学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。
そろそろ、本格的に書きたい展開に持っていきます。悠達の方が中心になってくるので、ユリス達はあまり出番は無いですかね。

それと、皆様にご報告。
お気に入り登録数が110人を突破しました。登録してくださった方に感謝を申し上げます。また、UAも見てみると、更新とその翌日だけでかなりの方に見てくださっているようで、嬉しい限りです。
では、本編をどうぞ。




第13話 燻る火種

 

 

 悠が実の伯父と睨みあっていた頃、一方のステージでは。

 

 「・・・あれ?そう言えば悠は?」

 

 スタッフ達が機材のセッティングなどを確認・微調整している中、その様子を見ていたシルヴィアと実里が悠の居ない事に気付き、ステージ全体を探していた。

 

 「まさかあいつ、初っぱなから仕事放棄とかじゃないでしょうね・・・。」

 

 「確かに悠君は面倒くさがりな所があるけど・・・でも、割り当てられた事はちゃんとやるよ。孤児院にいた時からずっとそうだったもん。」

 

 実里の言葉をシルヴィアがあっさりと否定する。孤児院でも、引き取り先が見つかった時や自立後に困らないように、孤児院の皆が交代で炊事や掃除などをやらせていた。悠は面倒くさがりこそしていたが、ああだこうだと言いながらもちゃんとやっていたのをシルヴィアはよく知っている。

 

 「だったら何でいないのよ?」

 

 と、実里が聞き返した所で。不意にステージへ入ってきたライブスタッフの一人が真っ直ぐにシルヴィア達の方へ寄ってくる。護身用ベストをつけている所を見るに、悠と同じ警備スタッフだ。

 

 「ちょうど良かった。探してたんですよ。」

 

 その言葉に二人は困惑する。何かあったのかと怪訝そうに二人が言葉を促すと、スタッフはさらに続けた。

 

 「いやぁ、そろそろ交代の時間なんで近くのコンビニでコーヒー買ってきたんですけどね。ここに戻ろうとしたら、会場から出てくる双月君の姿を見まして。何かあったのかと。」

 

 その言葉に、シルヴィアは何となく嫌な感覚を覚えた。実里も同じなのだろう、不安げにシルヴィアへ視線を向けてくる。

 

 「・・・あの。その時悠君、どんな様子でしたか?」

 

 「様子ですか?何か、怖い顔をしてたのは覚えてますけど・・・あぁ、後、誰かを追いかけてるみたいでしたよ。走って出てきた時、息を荒げてるみたいでしたから。」

 

 その言葉を聞いた瞬間。シルヴィアはステージを走り出ていた。一瞬遅れた実里も、急いで後を追う。

 

 「・・・あ、忘れてた。悠その後どこ行ったか分かりますか!?」

 

 「え、えっと、会場入り口横の地下駐車場に入っていきましたけど・・・」

 

 スタッフが言い終わらない内に、実里は一瞬止めた足でまた駆け出した。場所が分かれば十分だ。

 右の階段を駆け降り、会場入り口まで着くと、シルヴィアが入り口の前でキョロキョロと周りを見回していた。その顔には、不安と必死さが滲み出ている。

 

 「悠君、どこ・・・!」

 

 「シルヴィア、とりあえず落ち着きなさい。場所は分かってるから、煌式武装(ルークス)用意してから深呼吸して。悠がやられるわけないじゃない、貴女とも約束したんでしょ。」

 

 「・・・そう、だよね。ごめん、取り乱した。」

 

 そう言うと、シルヴィアは2、3回深呼吸してから両腰のホルダーにそれぞれしまってある煌式武装(ルークス)を起動し、連結させる。そうして彼女の手に現れたのは、彼女の愛用品である煌式武装(ルークス)ーーーフォールクヴァング。煌式武装(ルークス)の中では意外に珍しい銃剣一体型武装で、その見た目は大型スタンドマイクに近い。

 

 「仕方ないわよ。あんな話聞いたら、あいつの過去を知っちゃってる貴女が取り乱すのも無理ないわ。とりあえず、何があってもいいように準備してから行くわよ。」

 

 そう言うと、実里も右手に着けていたブレスレットを外し、それに付いていたリングを右手の指に嵌めていく。そして、同時にそれを起動状態にした。中指に嵌めたリングに埋め込まれているウルム=マナダイトが輝くと、他のリングの全体にも青白い光の線が走り、起動状態になる。これが彼女の純星煌式武装(オーガルクス)ーーー人形師の万能鋼糸(ワイア・オブ・ドールマスター)だ。

