ONE-PUNCH-MAN 一撃男と愛娘のユメ物語   作:叶夢望

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阿修羅カブトと戦う場面でありますが、なぜかぼのぼのしちゃいます。


五撃目 カブト虫とそれよりも献立を

進化の家の地下へと辿り着いたサイタマ、ジェノス、ユメは薄暗い空間を灯り無しで歩いていた。そんな最中、ジェノスは小さな身体のユメを心配し、手の平から小さい火を出し続けて灯りを灯していた。

 

「大丈夫ですか?ユメ師匠、足元にご注意してください。ほら、あんな所に小石がありますので躓く恐れがあるので危険ですよ」

「うんっ!ありがとう!ジェノスくん!」

 

ユメは無邪気な笑顔を浮かべ、サイタマはジェノスの過保護ぶりに嫉妬し自分も心配しろよと小言を漏らすが、ユメのパパは大人なんだから大丈夫でしょと正論の言葉にサイタマは思わず心が折れた。まだ幼くて小さい娘に嫉妬するサイタマは醜い心を持つという事実にため息を吐きつつ歩を進めていた。

 

しばらく歩き続けると前方から二つの生体反応がサイタマ一行に近づいて来るというジェノスからの報告を受けて戦闘態勢を整えると、ジェノスが言う通りに前方から二つの影が現れた。一つはジーナス博士と一つは阿修羅カブトというカブトムシの怪人でありジーナス博士が造り出した人工進化の最終形態にして進化の家最強の怪物だ。

 

その怪物は精神が不安定でかつ傲慢で品性に欠けるので、ジーナス博士本人ですらコントロール出来ない代わりに、力はその分底なしに強い。だからサイタマ一行を倒すべくジーナス博士はその怪物に頼る事にしたのだ。

 

「どうする?あの三人は生かせるか?」

「三人の生死は問わん!思いきり暴れろ!」

 

ジーナス博士を放り投げて壁に激突させた阿修羅カブトは素早い速度でジェノスを殴り現代アートのように壁にめり込ませて、サイタマとユメの前に立ちはだかった。

 

「よぉ、お前らは強ぇんだよなぁ?こんな狭い所じゃなく広い戦闘訓練所に行かねぇか?そこで遊ぼーぜ」

 

阿修羅カブトはニヤリと笑みをこぼしてサイタマとユメを挑発し、二人はその挑発に引っかかり、阿修羅カブトの案内のもと周りに何も置いてなく広い空間のみしか無かった。

 

「わぁ!ひろ~い!大きい!えへへ~」

 

ユメは無邪気な笑みを浮かべ床に転がって楽しんでいた。しかし何かで遊ぶオモチャがないからか「飽きた」とションボリとした表情を浮かべて、ガッカリと落ち込んでいた。

 

「ユメはそこで大人しくしてろよ?オレがあんなヤツやっつけてやるからよ」

「むぅ、はぁい」

 

サイタマと一緒に戦えない寂しさを感じ、戦える楽しみを奪われたのでユメは頬を膨らませ部屋の隅っこに体育座りで見学する事にした。おそらくユメは寂しがり屋という弱点があるのだろう。

 

「オイオイ、こっちは二人かがりでもいいんだぜぃ?遠慮すんなよ」

「いーや、いいよ。ユメと一緒だったら一瞬でお前を倒せるからな。いくら悪者だろうとお前が可哀想すぎるだろ?だからオレだけでいい」

 

阿修羅カブトはサイタマの挑発に心底腹が立った。この進化の家の中で最強と謳われ最高の戦闘力をもっており阿修羅カブトの右に出る強者はいなかったのだ。だから、生意気なハゲ頭の顔面を殴らなければ気が済まなかった。

 

「焼却!!」

 

だがいきなり邪魔が入った。先ほど壁にめり込ませて現代アートのように飾ったはずのジェノスがボロボロの姿で両手から阿修羅カブトに向けて爆撃を放ち続けるが全くダメージを与えられず、ピンピンと生きていた。

 

「マシンガンブロー!」

 

ならばとジェノスは両手に爆撃を纏った拳による物理攻撃を阿修羅カブトに向けて連打連打の攻撃を浴びせるが、やはりビクともせず、阿修羅カブトの左腕で繰り出されたラリアットでジェノスを数メートル吹き飛ばし、ジェノスは地面に何度も叩きつけられながら部品が削られていく。

 

「し、焼却!!」

 

満身創痍のジェノスは床に倒れたまま弱々しく左腕を上げ、その左腕から巨大な炎を放射するが阿修羅カブトはただの息で吹き飛ばし、更にはジェノスに向かってその巨大な炎がジェノスの身に襲いかかったがその前に小さな人影が急に現れた。

