そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

8 / 41
 どもども、大変お待たせしてしまいました。クリスマスイベント編です。
 クリスマスどころか年末に更新って遅すぎだろ……。すいません、ここに来てようやくまとまった時間が取れるようになったので。

 変なクリスマス企画モノなんか書いてるからだろ、と言われればその通りなんですが、ああいうのは一話ずつ短時間で書けるので、忙しい時期には楽なんですよ……。

 と、言い訳も終わったところで、

 八幡と留美の距離が原作よりもちょっとだけ近いクリスマスイベント編、スタートです






鶴見留美は聖夜に願う① 比企谷八幡は溜息をつく

 秋も深まってきた十一月のとある午後、母に頼まれていた買い物の途中で、八幡を見かけた。

 駅前のマ○ンピアから家に向かって買い物袋を片手に歩いていると、総武高の制服を着た男女が、私とは反対側の歩道を歩いていた。私の視線は無意識のうちに引き寄せられ、男子のほうが八幡だとすぐに気付く。……夏休み以降、私はこの制服を見ると、どうしても八幡たちを探してしまう……。

 

 八幡は、少し大きめのコンビニ袋を片手に下げて、とても可愛くてお洒落な女の子と並んで歩いている。雪ノ下さんとも由比ヶ浜さんとも違う女の子。あの二人と一緒にいるのはたまに見かけてたけど、この人と一緒にいるのを見るのは初めてだ。

 なんというか、「ゆるふわ系」というのかな? 女子の私から見ても「可愛いなぁ」と思えるひと。八幡と距離が近い。二人共学校帰りらしく、バッグを背負ったままで、肩と肩をくっつけるようにして小声で何か話しながら歩いている。

 もしかして、彼女さん……かなぁ。そんな風に想像するとなんだかもやもやする。声もかけられずに見ていると、二人はすぐ近くにあるコミュニティーセンターに入っていってしまった。

 

 なんだか気になって、少しだけ遠回りして信号を渡り、センターのエントランスに行ってみる。正面玄関の大きなガラス越しにそっと中を覗いてみたけど、もう八幡達の姿は見つけられなかった。

 

 ふと、入り口近くの掲示板に目をやると、「海浜総合高校・総武高校合同、クリスマスイベント」の告知ポスター。

 ……総武高校。八幡の通う高校。もしかしたら八幡は、何らかの形でこのイベントに参加しているのかもしれない。

 でも、このポスター「イベント」とだけ書いてあって、具体的に何をやるのかは書かれていない。サプライズ、みたいな感じなのかな? そんな事を考えながら、踵を返して家へと急ぐ。今日は、お母さんの帰りが7時位のはずだから、それまでにご飯炊いて、お風呂準備して……。うん、やることいっぱい。頑張ろ。

 

 

 

  **********

 

 

 二学期が始まり、私たちのクラスは少し雰囲気が変わった。クラスの中心だった仁美と森ちゃんのグループがバラバラになったことで、女子のまとまりが無くなった。いい意味でも、悪い意味でも。

 ただ、それでクラスもバラバラになったかといえば、意外なことに今度は男子を中心にしてそれなりに仲良くまとまり、日々の行事をこなしている。男子たちは、相変わらず意味もなく大騒ぎしたりして、幼稚だなぁと思うことも多いけど、女子のグループにはない、その、裏表のないノリみたいなものが私たちを自然に引っ張っていく。これはこれで悪くないな、なんて、少しは彼らを見直すようになった。

 

 その中で私は、特に誰かのグループに入るでもなくこの二学期を過ごしている。別に一人ぼっちというわけでもなく、その時その時で一緒にいるメンバーが違うだけだ。 今は、……由香がいるグループの子たちと一緒にいることが多いかな。 

 

 泉ちゃんとも普通に話すようになった……表面的には。だけど、どうしても一歩引いてしまう。目の前で泉ちゃんが笑っていても、心から笑えない。だから、作った笑顔を貼り付ける。ほら、鶴見留美はちゃんと笑っていますよ……そう嘘をついて。彼女にも……自分にも。そんな自分が嫌だけど、でも、彼女と向き合うことがどうしても怖い。

 

 

 

