そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

17 / 41
 
 どもども。更新が遅くなりすいません。その分ちょっと長めになっております。

 さて、今回のお話は、クリスマス編の「おまけ」として書かれております。
 話が飛んだり、説明不足だったりするところがあるかもしれませんが、そこは「おまけ」ということでお許し下さいね。

 では、「鶴見留美は聖夜に願う――幕間」です。





幕間 新しい友達

 最近、新しい友達ができた。

 

 近所の高校が主催するクリスマスイベントのボランティアに参加して知り合った子で、同じ六年生。お隣の小学校に通っている。

 彼女とはなんだか波長が合うというか、この先もずっと仲良くしていけそうな気がしてるんだ。

 

 ただ、彼女はとっても素敵な子なんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんと、目がドヨンと濁った高校生に恋をしているのだ!

 

 ふっふっふ~。るーちゃんだと思った? ……残念っ! あーちゃんでしたっ。

 って、あたしは一体誰に話してるの……。

 

 

 

 *********

 

 

 

 その子、「鶴見留美ちゃん」の最初の印象は、「すっごくきれいな娘」

 

 あたしも、自分の容姿は……まあまあいい方なんじゃないかな、ぐらいには自信あったんだけど、鶴見さんはそういうのとはちょっとレベルの違う美少女で、「アイドルの卵です」とか、「なんとか劇団で女優目指してます」とか言われたら、多分普通に納得してしまっただろう。

 そのせいかもしれないけど、初めはみんな、こっちから話しかけるのは気後れするというか……この地区の3つの小学校から集まったボランティア参加者16人の中で、彼女はどこか浮いてるみたいに一人で居た。

 

 

 ボランティア初日。私たち全員が講習室という部屋に案内されると、早速、海浜総合高校と総武高校の生徒会長さん二人から御挨拶をいただいた。

 

 

 

 まず、海浜の制服を着た、なかなかのイケメン君がこちらにやってくる。高校生としてもやや高めの身長。彼が総武高校の人たちの方へ何か声をかけると、

 

「は~い、今行きますぅ」

 

 と、可愛らしい声で返事をして、肩までの茶髪をゆるふわにした、海浜の彼に比べるとやや幼い印象の女の子がこちらにやって来る。背もあまり高くなく、あたしより小柄だ。

 

 二人並んだところで、海浜の彼がコホンと咳払いをひとつ、挨拶を始めた。

 

「やあ、○○小学校、△△小学校、□□小学校の皆さん、こんにちは」

 

「「こんにちはー」」

 

「僕は海浜総合高校の生徒会長で、玉縄と言います。……そして、」

 

 玉縄さんは彼女の方に手を差し出して、場を譲る。

 

「はい、総武高校で生徒会長してる、一色いろはです。みんな、今回はよろしくね」

 

 「ニコッ」という文字が見えそうなぐらい完璧に可愛い笑顔で彼女が言う。でも……、なんだか隣の玉縄さんにちょっと苛ついているような……気のせいかな?

 

「「よろしくおねがいしまーす」」

 

 あたし達も元気よくあいさつを返す。それにしても、この一色さん、元々の容姿だけでなく、表情とか仕草とかがいちいちカワイイ。……高校だと、会長は選挙で選ぶんだろうし、やっぱりそういうのが大きいのかな。

 

 続けて玉縄さんが話を始める。

 

「今回は僕たちのクリスマスイベントに参加してくれてありがとう。みんなで協力してクリエイティブで、エキサイティングなものに仕上げていこう。君たちの参加によるシナジー効果を期待しているよ」

 

 ……うわ……いきなりガツンとカマしてくれるなぁ、この会長さんてば……。身振り手振りは大きいけど、ぶっちゃけ何言ってんだかさっぱりわかりませんよ?

