遊戯王GX 超融合 次元を超える教諭   作:スマート

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002 『黄金の邪神像』

 遊戯王デュエルモンスターズ、それは社会に浸透し一つの国技としてまで見られるほどのトレーディングゲーム。誰もが熱狂し、誰もが憧れるその祭典。世界各地から己の実力を測る為集まるジュニアユースの大会は反転し不穏な空気に包まれていた。

 

 移動しながらエンカウント式でデュエルを行うアクションデュエルの変化系ビジョンにより展開された遺跡エリア、中世ヨーロッパの古びた神殿が厳かに立ち並んだその場所に場違いな青い集団の姿があった。全身を口者だけを見せた仮面で覆った、兵士風の格好をした集団は一様に片手に取り付けられたデュエルディスクを倒れた青年へと向ける。

 

 倒れた西洋騎士風の衣装に身を包んだデュエリスト、それは先ほど彼らが多勢に無勢で嬲った者たちだった。集団で数人を寄ってたかって殴りつける、それが決闘者のやり方なのかと傍でその戦いを見ていた赤と緑の髪の少年が怒鳴るも、その集団は聞く耳を持たなかった。

 

 挙句の果てに、集団はその倒れた者たちを……おかしな機械を操作してカードに変えてしまった。皆を笑顔にするのがデュエルだと、そう信じて今まで勝ち進んできた彼にとって衝撃だった。人を傷つけるためにするデュエル……先の負けたくないという意思から来る切羽詰まった戦争の様なデュエルともまた毛色の違う気分の悪いもの。

 

 彼らは、西洋騎士風の衣装に身を包んだデュエリストを嬲り笑っていたのだ。少年の友人の言葉を借りるのなら、さながら『ハンティングゲームの獲物』の様に。

 

 「もうやめてくれ……こんなのデュエルじゃない!!」

 

 何故こうまで傷つけ合わなければならないのかという葛藤に苛まれ少年は吐き気がこみ上げてくるのと同時に……猛烈な怒りがこみ上げてくるのを感じていた。まるで自分が自分でなくなってしまうかのような強烈な負のイメージに支配されそうになった少年は、そこでふと違和感に気づく。

 

「なん…だ?」

 

 眼前に見えるオベリスクフォースの軍勢、その間に突如歪みのような物が生じ始めたのだ。ソリットビジョン展開時にもよく目にする空間に生まれる奇妙な歪。だがそれはそこで消えることはなく、徐々に大きく広がっていく。

 

 突如まばゆい光が遺跡エリアを覆ったのだ。

 

 

「なんだこれは…次元移動の光か!?」

「にしては光量が多すぎるぞ、くそっ前がみえない!!」

 

 急な事に動揺するオベリスクフォース、だがそれは相対する少年も同じだった。視界が白く染まるほどのまばゆい光に照らされた少年は、その中で一つの巨大な影を幻視する。まばゆい光の中で霞むことなく、圧倒的な存在感を与える緑褐色の巨体。

 

「あれ…は…モンスター…なのか?」

 

 質量を持ったソリッドヴィジョンの実現により生まれたアクションデュエル、それを幾度となく経験していた少年をもってしても、この異様な圧力に押しつぶされそうになる。それはまるで最年少でプロデュエリストの称号を勝ち取り、デュエル塾の最高峰LDSの社長を務めるあの男と戦った時の様だと少年は思わず唾を飲み込んだ。

 

「モッツアレーラ、マンマミーア!? ここはどこナノーネ?」

 

 虹の様な綺麗な光……それは徐々に収まり、その中心に一人の人物を映し出す。未だチカチカする目を抑えながら少年が見たのは真っ青なコートを身に纏い、胸部に丸い流線型の旧式デュエルディスクを取り付けた奇妙な男だった。金髪の髪を頭の上部でまとめボブカット状にし、後頭部に垂らすように長い髪をポニーテールにした姿は、その口調も相まってどこか胡散臭く見えた。

 

 

「あ、アンタは……!?」

「んん~ちょうどいいところ~に人がいたノーネ、アア…スミマセン~ガ、此処はどこなのーか、教え~てくれないノーネ?」

 

 軽快な口調で大げさなリアクションをする奇妙な侵入者、いままでの流れを切り捨て割り込むように倒れた少年の顔をのぞき込む奇妙な男は、心底困惑したようにオドオドと視線を彷徨わせていた。

 

オベリスクフォースの面々も呆然とその男を見ている所を見るに少年を追い打ちしようと駆け付けた援軍というわけでもないらしい。どこか似通った格好をしていることを警戒していた少年は、だとすればと慌ててその状況に危機感を覚え叫ぶ。

