笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
毎日一杯必ず飲んでる今日この頃。
おかげで金欠…(´・ω・`)
本編、どうぞです。
ーーー「おや、珍しいお客さんだね」
椅子をくるりと回して、座っていた男性は俺と響の方に向いた。
「お久しぶりです、矢的教授」
「ははっ、教授はよしてくれ。やはり慣れんからなぁ。私の講義を受けに来てくれる学生にも、先生と呼んでほしい旨を伝えているんだ」
「すみません、矢的先生」
「配慮ありがとう。さてと、君がわざわざ提督の服を着て、そして秘書艦の…」
「あ、はじめまして、駆逐艦の響です」
「そうか、響さんか。彼女まで一緒に連れてきているということは、それなりの理由がある、と見ていいのかい?」
「はい、先生。」
「…なるほど。だがすまない、これから講義が入っているんだ。5時以降なら時間が空くから、近くにある喫茶店で待ち合わせはできないかな?」
「わかりました、わざわざありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いやいや。じゃあ、また後で。」
俺と響は矢的先生に見送られ、研究室を出た。廊下を歩く中、響が尋ねてくる。
「司令官、なぜあの先生の所を訪ねたんだい?」
「じきに分かるさ」
俺はそうとだけ答えておくことにしたーーー
ーーーヒトナナフタマル 大学近くの喫茶店
「待たせてすまなかった。ここの喫茶店は、私の行きつけなんだよ。さ、中に入ろう」
矢的先生に案内された店内は静かでシックな内装となっており、過去の映画音楽がBGMとして流れ、大人な雰囲気を醸し出している。
「おや矢的先生。今日はお連れ様も一緒ですか?」
「どうもです、マスター。」
「それはそれは。まだ店内も空いていますし、今日はどのお席に致しますか?」
「今日は…そうだなあ、この人達と重要な話があるから、奥のコンパートメント席を使わせてほしい。」
「かしこまりました。では、こちらへ。」
その店には4人くらいまでのコンパートメントの個室席があった。そこに通される俺たち3人。何故か響がさっきからキラキラ状態で、「かっこいい…ハラショー…」と呟きまくっているが…。
とりあえず軽食メニューを注文し、話に入る。俺は大井と北上の今の状況をできるだけ詳しく、矢的先生に話した。
「なるほどな。…そして、そのことをわざわざ私に相談しに来る、ということは」
「はい。大井から出ている光は、マイナスエネルギー特有の発光の可能性が極めて高いんです。」
すると、響が聞いた。
「…マイナスエネルギー?」
答えたのは、矢的先生だった。
「マイナスエネルギーというのは、悲しみや憎しみ、恨みなどといった、人の負の感情などから生まれる、邪悪なエネルギーのことだ。私も地球を守る中で、マイナスエネルギーによって復活したり、凶暴化した怪獣と何度も戦ってきたんだよ。」
「つまり、大井さんの抱えている、何かしらの負の感情が、マイナスエネルギーとなって光っているってことですか?」
「ご名答だよ、響さん」
「ありがとうございます。…そう言えば先程、地球を守っていた、と先生はおっしゃられていましたが…」
「ああ、そのことについてか。そうだね、提督さんの秘書艦である君には話しておこうか。私はかつて、防衛チーム・UGMの隊員として、そしてM78星雲から来た、ウルトラマン80として戦っていたんだよ。」
「!?
矢的先生が、ウルトラマン…!?」
普段の響の冷静な顔が、一気に驚きの顔へ変わる。
「ああ。私はまたその時、今はもう統合されて廃校になってしまった、桜ヶ丘中学校で教師として過ごしていたんだ。教育の見地から、マイナスエネルギーを抑えられるのではないか、と思ってね。でも結局、次々と現れる怪獣と戦うために、志半ばでその道は捨てねばならなかったんだ。地球をなんとか守り、地球人達に見送られ、私はM78星雲に帰還したが、やはりそれでも生徒達のことはいつも心に引っかかっていた。」
真剣に矢的先生の話を聞きいる響。
「でも生徒達は、そんな私のためにも、同窓会を開いてくれた。色々とハプニングはあったが、私の優秀な後輩、そして生徒達みんなの力があってこそ体験できた、とてもいい思い出だったのさ。」
「そうだったのですか…そう言えば、今は大学の教授をしていらっしゃると。」
響がさらに聞く。
「ああ、その事か。私は今言った同窓会の後、再びM78星雲に帰った。しかし同窓会でまた、志半ばで捨てた教育の道への思いが再燃してきてしまってね。宇宙警備隊のゾフィー兄さんに許しをもらって、数年前からそこの大学で働いているんだよ。」
「へぇ…」
「レオ兄さんやジャック兄さんから、君たちの鎮守府のことは聞いている。艦娘たちを立ち直らせているそうじゃないか。」
「いえ、僕は別に大したことは…」
謙遜する俺に微笑む先生。
