笑顔は太陽のごとく…《艦娘療養編 完結済》 作:バスクランサー
よろしくお願いします!
荒野の心は
ドアが開き、2人の艦娘が中に入ってくる。1人は白いセーラー服、もう1人は黒いセーラー服と言った装いだ。
「本日付けで第35鎮守府に着任しました、特型駆逐艦の吹雪です!」
「同じく本日付けで着任しました、白露型駆逐艦の夕立ですっぽい!」
敬礼をして挨拶をする2人。吹雪はやや緊張気味だ。一方夕立は、ニコリと強く微笑んでいる。
「ようこそ、ここの提督だ。で、こちらが秘書艦の」
「響です。ハラショー」
「君達の着任を心から歓迎する。これからよろしくな。」
「は、はい!」
「よろしくお願いしますっぽい!」
その後、着任した2人には、事務関係の仕事で少し遅れた大淀の合流を待って、この第35鎮守府の現状や解説もした。2人とも、異動前に少し学んできていたらしいが、やはり見るのには違いがあるので、色々と教えた。そして、緊張をほぐすため、少し雑談をした。ただ、話は常にこちら側か夕立が切り出し、少し吹雪が控えめのような印象を受けた。そして…
「よし、雑談話はここら辺にして、折角だし、響、2人にこの鎮守府を案内してやってくれないか?」
「任せて、司令官」
「ありがとう、頼む」
こうして響は、吹雪と夕立を連れて部屋を出た。書類整理を終わらせてあるので、俺もなんもすることない。なので、テキトーにふらつくことにした。
鎮守府廊下ーーー
もちろん当てもないので、気の向くままに行く形になる。まあ広いので廻るにもそれなりに時間がかかるのだが。
歩くこと十数分、しばらくふと、その廊下の向こうに何かが見えた。
それは、うずくまる一つの人影。頭を黒いバンダナで覆い、上下半身に割烹着をまとっている。そしてそのそばには、箒とちりとりが無造作に置かれていた。
「うう…ああぁ…はぁ、はぁ…ぅうう!」
苦しそうなうめき声をあげ、呼吸も荒い。俺は慌ててその人影に駆け寄り、その具合を確かめる。
「おい長門、大丈夫か!?」
すると、彼女はゆっくりとこちらを見上げて、苦しげに言葉を返す。
「あ、あぁ…提督か…これ位、なんてこっ」
次の瞬間、彼女ーーー長門は再び顔を苦しそうに歪めてうずくまった。
「うぅっ…うがぁっっ…ああぁっ」
「長門!?」
やばい。とにかくこの状況はやばい。その時、こっちに向かって走ってくる姿が。吹雪だ。響による案内が終わって、暇なのだろう。
「司令官!?何があっ…大丈夫ですか!?えーと、えーとあなたは…」
「お前が、今度着任した吹雪、か…。わた…しは、戦艦、の、長門…ううっ!」
「えっ、長門さん!?大丈夫ですか、しっかり!」
長門に必死に呼びかける吹雪、しかしーーー
「うるさい…!」
「…!」
長門は吹雪に、うずくまった姿勢のままそう言い放った。衝撃を受けて、呆然としてしまう吹雪。場の空気も一瞬にして凍りついてしまった。
「長門、やめなさい。とにかく無理をするな、すぐに陸奥を呼んでくるから」
「提督、必要、ない…余計な世話だ…」
しかし、長門がそう言い終わらないうちに、俺は長門の姉妹艦である艦娘、陸奥を探し始めたのであったーーー
数分後ーーー
「はい、これで大丈夫。」
長門の割烹着とは対照的な、露出度の高い服に身を包んだ陸奥。彼女は俺が現場に連れてきた途端に状況を察したようだ。彼女はいつも肌身離さず持ち歩いている薬を長門に飲ませる。即効性も効き目もかなりのものなので、飲むと長門もすぐに落ち着きを取り戻した。
「…薬持ち歩いて、って私いつも言っているわよね?」
「…わ、私はそんなものなくても…」
「馬鹿な事言わないで!」
「!!…」
「もう、いつも妹として、私いつもあなたのこと心配してるのよ!?それに心配してくれた提督や、それに着任したばかりの吹雪ちゃんにもそんなひどいこと言って!少しは人の気持ちも考えてよっ!」
「す、すまん…陸奥…」
「もう…というか、謝る相手は私というより、提督と吹雪ちゃんじゃないの?」
「あ、あぁ…」
長門は陸奥に支えられて立ち上がると、吹雪と俺の方を向き、蚊の鳴くような声で言った。
「すまなかった、提督、吹雪よ…」
「私からもごめんなさい。吹雪ちゃんも着任したばかりなのに、いきなりごめんね。その、こうなっちゃって言うのもなんだけど、これから、よろしくね…」
申し訳なさそうに頭を下げる陸奥。
「いやいや、まあ気をつけてくれな、長門」
長門は俯きつつ頷くと、箒とちりとりを取って、再び掃除を始めた。
「もう、さっきまで倒れてたばっかなのに…あまり無理はしないでちょうだい…あ、ごめんなさい、私は少しお手洗いに行ってくるわね…」
陸奥はそう言って、廊下の先のお手洗いに行った。
ーーー執務室
「司令官、すみません…」
「いや、吹雪が謝るようなことは何も無い。」
あの後、少し吹雪の調子がどこか不安定そうなので、執務室に通すことにした。
「それと、大丈夫か?吹雪。」
「いえ、何も、なんでもありません。」
しかし、絶対彼女は心に何かがあったと思う。その表情からもすぐにそれはわかる。
「さっきのことが、引っかかるのか?」
「…はい。」
「そうか…陸奥が彼女の個人部屋にいるから、色々話してくるといい。きっと助けになってくれるよ。」
「そう、ですか。わかりました、行ってきます」
吹雪はそう言って、執務室を後にした。
「さて、と」
俺は艦娘のデータが書かれた書類を取り出し、長門の所を見直した。そこには、
「艦娘性超記憶障害」
と、書かれていた。
そして、先程大淀が渡してくれた、吹雪の分の書類も見る。彼女は別段心に傷を負っていないと思っていたが、異動前の鎮守府をよく見直し、記憶をたどる。
「あぁ、なるほど…」
俺は書類をしまい、少し夕立に話を聞こうと、席を立ったーーー
ということでここまで今回も読んでくれてありがとうございました!
さて、2人は一体どのように…
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それではまた次回!