 

デュエルディスクを身に着けていることから辛うじて決闘者であることがわかるが、その実力も怪しいもの。

「できれーば、此処がドミノ町のどの辺か教えて欲しいノーネ。この歳になって迷子とーは、ひっじょうに遺憾ですーが……背に腹は変えられないノーネ。」

「あ、アンタ…逃げろ…誰だか知らないけどこいつ等はヤバいんだ!ここにいたらアンタまで巻き込んじゃう!」

 

「ん~巻き込む?何やら不穏な空気を感じるノーネ、この感覚……はぁ…もしかするーと…またナノーネ?」

 

肌に感じるのは邪な気配、それは未だかつての強敵ほどではないにしても、見過ごすにはいささか凶暴すぎるものだった。強い決闘者は何かとトラブルに巻き込まれやすい、誰が言ったかそんな事を胸のうちに感じつつ、彼はだが口元に笑みが浮かぶのを抑えられなかった。

 

人を傷つける自身の教義と反する決闘。それは醜く残忍なとても決闘とは言えないもの。不謹慎だとはわかっている、負ければ命を取られるのだ、怖くないわけがない。

 

だがそれ以上に、ワクワクしていたのだ。

目の前の決闘者が一体どんなデッキを使うのか、今はただそれだけが楽しみで仕方なかった。

 

「どうやら状況は切迫しているみたいナノーネ、此処が何処なのか聞きたかったのデスガ、それは後回しにした方が良いでショウ」

 

「お、おい………、違うんだ…そいつらは普通とは違うんだ……信じられないかもしれないけど、戦って負けた奴をカードに変えちゃうんだよ!!

 

「カードに…かえるぅ?」

 

 自分の身に起きた顛末を不思議そうに周囲を見回していた男は、必死に訴える少年の言葉にはっと我に返り、改めて目の前に居座るオベリスクフォースの軍勢とその背後に漂うオーラを見て顔色を変えた。先ほどまでの茶らけた雰囲気は鳴りを潜め、心底嫌悪するように眉をしかめオベリスクフォースを睨みつける。

 

どこかの某社長のようにオカルトを『非ィ科学的だ!』などと断言できるほど、彼はそのゲームに対して無知ではない。一度はその脅威を身に受けた身、人を傷つける決闘の愚かしさは誰よりも知っていた。

 

『闇のゲーム』それは彼の矜持の中で最も認められない、最も唾棄すべき所業。

 

「なんだお前は…?俺たちはその餓鬼に用があるんだ、馬鹿は引っ込んでいろ!!」

「うーん、初対面の相手―を馬鹿呼ばわりするとは教育がなってないーノ、親の顔が見てみたいノーネ」

「なにぃ…!?」

 

認めてはいけない、こんな輩に小さな決闘者の芽が潰されてしまって良いはずがない。

 

 西洋岸の甲冑を模した衣装を着込んだオベリスクフォースに囲まれてなお、ニヤついた笑みを崩さず相手を挑発する彼は、話すことは話したとばかりに胸部に取り付けられた旧式のデュエルディスクディスクに手を伸ばす。

 

「お喋りは此処までナノーネ、状況はよくわかりませんが、あなたたちーは此処で性根を再教育しておく必要があるノーネ。

私とデュエルシナサーい!寄ってたかって弱者をなぶる腐った精神に鋼の教鞭をくれてやるノーネ」

 

 

「へぇ…面白い!その餓鬼の前にお前から地獄に送ってやるよ!」

「弱い犬ほどよく吠えるとはまさにこのナノーネ」

 

 

「お、おい……どこかの塾の先生なのか知らないけど…本当に…」

 

 だから早く逃げてくれと残り少ない体力を振り絞って叫んだ少年の言葉に、彼はなるほどと不敵な笑みを浮かべた。

 

「オダマリナサーイ!!仮にも教職に長く身を置いていた身、倒れたシニョールを放って逃げるほど私も落ちぶれていないノーネ。それにこの程度の敵を倒せなくーて、何が先生ナノーネ…」

 

 真っ青なコートを身に纏い、胸部に固定された丸い流線型の旧式デュエルディスク。細身の長身に不健康そうなこけた顔に挑発するような笑みを浮かべた彼は、声高に叫ぶ。

 

自身の信じる決闘を!!

 

 

「特別講義してあげましょーう!!」 

 

闇を凌駕できる、光のデュエルを!!!


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