 八幡とは、今日みたいに、買い物の途中とかにたまにすれ違う。たいてい向こうは自転車に乗っているので、私に気が付かずに通り過ぎてしまうことも多い。

 でも、信号待ちとかで目が合ったり、時には隣に並ぶようなときもある。そんな時私は、八幡に向かって、肘から先だけをちょっと上げて、腰の横あたりで小さく手を振る。八幡はちょっと恥ずかしそうにして周りを見回し、でも、ほんの少しだけ手を上げて、小さく小さく手を振り返してくれる。そういう時のなんだか余裕の無さそうな八幡の表情が私は好きだ。だって、なんだかとってもかわいいんだもん。

 

 言葉を交わすわけでもない、ただそれだけの行為。でもそれが、私の胸の奥にじんわりとした熱をくれる。

 

 

 

  **********

 

 

 コミュニティーセンターで八幡を見た次の日、私の小学校の掲示板に、このイベントへの参加募集の告知が貼り出された。

 担任の桜井先生の話では、なんでも、あのセンターに近い学区にある小学校の6年生を対象に、主催する高校生たちのお手伝いとしてイベントにボランティア参加して欲しい、というものらしい。

 イベントで招待するお客さんは、センターに隣接する老人ホームのお年寄り達と、やはりすぐ近所にある公立の保育園生だけど、ボランティアに参加すれば、当日もイベントを楽しむ事ができる、とのこと……。どうしよう、参加してみようかな? もしかしたら八幡と一緒に出来るかもしれないんだよね。 でも……。

 

 

 

  **********

 

 

 夏休み中、友達と遊ぶことが急に少なくなった私に、お母さんは何かを感じたのだろう、あまり仁美たちのことを言わなくなった。

 代わりというわけでも無いだろうけれど、私が望めば、家事とか、色々な事を教えてくれるように、任せてくれるようになった。

 食費用の財布を預かってスーパーでの買い物。料理は、電子レンジはいいけどオーブンとかコンロを使う料理はお母さんが居るときだけ。包丁はもう大人用を使ってもOK。

 洗濯機やミシンもいつでも使っていい。パソコンは、リビングのデスクトップ(一体型)やプリンタは自由に使える。自分用のアドレスも作ってもらっている。

 お母さんの仕事用のノートパソコンには決して触らないこと。

 少しずつ、ルールが増え、手伝えることが増えていく。お母さんに頼ってもらえる事が嬉しい。

 

 携帯電話は、中学生になったら持たせてもらえる約束になっている。だから、それまではメールはパソコンだ。林間学校の後、このパソコンから八幡の妹の小町さんにあの時の写真を送った。小町さんからはお礼のメールが届き、今でも、たまにだけどメールのやりとりをさせてもらっている。

 

 

 

  **********

 

 

「ねえ、お母さん」

 

「ん、ちょっと待ってね……。はいはい、なあに?」

 

キッチンに並んで洗い物をしながら、私たち二人はいつもの様に雑談をしている。

 

「あのさ、マリンピアの手前にコミュニティーセンターってあるでしょ」

 

「うん」

 

「そこでクリスマスにやるイベントに、ボランティアで参加してもいいかな?」

 

「ボランティア?」

 

「うん。なんか、総武高と海浜高で、イブの日に、あそこの老人ホームと保育園のためにイベントやるんだって、で、小学生はそのお手伝い」

 

「へえ、いいんじゃない? 留美、やってみたいんでしょ」

 

「でも、そしたら、買い物とか洗濯とか、色々手伝えることが減っちゃうかも……」

 

「留美」

 

「……うん」

 

「前にも言ったけど、そんな事気にしなくていいの。家事を手伝ってくれるのは嬉しいけど、お母さんは、留美がやりたいことをやってくれた方がもっと嬉しい」

 

そう言って笑った後、ボソリと続ける。

 

「だいたい留美は変なとこに気を使いすぎなの。相変わらず子供らしく無いわよね~」

 

「うぅ。それはこういう性格なの! 簡単には変わらないよ」

 

 

「……あの~、コーヒー、まだかな~……」

  

リビングからお父さんの声がする。すっかり忘れてたけど、そういえば珍しく今日はいるんだった(ヒドイ)

 

「ごめーん、今から淹れるねー」

 

そう言って私はコーヒーメーカーのタンクに水を入れる。

 

 

 

  **********

 

 

 数日後、私はこの学区内にある三つの小学校から集まった、ボランティア参加者十数人の中にいた。私の学校からは5人が参加しているが、私のクラスからは私一人だけ。そのことを寂しいと思わず、むしろホッとしている自分に気付く。

