笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
気付けはベッドで寝坊する毎日…
布団恐るべし。
ちなみに筆者はかなりの寒がりです。
何が言いたいかと言うと
続きできたんでどうぞ、ということです。
↑何がどうなってそうなった
ーーー陸奥の個人部屋
「…いったい、どうすればいいのかしらね…」
陸奥は窓の外を見つめて悩んでいた。姉はその病のせいで随分前から心を閉ざしてしまっている。妹の自分にも、完全に開けていないことが、残念であり、悲しくもあった。
「すみません、陸奥さん、いますか?」
ふいに聞こえたドアノックの音。
「はーい」
ドアを開けると、
「あ、あの、失礼します」
挨拶をして頭を下げる1人の艦娘。吹雪だった。
「先程は姉が本当にひどいことを言ってしまって、ごめんなさいね」
陸奥は部屋に吹雪を通して、机に互いに向かい合わせで座らせる。
「いえ、その、もう気にしないで下さい、と伝えて下さい…あ、なんか上から目線、みたいでしたよね、ごめんなさい…」
「ううん、いいの。で、どうしたの?
…まあ、用件は大方わかってはいる、けれど…」
「はい、長門さんのことなんです。提督から、よかったら聞いてこい、と…」
「そう、よね。あなたも気になっていることだろうし、話しましょうかね。」
「すみません、なんかプライベートな所に踏み込んだみたいになってしまって…」
「うふふ、気にしないでいいのよ。吹雪ちゃんはきっと優しいし…」
「優しい、ですか…そんなこと、無いと思いますけど…」
そう言った吹雪の顔に、少し陰りが見える。
「…どうしたの?吹雪ちゃん?」
「…え?あ、いや、その、なんでも、ないです、大丈夫です。」
嘘だ。陸奥は直感でそう感じた。姉と状況は違えども、きっと吹雪の心には、同じように影があるのだろう。とにかく、ここはあまり踏み込まないでおこうと、今は吹雪の頭を優しく撫でることにする。
「大丈夫大丈夫、吹雪ちゃんは大丈夫…」
「あ、ありがとうございます…」
「うふふ、よかったよかった。さて、長門のこと、あなたに話さなきゃね」
「は、はい」
「ふふ、そんな緊張しなくてもいいのよ。
…そうね、吹雪ちゃんは、『艦娘性超記憶障害』って、聞いたことあるかしら。」
「艦娘性、超記憶障害?」
ーーー同時刻 夕立の個人部屋
「夕立、いるか?少しいいかな」
「提督さん?どうぞっぽい〜」
俺は夕立の部屋に入った。
「着任したばかりなのにごめんな、急に」
「気にしないで欲しいっぽい〜あ、そこでいいなら座ってどうぞっぽい〜」
「ふふ、ありがとな、じゃあお言葉に甘えて」
俺は夕立に促され、座布団に座る。
「それで、用件は何っぽい?」
「いや、吹雪のことでな。その、お前と吹雪が前にいた鎮守府で、何かあったのかなって思って」
「うーん…特にこれといった事件はなかったっぽい。」
「そうか…」
しかし、夕立がふいに言った。
「でも、吹雪ちゃん、前の鎮守府の提督は少し苦手だったっぽい。何度か相談されたしっぽいまあ私も、あまり好きな方ではなかったっぽい。」
「本当か?」
俺の質問に、夕立が頷く。
「思い出した、確か吹雪ちゃん、一回提督とすごく言い争って、そのことでも相談されたっぽい。…すごくその時泣いてたっぽい」
「それ、詳しく教えてくれないか?」
「うん、わかった」
ーーー夕立と吹雪は、第6鎮守府からやってきた。その鎮守府はかなりの戦果をあげている、深海棲艦攻撃の中核を担う鎮守府の一つであった。しかし、そこの提督はブラック鎮守府まがいのことはしないものの、情など微塵もない、そんな表現がよく当てはまるような人物だった。そしてそこの鎮守府では、姉妹艦でさえ互いに笑顔を見せることのないと言われていたことは、俺も大本営時代に聞いたことがある。そこからいつしか、「機械軍鎮守府」という異名がついたほどだ。
吹雪と夕立は、そこの駆逐艦の中でもトップクラスの実力を誇っていたのだ。しかし、吹雪はいつもその提督に、納得がいかなかった。廊下で仲間に笑顔で挨拶しても、真顔で一礼されるだけ。彼女はいつも悩んでいた。
そんなある日。
仲間達と、任務をすべくある海域に出撃した吹雪。しかし、その日の戦いは激しく、仲間数人が中、大破してしまった。自分はなんとか小破手前で済んだが、かなりの大傷の仲間もいる。その時は、全員なんとか帰還したのだが…