 

「パパ労いシリーズ!熱いのふぅふぅしてあげるー!」

 

ユメは人並み外れた肺活量を持っているのか息だけでその巨大な炎をかき消したのだ。そしてその技はふぅふぅと熱いのを冷ましすぎて食品がダメになるどころか料理を置いている机ごと吹き飛ぶので封印していたらしい。そんな事よりもユメはジェノスの様子を心配するように困った表情を浮かべていた。

 

「ジェノスくん大丈夫?顔とか身体中がボロボロだよ?治るの?」

 

ジェノスは弱々しく「はい」と答えるが、どこからどう見ても大丈夫そうには見えなかった。顔部分は剥がれていて、右脚や腹部がひどく損傷し、立つのも困難な状態であった。その様子をサイタマは見て、ユメの頭にポンと手を添えたままユメに頼み事をする事にした。

 

「ユメ、ジェノスを守れ。オレはヤツをぶっとばす」

「はぁい、いってらっしゃいパパ」

「ああ、いってくる」

 

ユメならばジェノスを護れるだろうからサイタマは安心して阿修羅カブトとの戦闘に集中出来る。一方阿修羅カブトは身長二メートルは誇る巨大な筋肉質の身体で素早い移動でサイタマ付近を残像を作りながら接近するがサイタマやユメにはお見通しであるが、ジェノスは驚いた表情を浮かべその阿修羅カブトのスピードに目が追いつかない様子だった。

 

「ふぅん、なかなか速いなぁ。あの大きい身体にしては素早いね」

「ユメ師匠にはあのスピードを目視出来るのですか?」

「うんっ!もちろんパパにも見えるよ」

 

彼らの会話をよそに阿修羅カブトは素早い攻撃でサイタマに一撃をくらわせようとしたが、何かあったのか阿修羅カブトは思いきり後退し、サイタマへの攻撃を中断した。

 

(なんだ!!?今のは何なんだ!?攻撃をしていたら逆にこっちがやられていた!)

 

阿修羅カブトは戦慄した。サイタマは身体をダラリとしていて隙だらけのはずだったが、阿修羅カブトの思惑通りに阿修羅カブトが攻撃したらサイタマの一撃で葬り去られていたのだ。動物としての本能が僅かに残っているので危険を予想出来たのだろう。しかし、しかしだ阿修羅カブト自身は戦闘力に自信があるのにも関わらず、身体中をガタガタと揺らし汗を流し身震いする恐怖が阿修羅カブトを襲った。

戦いにおいて誰かに恐怖を感じるというのは自分自身よりもその者の方が強いのかもしくは何らかのずば抜けた才能を持っているだろうから阿修羅カブトはサイタマに聞かなければならない。何故そんなに強くなれたのか?そしてそのサイタマが認めた娘であるユメもそれくらい強いのだろうかと。

 

「私も聞きたい、お前達はどうやって強くなった?」

 

何処からか登場したジーナス博士も彼らの強さに興味を抱いた。科学者としてではなく、一人の人間として聞かなければならなかった。劇薬や実験改造では得られないであろう強さにジーナス博士は真剣に聞いたがサイタマはユメと一緒に修行してきた内容を全て話した。

 

三年間毎日腕立て伏せ・上体起こし・スクワット各100回とランニング10キロを体調がどんなに悪かろうが全力でる事と毎日三食欠かさずしっかりと食べてスタミナや栄養を補った。精神面を強くする為に夏場ではエアコンや扇風機等の冷房器具の使用を我慢し、冬場ではコタツやヒーター等の暖房器具の使用を我慢した事を話し、サイタマは一年半くらいハゲになるほどに努力し、ユメもまた弱点をたくさん持たされつつも努力した事に信じられないという表情をサイタマ親子以外の者が浮かべていた。

 

それもそうだろう特に何の変哲も無い、否、全然たいした事のない修行内容にジーナス博士と阿修羅カブトは呆れかえった。ジェノスも自分の師匠達がそんなに苦労もせず力を得た事が信じられない様子であった。

 

「ふざけないでください!先生!あなた達の修行内容はハードではない!一般的なトレーニング方法だ!もっと特殊な何かをやっていたはずだ!オレはそんなつまらない方法を先生や師匠から教わりに来たんじゃない!」

とジェノスは怒鳴りつけた。それもそうだろう、故郷や家族の仇を討つ為に暴走サイボーグを倒さなければならず、その為には力が必要不可欠なのだ。今やサイボーグとなった身では筋力なんか存在せず、そのトレーニングは無駄となるのだ。

