笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》   作:バスクランサー

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みなさんありがとうございます!!とても嬉しいです!

それでは本編どうぞ!


負の心の行きつく先は

 矢的先生が鎮守府に臨時で着任してからも、大井のマイナスエネルギーは留まるところを知らなかった。矢的先生や俺が必死にカウンセリングを試みるが…やはり、現実から目をそらしたいのであろう彼女は、こちらに心を開いてはくれない。

 さらに、状況はますます悪化し始めた。

 まず、北上の様子がだんだんとおかしくなり始めたのだ。残り一週間を切ったあたりから、彼女の顔色からだんだんと血色が失せている。簡単に言うと、薄くなっているのだ。さらにそれを見抜いてしまったのであろうか、大井かだんだんとうわべの笑顔を見せる回数さえ少なくなって行った。そしてその影響でマイナスエネルギー発光がより強くなっていく、という負のスパイラルに陥りつつあった。

 俺や響、矢的先生に北上、大淀、全員に焦りの色が見え始めた。

「とにかく、残り時間は少なくなっている。それは変わらない事実だ。でも、その中でなんとか出来ることをしよう。」

 しかしそんな中、時間だけが過ぎていく。そして、残り3日となった日のことだったーーー

 

 ーーー「ふぁ~…」

 いつものように起きて。

「今日は…何食べよう…」

 顔を洗って歯を磨き、そして着替える。俺は朝食を摂るべく、眠い目を擦りつつ食堂へと向かった。と…

「あ…おはよう、提督。」

「北上…おはよう。」

「あのさ、提督…なんかね、今日すごく体が軽いっていうか…質量を感じられないっていうか…」

「え?」

 俺は彼女の言っていることが、その時はよくわからなかった。が、だんだんと目のピントが合ってきて、それで改めて彼女を見つめると…その原因が分かった

「北上…!?お前、透けてるぞ…!?」

「えっ、下着…!?て、提督のスケベ…」

「服じゃない!いや、服か…?と、とにかく、自分の体見てみろ!」

 訳が分からぬまま、北上は自分の体を見た。そして、自分自身に起きている異変に気づく。

「うそ…!?ほんとに、透けてる…!?

 何これ、どうなってるの!?」

 驚き焦る北上。ところがそのうち、

「あれ?戻った…?」

 彼女の透けが収まり、いつものような北上に戻った。

「…今のって…やばいよね…」

「…ああ」

「これって、つまり…私の力が…弱まってるってことだよね?」

「おそらくな…いくら大井の強い思念に北上の霊力が比例するとは言え、さすがに限界が近づきつつある証拠だろう…」

「提督…どうしよう…私…私…!」

 北上が、いつも自由奔放な北上が、嗚咽を漏らし始めた。俺は彼女を抱きしめ、その背中をさすって落ち着かせる。

「…すまん北上…大丈夫大丈夫」

 とにかく、対策をより急がねばならない。俺は朝食中も、北上、そして響とずっとそのことについて考えたが、名案と言えるものは浮かばなかった。

 さらに。

「あ、大井さん…!?」

「………」

 廊下で大井に会った矢的先生。しかし彼女の目からはハイライトが消えており、生気の失せた顔を俯かせつつ歩いていた。さらに彼女のマイナスエネルギー発光は、もう彼女の全身を覆うほどのものになっていたのだ。

「これは…まずい!大井さん、大井さん!!」

 必死に呼びかける矢的先生。しかし、彼の声さえ大井には届いていなかったーーー

 

 ーーーそして、残り2日の日。

 大井のマイナスエネルギーと反比例するかのごとく、北上の力は弱まっていた。体が透ける頻度が増し、時々苦しそうに倒れるようにもなった。この体を維持出来る時間がもうほとんどないのだ。

 この日の報告会も、暗いことばかりが各個人から出た。雰囲気もそれに伴っていってしまう。全員に共通していたのは、状況の悪化をかなり感じていたこと、焦りを抱いていたこと、そして…まだ誰ひとりと、諦めてはいないところだった。

