学戦都市アスタリスク 黒白の剣と凛姫   作:Aike

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皆様、おはこんばんにちは。
そろそろ、次から夜吹にも本格的に動いてもらう時期かなぁ。
ちなみに、シルヴィア達ヒロイン勢の方はまだしばらく平穏でいきます。


第10話 再会と本番開始

 「それじゃあ、始めまーす!」

 

 そんなスタッフの声かけと同時に、会場全体の証明が一度落とされる。次の瞬間には正面ステージが、天井に張られたレールに繋がれている色とりどりのスポットライトで眩しく輝く。

 それらが正面ステージにいるシルヴィアを照らし出すと、彼女は静かに、歌いながら歩き出した。光はその動きに寸分違わず合わせて、ステージ上をなぞるように移動していく。それを見ながら、先程周囲への声かけをしていた男性スタッフが隣に立つ女性と共に、正面ステージの舞台横に設置されている機材をじっと見ている。

 

 「・・・これ、もしかしてスポットライトを動かしてるのって自律プログラムですか?」

 

 「よく分かりましたね・・・そうですよ。スポットライトの動きはどういう演出をするか決まり次第、実際に人が動かしてデータ化したのを自律式のプログラムに組み込んでいます。その後、こういう確認作業を何度か繰り返してシルヴィアの動きに合わせられているか、ズレはないか、色々なチェックをして、場合によっては修正を加えるんです。」

 

 「・・・今の技術って、凄いんですね。」

 

 悠がそう言う横で、ペトラはその顔をじっと見ていた。その顔立ちに、かつて友人だった少女が脳裏に浮かぶ。

 

 「・・・あの、どうかしました?ぼーっとしてますけど。」

 

 「・・・いえ、何でも無いですよ。ちょっと昔を思い出しただけです。」

 

 そう言うと、ペトラは視線をシルヴィアの方へと戻す。悠もステージの方へ視線を戻すと、彼女と彼女を照らす光は中央ステージを過ぎて折り返しに入るところだった。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「はぁー・・・。」

 

 「なーに溜め息ついてるんだか。ただ歩いただけじゃないの。」

 

 「いやー、だって本番直前なのに歩くスピード気を付けてとか、急に色々言われたんだもん。そりゃ溜め息もつきたくなるよー・・・。」

 

 「仕方ないでしょ・・・というか、それに関しては前々から言われてたじゃない。」

 

 「そうだけどさぁ・・・。」

 

 はぁ、と再び溜め息をつく。今日のライブで歌う分の曲にそれぞれ合わせてあるスポットライトの動きを確認し終えたシルヴィア達は、中央ステージ横の座席で昼食兼休憩中だった。終了時刻は13時20分で、現在は13時30分。予定ではちょうど今が演出チェックの終了時刻だったので、予定より10分早く終わった事になる。

 

 「あ、そういえば。悠君、凄いこっち見てたでしょ。しっかり見てたよー。ちゃんとスタッフさんの仕事見てなきゃ駄目じゃない。」

 

 「恥ずかしいからそういうとこ見るの止めてくれないかな・・・てか、さっきの演出最終チェックに関しては俺が入ってもまず役に立たないよ。俺、機械いじりは一番苦手だし。」

 

 シルヴィアの隣で昼食をとっていた悠は、そう言うとそっぽを向いた。昼食に手をつけながら、もごもごと呟く。

 

 「てか正直な話、俺に出来るような仕事なんてあるのかね・・・警備くらいしか出来る自信無いんだけど・・・」

 

 「・・・?何か言った?」

 

 「え?あー、いや、何でもないよ。ちょっとした独り言。」

 

 そう言うと、悠はそれっきり黙り込んだ。シルヴィアは「独り言、ねぇ」と言うとしばらく悠の顔を横目で見ていたが、小さく嘆息すると鼻歌混じりに足をパタパタさせ始めた。実里は実里で、手元に置いていたファイルを眺める。三人の間で、気まずい沈黙ではなく、孤児院時代に三人でつるんでいた時のような、穏やかで静かな時間が流れていった。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「それじゃ、リハーサル始めまーす!」

 