 

 「悠君は?」

 

 「地下駐車場よ。あのスタッフが、悠が入っていくのを見てる。」

 

 互いに頷きあい、入り口横の地下駐車場へ繋がる搬入口を見据える。そして二人は、ゆっくりとそこへ向けて歩き出した。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「双月流初闘技ーーー"雷槌衝(らいついしょう)"!」

 

 流星闘技(メテオアーツ)により威力を増し、巨大な刃となったブレード型煌式武装(ルークス)が振り下ろされるのを、2本の剣で受け止める。刃は通しこそしなかったが、悠の手には強い衝撃が伝わってきた。剣の腕や技のキレこそ並だが、それ以上に筋力の差があるせいで悠が若干押される。が、絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)の刃が刀牙の持つ煌式武装(ルークス)を断ち切りに掛かる。

 

 「こん・・・のっ!」

 

 両腕に力を込め、刃を全力で弾き飛ばした。がら空きになった胴体へ、右腕で引き付けた絶煌の魔剣(ヴォルグ=ドラス)を構えつつ一歩踏み込む。

 

 「双月流刹技ーーー"風雷(ふうらい)"!」

 

 そして放たれる、ほぼ同時の3連突き。流石に双月流の鍛練を受けていただけあって、直撃こそ避けられたものの、悠の放った技は刀牙の頬と両脇腹を浅く斬っていた。それはすなわち、刀牙が反応するより悠の技の方が速く放たれたという事。

 

 「・・・なるほど。お前、筋力で技の威力を高めるんじゃなく、技の速度で勝負する方か。」

 

 さらに一歩後ろへ下がりつつ刀牙がそう言うと、悠は体勢を戻しつつ肩を竦めた。

 

 「どっかの過激思想者が暴れてくれたせいで、俺がちゃんとした鍛練受けられたのは9歳までだったからね。ついでに言うと、元々体つき的に筋力に頼るのは難しくてさ。純粋に力で勝てないならって事で、父さんに言われて技と速度をとにかく鍛えるのに重点置いて鍛練をしてたんだ。まぁ、その後色々とあって鍛練メニューが増えたけど。」

 

 「あいつらしいと言えばあいつらしいがな・・・まぁ、俺みたく力に重点置いて鍛練をしてる奴の方が少ないんだが。基本、双月流は速度ありきの技が多いからな。」

 

 そう言うと、刀牙は首に手を回すと擦るような動作をした。そこは確か、彼が大怪我をさせられた場所だ。

 

 「生憎と、この怪我のせいで俺は激しい動きをするような技が使えなくなってなぁ。さっきみたいに手数の少ない、かつ重い技しか使えなくなったのさ。まぁ、それでも。」

 

 と、不意に刀牙が突っ込んできた。右手に握られた煌式武装(ルークス)がうなりを上げながら弧を描くように振るわれる。それを悠は咄嗟に、真っ正面から迎え撃った。

 

 「双月流刹技ーーー"連舞(れんぶ)!"」

 

 両手の剣を交差させ、X字を描くように振るう。ちょうど交差点で重なった二回の斬撃が横薙ぎに振るわれた煌式武装(ルークス)の斬撃を強烈に弾き、その刀身がへし折れて消し飛んだが、力の差で悠の体も強く押し下げられる。

 

 「力があれば、速度ありきの技も工夫して不意討ちの痛打くらいには出来るわな。」

 

 「・・・今の、『狼牙(ろうが)』か。」

 

 「狼牙(ろうが)」。同じく双月流の技の1つで基本の技である初闘技に当たり、本来はすれ違い様に敵の攻撃を弾きつつ斬り伏せる技だ。さっき刀牙が放ったものはアレンジこそ加わっているが、原型は間違いなくそれだった。

 母親から、伯父がかつて双月流の後継者筆頭だった事は聞かされていた。同時に、それを阻止しようとした分家の策謀で彼が怪我をさせられた事も。

 だが、目の前にいる男は決して弱くなかった。むしろ技に工夫が為されている事で、双月流の技を普通に使う相手よりやりづらい。

 

 「さて、まだまだ時間はあるし、続けようか・・・と思ったんだが。肝心の武器は折れちまったしなぁ。それに・・・。」

 

 不意に、刀牙が駐車場の入り口方面を見やった。同時に、

 

 「悠君!」 「そいつから離れなさい、悠!」

 

