なんでもありな人間も問題児と共に異世界にくるそうですよ? 作:ゆっくりキリト
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども………不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を致しますので」
椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を大事そうに抱き上げると、コホンと咳払いして全員にそう切り出した。だが、
「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」
「ええ、アスカの言うとおりです。私達は望んで此処に来たのです。貴女が気にする必要もありません」
飛鳥とセイバーの言葉を聞いて驚いた黒ウサギはすかさずジンを見た。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟る。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。
「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」
「頭を上げてください、クロウサギ。私は組織の水準なんてどうでもいいのです。アスカもヨウも同じ筈です」
「そうよ。私もセイバーに同感。春日部さんはどう?」
黒ウサギが恐る恐る耀の顔を窺う。耀は無関心なままに首を振った。
「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも………あ、けど」
思い出した様に迷いながら呟く耀。ジンはテーブルに乗り出して問う。
「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕等に出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」
「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、って思っただけだから」
ジンの表情が固まった。この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数kmも離れた大河から汲まねばならなかった。水の確保が大変なこの土地でお風呂というのは、一種の贅沢品なのだ。
その苦労を察した耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。
「それなら大丈夫です!十六夜さん達がこんなに大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」
一転して明るい表情に変わる。これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。
「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかったところよ」
「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免だ」
「そうだねー。黒ウサギには悪いけど、俺もそれには同感だ。なんせ、手紙を開けたらいきなり上空4000mに放り出されたんだからねー」
「あう………そ、それは黒ウサギの専門外の事ですよ………」
死鬼とセイバー、そして白雪以外の召喚された三人からの責めるような視線に怖気づく黒ウサギ。ジンも隣で苦笑する。
「あはは………それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」
死鬼達六人は首を傾げて聞き直す。
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフトの鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める黒ウサギに十六夜、飛鳥、耀の三人は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はなかった。しかし、死鬼達主従組は、
「うーん………。俺は自分の力がどういう物なのか解ってるから別にいいんだよなぁ………」
「私もご主人に同意する。私は元々この世界の住人だからな。自分のギフトは理解している」
「ええ。私もです。そもそも私は自分の力を解っていないと此処にはいないので」
「あー、そっか。セイバーの場合はそうなるか」
「へえ?どういう事だ?死鬼」
セイバーと死鬼の言った言葉に疑問を持った十六夜が死鬼に聞いた。
「セイバーの場合、自分の力=自分の名前になっちまうんだ」
「「「「「??」」」」」
「あー………。要するに、有名人なんだよ。セイバーは」
「その力の名前さえ解れば本名が割れるほどにか?」
「ああ。そういう事」
「ふーん?ますます興味がわいてきたな」
そんな事を話しながら、七人と一匹は“サウザンドアイズ”に向かっていった。