なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ?   作:ゆっくりキリト

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第七話だそうですよ?

「まず、私達のコミュニティには名乗るべき“名”がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、“ノーネーム”という蔑称で称されます」

 

「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん?それで?」

 

「“名”と“旗印”に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加出来るだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ていうか、もうアウトじゃね?」

 

「ホントですねー♪って死鬼さん!まだぎりぎりセーフなのですヨ!」

 

 

 

十六夜と死鬼の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝をついて項垂れた。口に出してみると、本当に自分達のコミュニティが末期なのだなーと思わずにはいられなかった。

 

 

 

「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやってんのか?」

 

「いえ、彼等の親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――“魔王”によって」

 

 

 

“魔王”―――――その単語を聞いた途端、適当に相槌を打っていた十六夜が初めて声を上げた。

 

 

 

「ま………マオウ!?」

 

 

 

その瞳はさながらショーウィンドウに飾られる新しい玩具を見た子供の様に輝いていた。

 

 

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 

「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると………」

 

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められる事の無いような素敵に不適にゲスい奴なんだろ?」

 

「ま、まあ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させる事も可能ですし」

 

「へえ?」

 

「魔王は“主催者権限”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼等にギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断る事ができません。私達は“主催者権限”を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

「けど名前も旗印も無いというのは結構不便な話だな。何より縄張りを主張出来ないのは手痛い。新しく作ったらどうなんだ?黒ウサギ?」

 

「そ、それは」

 

 

 

死鬼の言葉に、黒ウサギは言い淀んで両手を胸に当てた。死鬼の指摘は正しかった。名も旗印も無いコミュニティは誇りを掲げる事も出来ず、名に信用を集める事も出来ない。この箱庭において名と旗印が無いという事は、周囲に組織として認められないという事だ。だからこそ黒ウサギ達は、異世界から同士の召喚という最終手段に望みを掛けていたのだ。

 

 

 

「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

 

 

仲間の帰る場所を守りたい。それは黒ウサギが初めて口にした、掛け値の無い本心だった。“魔王”とのゲームによって居なくなった仲間達の帰る場所を守る為、彼女達は周囲に蔑まれる事になろうとも、コミュニティを守るという誓いを立てたのだ。

 

 

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。その為には十六夜さんや死鬼さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸して頂けないでしょうか………!?」

 

「………ふぅん。魔王から誇りと名前をねえ」

 

 

 

深く頭を下げて懇願する。しかし必死の告白に十六夜は気の無い声で返す。その態度は黒ウサギの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

 

 

 

(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)

 

 

 

黒ウサギは唇を強く嚙む。こんな後悔をするなら、初めから話せば良かったと思った。肝心の十六夜は組んだ足を気だるそうに組み直し、たっぷり三分間黙り込んだ後。

 

 

 

「いいな、それ」

 

「―――………は?」

 

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

 

 

不機嫌そうに言う十六夜。呆然として立ち尽くす黒ウサギは二度三度と聞き直す。

 

 

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねえのか。失礼な事言うと本気で他所行くぞ」

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

 

「素直で宜しい。さて、後は死鬼だが………お前はどうする?」

 

「………………………」

 

「死鬼さん………」

 

「ご主人………」

 

「………いいぜ、協力する。其方の方が面白そうだからな」

 

「―――!」

 

「ご主人がそう言うなら、私はそれに従おう」

 

「ありがとうございます!御三方!これで、これで黒ウサギ達のコミュニティは………!」

 

「おいおい泣くなよ黒ウサギ。ほら、早く飛鳥ちゃん達と合流しようぜ」

 

「はい!此方です!」

 

 

 

そう言って死鬼達を案内する黒ウサギの顔はその日一番の笑顔だったそうな。


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