 と、ここに居ないはずの、少女達の声がする。反射的に顔を向けると、無数の光弾と、何か糸のような物が飛んできた。糸のようなものが悠の腰に絡み付いたと思うと、ぐいっと思いきり引っ張られる。彼が引き離されるのと同時に光弾が刀牙目掛けて飛んでいき、直後に爆発を起こす。

 

 「痛っ・・・!」

 

 半ば強引に引き寄せられた悠は、派手に尻餅をつきながらそんな声を上げた。同時に、彼を背後に庇うように二人が立つ。

 

 「なるほどな・・・そいつらがお前の孤児院関係者って子達か。流石に3対1はやりづらいなぁ・・・。」

 

 そんな声と共に、煙の中から刀牙が出てくる。その体には傷の1つも無い。二人はそれに驚いた様子だったが、悠は気付いていた。刀牙は星辰力(プラーナ)で肉体強化を施すと、光弾を殴り壊していたのだ。

 

 「・・・悠君、あの人、知り合い?」

 

 背中越しに、左手に構えた銃砲型煌式武装(ルークス)の銃口を刀牙へと向けながらシルヴィアがそう問うてくる。その顔は真剣そのものだ。横では実里も険しい顔で刀牙を睨んでいる。その周りには、先程悠を引き剥がしたのと同じ糸のような物で作り出したらしい人形達が剣を構えつつ何体も浮いている。それはよく見れば、星辰力(プラーナ)で構築され、かつ制御されているらしかった。

 

 「・・・知り合いっていうか、俺の伯父さん。あの人も双月流の出身だから。」

 

 悠の言葉に、シルヴィア達は驚きを隠せないらしい。なぜそんな人が悠に剣を向けているのか、とでも言いたげに悠と刀牙を交互に見てくる。悠は再び立ち上がると、両手の剣で二人を守るように、二人より前に出る。

 

 「はは、女の子の背中を見てるのは性に合わないか。嗚呼、いや、それかお前、守りつ守られつな関係が好きか?まぁ、どっちにしろよく似たな、お前。余計に殺したくなってくる。」

 

 口調とは裏腹に、刀牙の顔には憎悪に近い感情が見てとれた。その目に映っているのは、明らかに悠だ。

 

 「・・・伯父さんが何で俺にそんな目を向けてくるのかは知らないし、知るつもりも無いけどさ。彼女達に手を出すのなら、身内だろうと倒すよ。」

 

 悠はその視線に怖じ気づく事なく、真っ正面からその視線を受け止めて、そう言い放った。それが気に入らないのか、刀牙の眉間にはさらに皺が寄る。

 

 「まぁ今の状態でも殺れなくはないんだが・・・怒りに任せてやっても駄目だよなぁ。今日は終いか。」

 

 握っていた煌式武装(ルークス)を放り捨てると、刀牙は吐き捨てるようにそう言った。そのまま悠の横を通りすぎていく。シルヴィア達はその背中を追おうとしたが、悠が制止した。

 

 「悠君・・・。」

 

 と、シルヴィアが不安げな目を悠へ向ける。悠の視線は地下駐車場入り口へと歩いていく刀牙の背へ向けられ、その表情は固くなっていた。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・何ですって?」

 

 ーーーあの後。シルヴィア達と一緒にステージへ戻ってきた悠がペトラに警備強化の旨とその理由を伝えると、ペトラは顔を強ばらせながら悠の顔をまじまじと見た。そりゃ驚きもするだろう、ステージに侵入者がいて、しかもそれに誰一人気付かなかったなど。

 

 「・・・貴方の言う通りだとして、一体どうすると?警備を強化した所で、侵入者に気付けなければ意味は無いでしょう?」

 

 「それなら心配ないですよ。俺の知らない所で、勝手に監視兼護衛がつけられてるみたいなんで。その中に俺の友達もいますし、信用はして大丈夫です。」

 

 そんな悠の言葉に、ペトラは強ばらせていた顔を少しだけ緩めた。彼は気付いていなかったが、ペトラは財体の情報網を通して彼が命を狙われている事を知っている。そんな状況の中で彼をシルヴィア達と引き合わせたのは、「彼への配慮」と「シルヴィアの安全確保」のためだからだ。

 悠に対するペトラ自身の負い目と、「歌姫としてのシルヴィア・リューネハイム」を守る騎士(ナイト)としての役割を彼に求めた財体の利害が一致したからそうしただけの事。彼用にマニュアルを用意してはいたものの、ずっと彼女達の願いを断ってきたのは彼らの安全を優先していたからだ。

