笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
やせんやせーん
筆者は夜も朝も弱い方ですが、昨夜遅くになんとか考えました。
おかけで今めちゃくちゃ眠たいです。
…昨夜の無理が祟ったようデース。
差し込むかすかな光
「……左手首より、先がない?左手がないってことか?」
「はい。」
「それは…なにかの事故とか?」
「…いえ、…実は、明石自身が切断してしまったのです。」
「…まじかよ…、一体何があったんだ?」
「…説明するととても長くなりますし、それに今日はもう遅いです。彼女もきっと寝ていると思うので、できれば明日にしてください…ごめんなさい」
「いや、確かに大淀の言う通りだな…寝るか。」
大淀が部屋を出るのを見て、俺はベッドを整え、眠りに入った。
翌日
大淀によると、ここの工廠を担当する艦娘は、明石の他に夕張がいるそうだ。軽巡洋艦である彼女は、出撃と工廠での活動を両立させているらしい。
「あの、私から1つ頼みが…」
「なんだ?大淀。」
「実は、夕張も私や明石と同じ鎮守府にいたんです。それで、彼女は自分にあったことを、ここのほかの鎮守府からきた艦娘に、ほとんど話していません。」
「…そうか」
「なので、話を聞いてあげるだけでも、彼女にとってはかなりの救いとなるはずです。どうか、よろしくお願いします…」
「わかった、善処してみるよ。そうだな、響も一緒に連れていこうかな」
「わかりました、呼び出します。」
ーーーしばらくして、響がやってきた。
「司令官、おはよ」
「おはよう、響。今日は少し工廠の方へ行ってみよう。明石さんの話を聞いてみないと」
「わかった」
2人で工廠へ向かう。ここの鎮守府の構造は、ここの執務棟、奥に艦娘寮、そして少し外れたところに工廠がある、といったものである。
向かう途中、手に感触を感じる。響が手を握っていた。見ると少し顔が赤い。少し照れているのだろうか。俺は響の手をしっかり握り返しつつ、歩いていった。
ーーー工廠
扉を少し開けて、中をのぞき込む。
「すみませーん…ここが工廠か、失礼するぞ」
「久しぶりのお客さんだ、はーい…あ、あなたがウワサの提督さんですか?おはようございます、ようこそ工廠へ!」
後ろ1本でまとめられた銀色の髪。どうやら彼女は夕張のようだ。
「えーと、何の御用でしょう?」
「あ、明石さん、いるかな?」
「明石さん…ですか。しばらくお待ちください…」
やや夕張は遠慮気味だった。彼女も同じ鎮守府にいたことだし、事情を知っているのだろう。
しかし、やってきた明石の姿は、俺の予想とかイメージから大きく外れていた。
「あ、新しい提督さんですか!こんにちは、はじめまして!工作艦の明石です、よろしくお願いします!」
…普通に元気で明るい。
「ああ、よろしく。」
「それで、私に何か?」
「いや、その…」
まずい、どう切り出そう。一から考え直さないと…
「…少し聞き辛いんだけど、明石さん、その左手はどうしたの?」
唐突に響が聞いた。「えっ…」と驚いた顔を見せる明石。当然だろう。響はじっと、明石を見つめている。俺はあまりに予想外な事態の連続で、何も言えなかった。しかしこの時、一つだけ気づいた。
響がこのことを聞いた時、奥に見える夕張が、同じような顔で驚き振り返っていたことに。
明石は笑顔で響に話す。
「あ、ああ…!ごめんね、びっくりしたよね。あのね、前の鎮守府でまだ私の練度がすごく低かった時、誤って機械に手を持ってかれちゃって…」
