剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「さあ来やがったか!」

 

 挑発するまでもなく、八頭ザメ水中に飛び込んだ俺めがけてまっしぐらに突進してきた。あんなに腹に重油入れられてもまだ食欲があるのだろうか。

 

 俺は水の抵抗を無視した速度で肉薄してきた八頭ザメに対し、手にした木の棒を振るう、また振るう。砂浜で俺の手に収まる時を延々と待ちわびていた木の棒は、今この瞬間、俺と一体となって巨大なサメに牙を剥く。

 

「……やっぱりだ、効いてるぞ!」

 

 木の棒の攻撃を受けた八頭ザメは、大きく仰け反って突進をキャンセルされ、そしてさらなる一撃を加える旅に体勢を崩した。

 

 やはりだ、あの時漁師が木の棒を使っても有効打にならなかったのは、その持ち主が俺ではなかったからだったのだ。

 

 あの存在が言うところの「聖剣」とその担い手……それが木の棒やボンベと俺だったのだ。俺は転生に当たって、木の棒とボンベに因果律を紡ぐ攻撃属性を付与する力を得ていたのだ!

 

 あんまり嬉しくない。

 

「……よし、その調子で大口開けて見せろ! こいつをぶち込んでやる。それとも、ケツの穴の方がお好みか?」

 

 俺はサメが口を開いたタイミングを見計らって、牽引していた爆破用のボンベを投げ込んだ! よし、これで後は距離を取って狙撃するだけだ――

 

 と、思ったが甘かった。

 

「何、まさか飲み込むとは⁉」

 

 サメの口と喉は予測していたよりも遥かに大きかったようだ。サメはボンベを丸ごと胃袋まで吸い込んでしまった。

 

 そしてその勢いのまま、周囲の海水を大量に吸い込む!

 

「ぐぉおおおおおおお!」

 

 当然、その海水の中にはこの俺も漂っていた訳で。

 

 俺はあろうことか、サメの口に吸い込まれてしまった!

 

「くそ、噛まれて死ぬのだけはごめんだ!」

 

 牙を避けていると、さらにどんどん吸い込まれ、不自然に広い食道を通過して、重油に満ちた胃袋に納められてしまった!

 

「まさか喰われてしまうとは!」

 

 嫌だ、せっかくあと少しで作戦も成功しそうだったのに、こんなところで死んでたまるか!

 

 何か、何か脱出の手段は無いのか⁉

 

「……こいつだ!」

 

 俺はキャサリンから預かったチェーンソーの存在を思い出した。

 

 こいつで腹を内側から掻っ捌いて外の空気を再び拝んでやる!

 

「いっけェェェええええええ!」

 

 俺は唸り猛り狂うチェーンソーの刃を肉の壁に当て、思いっきり押し込み、そして引っ張った。

 

 流石に体内からの攻撃には弱いのか、八頭ザメは、激痛にのたうち回っているようで、俺はチェーンソーを手にしたまま大きく揺さぶられた。だがここで中断する訳にはいかない! さらに腕に力を込め、そして引き裂く!

 

「イィヤァァアアアアアアアアアッ‼」

 

 そして遂に、無理矢理広げれば人一人が通ることができる程度の裂け目を作ることに成功した! 本当なら面で切り取って作った穴からすっぽり出たかったのだが、贅沢は言えない。俺は身体を圧迫されながらも、力づくで外界に這い出る。

 

 ある程度出たところで、身体が勝手に外に向けて押し出される。そう、サメの内部は重油で満たされていたため、内圧が高く、その圧力によって吐き出されたのだ。これにより俺は、華麗なる脱出劇を見事に成功!

 

「……しめた! ボンベが露出している!」

 

 腹を裂かれて苦しむサメの方を振り返ると、奴は何と都合の良いことに、腹の裂け目から飲み込んだボンベを露出させていた。人一人がやっと通れる程度の裂け目だったので、上手い具合に引っかかってくれたらしい。そしてボンベは蓋の役目も果たしていて、裂け目からせっかく流し込んだ重油と酸化剤が漏出するのを最低限に抑えてくれていた。

 

 八頭ザメは苦しみ混乱しているのか、急激に浮上し始めた。

 

「よし、今度こそ止めだ!」

 

 俺も八頭ザメを追いかけて浮上し、拳銃を防水パックから取り出す。

 

「当たれ……くたばれ化け物!」

 

 そして俺は、奴の腹から顔を見せるボンベが水面に出てきたその瞬間に狙撃した。

 

 ボンベが炸裂すると瞬く間に体内の重油も誘爆し、今までの怪物爆破とは比べられないほどの爆轟がサメの身体を包み込む。

 

「……くっ……!」

 

 その衝撃波はすさまじく、俺は一時水面下へ退避することを余儀なくされてしまった。潜水しようとする俺を、爆発が生んだ大波が襲う。

 

 そして十数秒程度待って水上に顔を出すと、先ほどまで八頭ザメがいたところには生命の気配すら無く、ただ巨大なキノコ雲が立ち込めているだけであった。サメの体内で圧縮された流体が爆発したからだろうか、心なしかキノコ雲がサメのシルエットをしているようにも見える。

 

 そして、そんな爆炎をバックに飛行するヘリコプターから手を振るダニーの姿を認めたところで、俺の視界は再び暗転した。

 


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