 

 で、結局何のイベントなの? と話の続きを待っていると、あろうことか玉縄さんは一色さんを連れて自分の席の方に戻って行ってしまった。いわゆる、「すぐに担当者が参ります」って感じでも無さそうだし……。

 

 え、いきなり放置ですか……。それでも、少しの間は、私たちも他の小学校の子たちと自己紹介もどきをしたりしてたんだけど、いつまで経っても次の指示がないのでさすがにみんなざわついてくる。

 

「ねー、何やればいいの?」

 

「誰か聞いてきてよー」

 

「えー」

 

「お前行けよ」

 

「じゃあ、じゃんけんで……」

 

 やれやれ、しょうがないからあたしも行くかぁー、と立ち上がろうとした時、

 

「私、何やればいいか聞いてくるよ」

 

 そう言って鶴見さんはすっと立ち上がるとそのまま高校生たちの方へ行ってしまった。ちょうど席に戻ってきた、あの可愛らしい生徒会長さん達となにか話をしている。……鶴見さん、か。へへ、なんか格好いいな。

 

 私達小学生にとって、面と向かって高校生達と話をする、っていうのはけっこうハードルが高い。なんていうか、大きいし大人っぽいし。

 だからあたしは、何をやるか聞きに行くにしても、二、三人で行くつもりでいたんだよね。でも、彼女は当たり前のように一人で堂々と話をしている。

 

 綺麗でかっこいい女の子、鶴見留美ちゃん――仲良くなれたらうれしいな。と、この時はその程度の感覚だった。

 

 

 

 

 

 彼女に本格的な興味を持ったのはその後、材料の買い出しから帰ってきた後だ。

 

 その日、私達小学生は最初二班に分けられた。

 あたしと鶴見さんを含む五人は、総武高の生徒会役員の藤沢さんという人と一緒に、すぐ近くのマリ○ピアにある文具量販店に紙や道具類などの買い出しに行ってくることになった。

 で、その買物を無事終えて、みんなで沢山の袋をぶら下げてえっちらおっちらとコミュニティーセンターに帰ってきた、その時の話。

 

 この時、買物に参加してないみんなは、元からある材料で作れる飾りなんかを作ってたんだよね。あたし達が講習室にたどり着くと、

 

「あ、絢おかえり~。すごい荷物だね……」

 

 同じクラスで一緒にイベントに参加してる陶子(とうこ)が私たちに気付いて声をかけてくれる。

 

「ただいま~。紙ばっかりだけどけっこう重い……」

 

「おつおつ~」

 

 持ってきた袋をドサッと机の上に下ろす。あーあ、手のひら赤くなっちゃってるよ。

 

 

 

 最後に講習室に入ってきた藤沢さんが、小学生の監督役をしていたと思しき高校生に、

 

「あ、比企谷先輩、お疲れ様です」

 

 そう声をかけると、

 

「おう、そっちこそお疲れさん」

 

 彼は疲れたような声で応じる。見れば、ちょっと「うわっ」ていいそうになるくらいどよんと濁った目をしてる……けど、それ以外はなかなかのイケメンさん。作り自体はさっきの玉縄さんより整ってるんじゃないだろうか。

 

 でも、あの目は無い。……徹夜でもしたんですか。

 

「……会議、どうでした?」

 

「あー……、まあ、どうもならんわ。とりあえず今日は、今できるのをやるしかねーな。あと、議事録のまとめ」

 

「……そうですか……」

 

 何となく聞こえてくる話では、どうも会議がうまくいってないらしい。

 

「……でも、このままじゃ、不味いですよね」

 

 なんて、彼らが二人して元気無さそうにしていると、

 

 

 

「ハチマン、なんか困ってるの?」

 

 鶴見さんが、その目の濁った高校生の隣の椅子に、当たり前のように座ってそう聞いた。

 

「……おう、おま……、留美もお疲れさんな」

 

 彼の方もなんだか普通に返してくる……今、『留美』って名前呼び捨てにした……? それに『ハチマン』って、何? あだ名?

