剣と魔法の世界に転生するはずがB級パニック世界に来てしまった件 作:雫。
「カタはついた、行こう!」
俺はポッドに駈け寄り、乗り込んだ。
「おいおいダニー、お前で大丈夫か? ここまで来て着陸先があの世ってのはご勘弁だぜ?」
ポッドの操縦席に座っていたのはダニーだった。
「大丈夫だ、説明は書いてあった。お前だけに良い顔はさせられねぇよ」
俺たちの背後から轟音が響いてくる。基地の爆発が始まったのだ。最後に乗り込んだ俺はポッドのハッチを閉める。
「早くして、ダニー!」
「あいよあいよ! これをこうして……!」
コンソールを操作するダニーとクレア。
「早くしろ! もう誘爆が連鎖してるぞ!」
「出来た! Gに気を付けろ! ……いぃやぁぁぁああああッ‼」
ダニーは叫びながらレバーを力いっぱいに引き倒す。
カタパルトから発せられた閃光に俺たちがポッドごと包まれるのと、射出場が基地内部からの爆炎に包み込まれるのは、ほとんど同時だった。
さながら、爆風に押し上げられるようにして俺たちのポッドは空中に舞い上がる。
俺たちを振動が襲う。爆風の振動なのか、射出の振動なのかもわからない。
俺たちは全員、目を閉じてただただ待つしかなかった。次に訪れる衝撃を。待ち受けているであろう痛みを。
だが、それは一向に来ない。その時、俺たちは目を開ける。
俺たちは、青い空の上にいた。
ポッドは尾部を爆炎に焦がしつつもしっかりと滑空していた。
「助かった……助かったぞ!」
窓から状況を確認したクレアが最初に声を上げる。
「いやったぁぁぁあああ! やったぜ、ライアン! どうだい俺の技術は!」
「助かった……それに、これでもう、この街にサメが降ることも無いのね……!」
「ああ、これで全て終わりだ! みんな、よく頑張った!」
クレアが沈黙を破るのに呼応して、俺たちは歓喜の声を上げる。
ダニーの操縦により、空中で主翼を展開してグライダーの要領で滑空していたポッドは無事に近くの草原に着地することができた。ちなみに、ここも観光地だったらしい。
ポッドから這い出た俺たちは、ついさっきまで戦っていたことが今となっては信じられないような気持ちで、基地が燃える煙を吐く山を見つめる。あれではサメも全滅だし、ナチ残党も生き残った者は投降せざるを得ないだろう。
基地のあった辺りから煙に紛れて一機の円盤が飛び立っていくのが見えたような気もするが、それも最早何だかどうでもいい。
「終わったのね……全て」
「ああ、終わった……でも、全てじゃない。サメもナチスもゾンビも、この世界にはまだたくさんいる。……本当の戦いは、これからだ。そんな予感がする……」
しかし、キャサリンの言う通り今回の戦いが終わったことは紛れも無い事実だ。
「州兵やこの街の住民……多くの犠牲が出た。でも、俺はこの四人が全員無事に生きて帰れた、そして奴らとの決着をつけられたことを、今は素直に喜びたい」
その後俺たちはダニーの提案により、打ち上げのパーティーを行い、互いに喜びを分かち合い、そして犠牲者への哀悼を捧げた。
だが改めて冷静に思いもした。
何だこれ。
この事件は予感していた通り、このわけのわからないパラレルワールドに転生した俺を待ち受ける受難の序曲に過ぎなかった。
この後俺は幾度となく、奇妙な世界の因果に絡めとられていくこととなるのであった。