 14時ちょうど。スタッフの呼び掛けで、再び会場全体の証明が落ちる。次の瞬間には、正面ステージに立つシルヴィアを先程のスポットライトが照らしていた。そして、シルヴィアが歌い始め・・・瞬時に、会場内の空気は一変する。

 

 「・・・綺麗だなぁ。」

 

 誰に聞かせるでもなく、悠はそう呟いていた。会場内に響くシルヴィアの歌声は澄んでいて、かつ力強い物だ。その光景は、悠には3年以上前ーーーシルヴィアの歌を院長先生と実里と三人で聞いていた頃の姿が重なって見えた。

 隣で同じくシルヴィアの歌を聞いていたペトラは、何を考えているのか分からない表情で静かに彼女を見ている。

 

 「・・・初めて見ました。あの子があんな風に歌っているのは。」

 

 不意に、ペトラはそんな事を呟いた。それを聞いた悠は、意味が分からずに首を傾げる。そんな悠に溜め息をつくと、ペトラは再び口を開いた。

 

 「あの子の声音で分かるんですよ。いつもより声が弾んでますから。・・・多分、貴方がいるからでしょうね。」

 

 「俺がいるから・・・?」

 

 悠がそう言うと、ペトラは小さく頷く。

 

 「確かに、あの子は今までも、歌う時はとても楽しそうにしていました。でも、いざ本番が終わると、時々表情を曇らせる事があったんです。」

 

 その言葉が指すところを理解して、悠はハッとした。

 

 「・・・そうか。俺がいなかったから・・・。」

 

 「彼女は言っていました。自分の歌で笑顔を届けたい、と。自分の夢を肯定してくれた子にも笑顔になって欲しいから歌うんだ、とも。」

 

 (あぁ・・・そう言えば・・・。)

 

 ペトラのそんな言葉を聞きながら、悠は昔ーーー孤児院にいた頃、シルヴィアとした話を思い出していた。

 

 

 

 『君も、これからの事を考えてみて。相談があるならいつでも聞くからね。』

 

 孤児院でシルヴィア達と仲良くなってしばらくした頃、院長先生に将来の事を聞かれた事があった。子供達のメンタルケアの一環で、「将来の夢を持つ事で、少しでも前向きな考えを持ってもらう」ため、最近の孤児院ではよくやる事なのだという。結局、悠は「夢なんて無い」と答えてしまったが。その結果、そんな言葉をかけられた訳だ。

 

 「悠君、ホントに将来の夢は無いの?」

 

 シルヴィアにそう言われて、もう一度色々と考えてみる。が、やはり「ああしたい」「こうしたい」と思うような事は無かった。首を横に振ると、シルヴィアは少しだけ表情を曇らせる。

 

 「・・・それ、寂しくないかな。」

 

 「そう言われても・・・。というか、前は夢があったけどどんなのか忘れちゃったし、ここに来るまでは考える余裕無かったしなぁ。」

 

 それは、悠の偽らざる本心だった。孤児院に来る前ーーー両親と過ごしていた頃には夢を抱いていた記憶が確かにある。ただ、今となってはどんな夢だったか忘れてしまった。

 

 原因は・・・まず間違いなく、両親の死だったのだろう。子供の心は周りが思っている以上に壊れやすい、というのはよく聞く話だが、悠は正にそうだった。孤児院に来てシルヴィアと実里と出会うまで、悠の心は壊れる一歩手前だったのだから。

 両親が亡くなって、叔母から自分が狙われるかもしれない事を知らされてからは周りに迷惑をかけないようにと、ひたすらに自分を抑え込んできた。寂しさも辛さも、子供ながらにではあるが、一人で抱え込んで、一人で耐えてきた。そんな状況下にあった子供に、将来の夢を考える余裕があろうはずもない。

 

 「正直、僕もよく分かんない。自分が何したいかって言われても、何も思い付かないし。逆に、シルヴィアは何か夢ってあるの?」

 

 悠がそう聞いてみると、彼女はほわんと笑った。

 

 「あるよー。私はね・・・皆に私の歌を聞いて欲しいんだ。私の歌で皆に笑顔を届けたいの。」

 

 孤児院の縁側で足をパタパタさせながらそう言うシルヴィアの姿が眩しく見えたのは、今考えると気のせいではなかったのだろう。

 

