なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ?   作:ゆっくりキリト

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第十一話だそうですよ?

暖簾をくぐった八人と一匹は、店の外観から考えられない、不自然な広さの中庭に出た。

正面玄関を見れば、ショーウィンドに展示された様々な珍品名品並んでいる。

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 

 

八人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。

障子を開けて招かれた場所は香の様な物が焚かれており、風と共に八人の鼻をくすぐる。

個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから死鬼達に向き直る。気がつけば、彼女の着物はいつの間にか乾ききっていた。

 

 

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

 

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 

 

此処、箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。

外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど数字は若くなり、同時に強大な力を持つ。箱庭で四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境だ。

黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

その図を見た問題児組三人は口を揃えて、

 

 

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 

 

うん、と頷き合う三人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

死鬼達主従組は、

 

 

 

(((自分達には木の年輪に見える)))

 

 

 

と思っていた。

対照的に、白夜叉はカカカと哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

 

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主である白雪などな」

 

 

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗と白雪に視線を向ける。

 

 

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?そもそもなぜ白雪が此処におる?おんしはトリトニスの大滝を縄張りとしていただろう?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、白雪様を素手で叩きのめし、死鬼様が宝石で止めを刺したのですよ。そして、報酬として十六夜様はこの水樹を、死鬼様は白雪様を隷属させたのですよ」

 

 

 

自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

 

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童達は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

 

 

神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指す。

蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。

人に神格を与えれば現人神や神童に。

鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼等は上層を目指して力を付けているのだ。

 

 

 

「白夜叉様は白雪様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、白雪に神格を与えたのはこの私だぞ?」

 

「もう何百年も前の話ですよ」

 

 

 

小さな胸を張り、カカカと豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

 

 

「へえ?じゃあオマエは白雪より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものがいない、最強の主催者なのだからの」

 

 

 

“最強の主催者”―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の問題児三人は一斉に瞳を輝かせた。

 

 

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

 

三人は剝き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声をあげた。

 

 

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

 

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている。ところで、おんし等はよいのか?この童達はやる気のようじゃが」

 

「ん?ああ、俺はいいよ」

 

「私も遠慮しておきます」

 

「私は白夜叉様の強さは知っていますので」

 

 

 

白夜叉は死鬼達にも自分と競うか聞いたが、三人はそう言って断った。

 

 

 

「あら、怖気づいたのかしら?」

 

 

 

死鬼とセイバーの遠慮の言葉に飛鳥は挑発した。

 

 

 

「いや、怖気づいてはいないさ」

 

「じゃあ何故断ったのかしら?」

 

「単に戦うのが面倒だったから。だって白夜叉、お前『白夜叉』だろ?」

 

 

 

死鬼のその質問に、白夜叉は面白そうな瞳をして言った。

 

 

 

「ほう。おんし、私の正体に気付いたか」

 

「まあね。名前を聞いた時点で大体分かった。それになんかセイバーと同じ感じがしたから」

 

「ふむ、そうか。そこのお嬢さんと同じというのが気になるが………まあよい。―――さておんし等、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

 

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おんし等が望むのは“挑戦”か―――もしくは、“決闘”か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、六人の視界に爆発的な変化が起きた。

六人の視界は意味を無くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。

脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。無数の兵士の骸と剣が突き刺さる丘。森林の湖畔。

記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から六人を呑みこんでいく。

三人が投げ出されたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった(・・・・・・・・・・・・・)


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