ONE-PUNCH-MAN 一撃男と愛娘のユメ物語 作:叶夢望
原作沿いですが、オリジナル展開があります。感想お願いします。
D市のとある森にある小さな研究所でフケガオという名前の通り老け顔の研究者がとある実験に成功した。フケガオは「きょきょきょきょー!」と奇妙な笑い声を発し、リム付き試験管に入った謎の液体を高らかに掲げながら、究極のストロイド『上腕二頭キング』を弟であるマルゴリという名前の通り筋肉質な男に渡した。
「ありがとう、兄さん。これを飲めば強くなれるんだね?誰にも負けない強さに」
「ああ!そうとも!さぁ飲め!」
兄であるフケガオの勧めに弟マルゴリはコクリと頷き、上腕二頭キングという謎の液体を飲み、早速効果が現れた。ドクン、ドクンと血が流れている音がフケガオの耳にまで届き、マルゴリの身体は大きくなり、ついには五十メートルの巨人となり人の姿を保ててなく見た目は堅い鎧を身に纏った怪物となっていたのだ。
そんな彼らの狙いは世界征服という悪の夢であり、全てを支配する王となる為に、まずは手始めにD市の街を破壊する事にした。
マルゴリの大きな拳は振り上げられ、そして街を殴ったら街が破壊され数万人の命が失われるほどの威力をもっていた。そのマルゴリの行為によりD市付近の市は緊急事態発令のサイレンを鳴らし人々の避難を促すが、急な怪人の出現に人々は大混乱となっていたのだ。
「さぁ!潰せ!きょきょきょきょー!まだまだ潰せー」
マルゴリがB市へと移動していく情報を耳にしたサイタマとユメはヒーロースーツを身に纏い、素早く移動してその巨大な怪人の左肩に乗りこみ、巨大な怪人の右肩に乗っているフケガオと巨大な怪人の顔や身体を観察するようにマジマジと体育座りで見ていた。
「でっけぇけどよ・・・パンツ履けよ」
「パパのパパより大きいねアレ」
「ちょ!!あんなイチモツ見るな!ユメ!ていうか女の子がそんな事言うな!」
いつの間にか現れた謎の二人に驚いたフケガオは表情を浮かべて、マルゴリに肩に乗っているヤツを潰せと命令したら、マルゴリはコクリと頷き大きな左手で右肩を思いきり叩いたのだ。フケガオは確かに肩に居るヤツを潰せと命じたのだが、どちらの肩なのかそして複数人かも命令していないのでマルゴリは右肩を叩けと勘違いしたのだ。
「兄さぁぁぁぁぁん!!うおぉぉぉぉ!!」
マルゴリは叫んだ。その咆哮は威力を持ち小さい身体のユメはサイタマの身体に両手で掴むも、その小さい身体がフワリと浮かび上がるようだったが、その浮遊体験が嬉しくて楽しいからかキャッキャッとユメは無邪気に笑みを浮かべていた。
「どうしてこうなった!俺は強さを求めただけだ!俺は最強になったのに!」
「それで最強になった気分はどうなんだ?」
「パパより強くないと思うけどね、あはは」
マルゴリはその挑発に怒りを感じ、サイタマとユメを掴み思いきり高さ五十メートルはあるところから地面に叩きつけ、二人が墜落した地面に大きなクレーターが出来たが、マルゴリはその場所に右脚を高らかに上げて踏みつけ、何度も何度も両手で殴り込んだ。最強を示す為に、兄弟の力を示す為にマルゴリは力を示した。だけど、虚しい気持ちになっていた。
小さな命を失わせる為に強くなった訳ではないのだ。何かを護る為に力を求めただけなのに・・・
「虚しい、悲しい・・・俺はこんなモノが欲しかったのか?こんな圧倒的な力が欲しかったのか?」
マルゴリは思わず泣いてしまった。力を求める考えすら思いつかんだらいけないのか?世界征服なんかしても何も良い事なんてないかもしれないし、悪い事をしても本当に得られるモノが手に入る保証なんかないのだ。
「そうだよな、圧倒的な力はいらないよな?」
マルゴリの目の前に先ほど滅多打ちにしたはずのサイタマがピンピンと生きている姿にマルゴリはギョッと驚いた表情をしていた。彼は最強なのか?だけどその本人は圧倒的な力を否定していた。
「俺は大切なモノを護る力があればいいんだけどな、圧倒的な力なんかいらねぇ。想いってのが力を与えてくれる大切なモノなんだよ。それを知らねぇお前はきっと弱いままなんだろうな」
サイタマは握り拳を作り、マルゴリの顔を殴った。そしてマルゴリは戦闘不能となり、大きな身体がB市に向かって飛んでいくのをユメは素早くB市付近に移動し、サイタマの一撃をくらった勢いで飛んでくるマルゴリの背中を二撃与え、その威力は倒れていくマルゴリの身体を直立させ、マルゴリはその体勢のまま気絶していた。
「えへへ、パパ労りシリーズお背中叩きマッサージだよ?効いたかな?」
ユメの得意であるマッサージは技となり、戦闘方法として組み込まれていたが、サイタマの鍛えられた身体でしかユメの技はマッサージとなり、通常の人ならば身体が壊れるのだ。逃げ遅れたB市の住民達はユメの技を目撃し、拍手喝采の嵐を作り、ユメは褒められたのが嬉しくて無邪気な笑みを浮かべていた。
「うおー!すげー!」「可愛いのにやるじゃねぇか!」
「ヒーローだ!小さなヒーローだ!」「万歳!」「誰だか知らないけどありがとう!」
住民達はユメを褒め称え、ユメは更に無邪気な笑みを浮かべ、擽られているような笑い声を発し、B市をあとにしたのである。後にその逃げ遅れた住民の代表者である年老いた老人はマスコミの前に現れ、ポツポツと語り始めていた。
ーーあの時起こった出来事を教えてください。
「ええ、あの時巨大な怪人が現れてみんなはパニックになりましたよ。もちろん交通機関が麻痺して人々は逃げたくても逃げれませんでした」
ーーその時のお気持ちはいかがでしたか?