 「と、言ってもまだ大分先の話だと思うけどね。それに、もしかしたらずーっと叶わないかもしれないし。」

 

 「・・・そんな事、無いよ。」

 

 気付けば、そんな言葉が口から出ていた。隣にいたシルヴィアが目を丸くする。それを見ながら、しどろもどろになりながらも、当時の悠は言葉を必死に絞り出した。

 

 「シルヴィなら、出来るよ。だってほら、皆に優しく出来るし・・・それに、やるって言った事はちゃんとやってるし。努力すれば夢は叶うって母さんが言ってたし・・・。」

 

 と、そこまで言った所で不意にくすくす、と小さな笑い声が聞こえた。隣を見ると、シルヴィアが笑っていた。

 

 「あはは・・・ごめんね。悠君がらしくない事言い出すから、ちょっと可笑しくて。」

 

 「らしくないって何さ・・・。」

 

 悠が抗議の声を上げると、シルヴィアはひとしきり笑って・・・ふぅ、と小さく息を吐いた。

 

 「でも、ありがと。お陰でちょっと自信がついたよ。」

 

 そう言って、彼女は満面の笑顔を見せた。その時はまだ、彼女の夢があれほど早く叶うとは思っていなかった。恐らく、「夢を叶えた」という点で見れば彼女は成功者に違いないだろう。彼女にとって不本意な形で、ではあるが。

 

 

 

 「・・・?どうかしましたか?」

 

 「いや、何でもないです。ちょっと昔の事を思い出してただけなんで。・・・てか、見てる限りだとスタッフの皆さん、あんまり動かないんですね。」

 

 悠はそう言うと、会場周りを見渡した。ここまで見た限り、会場内にいるスタッフがやっているのは周囲への声かけや演出がちゃんとプログラム通りに動いているかを機材で確認したりするくらいだ。それを聞くと、ペトラは苦笑いをこぼした。

 

 「まぁ、最近は機械化で本番準備の必要人員は最低限に絞っていますからね。とはいえ、本番までは自律プログラムの再調整やスポットライトを動かす天井レーンの安全確認、具体的な演出の協議・・・色々とやらなければならない事がありますから、スタッフが一番忙しくなるのはむしろ前段階の方です。それに今はこれくらいの人数ですが、裏方も含めると裕に100人はいますよ。」

 

 「・・・その中で俺に出来るような仕事ってあるんですかね?言っときますけど、俺建築関連とか機械系の知識はもちろん、視覚効果みたいな人間科学系の知識だって皆無ですよ?」

 

 悠がそう言うと、ペトラは手に持っていたファイルからホッチキスで止められた4枚組の書類を取りだした。差し出されたそれを見てみると、内2枚には「会場警備のマニュアル」、もう2枚には「専属スタッフの仕事」とそれぞれ書いてあり、その下に大分分かりやすい表現で詳細説明が書いてある。どうもそれは、わざわざ悠のためにスタッフマニュアルの重要な部分をかいつまんでまとめてあるようだった。

 

 「心配しなくてもいいですよ。貴方がそういった分野に疎いのは把握済みですから。貴方に出来る範囲の仕事内容とマニュアルをまとめておいたので、明日までに読み込んでおいてください。」

 

 「ど、どうも・・・。何か、随分と用意周到ですね。俺の得意・不得意まで把握してこんなの作ってくれてる辺り。」

 

 「実を言うと、貴方がアスタリスクに来ている事をあの子達が知ってから、ずっーと貴方をライブに招集するように二人から言われていたんですよ。それで貴方用に、前々から作ってあったんです。ちなみに、当時貴方が中等科2年の時ですね。」

 

 要するに、1年も前から自分がライブスタッフに入れられるのはほぼ決まったようなものだったという事だ。シルヴィア達の気持ちは分からないでもないが、せめて一言何か言っておいて欲しかったーーーと思ったのだが、多分当時の悠だったら連絡が来ても無視しただろうなぁ、と思い直して、その書類に目を落とす。が、耳の方はしっかりとシルヴィアの歌声に向いていた。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「はい、オッケーです!シルヴィアさんは楽屋に入って休憩してください!警備班はイリアさんと警備の配置確認!他は会場内の清掃して!」

 