 だが、ペトラとて企業財体の幹部。最高責任者から直々に指示を受けてしまってはどうしようもなかった。内心、彼が自分から囮を買って出る可能性を危惧していたが、どうやら心配はせずに済むらしい。

 

 「その友達には俺から連絡しておきますけど、一応こっちでも警備強化をしておいて欲しいんです。その方が、相手へのプレッシャーになるし安全性も高くなる。」

 

 「・・・分かりました。緊急で警備スタッフを追加しておきます。貴方の方もお願いしますよ。」

 

 そう言うと、ペトラは形態端末を取り出してどこかへ電話をしながら去っていく。実里も実里でやる事があるのだろう、その場を去っていくのを見送ってから悠も連絡を取るためにステージ外に出ようとして、シルヴィアに腕を強く引っ張られた。何かと思って俯いている彼女の表情を覗き込んだ悠は、つい言葉を失う。

 彼女の顔は、今にも泣きそうだった。そりゃそうだろう。いきなり姿を消したと思ったら、殺し合いなんてやっていたんだから。あんな事があった直後では無理もないだろうに、自分の配慮の至らなさを後悔する。

 

 「・・・大丈夫だよ。ここにいるからさ。」

 

 シルヴィアの手を包むように握りながらそう言うと、悠の腕を握るシルヴィアの手に一層力が入る。

 

 「・・・少し、こうしてていい?」

 

 彼女はそう言うと、少しだけ手の力を緩めて、悠の腕に額を押し当てた。悠は掴まれている方とは逆の手で彼女の頭を撫でてから、その手で携帯端末を取り出すとその場で電話をかける。相手は勿論夜吹だ。

 

 

 『うーす。いきなりどした?電話なんかしてきて。』

 

 「相変わらず軽い反応だな・・・てか、お前ちゃんと監視の仕事やってるのかよ。」

 

 悠がそう言うと、ホロウィンドウ越しに顔を見せた夜吹は「心外だ」とでも言いたげな表情をした。

 

 『当たり前だろうよ。流石に仕事はちゃんとやるっての。』

 

 「勉強は全くやる気ないんだし、当たり前といえば当たり前だけどね。・・・あぁ、そういや補修はどうなったの?出れた?」

 

 悠がそう聞くと、夜吹は深ーい溜め息をつく。

 

 『・・・出られると思うか?』

 

 その一言で悠は察した。

 

 「ですよねー。うん、ドンマイ。」

 

 『軽っ!?てかちょっと待て!原因分かってるよな、お前の監視四六時中やってたせいなんだから礼の一つくらいしてくれてもいいだろ!?酷くね!?』

 

 「あー、はいはい。ありがとうなー。」

 

 『コイツ・・・。』

 

 顔をひきつらせる夜吹を一頻りからかってから、本題に入る事にした。

 

 「んでさ。ちょっと頼みがあるんだけど。」

 

 『今のやり取りの後でよく平然と頼み事なんか出来るなお前・・・。』

 

 「確か、最近金欠だったよね?受けてくれたら昼飯2週間分奢るよ?」

 

 『よし、受けた。どんと来い。』

 

 この素晴らしいまでの手のひら返しである。まぁ、彼が生活面で困っている時くらいしかこの手は通用しないが。

 

 「お前の上司さんに頼んで、俺とシルヴィアと実里の監視だけ強化できない?」

 

 『・・・もしかして、何かあったか?』

 

 「襲撃者がいたんだよ。しかも俺の親族。」

 

 悠の言葉に、夜吹が言葉を失う。無理もないだろう、いきなりそんな話をされて驚かない方が普通だ。

 

 『・・・マジで?』

 

 「こんな大事な事で嘘つけるわけないだろ。てか、何で監視役が気付いてないんだよ。」

 

 悠がそう言うと、夜吹は何か電子ファイルを送りつけてきた。開いてみると、大量の顔写真が表示される。

 

 『それ、俺が排除対象だって教えられた奴らの名簿だ。そん中に、襲ってきたっていうお前の親族の顔写真あるか?』

 

 そう言われて、顔写真を一通り見てみる。が、その顔は見当たらない。悠が首を横に振ると、夜吹は納得した表情で頷いた。

 

 『なら、気付いてようが気付いてなかろうが、あるいはスルーしたとしても無理ないわな。それに載ってる奴等以外も警戒しろ、なんてなったらそれこそ人員が足りないし誰も彼も疑わなきゃならんし。』

 

 「そういやそうか・・・。」

 

 言われてみれば夜吹の言う通りだ。聞いた限りでは、人員をフル動員して悠の交遊関係者全員の監視にあたっているらしい。そりゃ、いきなり監視を強化してくれと言われても難しいだろう。