林間学校以降、クラス内で誰かをハブにするという事は無くなったし、それなりに仲良くやっている。とは言え、どことなくぎくしゃくとした、変な緊張感はまだ残っていて……。だからだろうか、クラスメイトのいない集団の中に居ると、不思議な開放感を感じる。

 

 小学生の参加者が全員揃ったところで、係の職員さんに、「講習室」という、学校の教室より一回り大きいくらいの部屋に案内される。机や椅子、大きなホワイトボード。教室というより、会議室って感じかな。……そこに、

 

 八幡が、いた。いてくれた。やっぱりこのイベントに参加してたんだ。トクン、トクンと、私の心臓が心地良く幸せなリズムを刻む。

 

 向こうもすぐに気がついて目を丸くしている。私がいつものように、右手を腰のところで小さく振ると、いつもよりもさらにキョドキョドと周りを見廻して、そっぽを向いたままで私に向かって小さく左手を振ってくれた。

 

 

「……何やってるんですか? せんぱい」

 

ぷ、今、八幡てば、一瞬飛び上がって宙に浮いたみたいに見えた。

 

 この前一緒にいた女の子に真後ろから声をかけられ、可笑しいぐらい取り乱している。

 

「べ、別にななんでもねーよ……」

 

とか言ってる。

 

「えぇー、嘘ですぅ。……今絶対なんか変な動きしてましたよー」

 

「いやアレだ。ちょっと疲れたからこう、ストレッチをだな……」

 

「なんか怪しーです、あと、動きがキモいです」

 

笑顔でヒドいことを言いながらも、彼女は八幡の腕をクイクイ引っ張って、まるで二人でじゃれてるみたいだ。……なんだか面白くない。

 

 でも……これからどう行動したら良いのかわからない。イベントに申し込んだ時は勢いで、とにかく参加すれば、八幡とゆっくり話が出来るんじゃないか、もし出来るなら、あの時のお礼を言えたらいいな、なんて考えていたけど……。

 うん。とりあえず八幡にはちゃんと会えたし、とにかく、少し様子を見よう。今は、みんななんだか忙しそうだし。

 

 そんな事を考えていると、海浜高の制服を着ている、背の高い高校生がこちらにやってきた。彼は、八幡達が何か計算の様な作業をしている方を向いて、

 

「いろはちゃん、ちょっといいかな?」

 

 と、声をかける。

 

「はーい、今行きますぅ」

 

 返事をして、とてとてとやって来たのは、あの、八幡と一緒に居た可愛い人だった。

 彼女が隣に来るのを待って、高校生があいさつを始める。

 

「やあ、○○小学校、△△小学校、□□小学校の皆さん、こんにちは」

 

「「こんにちはー」」

 

「僕は海浜総合高校の生徒会長で、玉縄と言います。……そして、」

 

 玉縄さんはサッと左手を彼女の方に大袈裟に伸ばして、自己紹介を促す。

 

「はい、総武高校で生徒会長してる、一色いろはです。みんな、今回はよろしくね」

 

「「よろしくおねがいしまーす」」

 

 この人、生徒会長さんだったんだ……。 少し驚いていると、玉縄さんが挨拶を続ける。

 

「今回は僕たちのクリスマスイベントに参加してくれてありがとう。みんなで協力してクリエイティブで、エキサイティングなものに仕上げていこう。君たちの参加によるシナジー効果を期待しているよ」

 

 両手を振り回して、なんだか力強く語っている。隣の一色さんは、何故か呆れたような態度でそれを見ている。ちらっと八幡に目をやると、なんというか、うんざりとしたような顔でこちらを見ている……。なんだか少し変な空気だ。

 

「では、いろはちゃん、こっちでさっきの続きを……」

 

 と言って、玉縄さんは一色さんを連れて中央のテーブルに戻ってしまう。

 あれ、私達は何をすれば良いんだろう? 別の人が指示をくれるのかな、と少し待ってみたが一向に誰も来る気配がない。

 

 最初は雑談して気にしていなかった他の小学生たちも次第にざわざわし始めた。

 

「ねー、何やればいいの?」

 

「誰か聞いてきてよー」

 

「えー」

 

「お前行けよ」

 

「じゃあ、じゃんけんで……」

 

 ふう、仕方ない。

 

「私、何やればいいか聞いてくるよ」

 

そう言って私は、八幡たちが座っている総武高校の席に向かう。八幡は片手で頭を抱えるようにしてノートパソコンを覗き込み、やはり総武高の制服を着た細身の男子としきりに何かを話していた。……なんだか忙しそうだな……。

 声をかけるのをためらっていると、ちょうど一色さんが中央のテーブルからこっちに戻ってきて、八幡の隣に座る。

 会長さんの隣の席に座ってるってことは、八幡も生徒会の役員さんやってるのかな? なんて考えつつ一色さんに声をかける。

 

「あ、あのー、」

 

「あ、何かな?」

 

……この人、くるんと振り返る仕草からして可愛いなぁ。年上の人を可愛いとか思ったら失礼かもだけど。

 

「すいません、私達、今日は何すれば良いんですか?」

 

 そう聞くと、一色さんは、ウッと一瞬言葉に詰まり、玉縄さんたちの方をちらっと見て、はぁ、と小さくため息をついた。

 

「ごめん、少しだけ待ってね」

 

 そう言って一色さんは八幡の方を向いて、何か小声で聞いている。八幡も小声で何かを返す。また、二人の距離が近い。ますます面白くない。

 どうやら話がまとまったらしく、一色さんは、

 

「そうですね~。じゃあ、そういうふうに指示してきます」

 

八幡にそう言うと、何かのファイルを一冊持って立ち上がり、私と一緒に小学生の集まっている席へと移動した。

 

「はい、じゃあ、小学生のみんなには、今日から、イベント当日にこの上のホールで使う飾りを作ってもらいまーす」

 

そう言って一色さんが持っていたファイルを開き、くるんとひっくり返して私たちに見せる。

 

「こっちの、ピンクの付箋(ふせん)が張ってあるのが、会場用で、水色の付箋が張ってあるのがクリスマスツリー用のです。付箋に丸がついてる物は、もう材料がそろってるやつです」

 

 彼女の説明を聞きながら、小学生みんなでファイルを覗き込む。材料がある、という物は、立体的な星型のオブジェやサンタクロース、トナカイなどの、クリスマス限定でしか使えない切り絵などで、それ以外は、折り紙の輪をつないで作るチェーン等、どこでも手に入りそうな材料で作るものが多い。

 

「今日は、最初二組に分かれてもらって、一組はこの切り絵を作り始めてて下さい。もう一組は、そこの文具店で、ここに書かれている材料と、あと、人数に足りない分のハサミとか糊とかの買い出しをお願いしますねー」

 

「私たちだけでですか?」

 

 私とは別の小学校の、とっても背の高い女の子が一色さんに尋ねる。

 

「あ、そうか……。そうだよね。 ……女の子が多いみたいだし……」

 

一色さんは、ちょっとだけ考えて、

 

「書記ちゃーん、ちょっとこっち来てくれる?」

 

そう、八幡たち総武高の役員さんの方に声をかけた。

 

 

 

 呼ばれてやって来たのは、三つ編みに黒縁メガネの真面目で大人しそうな人だった。

 一色さんが買い出しのことを説明し、彼女が買い出し班に付いて来てくれることになった。

 

「総武高書記の藤沢沙和子です。よろしくね」

 

「「よろしくおねがいしまーす」」

 

「えっと、じゃあ、あなたたち五人、私と一緒に来て下さい。後の人は、私が帰ってくるまでは他の人がついていますので、その指示で切り絵の方を始めて下さい」

 

「「はーい」」

 

 私とさっきの背の高い子を入れた五人が、一番前に居たため買い出し班になってしまった。……八幡が付いて来てくれればいいのに……。

 

 

 

 文具店はセンターからすぐのマ○ンピアの中にあり、品揃えも豊富で、文具のディスカウントと看板を出しているだけに値段も安い。すぐそこのコンビニで五百円で売っているものと同じ物が二百円台前半で売られていたりすることもある。当然、私もよく利用するけど……。

 

 大掛かりなイベントってやっぱりすごいんだな、って思う。大判の折り紙、色画用紙、工作用紙……、紙、紙、紙。紙関係だけで買い物かご三つ分。買い物に五人も要らないよ、と思ってたけどそんなことは全然無かった。

 考えてみれば、三階のホールは結構広い。折り紙のチェーンだって、端から端まで飾れば相当な長さになるだろう。書記さんと、買物リストを見ながら買い忘れがないかをチェックしていると、

 

「鶴見さーん」

 

少し離れた通路から、隣のクラスの子に呼ばれる。たしか佐川……なんとかさん。下の名前が出てこない。まあいいや。

 

「どうしたの、佐川さん?」

 

「え、あなた……鶴見、さん?」

 

私が返事をすると、何故か書記さんがびっくりしている。佐川さんは何事かとこっちを見てる。

 

「はい……」

 

私が答えると、さらに質問をかぶせてくる。

 

「もしかして、○○小学校?」

 

「そうですけど、あの……?」

 

「あ、ごめんなさい、何でもないの。……ええと、なんだっけ?」

 

 佐川さんが、

 

「あの、ハサミなんですけど、わたし、左利きで……どうしようかなって。それに、すごいたくさんあるし」 

 

 それで、三人でハサミのコーナーを見てみると、……ホントだ、たくさんある。この列の棚、通路から通路まで全部ハサミだ。左利き用のハサミも安いのからプロ用までそろっている。

 

「もちろん買うのは構わないけど、左利きって何人いるのかしら?」

 

そう言って書記さんは携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけて確認している。

 結局、左利きは、買い出し組が、佐川さんと背の高い子――綾瀬さん、だったかな――と、センターに残っている子に一人、の合わせて三人、ということで、糊とかハサミとか入ってるカゴに足りない人数分のハサミ(安いの)を入れていく。

 

「……っと。 うん、これで全部そろったと思います」

 

 私がチェックを終えると、

 

「じゃあ、会計して帰りましょう」

 

 書記さんがみんなに声をかけ、会計を済ませる。袋が大小合わせて八個にもなった。

 

 

 

 みんなで袋をぶら下げコミュニティーセンターへと帰ってくる。重い袋は、二人いた男子が頑張って持ってくれた。

 

 講習室に入ると、部屋の半分の机が大きく並べ替えられていて、残っていた小学生たちはそこでサンタとかトナカイとかの切り絵を作っていた。ハサミが足りてなかったようで、交代で使っている。

 そのすぐ横の椅子に、さっきのファイルを広げた八幡が座っている。どうやら作業中の子たちの監督役をしていたらしい。

 

「あ、比企谷先輩、お疲れ様です」

 

書記さんが声をかけると、

 

「おう、そっちこそお疲れさん」

 

それこそ、なんだか疲れたような声で言う。

 

「……会議、どうでした?」

 

「あー……、まあ、どうもならんわ。とりあえず今日は、今できるのをやるしかねーな。あと、議事録のまとめ」

 

「……そうですか……」

 

「あの議事録必要なの? 『アグリー』と『それあるっ!』ばっかりなんだけど……って、いやお前に言ってもしょうがねーな、悪い」

 

思わず、という感じで言ってしまったらしい。

 

「そんな事……でも、このままじゃ、不味いですよね」

 

彼女もうつむいてしまって、なんだか元気がない。

 

 

「八幡、なんか困ってるの?」

 

私が八幡の隣の椅子に座ってそう聞くと、少しだけ優しい顔になったように見えた。

 

「……おう、おま……、留美もお疲れさんな」

 

八幡は私が反射的に睨んだのを見て、『お前』と言いかけたのを『留美』と言い直した。うん、八幡えらいえらい。ちゃんと覚えてたみたい。

 

「うん、大丈夫、近いし。それで?」

 

「ああ、まあなんだ、具体的に何やるかまだ決まって無くてな……」

 

「え、それって大丈夫なの?」

 

 もう十二月に入っている。イブまで日数はあるけど、今まだ何も決まってないというのはさすがに……。

 

「大丈夫じゃないから、頑張ってどうにか決めないとな」

 

そう言って八幡はがっくりとして、一つため息をついた。なんだか思ったよりも大変そうだ。

 

「そっか。……うん」

 

 

 私と八幡のそんなやりとりを、書記さんは少し離れた席でなんだか不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 




 みんな大好き玉縄くんでした(違う)

 場面転換がやたら多い上に、山もオチもない話でしたね……。 原作中でも話が停滞している時期の話ですし、まあ、プロローグだから、ということで。次回はもうちょっと話が動いてくるはずです。

 このタイミングで更新すると、読者様によってはもう新年、という方もいらっしゃるかもしれませんね。では、

良いお年を~ & 明けましておめでとうございます!



12月30日 誤字等修正しました。 報告感謝です。

5月2日 誤字修正。不死蓬莱さん報告ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。