 かれこれ2時間半。午後4時半ぴったりにリハーサルが終わると、スタッフの指示に従って再び周りがバタバタと動き出した。天井の照明が一斉につき、悠は眩しさに目を細める。

 

 「それじゃあ、私も行ってきますから。シルヴィアの事、お願いしますね。」

 

 そう言うと席を立ち、入ってきた側の通路とは逆の方からステージへと向かっていく。それを見送っていると、ステージの方から入れ替わりにシルヴィアが駆け寄ってくるのが見えた。悠も座席から立ち上がって入ってきた側の通路から出るとステージの方へと歩いていく。

 

 「そんなに走るなよ・・・転んだら大変だよ?」

 

 「子供じゃないんだから大丈夫ですー。で、久し振りに聞いた私の歌の感想は?」

 

 そう言うと、目をキラキラさせながらこっちをじーっと見てくる。唐突な質問に面食らい、反応に困って視線をそらすと、彼女の後ろで実里が何やらジェスチャーをしていた。

 どうやら、「黙ってないでちゃんと言いなさいよこのバーカ」と言いたいらしい。一言余計だ、一言。と思いつつもシルヴィアの方に視線を戻すと、一体さっきのキラキラはどこへやら、一転してむすーっと膨れ面のシルヴィアがいた。

 

 「綺麗だったよ、綺麗だった。ホントにホント。だからそんな膨れるなって。」

 

 「ふーんだ・・・別に膨れてないもん。私楽屋に戻る。」

 

 そう言うと、シルヴィアはぷいっとそっぽを向いてしまう。シルヴィアがいじけると、宥めるのに悠が難儀するのはいつも通りだった。

 

 「ちょ、待ってよ!俺、何か怒らせるような事言った!?」

 

 狼狽えながらシルヴィアの後を追っていく悠を見て、実里は相も変わらぬ幼馴染みの鈍さに呆れた溜め息をつく。シルヴィアもシルヴィアだが、彼女の気持ちを察してやれない悠も悠である。

 

 (あいつがあんなだから私が毎回フォローしなきゃいけないのよねぇ・・・あーもう、面倒くさいったらありゃしない。少しは察しろってのよ。)

 

 内心そんな事を思いながら、実里が悠のフォローのために二人の後を追っていく。周りのスタッフはそんな3人の様子を和やかな目で見ていたのだが、当の彼らがそれを知るのはかなり後の話だ。

 

 

ー■■■ー

 

 

 「・・・はぁ。しょうがないから、許してあげる。代わりに、この3日間のライブの感想文を1000字くらい書いて後で提出する事!」

 

 「何それ、面倒くs・・・あ、いや何でもない。独り言、独り言だから。」

 

 シルヴィアがまたしても膨れ面をしかけたので言葉を濁す悠。流石にこれ以上彼女を不機嫌にすると洒落にならない気がした。

 

 「はぁ・・・そういう所も昔からホントに変わらないなぁ、もう・・・(ボソボソ)」

 

 「えーっと、シルヴィ・・・?」

 

 困惑顔で悠がそう言うが、シルヴィアの耳には入っていないらしく、何やらボソボソと呟いていた。時折「全く」だとか「これだから悠君は・・・」とかいう言葉が聞こえてくる辺り、長々とひたすら愚痴っているだけらしい。

 

 「言わんこっちゃない・・・あんたねぇ、少しは自分の言動よく考えなさいよ。あんな反応すれば、そりゃシルヴィだっていじけるっての。昔から思ってたけど、あんたやっぱバカね。」

 

 「んな事言われてもな・・・。」

 

 実里の言葉に対して、悠はそんな言葉くらいしか返せない。なんせ、悠が今まで交流してきた異性は皆、シルヴィアとはタイプが違うのだ。実里や光姉は「言いたい事はズバスバ言う、言動による感情の機微が分かりやすい」方だし、ユリスやクラスメイトの女子もそんな感じなのである。

 その点、今のシルヴィアのように「その場の言動が彼女の感情をどう刺激するか判断しづらい」タイプは交流経験が全くといっていいほどに無いのだ。

 

 「・・・よし、決めた。悠、経験積みも兼ねてシルヴィのメンタルケア担当職追加ね。人の感情機微に鈍感すぎるわ、あんた。」

 

