なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ? 作:ゆっくりキリト
「そういや、死鬼よう」
「んあ?」
「何でお前、俺の速さに着いてこれんだよ?」
「何でって言われてもなあ………」
「自分で言うのも何だが、俺結構な速さで走ってるぜ?」
「知ってるよ。今は時速750kmってところか………。問題無いよ。充分、余裕を持って着いて行けるよ」
「そうか………。それがお前のギフトって奴か?」
「うんにゃ。これは素の身体能力さね。力も能力もギフトだって使っちゃいない純粋な脚力で走っている」
「へえ。やっぱお前、面白い奴だな」
「そらどうも。それより、どうやら着いたみたいだぞ」
しばらく走っていた森が拓け、そこに広がっていたのは―――
「ほう………」「こりゃすごい………」
――息を呑むような美しい滝だった。遥か高くから流れ落ちる水は、濁りなど知らないかのような透明感がある。辺りを囲う草木には、一層の青々しさが感じられる。二人はまるで美しい宝石を見ているようだと感じた。
「………こりゃあ、来て正解だったな」
「あぁ………。俺もここまで凄いとは思って無かったぜ」
この壮大なそして美しい景色に死鬼達は心を奪われていた。そんな中、滝壺の方から大きな音をたてながらナニカが姿を現した。そこから現れたのは大蛇。その巨大さは、人など比べるのもおこがましい程だった。
『何故人間の小僧がこんな所にいる』
大蛇は威圧を籠めた声で死鬼達に話しかけた。
「何故って………。俺等は世界の果てを見に来ただけだ。それ以外に目的はない」
『ふむ、そうか。だが此処は私の縄張りだ。入って来たからにはギフトゲームを受けてもらう」
「へえ?それで、どんなゲームをするんだ?」
『お前達が私を倒せるかを試すのだ』
「………ハッ!テメェごときが俺等に試練だと?寝言は寝て言えよ爬虫類。………むしろテメェが俺等を試せるのか試したい位だぜ?」
『良いだろう……貴様等が誰に喧嘩を売ったのかを解らせてやる!後悔するなよ!』
「ヤハハ!後悔するのはテメェの方だ、爬虫類!」
「十六夜、俺の分も残しといてね?」
「おう!」
――――――――――
『がぁぁぁぁぁぁあッッッ!』
「おいおいどうしたぁっ!あんだけの大口たたいておいてテメェはその程度なのかよ!?」
『グゥッ……!舐めるなよ小僧ォォォオ!』
「ハッ!そう来なくっちゃなぁぁぁっ!」
ズガァァァァァァァン!!!!!
派手な音をたてながら大蛇(神格を持っている事から蛇神と呼ぶ事にする)は滝壺に叩きつけられた。
「ふぅ………」
「随分派手にやったなあ」
「そうか?あまりにも手応えが無かったからな………」
十六夜は首をコキリと鳴らしながらそういった。
「この辺りの筈………」
十六夜が死鬼と話していると、髪の色を桃色に変えた黒ウサギが現れた。
「お?お前、黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」
黒ウサギは死鬼達の方を振り返ると肩を震わせながらキッと睨み、大声をあげた。
「あ、貴方方はーーーーーっ!一体全体何処まで来てるんですかっ!?」
「世界の果てまで来てるんですよっと。まあそんな怒るなって」
「誰のせいだと思ってるのですか!」
「悪いな黒ウサギ。少し興味があったからな」
十六夜の子憎たらしい笑顔も健在だ。死鬼の方は、少しばかり罪悪感があるようだが。
「しっかし黒ウサギ。お前いい足持ってんな。幾分か遊んでたとはいえ、この短時間で俺等に追いつくとは思わなかったぞ?」
「むっ、それは当然です。なんたって黒ウサギは“箱庭の貴族”と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが―――」
黒ウサギはアレッ?と首をかしげた。
(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追いつけなかった………?)
「おーい黒ウサギ。大丈夫かー?」
「………はっ!ま、まあそれはともかく!御二方が無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」
「水神?―――ああ、アレの事か?」
十六夜は先程滝壺に叩きつけられたところを回復し、怒りの叫びをあげながら滝壺から勢いよく飛び出してきた蛇神を指差した。
『まだ………まだ試練は終わって無いぞ、小僧ォ!!』
「蛇神!………って、どうやったらこんなにも怒らせられるんですか十六夜さん!?」
「何、簡単だよコイツが何か偉そうに『身の程を教えてやる』なんて言うもんだからな。その態度に出れるほどの力があるのかと思って俺が試し返した、って言う流れだよ。ま、今んとこは不合格。ただのデカイ爬虫類って認識だな」
『付け上がるなよ小僧!我はこの程度では倒れはせんぞ!!』
蛇神はそう叫ぶと辺りの水を巻き込み、巨大なそして激しい水流の竜巻を作り出した。それは豪雨、津波、渦潮………様々な天災の混じり合ったかのようなモノだった。
「!?十六夜さん、下がって!」
「何を言ってんだよ黒ウサギ。下がんのはテメェの方だろうが。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手ぇ出せばお前から潰すぞ!」
「俺じゃなくて俺達な。黒ウサギの言うとおりだ、下がれ十六夜。「俺の分も残しとけ」って言ったろ?ここからは俺のターンだ!」
「ああ、そういやそうだったな。悪い悪い。それじゃあ、なるべく愉快に華麗に吹っ飛ばしてくれよ?」
「フッ、善処しよう」
『その心意気は買ってやろう。それに免じ、この一撃を凌げば貴様等の勝利を認めてやる!』
「―――そうかい。そいつはありがたいなあ」
蛇神は先程の竜巻に水柱を加えた更なる威力のモノを形成した。人間が喰らえば死は免れないだろう。
「死鬼さんっ!!」
「大丈夫だよ黒ウサギ。俺は問題ない。―――さて、行くとしようか。『投影開始』」
黒ウサギ下がるように指示を出した死鬼は、その手に先程投影したような宝石を数個、新たに投影した。
そして―――――
(準備は万端、宝石は投影済み。後はこの竜巻のみ―――!)
「万物よ、還元せよ!《始原》!」
死鬼がそう唱えた瞬間、死鬼に直撃しようとしていた竜巻が、突然消失した。まるで、
「嘘!?」
『馬鹿な!?』
「すっげぇな、アイツ………」
「中々に面白かったよお前。じゃあな、『壊れた幻想』」
ズッッッドオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッオオォォォォォンン!!!!!
相手の懐に入れるように宝石を投擲した死鬼は、宝石が蛇神に触れる寸前にそう唱えた。
―――『壊れた幻想』。それは、構築された神秘をぐちゃぐちゃに掻き乱し爆発させる物。一種の爆弾のような物だ。ただしそれは神秘の爆発であり、唯の爆弾とは比べ物にならない。そんな物を目の前で食らったのだ。無事である筈が無い。蛇神の巨体は崩れ落ち、川へと叩きつけられた。
「ふぅ………。さて、終わったぜ?黒ウサギ」
軽く伸びをしながら、黒ウサギにそう言う死鬼。しかし、彼女はパニックでそれどころではなかった。
(人間が………神格を倒した!?そんなデタラメが………)
ハッと黒ウサギは思い出す。彼等を召喚するギフトを与えた“主催者”の言葉を。
『彼等は間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ』
そして同時に―――
(この方達なら、コミュニティ再建も夢じゃないかもしれない!)
そう思い、期待に胸を膨らませた。