笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
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はっと気づくと、その薪はどれもボロボロに破壊されていた。ゲンの力に圧巻される島風。
「天龍、龍田。破壊した薪の交換と、連装砲たちの保護を頼む。準備ができ次第始めろ、島風。」
「…連装砲ちゃんたちは、特訓には参加させないのですか?」
龍田の問にこう答えるゲン。
「そいつらは島風の艤装なのだろう。つまり、使いこなす大本の本人が強くなれば、連装砲の力も自ずと増す。」
「なるほどな…わかった」
天龍と龍田は、早速今ゲンが破壊した薪を替える。整った。道義の帯を締め直し深呼吸、気合いを入れ直す。
「特訓の前に聞く。島風、お前は強くなって何を成し遂げたい。」
「私は…今までの弱い自分に打ち勝って、この海を、守ります!」
「…うむ。よし、来るがいい。」
「はい!島風、行きます!」
ゲンの問いに強く答え、島風は走り出した。しかし、全力で走った瞬間、頭の中にかつての悪夢が蘇る。
「…!!」
一瞬速度が緩む。しかし、その少しの緩みでさえ、ゲンは見逃さない。
「…雑念を入れるな。集中しろ。」
「…は、はい!」
まだ薪に到達もしないまま叱咤される島風。しかし、彼女は強い気持ちで再びスタートからやり直す。
「あの記憶は消えない…なら、私はそれを超えて強くなる…!あそこのみんなの分まで、頑張れる私になる…!」
走り出す島風。一本目の薪に全力で手刀を降ろす。…しかし、割れない。止まってしまう島風。
「動きを止めるな!」
「は、はい!」
島風は何度も何度も挑戦した。まずはゲンのいるところまでと、まず目標を決める。自分に出来る力を全てその体に回し、薪を叩き、ゴールを目指す。そして、薪を壊せなかったにしても、とりあえずゴールまで到達した。しかし。
「…タイム、59秒。まだまだだ。」
「…は、はい…!」
薪は全部で30本。道のりから考えて、1秒に1つ以上のペースで破壊しないと無理だ。いきなり壁を感じる島風。だが、彼女は挑戦をやめなかった。
「もっと強く!角度をつけて叩き込め!」
「足の動きが鈍くなっているぞ!へばるな!」
「体がぶれすぎだ!余計に動くとかえって遅くなるぞ!」
島風は何度も何度も檄を飛ばされた。それでも挑戦を続けた。ゲンのそばで見ている天龍、龍田もその様子を見つめる。
「少し動きが良くなってきたか…」
呟く天龍。しかし、
「確かにそうだが、あの程度では到底、弱い自分を超えるのは無理だ。」
「お、おう…」
まじかよ、と思う天龍。正直この特訓の厳しさは、大本営時代、自身が先輩艦娘から受けた演習の何倍もの厳しさがあると、2人は痛感した。
「はぁ…はぁ…まだ、行けます!」
「なら来い」
「…はい!」
ーーーフタマルマルマル
「はぁ、はぁ…」
「…今日はここまでにするか」
「は、はい…」
日が沈み真っ暗になっても、島風は特訓を続けた。しかし、結局タイムも更新出来ず、一本も薪を割れないまま、この時間となってしまった。
ゲンに連れられ、テントに案内される島風。中に入れと促されるままに入ると、そこには…
「お、島風!お疲れさんだな!」
「さっき鎮守府から空輸便で、寝巻きと今日の夕食が届いたのよ〜。」
笑顔で迎える、天龍と龍田。プラスチック製の弁当箱には、色とりどりの食材。
「そうですか…ありがとうございます」
「今日は疲れただろう。ゆっくり休め。この島には小さいが、天然の温泉があるから、そこで風呂を済ませるといい。」
「は、はい。」
ゲンはそう島風に教えて、真っ暗闇の外へと去っていった。
「ほら島風、このタオルでとりあえず手をふけ。鳳翔さんと間宮さんのスポーツ飯弁当、一緒に食べようぜ」
「は、はい」
天龍に渡されたタオルでふき、3人でご飯を食べる島風。疲れた体にその美味しさが染み渡る。
「美味しい…」
「ふふ、よかったわね〜」
がっつくようにご飯を食べ、そして岩に囲まれた小さな小さな温泉で傷を癒す。テントに戻ると、今日の疲れが一気に来る。
「ふわぁ…」
「よほど疲れたみたいだな。俺達はここでテントや夕食の準備をしてたから、途中から見られなかったが…どうだったか?」
小さなランプの灯がテント内を明るく照らす。そんな中天龍は島風に話しかけた。
「…ごめんなさい、タイムも薪も…何一つ出来ませんでした…」
「気にすることはないわ、島風ちゃん」
「龍田さん…」
「ちゃんと成長してたわよ、今日の島風ちゃん。」
