剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件   作:雫。

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「さて、多少は楽になりましたか?」

「あ、ああ。礼を言おう」

 

 医療の知識も高度な道具も無いので、患部に消毒と止血を施して包帯を巻き、骨にひびが入っていると思しきところは適当に固定して、あとは市販の痛み止めを飲ませるくらいの処置しかできなかったが、やはり鍛えられているようだ、兵士はすぐに最低限身体を動かせるようになり、落ち着いた。

 

「どういたしまして。でも礼も良いけど、この事件に関する情報を教えてくれると嬉しいですね。俺はライアン・ブラウン。彼女たちはキャサリンとレベッカ。まずは自己紹介といきましょうか」

「おいおい、オレ様を忘れちゃ困るぜ親友。そういう新手のプレイかい?」

 

 ダニーの分まで俺が紹介する義務は無い。

 

「お、俺は……」

 

 兵士はしばし沈黙した。

 

 やはり、あんな怪物を追っていたのだ、そう簡単に明かせる身元ではないのかもしれない。

 

「……いや、もう迷うまい。……俺はケヴィン。ケヴィン・トールマン、本名だ。元海兵隊員で今はフリーの用心棒だ」

 

 しかし彼は意外にも、わざわざ自己申告しながら本名を明かしてくれた。

 

「へぇ、てっきりクールなコードネームでも名乗ってくれるのかと思ったわ」

「……前々から疑念を抱いてはきたが、ようやく迷いが解けたんだ。あいつらに肩入れするのは、もうやめようと……」

「ど、どういうことですか?」

「そうだな、奴らとの縁を切る決意表明だ。礼としては何だが、教えられることは教えよう」

 

 ケヴィンは嫌な熱気に満たされた呼気を腹の底から吐き出しながら未だ鈍い痛みが燻る重い身体を引き起こす。

 

「俺は二年前から、アルファ・コーポレーション……名前くらいは聞いたこともあるだろう、あの大手バイオテクノロジー会社の研究室に私兵として拾われていたんだ。給料は悪くなかった。軍からの依頼で研究をするほどの会社だからな」

 

 あ、大体展開が読めてきたぞ。

 

「俺を雇っていたのは主任職にあるギルバート博士というどうにもいけ好かない男だったんだが、彼は最近、海軍から独自に研究開発の依頼を受けたんだ。……水陸両用の大型動物兵器を作って欲しいという」

「それが……あの怪物ということですか……」

「ああ、そうだ。アルファ・コーポレーションの遺伝子操作技術で、ワニの機動性にカニの地形突破性、ワニの打撃力とカニの多彩な攻撃力、それらをすべて併せ持った究極の戦闘生物を作ってしまったんだ。開発コードD-707、通称クラブダイル……。コントロール装置を付けての動作確認テストをしていたんだが、装置の不具合であんなことに」

 

 米軍がそんな管理能力の無い会社に依頼するとは、この国の未来が心配になるものである。

 

「で、あんたがそいつと戦っていたのは……当然、民間人保護なんかじゃなくて、証拠隠滅のためよね」

「恥ずかしながらそうだ。だが……俺は金のためとはいえ、こんなイカれた独善的なプロジェクトに加担するのはこりごりだ、今まで押し殺してきた気持ちだが、今日ようやく自覚できたよ……俺は証拠隠滅じゃなくて、個人の落とし前としてあの怪物を仕留めねば……」

 

 ケヴィンはそう言いながら、越に着けたナイフのグリップを強く握りしめる。

 

「そう言えば、もう一匹怪物がいたけど……あいつは何だったの? 機械の蛇みたいだったけど」

「ああ、それは――」

 

 ケヴィンがキャサリンの問いに答えようとしたその時、カーラジオから臨時ニュースの声が流れてきた。

 

『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。今日昼過ぎ、海岸線沿いで二匹の怪物が目撃され、既に数名が犠牲になったとの情報も入っています。いずれも逃走中で捕獲・駆除には至っていない模様です。そのうち一匹は、まるでロボットの蛇のような姿であったとの報告があるため、本局では今後この怪物を便宜上、ロボコンダと呼称することに致します』

 

 何とも安直なネーミングだとは思うが、名前はあってこそ便利なものだ。ありがたく使わせてもらおう。

 

「このロボコンダって奴も、アルファ・コーポレーションの商品?」

「いや、これは違う。……恐らく、アルファ・コーポレーションに対抗した軍内部の研究機関が考案したプロジェクト、X-20が原因で生まれた怪物だと思う」

「何ですか、それは」

「詳しいことは俺も知らないんだが、X-20は、ナノマシン技術とバイオ技術の複合だと聞く。特殊なナノマシンを封じたカプセルを投与することで生物を機械の身体に作り変えてしまうとか何とか……。直接触れたりするのは危険だから空中投下で使う計画だったらしいが、本当は既に破棄されたプロジェクトのはずだ」

 

 ああ、わかったぞ。さっき爬虫類園に向かって落ちてたのがそのカプセルとやらなんだろう。そしてそれを偶然園内にいたアナコンダが飲み込んだのだ。こんなことをすぐに理解できてしまう自分が最高に嫌になる。

 

「しかしだとすると、何故、過去のものとなった計画の怪物まで出てきたのかってのも焦点だな……」

「ああ、そのことも後で調べる必要もあるかもしれん。だが今は、あの怪物共をどうにかするのが先決だ。戦闘兵器として生み出された生き物だからな、とにかく積極的に人を襲うだろう。何とか奴の居場所を突き止めたい……」

「そうだな……ダニー、とりあえず人の多い大通りに向かってくれ。奴が人を積極的に喰おうとするなら、人口密集地に先回りして待ち伏せしよう」

「合点承知の助だ」

 

 かなり行き当たりばったりな方針だとは思うが、そもそもこの世界の理が行き当たりばったりみたいなものなんだから何とかなるだろう。


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