遊戯王GX 超融合 次元を超える教諭   作:スマート

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001『思い出のブランコ』

「はぁ……」

 

 ここは海の上に浮かぶ小さな孤島であるとともに、KCコーポレーション社長『海馬セト』が作り出した最大級の決闘者育成施設、デュエルアカデミア。世界に通用するプロデュエリストを何人も輩出し、今では伝説とまで言われる人物をも出した聖地とも呼び語られる場所。

 

そこに創設当初から教員を務めあげ、何十人もの生徒を育て上げた教諭は今、アカデミア島奥の岬で沈む夕日を眺めながら感慨にふけっていた。

 

「もう…あれから10年も経つノーネ」

 

香る潮風に目を細め、そっと胸部に止められた今でこそ旧式の流線型のデュエルディスクを撫でる彼こそ、知る人ぞ知るアカデミア実技担当最高責任者その人だった。過去幾度かその地位を追われることはあれど、生徒への献身的な姿勢と、闇の決闘にも意思を曲げず生徒を護ろうとする教師の鏡としての心意気を買われ、再び最高責任者となった彼は、かつて生徒だった者たちの事を考え静かにため息を吐くのだった。

 

「時が経つのは本当に早いですーノ……」

 

思い返せば、あの頃のデュエルアカデミアは怒涛の一言でしか言い表せないものだった。地下深くに封印された三幻魔をめぐるセブンスターズとの抗争から始まり、運命を自在に操り翻弄する破滅の光、人の闇を浮き彫りにし破綻させていった嫉妬の悪魔、そして彼の愛すべき生徒を長年にわたり闇に閉じ込め、世界に災禍をまき散らさんとした根源の闇。

 

1年ごとに降って沸いたように厄災が訪れていた頃に比べれば、この今のアカデミアはいささか平和過ぎるのだろう。否、それが最もいい事なのだと、あの頃のアカデミアが異常なのだったと彼は自分に言い聞かせつつ、矢張りどこか物憂げな眼で彼は背後にそびえる決闘者見習いたちが住まう寮を眺めた。

 

赤を冠し最強決闘者が振るった力を模したオシリスレッド、黄を冠し神の最高峰を称する竜を模したラーイエロー、そしてオーナー海馬セトが青眼の白龍の次に愛した最大の僕を模したオベリスクブルー。そこに学歴という階級はあれど、どれも他に負けない才能を持った決闘者がいることを彼は知っていた。

 

レッドゾーンのオシリスレッド等と不本意なあだ名を響かせていた当時の寮に住んでいた超問題児、だがその他の追随を許さない才能にあふれた決闘と、見ている側まで明るくなるような決闘中にも欠かさない好奇心と探求心……

今もどこかで旅をしているだろう茶髪の青年を姿を思い浮かべた彼は、次にその隣にいた薄青い髪の青年を思い出す。

 

「彼はもっともこのアカデミアで、成長を見せてくれた数少ない生徒だったノーネ」

 

最底辺オシリスレッドから、オベリスクブルーまで実力で上り詰めた生徒を彼はあの青年以外に知らない。流石は帝王と言われプロの世界で名を轟かせる男の実弟だと言えば其処までだが、彼はその青年が血筋ではなく自身の努力で、自分の心の弱さと戦った結果が今の姿だと知っていた。だからこそ余計に誇りであり、思い出深い生徒だった。

 

闇にのまれた兄を持ち、そしてそれを救おうと強い意志の力を見せた少女。自身の才能を生かすためI2社という誰もが憧れるデュエルモンスターズの生みの親が立ち上げた、最高の施設へと旅立っていった青年。弱いカード強いカードの固定概念を取り崩し、最弱のモンスターで最良の結果をつかみ取ることを良しとした青年。

 

「どれも…大切な私の思い出ナノーネ」

 

あの日から10年後……彼、アカデミア実技担当最高責任者「クロノス・デ・メディチ」はアカデミアからいなくなる。定年を迎えた彼は、未だ衰えることなく逆に研鑽を重ねて強くなっていく自分自身をさらに高めるため、思い出深いアカデミアを去る決心を固めたのだ。

 

純粋に力を求めるのは一体何十年ぶりなのだろうか。理事である鮫島にも、教頭であるナポレオンにも辞意は止められた。だがその決意は固く揺るがない。

 

「私も焼きが回ったノーネ…この平和なアカデミアを……少し物足りないと…思ってしまうノーハ、あのドロップアウトボーイの影響なのーね?」

 

怒涛の様に過ぎ去った悪夢のような3年間、だがそれは決して嫌なものだけでは無かった。失って初めて気が付く、自身の飢えに……実技担当最高責任者という立場に甘んじているだけでは味わえない興奮、強き決闘者との闘いで感じる溶けてしまいそうな熱気。

 

「名門、メディチ家として、粉骨砕身してイータ若かりし頃を思い出してしまったノーネ……」

 

 幾重ものしわが刻まれた顔に老獪な笑みを浮かべた彼は、彼の意思に呼応して熱く鼓動するかのように発光する自分のデッキに指をあてる。自分の歳は分かっている、もうむやみやたらと無茶出来る様な年齢ではない、だがこの自分のデッキとならどこまででも行けそうな気が彼にはしていたのだった。

 

「さらば…デュエルアカデミア…ナノーネ」

 

悠然と踵を返し、船着き場へと向かう彼の背にはうっすっらと銅色の巨人が寄り添うように立っていたのだった…


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