 「ちょ、それは酷くない!?いやまぁ、言いたい事は分かるけどさ、だからって仕事増やすなよ!?てかそれ、明らかに当てつけだよね!?」

 

 「当たり前じゃない。それに、あんたがシルヴィの傍に居てやれば、あの子の事だから、あっちから勝手に甘えてくるでしょ。」

 

 「メンタルケアってそういうのだったかなぁ・・・?」

 

 「あの子に限って言うならそういう事よ。その証拠に、シルヴィアの寝室にあんたの写真プリントしてある抱き枕が・・・」

 

 「きゃああああ!?それ言っちゃダメぇぇぇ!!」

 

 と、いきなりシルヴィアが悲鳴じみた声・・・というかもろ悲鳴を上げながら実里の口を塞いだ。もがもがと何やら言っている実里を尻目にシルヴィアは真っ赤な顔をしながら悠の方を見て、

 

 「さ、さっきの言葉、聞こえてた・・・?」

 

 などと聞いてくる。流石の悠もこの時は空気を読んだ。

 

 「・・・いや、何も聞こえなかったよ?」

 

 「・・・そ、そっか。ならいいんだ。何かごめんね、取り乱しちゃって。」

 

 と言うと、実里の口を塞いでいた手を外して真っ赤な顔をパタパタと扇ぎ出す。実里は実里で「びっくりするなぁもう・・・」と、どこか恨めしげにシルヴィアの方を見ていた。ちなみにこの時、悠が「シルヴィアって、情緒不安定・・・?」と呟いていたのは内緒の話。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「悠兄ー!」「シルヴィアお姉ちゃーん!」

 

 「おわぁ!?」「きゃあ!?」

 

 シルヴィアの楽屋に入った途端、いきなり飛び出してきた子供達に抱きつかれて二人はつい奇声を出してしまう。だがその顔を見ると、二人の顔は綻んだ。

 

 「全く・・・驚かすのはいいけど、飛びかかりは無しだろ?俺とシルヴィアが受け止めなかったら顔から地面にぶつかってたぞ?」

 

 「でも、元気そうで良かったよー。どう、あれから院長先生に迷惑かけてない?」

 

 そう、飛び出してきた子供達は、皆悠達と同じ孤児院にいた子達だった。ちなみに悠の方に男二人、シルヴィアの方に女子一人である。

 

 「あとお前ら。もう一人忘れてるぞ?」

 

 「・・・あ。」

 

 と、気付いたように子供達が悠とシルヴィアのさらに後ろを見ると、全く目が笑っていない笑顔の実里が腰に手を当てて立っていた。

 

 「・・・ひ、久し振りだね、実里お姉ちゃん。」

 

 「ふふふ・・・そうねぇ、久し振りねぇ・・・。」

 

 そう言いながら実里がにじり寄ってくる。そして、子供達の前まで来ると。

 

 「久し振りに会って早々無視されるとは思わなかったわよ!頭グリグリの刑だからね!」

 

 そう言うと、3人まとめて抱え込んで頭をグリグリし出した。子供達も楽しさ半分、痛さ半分という感じなのか、きゃあきゃあ言っている。それを和やかな目で見ていた悠とシルヴィアは振り返ると、楽屋の奥にある和室で木製テーブルに頬杖をつきながらにこやかにこちらを見ていた人物へと言葉をかける。

 

 「「久し振りです、院長先生。」」

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 「三人とも元気そうで結構。シルヴィアと実里は、顔合わせるのも大分久し振りだね。あれからどう?」

 

 和室の中、テーブルを挟んで、悠とシルヴィアと向き合って座っている女性がそう問うた。名前は水無月栞。悠達が世話になっていた孤児院の院長であり、彼らにとっては恩人にも等しい人物だ。

 

 「どうって言われても・・・。私、シルヴィアのフォローとスケジュールマネージメントで大変だった記憶しか無いですよ。」

 

 子供3人相手にじゃれていた実里がそう言うと、シルヴィアがぷくーっと膨れた。そんな様子を見ながら、やっぱりまだ子供だなぁ、と栞は苦笑する。

 

 「何よー、実里だって慣れない環境でオロオロしっぱなしだったじゃない。」

 

