ幸い、と言わんばかりに悠は念のための身分証明用に持ってきていたライブスタッフ証を見せつけてやる。それを見た黒服は、そのスタッフ証にある顔写真と名前を見ると顔色を変えた。

 

 「・・・双月、悠?」

 

 「これで十分証明にはなるでしょ。早く話がしたいんで、失礼します。」

 

 廊下に棒立ちになっている黒服を尻目に、悠は踵を返すと605号室へと向かっていった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 コンコン、と小さくノックをしてから引き戸を開ける。出迎えてくれたのは、ライブ2日目から警備スタッフをするに当たって色々とお世話になったイリア・フィーリエだった。

 

 「あれ、双月君じゃないですか。わざわざお見舞いに来てくれたんですか?」

 

 「えぇ、まぁ。・・・流石にまだ眠ってますよね、二人とも。」

 

 ペトラとシルヴィアが寝ているベッドがカーテンで囲われているのを見ながらそう言うと、イリアは和やかな表情で頷いた。

 

 「でも、今日中には目を覚ますってお医者様も言ってましたし大丈夫だと思いますよ。ね、実里さん。」

 

 イリアがそう言って、左側のベッドに横になっているもう一人へ声をかけた。悠はそのベッドに寄っていくと、カーテンを開けてやる。

 

 「・・・遅い。」

 

 「悪かったって・・・俺にも学校があるんだからしょうがないだろ。てか、昨日も一応来たんだぞ?」

 

 「昨日なんて、私目を覚ましてもいないじゃない。ノーカンよ、ノーカン。」

 

 むすっとした実里がそう言うのを、悠は苦笑しながら見た。色々理不尽な所や滅茶苦茶な所がいつもの実里な事に安堵する。

 

 「まぁでも、安心したよ。ニュースで重傷だって言ってたから、心配してたんだ。」

 

 「・・・そう。・・・ありがと。」

 

 そっぽを向きながら小さな声でそう言う実里に、悠とイリアは揃って笑う。彼女が顔を真っ赤にしてふて寝に入ると、悠は実里の側を離れてシルヴィアの寝ているベッドへ寄っていき、カーテンを開けると隣に置いてあった丸椅子に座って彼女の寝顔を見た。

 腕の手術をしたからか腕には昨日以上に仰々しく包帯が巻かれ、昨日とは違ってその上から金属とプラスチックで出来た医療用のアームホルダーが付けられている。

 

 「・・・なぁ、実里。あの時、何があったんだ。お前らが事故にあった、あの時。」

 

 「・・・分からない。私はただ、イリアさんの指示で頭を伏せてたから。」

 

 どこか申し訳なさそうな声でそう言う実里に、悠は何も言わない。そもそも、医師から聞いた状況で彼女が状況を知らないだろう事は予想していたから。それでも聞いたのは、念のためという意味も兼ねてだ。

 

 「やっぱり、そうだよな。悪い、分かってて聞いた。・・・イリアさんは?」

 

 「直前までの事なら、覚えてます。多分、対戦車ロケット弾頭でした。発射場所は不明ですけど、恐らくは外縁居住区にあるマンションのどれかからだと思います。誘導性能を持たないロケット弾頭を確実に当てられたのは、そこくらいだったでしょうし、道中地上に待機していたなら流石に気付いていたはずですから。」

 

 眼を瞑り、記憶を辿るようにしながらイリアは思い出していく。それを聞いた実里は、信じられないという顔で絶句していた。携帯端末で録音していた悠は、イリアに礼を言ってそれを音声ファイルに変換するとメールに添付して叔母へ送る。

 それを済ませて携帯端末を仕舞うと、改めてシルヴィアに顔を向けた。実里とイリアはそれを見守るようにしながら、悠達は時々孤児院にいた頃や、クインヴェールに入学した後のシルヴィアと実里の話をする。そうしていると時間が過ぎるのは早いもので、気付けば時間は午後6時を回っていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・じゃあ、そろそろ帰るよ。明日も来るから。んじゃな。イリアさんも、ありがとうございました。」

 

 「当たり前でしょ。シルヴィがまだあんたと話せてないんだから。」

 

 「私に出来る範囲であれば力になりますから。あと、他に気付いた事があればこっちから連絡しますね。」

 

 いつもの調子に戻った実里と、どこまでも気遣いに溢れたイリアの声を背中に聞きながら病室を出る。もうじき本格的な夏だからか、窓の外はまだ若干明るかった。病室を出て、エレベーターへと向かっていく。その脳内に反芻されているのは、先程のイリアの証言だ。

 

 (ロケット弾頭って、確か破壊力抜群の軍用兵器だったよな・・・今時そんなの使う奴、早々いないと思うけど。)

 

 裏では統合企業財体同士の殺し合いが起きているアスタリスクだが、表向きそれが問題にならないのは統合企業財体同士が事後処理を素早く済ませるため、銃火器など事後処理の面倒な破壊をする兵器をほとんど使っていないからだ。統合企業財体について細々とではあるが、色々と調べていた悠はそれをよく知っている。

 

 (だとすると、やっぱり第三者だよな。・・・やっぱりあの連中か。)

 