「はい、あの時はもう命を諦めるしかありませんでした。あの場に居る者達も絶望していたのでしょう。もうおしまいだ、こんな所で死ぬのか、もっと生きたかったのに、と様々な気持ちが湧き上がりました」
ーー巨大な怪人がB市に飛んできた時のお気持ちは?
「もうダメだ、もうおしまいだと命が終わると確信しましたよ、ええ。でも、小さな女の子が・・・いいえ、小さなヒーローが小さな拳で護ってくれたのです。B市をそして人々を。だから、その小さなヒーローの為に我々は護ってくれたB市を大切にしなければいけませんね」
ーーその小さなヒーローの名前は?
「残念ながら分かりませんでした。公式ヒーロー協会ホームページに載っているヒーロー名簿を見てその子を探しても見つかりませんでした。恐らく個人でヒーローをやっているのでしょうが、そんな事関係ありません。我々にとってはヒーローなのです。その小さなヒーローはその行動を当たり前だと言わんばかりに自慢しなかったのです。彼女がもしもプロヒーローになるならば私は応援します」
ーー個人活動している小さなヒーローに向けて一言お願いします。
「ありがとう。本当にありがとう。感謝してもしきれないでしょう。でも本当に感謝しています。我々は貴女の行為を目の辺りにしたのですから、奇跡としか言えないのでしょう。だから奇跡を起こしてくれてありがとう」
ーーありがとうございました。私達からも個人活動しているその小さなヒーローに一言お伝えします。街を救ってくださり、ありがとうございました。
そのインタビューはしばらくの間テレビに放映されていて、個人活動している小さなヒーローの存在は各地でそこそこ知られるようになっただそうだ。しかし、サイタマは我が家のテレビをふてくされた顔で頬杖をつき、舌打ち交じりで見つめていた。そしてサイタマのイラつきはピークに達していた。
「俺の事は!?ねぇ、俺の事は!?なんで知られてないの!?ユメばっかり言いやがって!」
サイタマは怒った表情を浮かべ、テレビを掴みガタガタと揺らしていた。その様子をユメは冷たい視線を送り、小さくため息を吐いていた。我が娘が褒められている報道がされているのに、親としてそれを喜ぶべきなのに、それを大人げなく怒っていたのだ。
「パパはスゴいよ?わたしはちゃんと見てたもん。一撃であの巨大な怪獣みたいな怪人をやっつけたでしょ?」
「それはそれ、これはこれだ!ったく、しょうがねぇなぁ・・・次からは住民の前に出てアピールしようかな」
「えへへ、そうしたほうがいいんじゃない?わたし達は趣味でヒーローやってるんだからね」
サイタマとユメはまだプロのヒーローではなかった。そもそもプロにはあまり興味も無く、プロになるという発想が無かったのだ。ただ愛する妻であり母親であるサクラが大切している我が家を、この街を、この世界を救いたいだけなのだ。
「ユメ、俺達はまだ強くなれる!だから特訓だ!」
「うんっ!パパ!わたし、頑張るよ!」
大切なモノがたくさんあるからサイタマとユメはトレーニングをしてもっと強くならなければならなかった。大好きなサクラの居場所の為に今日も怪人を探しに街へとパトロールついでにジョギングしていく。その様子を仏壇に立ててある笑みを浮かべた亡きサクラの姿が送りだして、彼らの背を見届けていくのだった。