剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「どうしたんだカルロス。そいつは一体何なんだ?」

 

 俺たちが駆け付けてみると、そこには拳銃を構えて一体のゾンビと対峙しているカルロスの姿があった。裏口の扉が開いているから、そこから入ってこようとしていたのだろう。

 

 しかしそのゾンビは既に動いておらず、どうやらカルロスの弾を受けて倒れたようだった。死体が動いているのがゾンビなら、これを「ゾンビの死体」と呼称して良いのかは甚だ疑問でもあるが。

 

「カルロスさん、そのゾンビは一体……?」

「はぐれゾンビってところかな。裏手方面を双眼鏡で見回してみたが、ゾンビの大きな群れはだいぶ離れたところにしかいない。だがこいつは、群れに関係なく、急に現れやがった。だから撃ったんだが、間違ってたかい?」

 

 また普通のゾンビの法則を無視した存在だ。この死体を見る限り、この個体が特別な存在であるようにはとても思えない。だが、街中に散在する群れと言い、同心円状に拡大感染するという通常のゾンビの性質を無視した現象があるのは確かなことだった。

 

「ハリスさん、何かおかしいと思いませんか?」

「ああ、君も思ったか……。そうだ、今回のゾンビは同心円状に広がるだけにとどまっていない」

「ゾンビの発生原因にカギがあるのか、それともゾンビが誘導されてるのか……。誘導と言えば、こいつらは何で人を感知してるんでしょう? 匂い? 音?」

 

 いくつか可能性が考えられない訳ではないが、それにしても謎の多いゾンビ事件である。俺、ゾンビ相手は初めてだというのに。

 

 と、俺たちが不思議がっていると、レベッカが恐る恐る口を開いた。

 

「……とりあえず、人間を感知する方法は熱じゃないかと思います……」

「熱? 蛇みたいに赤外線を感知してるってことか?」

「はい、そうだと思います……。餓えているならどうしてゾンビたち同士で共食いをしないのか……それは彼らにはわたしたちと決定的に違う点があって、その点を彼らが感知してるからではないかなと思いまして……。ゾンビの顔色を見れば、彼らの体温が低いことはわかりかすし、多分それじゃないかなと。それにライアンさん、道でゾンビが何故か車を壊してたの覚えてますか? あれもエンジン熱に反応したのかも」

 

「なるほど、確かに匂いや姿で判断してるのなら説明のつかないことも、それなら合点がいくな」

「で、でもよ? こいつらだって元は人間だぜ? オレたちにゃ蛇みたいなセンサーは無いし、ゾンビにそんなものができてる様子も無いぜ?」

 

 ダニーがしゃがみ込んでゾンビの死体を棒で突きながら言う。

 

「ええ、そこがわからないところなんです。どうやって感知しているのか……」

 

 レベッカが顔を伏せて考え込んでいると、自分が射殺したゾンビをまじまじと見つめていたカルロスが口を開いた。

 

「しっかし、こいつら嬉しくないカラフルな血の色してんだなァ」

「ん? 今何と言ったカルロス⁉」

「いや、ほら見てごらんよ。こいつらの血、赤いことには違いはないが、ところどころによってどす黒かったり鮮やかな赤だったりするんだ。床にぶちまけたの見てると、まるでストロベリーソースのマーブルだ」

 

 改めて見てみると、確かにゾンビの流している血液には人の血としては異様にどす黒い部分と淡い色になっている部分とがあり、ラテアートのように模様を描いていた。

 

「そうか……それですよ! 血中のウイルス濃度です!」

「何だって?」

「熱を本当に感知してるのはゾンビ本体ではなくて、血中のウイルスなんです。多分、色が濃くなってるところがウイルスの集合してるところです。きっと外界の熱を感じ取ったウイルスが、感染者の身体の中で熱のある方向に集まる、すると感染者は、自分の中のウイルスに引っ張られるようにして、その指向性に操られるというメカニズムじゃないでしょうか。そして対象に接触したら、あとは脳を侵された本能で反射的に喰らいつく……」

 

 なるほど、確かにそれならば矛盾は生じない。となれば、残る謎は不規則的に発生することくらいか。

 

「とりあえず、この裏口も塞いでおこう。いざという時に脱出口として使うために、正面玄関とかよりは軽めに塞ぐんだ」

 

 カルロスの撃ち殺したゾンビの死体を倉庫にぶち込んだ後、ハリスの言う通り、俺たちは裏口を軽く塞いだ。

 

「とりあえず、当分は入って来られないとは思うけど、それも時間の問題ね。ハリスさん、ここにいる人たちはゾンビと戦ったの?」

 

 災害対策の申し子であるキャサリンが、簡易なバリケードを見ながらハリスに聞く。

 

「いや、ほとんどは戦わずに逃げて来たらしい。まあ、あのチンピラ風の集団と保護者のいない幼女に関しては事情がわからないのだが……」

「なら警備員さんたちは皆に武器を取るように言わせて。あのヒステリックおばさんとエセ司祭は言っても聞かないかもだけど、他の人たちには備えを」

「わかった」

「ちなみにこのホームセンターに銃は?」

「本格的な鉄砲店は無いから最低限の拳銃と単発ライフル、狩猟用のショットガンしかない。足りない分の武器は何かで代用するしかないな」

「なら皆にもその辺のアドバイスを。チェーンソーなんかおすすめよ。あたしたちはあたしたちで武器と、他に何か使えそうなものを探してくるわ」

 

 俺たちは伊達にサメやナチスや大蛇との戦いを経験してないということもあり、自分たちの感覚を頼りに武装することとなった。


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