 周りのみんなは、二人の様子に ??って感じなんだけど、当の二人はそんな空気に気付く様子もなく会話を続ける……親戚かなんかなのかな。

 

「うん、大丈夫、近いし。それで?」

 

「ああ、まあなんだ、具体的に何やるかまだ決まって無くてな……」

 

「え、それって大丈夫なの?」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 聞けば、「ハチマン」とは「八幡」―― 比企谷八幡さん。……まさかの小学生が高校生の名前呼び捨て!

 

 面白い……。綺麗でカッコ良くって、高校生の男子と名前で呼び合う「鶴見留美」ちゃん。それに、その微妙なイケメン高校生「比企谷八幡」さん。

 

 あたしはその日、この二人を生暖かく見守っていこうと決意したのでした。

 

 

 

 *********

 

 

 

 あたしの密かな楽しみは、

 

「他人の恋愛を横から眺めてニマニマすること」

 

 あまり大っぴらにそんな事をしていると、「こいつ性格悪ぃーなぁ」なんて言われそうなので一応ヒミツ。まあ、陶子辺りは気がついてるんだけどね。

 それに、あたしは別に誰かの恋愛を馬鹿にしたり、邪魔したりはしない。もし相談に乗ってほしいって言われれば一生懸命手伝う。お似合いのカップルがラブラブしてる所を見てると、なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうんだ。

 誰かにそう言ったら、

 

「えー、そういうの見てたら、羨ましくなったり、リア充爆発しろとか思ったりしないの?」

 

 なんて聞かれた事がある。

 羨ましい、か。……正直ピンとこないなぁ。あたしは今のところ、自分自身の恋愛にそれほど興味がない。だからその分、やりすぎない程度に彼らを、彼女達を応援するのだ。

 

 ついでに言えば、マンガや小説なんかも恋愛要素がたっぷり入ってるものが好み。ただ、いわゆる少女漫画の、ヒロイン一人が複数のかっこいい男子に囲まれる、みたいな話はいまいち好きじゃない。

 だってそれってヒロインの勝利が確定してるから、いまいちドキドキしないんだよね。むしろ、どっちかといえば男の子向けの「ハーレムもの」なんて言われる作品の方が好きかもしれない。

 

 そういうお話に複数登場するヒロイン達の中で、気に入った娘を応援する気持ちで読むんだ。でも、その娘が主人公と結ばれるとは限らないから、すごくドキドキする。……それで、その恋が実ればとっても嬉しいし、他の娘が選ばれるとちょっぴり切なくなる。

 ……少し前にとあるライトノベルで、あたしイチ押しの、表は厨二ゴスロリ、裏は家庭的で健気っていう少女が、まさかの展開で主人公の実の妹に負けた時はけっこうショックだったなぁ……そういえば、あれって、この千葉が舞台だったっけ。

 

 ま、あたしの話はいいや。

 

 

 とにかくそんな訳で、あたし的に現在注目の鶴見さんだけど……、ここ二、三日なんだか機嫌が悪い。それに、ちょっと元気も無いみたい。……まあ実は、理由はなんとなくはわかってるんだけどね。

 

 あの二人……雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの二人が参加するようになってからというもの、「ハチマン」こと比企谷さんは急に忙しくなったみたいで、ちっとも鶴見さんにかまってくれなくなっちゃったんだよね……。

 

 まったく……イカン、イカンよ比企谷くん。君は女心というものがわかっておらんね。

 

 今まで、少しでも時間があればすぐ比企谷さんのところに行って、大した話じゃなくてもとっても楽しそうに話をしてた鶴見さん。……それを、いくら忙しいからと言って全く相手をしてくれないとか……。

 しかも、今正に彼と一緒に行動してる二人が二人とも、総武の制服がよく似合うすっごく魅力的な女の子っていうんだからそりゃあ鶴見さんの機嫌も悪かろうって話ですよ!

 

 

 でも……この二人の高校生、本当にレベル高い!