「提督、艦隊帰投しました」
「中、大破艦は入渠の際高速修復剤の使用を許可。後に報告書を提出するように。下がれ」
提督はそれだけを言い、退室を促す。
「はっ」
艦娘たちは敬礼をして執務室を去った。ただ1人、吹雪を除いて。
「…どうした吹雪。下がれと言ったはずだ」
「司令官」
「なんだ」
「あの、司令官には、情とか、優しさとかって、無いんですか…?少しは、みんなのこと労ったり、怪我した人のことは心配してあげても…」
しかし、彼は鋭い眼光を吹雪に向けてこう言い放った。
「何を言っている吹雪。血迷ったか。我々は今存亡をかけた戦いの真っ最中だぞ?そんな中に情だの優しさなど気配りなど余計な気持ちを持ち込むな。いいか?余計な心配などするな、戦いに集中しろ」
「え…」
「私の言うことがわからないというのか?とにかく余計な情などいらないと言っているんだ。それで集中できなくなって沈んだらどうする?いいか?これは戦いだ。そのことがわからないというのならーーー」
「わかりました…もういいです…!」
吹雪は捨て台詞のようにそう吐いて、執務室のドアを乱暴に閉めて出て行った。
「吹雪にそういうことがあったのか…」
「うん、吹雪ちゃんめちゃくちゃ凹んでたっぽい。それで、ここで少しでも力になりたいって言って提督に異動を申請して…でも提督、別れも何も言わずに吹雪ちゃんを半ば追い出すように送って…1人だと心配だから、夕立もついてきたっぽい。」
「そうかそうか。ありがとな、教えてくれて」
お礼にと、夕立の頭を撫でる。
「ぽい〜」
ご満悦な夕立の顔を見つつ、これからどうするかを俺は考え始めたーーー
ーーーその頃、陸奥の部屋
「私達艦娘は、軍艦そのものだった頃の記憶が、しっかりと頭に残っているでしょう。」
陸奥は吹雪に、長門のことを話していた。
「はい」
「どこで戦い、どのような戦果を挙げ、そしていつ軍艦としての生を終えたか…でもね、希にそれが脳の記憶にとどまらず、体とか能力とか表面に出てしまうことがあって。それを、艦娘性超記憶障害っていうの。」
「そうなんですか…」
「ええ。具体的なケースとしては、操舵不能になって沈んだ艦娘が、平衡感覚を司る脳の部分で著しく発達速度の遅さが見られたり、船体が割れ、切断されるような最期を遂げた艦娘は、今でも体に絞められたような跡があって痛みを伴ったり…」
「じゃあ…長門さんの場合は?」
「…長門の最期は、わかる?」
「はい。確か戦後、水爆実験の標的艦にされて沈んだと…まさか…?」
「そう。長門は放射線による病気を、生まれながらに艦娘性超記憶障害として背負ってしまったの。一応大本営の方で、出来るだけの治療は済んでいるけど、今でも脱毛症状で髪がなかったり、時々あの光景が激痛とともにフラッシュバックして、さっきみたいに苦しんだり…。その影響で彼女は出撃も何も出来ず、自分の無力感と歯痒さで、心を閉ざしてしまったの。妹に当たる私にも、時々当たってくるほどに、ね。」
「長門さんも、陸奥さんも、大変だったんですね…」
「ふふ、私の事まで心配してくれるなんて、あなたも優しいのね。とりあえず、長門はそっとしてあげて、関わってもきっとーーー」
「いえっ!」
気づいたら、吹雪は叫んでいた。驚きのあまり言葉を飲み込む陸奥。我に帰ってその様子に気づいた吹雪は、とりあえず謝り、しかし自分の意思をしっかりと陸奥に伝えた。
「確かに、長門さんは心を閉ざしてしまったかもしれません…でも、私、長門さんを放っておくことなんてできません…!陸奥さん、お願いします、長門さんと、もっと話して、長門さんの心を開いてあげたいんです…!」
強い言葉。強い意思。今の吹雪の一字一句からそれが痛いほど陸奥に伝わってきた。ならば、その気持ちを受け止めて、そして認めてあげるのが、今の自分がすべき一番賢い判断だろう。陸奥はそう考えた。
「わかったわ、吹雪ちゃん。もし何かあったら、遠慮なくお姉さんに頼っていいんだからね?」
「はい!」
さて、これからどうしよう。吹雪は少しの希望とともに、これからの行動を考え始めた。
ということで、今回も読んでくれてありがとうございました!
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ではまた次回!