「おう、その通りだ。お前にゃ立派な志があるんだ。それを忘れず全力で取り組めば、必ず達成できるぜ」
「天龍さん…お2人とも、ありがとうございます。私、明日も頑張ります」
「おう、その意気だ。じゃあおやすみ」
「おやすみ〜」
「おやすみなさい…」
ーーーその後も、ゲンによる特訓は続いた。必死に頑張る島風だが、なかなか成果が見られない。
「こら!動きを止めるな!」
ゲンの檄が何回も飛ぶ。必死に体を動かす島風。やる気はあった。でも、なかなか達成できない。2日目も、3日目も、4日目も…
「頑張んなきゃ…頑張ん…なきゃ…」
5日目。この日も、午前中の特訓では目立った成果が見られなかった。昼食をとり、午後の特訓へと移るが…
「島風!どうした、動きが全く鈍っているぞ!」
「は、はい…」
もう、返事のハリさえ無くなっていた。そして駆け出す。ジグザグに並んだ薪へ、打撃を加える。壊れない。でも走る。そして、転んでしまった。
「気を緩ませるな!立て島風!」
しかし…島風は転んだまま立ち上がらない。
「島風…」
彼女は限界に達していた。目は真っ赤になり、そして涙声で、叫んだ。
「出来っこないっ!」
「…!」
その言葉を聞いた途端、ゲンの顔がひきつる。
「島風…お前は特訓の最初に、弱い自分に打ち勝って強くなり、海を守りたいと言ったのではないのか…!?」
「言ったよ!でもっ!何度も何度もやってもできないじゃんっ!もう、無理だよ!!気持ちはあるけど、なんもできないよ!」
その瞬間、ゲンは思い切り地面をダン!と踏み鳴らした。思わず涙でぐちゃぐちゃの顔を上げる島風。
「お前…その気持ちが本当にあるのか」
低く威厳のある声。顔をあげる島風を見下ろし、ゲンは思い切り言った。
「だったら!」
「…!」
「その顔はなんだその目はなんだ!その涙はなんだ!!」
あまりの剣幕に言葉が出ない島風。
「お前がやらずに誰がやる!!」
「…」
「お前のその涙で!弱い自分に打ち勝てるか!
その涙で、あの海が守れるか!!」
その言葉にハッとする島風。そして、特訓を投げ出そうとした自分への恥と怒りを痛感する。
「ごめんなさい…私が、間違っていました…!もう一度、もう一度やってみます…!お願いします!」
「…うむ」
島風は再びスタートから走り出す。
「えいっ!はぁっ!やぁっ!たぁぁっ!!」
その様子を近くで見守る、天龍と龍田。
「今の言葉…すごい厳しいことだけど…すごいいいことだったな…」
「そうね〜。昨日実は彼から聞いたんだけど、この言葉は、この前言ってたモロボシさんから、修行への叱咤激励としてかけられたんだって。」
「ほ、ほう…」
島風のその目は、今までよりもずっと、真剣そのものの目だった。何度転んでも、何度倒れても、不屈の闘志で、彼女は立ち上がった。
「やあっ!!」
バコッ!!
その闘志が伝わったのか、薪の1つが、島風の手刀で砕けた。
「…!」
喜色満面になる島風。しかし、すぐにその顔を引き締め、天龍に薪の交換を頼む。
「もう一回行きます!」
そう。この特訓の最終目標は、30本の薪を30秒間で走り抜けて砕くことだ。
「はぁぁっ!」
その動きは、もう、本来の島風の俊敏な動き以上だった。そして、時刻はフタヒトマルロク…本来ならその日の特訓は終わりになっている時間だが、まだ島風は続けていた。そしてついに…
「行きます…!」
駆け出す島風。勢いよく突き出される手刀、足。次々と破壊される太い薪。スピードも全速力だ。
「やぁっっ!」
最後の薪を蹴り砕き、ゲンのいるゴールを駆け抜ける。
「タイム…28秒97」
淡々と告げるゲン。ゴールまで駆けてきたその道には、ゴロゴロと破壊された薪の破片が落ちている。
「…やった…やった…!やったあぁぁぁ!!」
体全身で喜ぶ島風。ついに目標を超えたのだ。思わず天龍、龍田も心を打たれる。そして、ゲンは島風に駆け寄る。
「…本当によくやった。よく頑張った。」
「はい…!ありがとうございます!」
「うむ。よし、ならば明日は天龍と龍田に洋上での最終訓練を頼もう。今日は頑張った分疲れただろうから、夕食と風呂を済ませてすぐに寝なさい」
「はい!」
疲れても元気よく、ゲンと共にテントへと行く島風だったーーー
ーーー同時刻 某海域洋上
「ホウ…コンナ所ニイタトハナ…」
夜空の下、海面に佇む複数の黒い影。その影の一つが不気味に微笑む。
その視界の遠くにはかすかに、島風が特訓している島が映っていた。
「…明日、鎮守府ト島ノ双方ニ襲撃ヲカケルゾ」
そう呟き、影たちは海に潜航し、消えたーーー
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