 

 雪ノ下さんはいわゆる黒髪ロングのものすごい美人。スラッとしていてどこか儚げなんだけど、なんというか、こう……シャープな、一本芯の通った印象をうける。「凛とした」っていう表現が似合うかな。

 しかも、聞いた話だと彼女の一言で、止まっていたイベントが一気に動き出したというじゃないですか。この外見で中身も有能とか……こういう人、現実にいるんだなあ、と感心してしまう。

 

 もう一人、髪を明るく染めている由比ヶ浜さんは、優しい笑顔が印象に残る女の子。彼女がいると不思議とその場が柔らかくなり、ギスギスした雰囲気が消えていく。

 くるくる変わる表情のせいか、「可愛い」印象が強いけど、小顔で目もパッチリで、雪ノ下さんとはタイプが違うけどこちらも「美人」に分類される顔立ちだとあたしは思う。……そして、注目すべきはそのスタイルの良さ! 何ていうかその……大きいんですよ、すごく。それなのにウエストラインはきゅっと引き締まってて……どっかのモデルさんですかって感じなの。

 

 そんなハイスペックな二人だけど、何となく比企谷さんに気がありそうっぽいんだよね~。いや、はっきり分かるわけじゃないけど……なんか三人ですごくいい雰囲気出しちゃっててさ。……で、ますます鶴見さんがしょんぼりしてしまうと。

 

 鶴見さんもすっごくきれいなイイ娘だけど、そうは言ってもまだ小学生。恋のライバルがこの二人ってのはキビシイよね。

 

 

 それにしても、この二人にしろ鶴見さんにしろ、こんな綺麗な娘たちがそろってなんであんな目が濁ってて猫背のイケメン崩れに惹かれるのかね~? とか、最初は思ってたんだよね。

 ……でも、このイベントを通してわかってきた。

 

 あれだね、「仕事ができる男はモテる」ってやつだね。

 

 

 彼はとにかく頭の回転が速い。そして難しい仕事、大変な仕事を当たり前のように自分で引き受け、淡々とこなしていく。強力な助っ人である雪ノ下さん達を連れてきたのも彼だし……正直、比企谷さんがいなかったら、このイベント自体失敗して……何もやらずに解散、みたいなことになってたんじゃないだろうか?

 

 そして、たま~にしか見せない素の笑顔とか、目を閉じて何かを真剣に考えてる表情とかを見てるとなんだかキュンと……って、いやいや、あたしまで胸キュンしてどうすんだよ……危ない危ない。

 

 

 まあ、そんな雰囲気の中、私達小学生チームは無事にクリスマスツリーの飾り付けを完成させ、今は講習室の後ろの方で、保育園の子たちに着けてもらうための天使の翼とか、頭の上の輪っかとかを作っているところ。

 

 この天使の翼は、白いダンボールで出来た本体とそれを背負うためのゴム紐を針と糸で縫ってくっつけるんだけど……あたし、あんまり裁縫って得意じゃないんだよね。

 だからあたしは、他の子が切り抜いてくれた翼に、水色のペンでせっせと羽の模様を描いている。

 それに、鶴見さんが幅の広いゴム紐を縫い付けていくんだけど……この子器用だなぁ。ダンボールに千枚通しみたいな物でプスプスと小さな穴を幾つか開け、そこに上手に針を通していく。彼女がゆっくりと糸を引っ張ると、きれいなバッテンの形の縫い目になった。

 他にも縫い物出来る子はいるんだけど、彼女がやったほうが綺麗に仕上がるのでついみんな鶴見さんに任せてしまう。……結果、彼女の前に翼の山が。

 

 しゃーない、こっち終わったら、あたしも下手なりに手伝おう。

 

 

 

 お、ホワイトボードの辺りで、「今後の方針」みたいなのを話し合ってた高校生達だけど、どうやら一段落したらしい。

 比企谷さんが、様子を見に、って感じでこちらにやって来た。鶴見さんの前に山と積まれた翼に気付いたらしく、ごく自然に彼女の隣に座り、作業を手伝おうと手を伸ばす……。

 

 あたしを筆頭に、鶴見さんの機嫌が悪い理由に気付いてる小学生のみんなは、仕事をしているふりをしつつドキドキしながら彼女の動向に注目する……。

 

