なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ? 作:ゆっくりキリト
「世界の果て?」
「そうそう!行ってみようぜ、世界の果て!」
黒ウサギの説明後、コミュニティへ向かうために森を歩いていた死鬼は、十六夜に「世界の果てへ行こう」と誘われていた。
「別に行っても構わないが、少し待て。セイバーに伝言をしておく」
「おう。頼んだぜ」
『セイバー』
『はい。何でしょう、シキ』
『十六夜に誘われた。少し世界の果てを見に行ってくる。黒ウサギが気付いたら騒ぎ出すだろうから説明を頼んだ。伝言は「――――――――――」で頼む』
『了解しました、シキ。御武運を』
『ああ。行ってくる』
「終わったか?」
「ああ。今終わったよ。それじゃあ行こうか」
セイバーとの念話を終わらせた死鬼は、十六夜と共に上機嫌で此方に気付かない黒ウサギを横目で見ながら、世界の果てへ向かった。
―――場所は変わって箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場前―――
十六夜と死鬼が世界の果てに向かってしばらくたった頃。残った飛鳥と春日部、黒ウサギは都市の外壁まで辿り着いていた。入り口には、一人の少年が座っており、それを見た黒ウサギは耳をピンとたてて走り寄って行った。
「ジン坊っちゃ~ん!新しい方を連れて参りましたよ~!」
近づいて来る黒ウサギに笑顔を向ける少年は後ろにいる二人を見ると、待っていましたと言わんばかりに声を掛けた。
「お帰り黒ウサギ。そちらの女性三人が?」
「はい!こちらの御五人様が……」
クルリと後ろを振り向いた黒ウサギはそこにいるはずの存在が見当たらず、カチンと体を固めた。
「………え?あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と、赤いジャージを着た殿方が………」
「シキ達ならば、「ちょっと世界の果てまでイッテQしてくるわー」といって途中で離脱しました」
「な、何で止めてくれなかったんですか!飛鳥さん!」
「知らないわよ。途中からいなくなったのは知ってたけど、聞かされてないんだもの」
「ならば、セイバーさん!どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!」
「私には「説明よろしく」とだけ」
「た、大変です!世界の果てにはギフトゲームの為に野放しにされている幻獣が………」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持った者がいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバーなの?」
「………ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」
「冗談を言っている場合ではありませんっ!!!」
ジンと呼ばれた少年は彼等の身を案じているのか、事の重大さを必死に伝えようと声を張った。
「はあ………ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三方のご案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
「分かったよ。黒ウサギはどうするの?」
「問題児様方をを捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にした事、骨の髄まで後悔させてやります」
そう言った黒ウサギの黒い綺麗な長髪は桃色に染まり、ウサギ耳をピンと立てた。跳び上がった黒ウサギは外壁の傍にあった門柱に水平に張り付き、飛鳥たちを見た。
「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと素敵な箱庭ライフを御堪能ございませ!」
黒ウサギは壁に亀裂が入るほどの力で跳びだして行った。その速度は一瞬で飛鳥達の視界から消える程だった。
「………。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」
「黒ウサギは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」
黒ウサギの跳んで行った方角を心配そうな様子で見詰めるジン。そんなジンに飛鳥は明るめの声で話し掛けた。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、お言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ!はい!コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですが宜しくお願いします。所でお三方の名前を伺っても宜しいでしょうか………?」
「私は、セイバーと申します」
「久遠飛鳥よ。そして、そこで猫を抱えているのが」
「………春日部耀」
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐった。