なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ?   作:ゆっくりキリト

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第十話だそうですよ?

しばらく歩いて行くと黒ウサギが振り返る。どうやら着いたようだ。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗なのだろう。

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを―――

 

 

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 

 

―――かける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

 

 

 

(さすがは超大手の商業コミュニティ。客の拒み方に隙がない)

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、まったくです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

 

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。

 

 

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………う」

 

 

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いも無く名乗る。

 

 

 

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

ぐ、っと黙りこむ。黒ウサギが言っていた“名”と“旗印”が無いコミュニティのリスクとはまさにこういう状況の事だった。

 

 

 

(ま、まずいです。“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”御断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)

 

 

 

力のある商店だからこそ彼等は客を選ぶ。信用できない客を扱うリスクを彼等は冒さない。

全員の視線が黒ウサギに集中する。彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

 

 

「その………あの………私達に、旗はありm」

 

「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

 

 

黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

 

 

「きゃあーーーーー………………!」

 

 

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

死鬼と十六夜達は目を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。

 

 

 

「………うわぁ。なにあれ」

 

「………おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 

 

真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。二人は割とマジだった。

フライングボディーアタックで黒ウサギを強襲した白い髪の幼女は、黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

 

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

 

 

スリスリスリスリスリスリスリスリ。

 

 

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 

 

白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を摑んで店に向かって投げつける。

くるくると縦回転した少女を、十六夜が足で受け止め、死鬼の方へとパスを出した。

 

 

 

「ほいっと。死鬼、パス」

 

「おわ!っと。お返しだ、十六夜!『ファイアートルネード』!」

 

「うおおおお!?危ねえだろうが!死鬼!」

 

「お前が突然パスなんかするからだっつーの」

 

 

 

ドッッッパアアアアアァァァァァァァァァァァァァァンンン!!!ジュウウウウゥゥゥゥゥゥゥ………………!!!

 

 

 

十六夜にパスされた死鬼は慌てて少女を蹴り上げ、『炎を纏った脚』で十六夜に蹴り返した。

火達磨になった少女が自分に向かってきているのを見て、十六夜は急いでしゃがみ、少女をかわした。

そのまま少女は、再び水路へと叩き落された。

 

 

 

「ゴバァ!!お、おんし等、飛んできた初対面の美少女を足で受け止め、しかも炎の脚で蹴り返すとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「四季咲死鬼だ。よろしくな、和服の」

 

 

 

笑いながら自己紹介する十六夜と死鬼。

一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかけた。

 

 

 

「あなたはこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよ御令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

 

 

何処までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギは複雑そうに呟く。

 

 

 

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報………かな」

 

『御嬢の言う通りや』

 

 

 

悲しげに服を絞る黒ウサギ。

反対に濡れても全く気にしていない白夜叉は、店先で死鬼達を見回してニヤリと笑った。

 

 

 

「ふむ。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

 

 

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。

 

 

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

「“ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

 

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない事だろう。

 

 

 

「お前も大変だな。良ければ、今度愚痴でも聞こう」

 

「私も手伝いますよ」

 

「………ありがとうございます」

 

 

 

そんな女性店員に白雪とセイバーが慰めていた。そして白夜叉を某超次元サッカーシュートでけり返した死鬼は、

 

 

 

(ギフト鑑定………まだかなぁ………)

 

 

 

そんな事を考えながらのほほんとしていた。


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