 あの連中の顔が浮かんだ途端、悠の顔に隠しきれない怒りが露になる。そんな事を考えながら病院を出て、夕焼け色に染まる外縁居住区を星導館の寮目指して引き返そうと足を向ける。

 

 「・・・相も変わらず酷い顔だな、悠。あいつらと接して少しはマシになったかと思ってたが。」

 

 不意に、前方からそんな声をかけられて足を止めた。ゆっくりと顔を上げ、声の主を見る。

 

 「何だよ、その顔。俺が六花(ここ)にいちゃ不自然か?」

 

 道路横に設置されている花壇に腰掛けていた声の主が、そこを離れて悠の方へと歩いてくる。夕焼けの光で露になったその顔は、悠の見知った少年の顔だった。

 

 「・・・別に、不思議ではないけどさ。まさか、アスタリスクに来てるなんて思わないでしょ。俺が六花(ここ)に来る時、お前一緒じゃなかったし。」

 

 「そりゃそうだ。俺は別便だったし、それにお前とは違うとこに入ったんだから。」

 

 「それが寄りにもよって、何でレヴォルフなんだか。よく入る気になったよね・・・剣也。」

 

 悠がそう言うと、レヴォルフ黒学院の制服を着崩した少年ーーー水無月剣也は小さく肩をすくめた。名字こそ同じだが、栞とは義理の親子だ。確か、栞曰く孤児院に悠が来る2年前に孤児になったのを栞が息子として育てているという事だった。

 

 「正直、俺みたいに一人の方が好きな奴にはレヴォルフみたいな雰囲気の方が合うんだよ。ガラードワースとかクインヴェールは無理だし、界龍(ジェロン)やアルルカントは性に合わねえし。星導館にはお前がいたしな。ま、早い話がレヴォルフくらいしか行くとこが無かったっつう話だ。」

 

 肩をすくめながらそう言う剣也は、不意に険しい顔をすると悠に鋭い目を向けてくる。

 

 「・・・で、これからどうすんだお前。復讐でもするのか?それとも尻尾巻いて逃げんのか?」

 

 「・・・何が言いたいんだよ。」

 

 剣也の言葉が、否応なく悠の神経を逆撫でする。言葉が鋭くなっていくのが自分でも分かった。

 

 「何もなんも、そのままの意味だが。このままあいつら傷つけた糞野郎を放って逃げるか、多少危険を冒してでも復讐するか。それを聞いてるんだ。」

 

 悠を試すかのように、剣也は悠を見据えてくる。言い方に苛立ちを覚えはしたものの、それをどうにか抑えると口を開いた。

 

 「・・・復讐するつもりはないよ。これ以上友達を犠牲にする訳にはいかない。」

 

 「はっ・・・結局逃げんのか。拍子抜けだな。」

 

 嘲るように、軽蔑するように剣也がそう言う。それを睨み付けながら、悠は言葉を続けた。

 

 「でも、逃げるつもりもない。」

 

 「・・・は?」

 

 悠の言葉を、剣也は理解できなかった。復讐はしない、でも逃げない。

 この2つは矛盾している、と思った。復讐はすなわち、悠が両親の敵であるあの連中に立ち向かうと言う事だが、それを悠はしないと言った。

 しかし、逃げるつもりもないというのもおかしな話。立ち向かう事をしないのに逃げる事はしない、とはどういう訳か。

 

 「お前・・・頭おかしいんじゃねぇの?自分の発言が矛盾してる事に気づいてねぇのか?」

 

 「別に、矛盾してないよ。単純に、あいつらの事件の関係者として逃げるつもりはないけど俺個人で直接手を出すつもりもないって話。

 ・・・あいつらと久し振りに会って、改めて思ったんだ。この命は、もう俺一人の物じゃない。俺が復讐をしたとして、その行動によってはあいつらを危険に晒しかねないし。何よりその過程で俺が死んだら、あいつらに辛い思いをさせる事になる。

 そんな事、出来るわけがないだろ。」

 

 それだけ言うと、悠はまた歩き出す。歩きながら一言、すれ違い様に、強い言葉で告げる。

 

 「もう2度と、何も失わないし失わせないって決めたんだよ。」

 

 その言葉に、剣也は何も言わない。ただ、去っていく悠の背中を見送る。その背中が見えなくなると、敵わないとでも言うように、顔を覆いながら空虚な笑いを溢した。

 

 

 




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
今回は全般的に、静か目+新キャラ登場回ですね。ただ、ネタバレになりますが第17話から「六花動乱編」として書いていきます。
この話、一番書きたかったのは「危険から一歩身を引きながらも、やっぱり一人で色々考えて、下手をするとまた危険に自分から飛び込みかねない」双月悠なんですが、上手く伝わっていたら嬉しいです。

というか、双月悠はこういうキャラなんですよね。
大切な人や友人のために体を張る、大切な人や家族とか友人がいなくなる怖さを知っている。けど自分が守ろうとしている相手も、自分がいなくなったら同じような怖さを味わう事に言われるまで気がつかないし、だからこそ自分の身を余り省みない。

今後の展開の中で、そういう悠の人間性において危ない部分を矯正してくれるのが悠の大切な人や友人です。まぁ、名前はいちいち出さずとも分かるでしょう。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。次回もゆっくりしながら待ってくださると嬉しいです。

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