…ん?大淀の言ってたことと違う?…どういうこ
「嘘だよね」
「…!」明石の言葉を遮るように響が言った。先程よりも驚いた顔の明石。明らかに動揺している。響は極めて冷静に、無表情で明石を見つめている。
「…響ちゃん、なんなの…?何が、言いたいの……?」
明らかに明石の声のトーンが落ちている。顔は驚きと怯えや恐怖が混じっているような感じだった。
「だって」
響は自らの意見の説明を始めた。
「まず私達は艦娘。人類から制海権を簡単に奪った深海棲艦とも互角に渡り合えるし、私たちの体は人類の通常兵器じゃ傷をつけられない。工作艦とてそれは変わらないはずだよ。そんな体が、誤って巻き込まれたくらいで切断できるようなもろいものなの?」
「…だ、だって、鎮守府の機械はとても高性能よ。改造や解体とかにも使うし、それくらいなら」
「しかし、誤って巻き込んだのなら、痛みは相当のはずだよ。多少暴れたり、もがいたりはするはず。なのにその手の断面は、不謹慎かもしれないけど、すごく綺麗に切れてる。暴れたりしたなら、絶対そんなふうな切れ方はしないと思う」
「……」
「それに何より」
響は明石にさらに近づく。そして彼女を見上げ、言い放つ。
「さっきの笑顔…絶対無理に笑おうとしてた時のやつだよ。僕はわかる。周りに心配かけないために、自分の苦しい感情を押し殺して、無理やり笑ってる笑顔。さっきの明石さんの笑顔は、本当にそんな感じだったよ」
「………………」
明石は、震えていた。声こそあげなかったものの、口は半開き、顔は真っ赤に染まり、目には涙が浮かびはじめていた。
響は、明石の手を握った。響は普段は物静かだが、時々とても大胆な行動に打って出る事は、長い付き合いの中でとっくに知っている。しかし、やはりというか、俺はあっけにとられ、二人のやり取りを見つめることしかできない。
「…明石さん、お願いだよ。本当のことを、僕と提督に、話してーーーー
ドガーーーン!!
「うぁっ…!!」
突然大きな音が、俺を呼び戻した。今さっきまで隣にいたはずの響が、突然吹っ飛ばされ、工廠の床に叩きつけられる。
「響…!?響!!」
俺は慌てて響に駆け寄る。
「響!?大丈夫か、響!!」
「あ、ああ…。不死鳥の名は、伊達じゃないって、いつも言っているだろう…?」
意識はあるが、傷は中破ほどのものだ。そして、振り返ると、この状況を作り出した張本人が、物凄い、そうとしか言えないような形相で立っていた。
「あんたに…昨日来たばっかのあんたに…!
明石さんの、何が、わかるって言うのよ!!」
叫び声が工廠に響く。夕張だった。その体にはいつの間にか艤装が展開され、右腕の砲門は響の方に向いたまま、発射口からは薄く煙が上がっていた。
「夕張!?おい!何てことをしたんだ!」
俺は夕張に大声をあげた。
「なによ!そいつが明石さんの心を、えぐるような言い方したんじゃん!」
彼女もまた、顔を真っ赤にはらして、涙目になっていた。
「夕張、待って!」
明石までもが夕張を制止しようとする。
「あなだもよ、提督!明石さんがどんだけ辛い思いして来たか、知らないくせに!会う人会う人、みんなその左手のことばっか聞いて!毎回笑顔で答えて、でもそういうことのあった日の夜、明石さん必ず泣いてたんだよ!?」
「夕張お願い、やめて!」
明石の叫びでさえも、激昴した今の夕張には届く気配がない。
「落ち着け夕張!確かに今の響の言い方は、お前にとっては辛かったかもしれない、でも!俺もあいつも、明石を助けたいんだ、それは信じてくれ!夕張!」
「うるさい!黙れ!もういい!