「八幡、いい。いらない」

 

 そう言って彼女は少し唇を噛む。

 比企谷さんの手がピタッと止まり、彼は鶴見さんの顔を覗き込む。

 

「一人でできる」

 

 彼女が比企谷さんの顔も見ないでそう言うと、

 

「いや、できるつってもお前……」

 

 比企谷さんは、鶴見さんと山になってる翼とを交互に見ながら呆れたような声を出す。

 

「いい」

 

 彼女は首を振る。もう、素直じゃ無いなぁ……。

 

「……そうか、一人でできる、か」

 

 比企谷さんはそう言うとガタンと音を立てて立ち上がった……えぇっ、行っちゃうの? 見守る小学生ズに緊張が走る。

 

 鶴見さんはその音にピクンとして、一瞬、縋るような目で彼を見上げる……。けど、自分で「一人で出来る」と言ってしまった手前、何も言えずに下を向いてしまった……。

 

 ああもう! 意地張ってるから……。

 

 比企谷さんは小さく息をつき、それからぐっと胸を張り、トントンとその胸を叩いて言う。

 

「でもな、俺のほうがもっと一人でできる」

 

 比企谷さんナイス! 意味分かんないケド格好いいよっ。でも目はちょっとアレだけどっ。

 

「……なにそれ、……ばっかみたい」

 

 鶴見さんはそう言ってクスクス笑い出す。……いや、馬鹿ってそれはアナタの方でしょうが、この意地っ張りさんめ。

 

 まあ、比企谷さんがフォローしてくれたのはちゃんと鶴見さんもわかってるみたいで、比企谷さんがもう一度彼女の隣に座っても何も言わず、二人で仲良く作業を再開してしまった。……比企谷さん、意外に針使うの上手いな。手慣れた感じで様になってる。

 くっ、女子としてなんか敗北感。……裁縫、少し練習しようかなぁ。

 

 うん。まあとにかく良かった良かった。鶴見さん、けっこう機嫌良くなったみたいだし。

 

 一安心したあたしは、二人の様子を気にしつつも作業を再開した。……でも、二人の話はしっかりと聞き耳を立てて聞いている……へへ、だって気になるじゃん。

 

 

「八幡」

 

 鶴見さんがポツリと言う。

 

「ん?」

 

「……良かったね。……その、雪ノ下さんたち、来てくれて」

 

 鶴見さんいい子だ。なかなか言えないよ、こんなこと。

 

「おう。まあ今回は特に……あいつらには感謝してる。……それから、留美にもな」

 

「え、私? 何で?」

 

「まあアレだ……お前と、あと平塚先生にも随分と心配かけてな。それで、色々と背中を押してもらったというか、」

 

「八幡……」

 

 ををっ、なんかいい雰囲気じゃないのっ。

 

「その、唐揚げも旨かったしな。……だからその、あんがと、な」

 

 そんな事を言いながら比企谷さんは、彼女の頭に手を伸ばし、サワサワと優しく撫でる……。

 

 ひゃぁあぁ~……こ、これってアリなの? いいの?

 

 ふと周りを見渡せば、この部屋にいるみんなが注目してるというのに、鶴見さんはとろんとした瞳で気持ちよさそうに自分から頭を擦り付けるみたいにしてるし、比企谷さんは目を細めて優しい顔してるし……完全に二人の世界? 

 

 はぅぅ……見てるこっちがなんだか恥ずかしくなってきた……。

 

 ……はぁ。キミたちもうちょっと周りを気にしなさいよ。由比ヶ浜さんなんて目を丸くして口をぱくぱくしてるじゃないの。てゆーか唐揚げって何? いやそれはいい……のか?

 

 ふと気がつくと、比企谷さんは彼女の頭に手を乗せたまま何か考え事してるみたい。

 鶴見さんも気付いて、

 

「どうしたの、八幡?」

 

 と尋ねた。

 

 ツッコミどころ満載、いやむしろツッコミどころしか無いようなこの状況は、比企谷さんの次の発言でさらに加速する!