「明日、最後のチャンスになる。確かに状況は最悪だ。でも、俺たちまで負の感情にとらわれてどうするってことだ…!」

「私は…大井っちに、笑顔で見送ってほしい…お願いみんな、頑張ろう…!」

 誰か1人を責めようとする風潮などない。全員が全員、それぞれに出来ることを必死でやっている上での結果なのだからーーー

 

 ーーーフタサンマルマル 北上の個人部屋

「…」

 北上はまだ起きていた。彼女は、部屋の電灯をつけず、月明かりを頼りに手紙を書いていた。呼び方を少し悪くすると、いわゆる遺書、というものである。

 彼女はそこに、ありったけの彼女の思いを書き連ねていた。しかし…

「うーん、どうすれば…」

 

 コロン

 

「?」

 北上は今起きたことが分からなかった。さっきまで自分が手に持って使っていたはずのペンが、手から外れて机の上に転がっているのだから。北上はそのペンを再び持とうと手を伸ばした。

「…!?」

 掴めない。何度やっても、透けた手はペンをすり抜けてしまう。

「え…どういうこと?」

 伸ばす。空を切る。掴めない。それでも伸ばす。空を切る。掴めない。

「そんな…もう大井っちに、何も伝えられないの…?」

 嗚咽を漏らす彼女。目からこぼれ落ちる涙が机に落ちてそれを濡らすのに、その手はペンをつかむことを許してくれないのか。彼女に思いを伝えることさえ、許してくれないのか。と、

「…北上さん?」

 ドアを開け、誰かが入ってきた。

「響ちゃん…?なんで?」

「なんか感じたんだよ。北上さんが、呼んでるような気がして」

「そ、そう…えっ?なんで聞こえるの?なんで私が見えるの?」

 会話が成立している。響の瞳が自分の瞳をまっすぐ見つめている。

「…一度でいいから、北上さんと話してみたかったんだ。それで、あなたがここに来た時から色々調べてみたんだよ。それでね」

 やがて、月明かりが入っているところに足を踏み入れた響を見た北上は驚いた。

「響ちゃんって…メガネっ子だったっけ?」

「ふふ、実は霊の類は、ガラスや鏡を通すと見えやすいみたいでね。それをうまく活用して、明石さんに全国のパワースポットでとれた原料を使った特注メガネを依頼したんだよ。それに、今月明かりが北上さんを照らしているでしょう?一説によると、月明かりもそういう力を強めるって」

「そっか…響ちゃん…本当にありがとう…!」

「お礼なんていいよ。ね?」

「うん…あ、そうだ響ちゃん、今実はね…」

 北上は、今自分に起きていることを包み隠さず話した。

「そんな…」

「響ちゃん、ひとつお願いしても、いいかな?」

「なんだい、北上さん」

「そのね…私が今からいう言葉を、この手紙に書き連ねてほしいんだ」ーーー

 

 ーーー翌日

 北上の霊魂がこの世にとどまれる、最後の日となった。

 鎮守府で見える艦娘は、短い間ながら共に過ごした仲間として、見えない艦娘の分まで感謝の想いを伝えていた。そしてその中に…

 大井の姿は、なかった。

 北上は仲間たちからの想いを受け取ったあと、すぐに大井を探しに出かけた。

 今日は早朝から自ら矢的先生に、自分でどうしても事実を伝えたいと頼み込んだのだ。そして見つけた。

 港の地面に腰掛ける彼女をーーー

 