 

「ケッ!強さの秘密を教える気が無いのならいいぜ?だがよ、どうせオレよりは弱いんだろぉ?ハゲ野郎!」

 

阿修羅カブトは全身の筋肉を動かして理性を失う代わりに闘争本能と戦闘力を極限まで増強させる阿修羅モードを発動させた。阿修羅カブトが言うにはその阿修羅モードは一週間続くらしい。つまりは来週の土曜日まで破壊の限りをつくすというのだ。

 

「ら、来週の、土曜、日?ぱ、パパ!」

 

ユメは戦慄した。一週間後の土曜日という事はつまりは今日は大切なあの日の事だ。どうしてもやらなければならない事があるのだ。それを、その事を、さっきまでユメは気づかなかった。だけど今ようやく気づいたからサイタマに向かって伝えなければならないと必死の表情を浮かべ、叫んだ。

 

「今日スーパーの特売日だよ!パパ!急がなきゃ!タコ1パック88円が売り切れちゃうよ!昆布もワカメもめざしも売り切れちゃう!」 

 

サイタマとユメがよく利用する通うスーパーは土曜日の今日、特売日となり全ての食材が安値となりお買い得となる日だった。サイタマはその日の事をすっかりと忘れていて暴れ回る阿修羅カブトを右拳による一撃で葬り去った。

 

「うおぉぉぉぉ!!しくじったぁぁ!!オレとした事が!!やっちまったぁぁぁ!」

「美味しいおかずがぁぁ!どうしょぉぉ!?」

 

サイタマは膝を落とし泣きながら悔やんだ。大好きな愛娘ユメの為にたくさん美味しい物を食べさせて早く大きくなってほしいと常々から願っていた。だからその為に食材を用意してユメや父親である自分が作って美味しいと言わなければ父親としてその夢を叶えなければならないのだ。そして、ユメはそれを食べて美味しいと満面の笑みを見るのも父親として唯一の楽しみであった。

ユメも美味しいおかずにありつけないと思い込みオロオロと落ち着かない様子でアタフタとその場で回り続けていた。

 

一方、泣き崩れて落ち込むサイタマや慌てているユメを見たジーナス博士は彼の行動に理解出来なかった。最強なはずの阿修羅カブトを一撃で倒したのにも関わらず全然嬉しそうにしない事に疑問を抱いてしまう。

 

「先生はスーパーの特売日を気にしているのでしょう。だから師匠は今日の献立の心配しています」

 

ジェノスはスーパーの特売日のチラシをジーナス博士に見せた。ジーナス博士はそのチラシを眺めるように観察し、いつしか笑みをこぼしていた。サイタマやユメが強いから実験材料にして強さの秘訣を知ろうとしたけど、今はどうでも良くなっていた。

 

(戦いよりも飯が優先なのか?アイツらは・・・まったく、理解不能だ)

 

いくら頭が良くても、いくら強さを求めても、いくら彼らの強さを知る事が出来てもその彼らを上回る事なんか出来ないのだろう。その気持ちは理屈じゃなく本能だと悟ったジーナス博士はただ静かに暮らす事に決める事にしたのだ。

 

「先生!師匠!スーパーは22時に閉店となりますが、ものスゴく急げば間に合います!」

「そ、そうか!ユメ!急ぐぞ!」

「うんっ!パパ!いっくよぉー!」

 

ジェノスの一言によりサイタマとユメは立ち上がり、スーパーへと走る事を決意し、阿修羅カブトと戦った戦闘訓練所の壁を今日の夕食の献立を心配するあまりにユメの拳が二撃ほど炸裂し進化の家は地下ごと破壊され、普通なら片道四時間かかるであろう距離を彼らは一時間三十分で普段から利用しているスーパーへと辿り着いたのだが・・・

 

「わぁい!タコまだあった!パパみたいなタコがまだあった!」

「おいコラ!ユメ!遠回しにハゲって言うな!」

「先生!育毛に全然効果無いワカメや昆布などもまだありますよ!」

「お前らいい加減にしろよ!コラ!」

 

ユメとジェノスは無意識か本音なのかサイタマを遠回しにハゲだと言い張るのでサイタマは怒ってユメの腹を擽ってお仕置きするのであった。




ユメはそれとなく進化の家の地下を壊してしまいましたが、ジーナス博士は生きていてます。そして静かにくらしています。
それと阿修羅カブトはマジで強いですよね?サイタマの強さを本能で知ったのは彼が初めてです。

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