「地球に深海棲艦が現れた時、教授としてその頃既に地球に滞在していた私には、ゾフィー隊長からウルトラサインで、『万が一の時には君が地球を守れ』と来たんだ。まあ、私が行こうとした直前のタイミングで、君たち艦娘が現れたから、結果的にそれはなくなったのだが…今でも、深海棲艦関連のニュースはチェックしているし、最近は深海棲艦とマイナスエネルギーの関連性についても、調査しようと思っている。」
「そうだったのですか…」
「…おっと、すまないね、ついつい話し込んでしまった。」
「いえいえ」
「ありがとう。それで提督さん、何か私に頼み事があるとみていいんだね?」
「はい。これはその…ダメもとで頼むようなものなのですが…これからしばらくの間、僕の鎮守府に臨時で来て欲しいんです。ただ、お忙しいこともあるでしょうし…」
すると、矢的先生は少し考え込み、そして、
「なるほど。わかった、大学の上の方に掛け合ってみよう」
「え、本当ですか!?」
「もちろん。実は大学の上の方ごく数人には、私の正体も話しているんだ。さっき言った桜ヶ丘中学校の教え子の1人が、実は学長をやっているのだよ。マイナスエネルギーのことについては彼も私から聞いて理解はあるから、二週間くらいなら研究のための出張ということで、そちらに行くことができるかもしれない。」
「あ、ありがとうございます!」
2人で頭を下げると、矢的先生は顔の前で手を横に降った。
「礼などいらないさ。マイナスエネルギーを放っておくわけには、行かないからね。」
その日はお互いの連絡先を交換して、それで終了となった。そして後日ーーー
ーーー「提督、お電話です」
大淀が入電を告げた。
「はい、お電話代わりました、第35鎮守府提督です。」
「こんにちは、矢的だ」
「あ、矢的先生!何か?」
「もちろん、この前のことだ。ハカセ…ゴホッ、大学の学長の方から許可が出たんだ。明日から、そっちの鎮守府に臨時で着任することになったよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「これからよろしくな。」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
その後しばらく話して、俺は受話器を置いた。そばにいた北上が、話しかけてくる。
「どうしたの、提督?なんかすごい嬉しそうだったけど?」
「北上、朗報だ。大井の件で、頼もしい助っ人が、明日から来てくれることになったんだ。」
「本当に!?提督、やりますねぇ~」
「ありがとな、北上。そうだな、その人のことを、今のうちに話しておこうか」
俺は北上に、矢的先生のことを話した。
「な、なるほどぉ…」
「なんか色々わかりづらいかもしれないが、きっと頼りになる人だ。」
「そっか…大丈夫かなぁ…」
北上はなおも心配そうに、執務室の窓から見える空を見上げたーーー
ーーー翌日
事前に大本営に連絡してあったので、矢的先生はその日の講義の後、大本営の護送車に乗って、夕方に鎮守府に到着した。降りてきた彼は、厳重な装甲の車にいささかマッチしない、ブラウンのコートにそれよりやや濃いブラウンのズボン、という服装。それはかえって、対面する者の緊張感を解き、安心感と親近感を与えてくれる。
矢的先生曰く、中学校教師時代の標準服装らしい。
「本日から、この鎮守府に臨時で着任することになった、矢的猛だ。みんな、よろしく頼む!」
軽い歓迎会が行われていた食堂は、拍手に包まれた。矢的先生はその後、北上を含め鎮守府の仲間と楽しく語らっていた、そしてーーー
ーーーその夜 フタヒトマルマル「矢的先生は、私のもう一つの隣の部屋ですか?」
「ああ。先生もまた、あなたと色々話したがっているんだ。悩みとかがあったら、彼に話せばきっと力になってくれるよ。」
「あ、ありがとうございます…」
戸惑っている様子の大井。矢的先生と軽く挨拶を交わし、彼女は部屋に戻って行った。その瞬間、またも彼女の体は不気味に発光していた。
彼女が部屋に戻ったのを確認した先生は、こちらに話しかけてくる。
「…やはり、あれはマイナスエネルギー発光で間違いない。それも相当な力を感じる。恐らく、本人の負の感情の強さに加え、その感情を押さえつけていることで相乗効果を生み出してしまっているのだろう。」
「そうですか…」
「はっきり言ってしまうと、私にもどうにか出来るか分からない。ただ、できる限り協力をさせて欲しい。」
「こちらこそ、来てくれただけでもとても頼もしい限りです。よろしくお願いします。」
「私からも…よろしく、お願いします」
「うむ、頑張ってみるよ」
俺と北上に、矢的先生は笑顔を返した。
北上の残り時間が、ちょうど1週間の時のことだったーーー
今回も読んでくれてありがとうございました!
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また次回です!