ここから出ていけっ!」
「夕張っっ!」
パシンッ!……
「ぐっ!?」
明石の叫び声とともに、乾いた音が工廠の建物に響き渡った。頬をおさえて床に倒れる夕張。
突然の出来事だった。あろうことか、明石が夕張に思いっきり平手打ちをしたのだ。
「あ……あ…明石…さん?」
夕張が困惑しつつ彼女を見上げる。
「ごめん夕張ちゃん。…でも、聞いて…」
俺も、響も、夕張も、全員が明石を見る。
「本当に辛かった。確かに夕張の言う通り、みんなが左手のことを聞いて来て、その夜は絶対泣いちゃってたけど…」
泣きながら話す明石。
「辛かったその、本当の理由は、みんながそこしか見てくれない、とか、可哀想に思われてる、とか、そういうのじゃなくて…ぐすっ
いつまでもあの事件のことを引きずってる自分が、変われない自分が、嫌で嫌で仕方なくて…うぅ…」
…明石は人知れず、長く一緒にいた大淀や夕張も知らないところで、葛藤を繰り返していたのだ。
「話せば少しは楽になるって、そんな気はずっとしてたけど…でも、すごくそれが、理由もなく、すごく怖くて…」
「明石さん…ごめんなさい…」響が明石に謝罪する。
「僕の言い方は、確かに少しストレート過ぎたかもしれない。そこは本当にごめんなさい。でも、私も提督も、明石さんのことが本当に心配なんだ…。スキャンダルとかばっかり狙う雑誌記者とか、そういう気持ちからじゃなくて、本当に少しでも支えになりたくて…。辛かったらいいんだ、でもできればお願い、僕たちに、本当のことを話してくれないかな…」
「ありがとう響ちゃん、最初からわかってたよ」
「え…?」夕張が思わず声を漏らす。
「響ちゃんに言い寄られた時…あなたの瞳を見て、それがすぐにわかった。ゲスとかそんな心じゃなくて、純粋に、私を助けたいんだって気持ち、痛いほど伝わってきて…気づいたら泣いてたんだ…。提督も同じだよ。きっと2人になら、私の過去の事件…話せるかな」
明石が笑顔で響に歩み寄って言う。なんとか立ち上がった響の頭を、優しくなでる。
「明石さん…ごめんなさい…響ちゃんも、提督も…気持ちわかってなかったのは…私の方だった…」
「夕張さん、大丈夫、気にしないでいいよ。僕にも責任はあるし、あなたが明石さんを大切に思ってるんだな、って、すごく感じられたよ。」
「…良かったな、夕張」
俺は夕張に声をかける。うん、と、涙ながらに、彼女は微笑んでくれた。そこへ、
「提督!?明石さん!?みんな大丈夫!?」
大淀がかけて来た。
「あ、大淀さん」
「ちょっと、何があったの!?さっき大きい音したし、なんか夕張ちゃん泣いてるし、響ちゃん中破してるし…」
慌てる大淀。
「あー、ありがたいが落ち着いてくれ、大淀。色々あったけど、丸く収まりかけてるんだ。」
「そ、そうですか、なら良かったです…」
大淀を落ち着かせると、彼女に気づいた明石が声をかける。
「大淀さん…私、あの事件のことを話せる気がするの…」
「明石さん…本当ですか…!?」
「はい…!響ちゃんに提督、そして夕張ちゃんのおかげで…」
「明石さん…ありがとう…響ちゃんも、提督も…良かった…」
夕張は涙をこらえて、笑顔でそう言った。
「私も良かったです。とりあえず、響ちゃんは入渠して、話せる準備を整えましょう…」
「ドッグはこの奥にあるから、私が連れていくわね。ここは出撃もほとんどないから、高速修復材も余りまくってるし」
「夕張さん、ありがとうございます」
「ううん。響ちゃん、本当にごめんね…」
「もう気にしないでください。あと、これからよろしくお願いします」
「うん、こちらこそ!」
夕張が響を支えつつ、笑顔の2人がドッグへ向かっていった。
「…なんかいいですね、提督」
「だな、明石」
「…本当に何があったのでしょう…」
数分後ーーー
全回復した響を夕張が連れてきたのを見た明石は、工廠の隅の、普段休憩によく使うという円卓へ、みんなを案内した。
「これから、私の過去を話します。やっぱり、怖くないと言ったら、嘘になるけど…でも、ここにいるみんなを信じて話します。どうか、最後まで聞いてください。」
そう前置きをして、明石は過去を語り始めたーーー
…ふぃー。
次は明石さんの過去です。
アイデアは出来てきてるので出来るだけ早めに出します。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
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