 「ちょ、それは言わない約束でしょ!特にそいつには聞かれたく無かったのに!」

 

 「さっき私の秘密を悠君に言おうとした仕返しだよーだ。」

 

 そう言ってベー、と舌を出すシルヴィア。それを横で「何やってるんだか・・・」とでも言いたげな顔で見ている悠に、不意に栞が話を向けた。

 

 「悠も久し振り。前より大分明るくなったんじゃない?」

 

 「人を根暗みたいに言わないでよ・・・いやまぁ、確かに一時期はそんな感じだったけどさ。あれは状況が状況だったんだし仕方ないでしょ。」

 

 「何も、悠が来たばかりの時の事だけじゃないよ。シルヴィアと実里がいなくなってからの貴方、来たばかりの時程じゃないにしても暗かったんだから。」

 

 「そうだったかなぁ・・・。」

 

 「そうだよ。でもまぁ、そうやって元気にやれてる辺り、もう心配しなくても大丈夫そうだね。」

 

 そう言うと、にっこりと栞は笑う。それに対して、悠の方は何が気恥ずかしいのか顔を赤くして視線を逸らし、湯飲みに入っている緑茶をあおった。シルヴィアはそんな悠を見ながら、ほわんとした笑顔。それを見ていた栞は何を思ったか、出された緑茶を一口あおると、

 

 「あぁ、そういえば。貴方達、関係は進展したの?もうAくらいはいった?」

 

 などと爆弾発言をした。その瞬間、二人が凍りつき・・・直後に顔を真っ赤にする。

 

 「なっ、なな、何言ってんのさ!?」「私達、まだそこまで言ってないからね!?」

 

 「はいはい、分かってるよ。冗談冗談。」

 

 そう言うと、栞はけらけらと笑った。悠とシルヴィアは顔を真っ赤にして悶々としているし、実里は実里で子供達の相手をしつつ悠達の方を見てニヤニヤしていた。

 

 「まぁでも、いつかはそういう関係になりたいなー・・・とか思ってるんでしょう?青春だねぇ。」

 

 「だから、今そういう話はしなくていいんだって!」

 

 ・・・とまぁ、そんな感じで談笑は弾みに弾み。リハーサルの時に指示を出していたスタッフが準備のためにシルヴィアを呼びに来るまで続いたのだった。

 

 

 

ー■■■ー

 

 

 

 午後5時55分。ライブ会場は、ファン達の熱気で満ちていた。席は隙間なく埋まっており、そこらじゅうでペンライトが輝いている。

 今現在、悠が座っているのは2階席の招待客用座席の最前列。その両隣に栞と子供達3人も一緒だ。

 

 「シルヴィアお姉ちゃんの歌聞くの久し振りだから、すっごい楽しみだね!」

 

 「おぅ、前よりもっと上手くなってるから期待していいぞ?」

 

 「何で悠が得意げなのかしら・・・?」

 

 何故か胸を張ってそう言う悠に、栞は苦笑いするしかない。悠からすると、自分の好きな子が褒められているのが嬉しくてたまらないのだが、まぁ一般的に見るなら栞の反応の方が普通だろう。

 と、そんな事を話している内に正面ステージの大画面が明るく光った。同時に、会場全体に張られたスピーカーから軽快な音楽が流れ出す。

 そしてーーーシルヴィア・リューネハイムのライブが始まった。




皆様、おはこんばんにちは。Aikeです。
この後書きを書いているのは朝10時くらいですね。皆様が昼休み時だろうと踏んで、昼12時に投稿しています。
さて、と。まずこれ書いていて思ったんですが・・・やっぱり一場面ごとの描写が長いですよね・・・。
悠が主人公、シルヴィアがヒロインなので、二人の関係性に関わってくる部分はしっかり描写したいんですよ。ただ、その弊害として一場面ごとの描写が長めになってしまい、どうしても場面の変化に乏しくなってしまってます。
読者様の中には、一場面ごとの描写が長いので読むのが面倒くさくなってきてしまう方もいらっしゃるかと思います。そういう方に対しては、申し訳ないです、と言う事しか言えません。それでも別に構わない、という方には、ありがとうございます、と言わせて下さい。
長々とここで話すのもどうかと思いますので、この辺りで失礼させていただきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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