 

 「悪かったな、そっちの事情も考えないで無茶言って。やっぱ、こっちの方でどうにかするよ。そろそろ切るな。」

 

 そう言って悠が通話を切ろうとすると、夜吹がニヤリと笑った。

 

 『おいおい、ちょっと待てよ。受けられないとは言ってないぜ?』

 

 「・・・へ?」

 

 と、そんな呆けた声が出た。今の悠の顔がそんなに面白いのか、夜吹がくつくつと笑う。

 

 『確かに人員がきついのは事実だけどな。お前の姉貴と伯母さんに関しちゃ、本人の立場とか実力を考えると、ある程度減らしても問題はないと思うし。その分の人員をそっちに回せるよう頼めない事もないんだよ。ま、俺に任せとけ。友人として、しっかり通してきてやるよ。』

 

 と、そう言う夜吹の事が今回ばかりは頼もしく見えた。いつもは飄々として、不真面目な所や意地悪い所もあるが、「友人だから」というだけで助けてくれる良い奴でもある辺りが今の悠にとっては非常に有り難かった。

 

 「・・・ありがとうな、夜吹。さっきの約束、2週間から1ヶ月にしとくよ。これ謝礼な。」

 

 『謝礼の前払いねぇ・・・こりゃ意地でも通さないとな。じゃ、そうと決まれば早速行ってくるわ。』

 

 そう言うと、夜吹はニカッと笑ってからサムズアップをかましてきた。そのままお互いに通話を切る。

 

 

 

 「話、ついたの?」

 

 通話をずっと聞いていたのか、シルヴィアが隣でそう聞いてくる。その様子を見るに、大分落ち着けたようだ。

 

 「うん、警備強化するよう上に話をつけてくれるってさ。任せろって言ってたし、任せよう。ちょっとペトラさんに報告してくるよ。」

 

 「じゃあ私も一緒に行く。本番までやる事ないし。」

 

 と、そんな事を言いながら、悠の後をシルヴィアが追って歩いていく。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「・・・ほう。お前から儂に意見してくるとはの。こりゃ驚いたわ。」

 

 「正確に言うと俺の意見じゃなく、護衛兼監視対象からの直々の頼みなんですがね、親父殿。」

 

 ライブ会場近くの公園内にある小さな雑木林。その中でも人の目が行き渡りづらい場所で、夜吹は悠から頼まれた事を憮仁斎に打診していた。その顔はいつもの飄々としたなりを潜め、真剣そのものだ。

 

 「とはいえ、それはあくまでもそやつ個人の依頼であろう。依頼人からの依頼ではない。儂らが勝手に決めてよい事ではないと思うがの。」

 

 憮仁斎はそう言うと、夜吹の方を見る。その目は仕事に忠実な者のそれだ。

 

 「・・・依頼人には俺から事情を話しておきます。ちゃんと説得もしますんで、聞き入れちゃくれませんか。」

 

 お願いします、と夜吹は頭を下げた。正直この男に頭を下げるのは嫌だったが、任せろと言い、かつ友人と約束した以上、ここで小さな意地を張って聞き入れてもらえないよりマシだと思ったのだ。その様子を見ていた憮仁斎は小さく鼻を鳴らした。

 

 「まさか、お前が頭を下げてまで頼み事をしてくるとはの。少々驚いたわ。・・・まぁ、そこまで言うのなら良かろう。お前の態度に免じて、双月光と双月美晴につけている人員を割いて双月悠の方に回しておく。その代わり、きっちりあの娘を説得する事だ。」

 

 そう言うと、憮仁斎は背を向けて去っていく。夜吹が頭を上げた時には、その姿は掻き消えていた。

 

 「・・・分かってるよ。アイツと約束したしな。」

 

 独り言のように呟くと、夜吹は端末を取り出してまた別の所へ電話を繋いだ。

 

 




おはこんばんにちは、Aikeです。
第13話も読んでくださり、ありがとうございました。今回の話ですが、また長くなりましたね・・・なのでまた投稿時間が夜になりました。昼休みの間に読めるくらいの長さにするつもりだったんですが・・・反省しろよ自分。
まぁ、とにかくここからはアスタリスク全体で色々と起きてくる予定です。
次話は6月15日の予定になるはず・・・です。(最近時間感覚がおかしくなってきてその日が何日かすら忘れる事があるんですよね・・・)
とにかく、ここまで読んでくださり有り難うございました。

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