 ーーー「大井っち」

 北上の声に反応し、振り向いた大井は…マイナスエネルギー発光が数秒間続いたあと、北上さん!と返した。

「あのね大井っち…私、大井っちに言わなきゃいけないことがあるんだ」

「なんですか北上さん。なんでもどうぞ」

 笑顔だった。陰りのある。

「その…もしかしたら気づいているかもしれないけど…私は…

 私は、あの時轟沈した北上の…幽霊なんだよ」

「……」

 大井が途端に黙ってしまった。

「大井っち…」

「…ありえない」

「…え?」

「そんなことありえないっ!北上さんが私を残していなくなるなんてっ!」

「大井っち、落ち着いて!お願い!」

「ありえなっ…!?」

 大井が固まった。彼女が見た瞬間の北上は、もう体の向こうのものの色がわかるほど体が透けていたのだ…

「北上さん…!?」

「大井っち…!」

「やだ…やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…」

 俯いて、狂ったように「やだ」を連呼する大井。そして唐突に、スクっと立ち上がった。

「…大井っち…?」

「そうだ…あそこに行けば…北上さんが消えない…あそこに行けば…北上さんを救える…!!」

「大井っち…ねぇ…」

 次の瞬間、大井は艤装を展開して素早く海面に降り立ち、全速力でどこかへ一直線に走り始めた。

「待って、大井っち!!」

 後を追う北上。そしてそれを、北上に頼まれて物陰で見守っていた人物がいた。

「はっ…!大変だ!」

 矢的先生は執務室へと駆け出したーーー

 

 ーーー某海域

 かつてまだ艦娘の存在が確認されておらず、人類が深海棲艦に制海権を奪われつつあった時、この海域でも、連合軍と深海棲艦の決戦が行われた。ここでも連合軍は惨敗し、数多くの艦が沈んだ。

 その海域をひた走る人影。大井だ。その後には、大井の名を呼びつつ、懸命に彼女を追いかける北上。

「大井っち!」

 やっとのことで追いついた北上。

「お願い大井っち!私の話を聞いて!」

「大丈夫…北上さんはまた、ここから蘇ってくれる…!」

 北上の話でさえそっちのけで、大井は海面に立ち尽くし、ぶつぶつとうわ言のように言葉を呟いている。しかし、その声のボリュームはだんだんと大きくなっていった。

「北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん…!!!」

 そして次の瞬間、

「うああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 耳をつんざくような大井の叫び。そしてそれに共鳴するかのごとく、彼女の体からほとばしるマイナスエネルギーの光が、海面に超スピードで吸い込まれていった。

「……」

 光が全て海面に吸い込まれると、先程の狂乱が嘘のように、大井は静まり返った。

「大井っち!?しっかりしてっ!!」

 懸命に彼女のことを呼びかける北上。とその時だった。

 マイナスエネルギーが吸い込まれた海域の水中あちこちから、何かが浮かび上がってきたのだ。

「…何…これ…」

 黒く朽ち果てて染まった、鉄くずの塊だった。それがどんどん周囲の海中から浮かび上がり、一つに集まっていく。どの塊からも、マイナスエネルギー発光が見える。

 北上には見えた。その鉄くずの中に、かつての人類の連合軍の艦が。そして、マイナスエネルギーに引き寄せられるかのごとく集まってくる、深海棲艦の大軍が。

 そしてついにそれらは一つになった。艦なのだろうが、それとはなんとも言い難い艦。マイナスエネルギーによって引き寄せられた歪な外観の至るところに、砲塔や飛行甲板らしきものが見える。

 

 そこへ、第六駆逐隊の4人、そして吹雪と夕立、赤城が飛ばしたスカイハイヤー、タックスペース、クロムチェスターδからなる、提督の向かわせた救助艦隊が到着した。目の前の信じ難い光景を前に、吹雪はすぐさま通信を入れる。

 

「た、大変です!目の前に…巨大な未知の艦…というか、物体が!!」

「なんだって…!?とにかくデータを送ってくれ!」

「は、はい!」

 間もなく、司令室の提督、大淀、赤城、矢的先生の元に、吹雪たちの目の前にあるそれの写真が送られてきた。

「な…!?」

「提督、何ですかこれは!?」

 しかし、俺よりも、矢的先生の方が反応が早かった。なぜならその禍々しい存在と、かつて先生は戦ったことがあるからだ。

 

「こいつは…バラックシップ!?」




というわけで、今回も読んでくれてありがとうございました!

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また次回です!

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