 

「なあ、留美。 ……お前、うちの演劇出てみないか?」

 

 ……あたし、もうついて行けない……。

 

 

 

 **********

 

 

 

「じゃあ、うちのブラス部のリーダーに紹介するから、キミたちは僕と一緒に来てくれたまえ」

 

 玉縄会長さんが、アライアンスでシナジー効果がどうたらこうたら言いながら、金管楽器を吹ける小学生、「音楽チーム」の五人を上のホールに連れて行った。何でも、海浜総合高校の吹奏楽部の部長さん達が今日会場のチェックに来ているとのこと。

 

 

 

「では、このメンバーで劇の方頑張っていきましょう。みなさん、あらためてよろしくお願いしますね~」

 

 一色会長さんが、講習室に残った小学生、「演劇チーム」それから、総武高生徒会、奉仕部のメンバーに、相変わらず甘~い声で挨拶する。

 

「えっと、『賢者の贈り物』本編については、書記ちゃんの脚本が今日中には書き上がるということなので、出演者の練習は明日からですねー。……留美ちゃん、絢香ちゃん、陶子ちゃん、そういうことでよろしくね~」

 

「「「はい」」」

 

「では、今日は本編の後の演出について話し合う、ということでいいのかしら?」

 

「ですです。……それでなんですけど、雪ノ下先輩にはぜひケーキを作って頂きたいな~と。それをみなさんにプレゼント! みたいな感じでー」

 

「え、でも、そんなにお金あるの? だって、お年寄りと保育園の子たちだけでもけっこうな人数になるじゃん」

 

「それは一応、さっき役所の方に確認してみた。お年寄りたちにお茶とお菓子を提供するって形なら、市の方でもある程度は助成金を出してくれるとさ。どんなものを出すかにもよるが、自分たちで作るなら、それほど無茶な金額にはならんだろ……。どうだ、雪ノ下?」

 

「それなら、まずは、参加人数の確認と材料費の試算ね。それから、こことうちの学校の調理室、冷蔵庫の利用状況の確認と予約」

 

「ゆきのん、学校の方はあたしやるよ。23日でいいんだよね」

 

「ええ、でも、冷蔵庫は前日からイベント当日まで使いたいわ」

 

「………………」

 

「…………」

 

「……」

 

 はー、なんか……今までダラダラしてたのが嘘みたいにすごいペースで話が進んでいくなあ……。うん、会議とか話し合いって、やっぱこうじゃないとねっ。

 

 

 

 さて、『もうついて行けない』なんて思ってはいたはずなんだけど、何故かあたしは準主役である「ジム」として劇に出演することになってしまった。

 

 と言っても、この『賢者の贈り物』って、舞台に立つのは三人だけなんだけどね。それにずっと出てるのは、留美が演じる「デラ」だけで、私の「ジム」と、陶子の「女主人」は、それぞれ一つの場面に登場するだけ。

 

 

 

 留美が主役の「デラ」に決まった時点で、身長のバランス的にジム役をやれそうな男子は二人いたんだけど、二人とも恥ずかしがって、「絶対やりたくない」って言うんだよね。

 

 ……まあ、分からなくもない。演技とは言え、女子と抱き合ったりしたら、後でからかわれるに決まってるし。……まして、相手が留美というすごく綺麗な娘ともなれば、どうしたってビビってしまうんだろうな。

 しかし……まったくもったいない。どうしてこれをチャンスと考えないのかね彼らは。

 

 だって、留美と合法的にハグ出来るんだよ! こんなラッキーそうそう無いよ!

 

 でも、みんな、舞台に立たなくて済むナレーションとか照明とかの方をやりたがって、ジムと女主人のなり手がない。

 ……で、さっきも言った身長のバランスもあって、結局はあたしがジム役に決まったの。

 女主人役もなかなか決まらなかったんだけど、「絢もやるならしょうがない」ってことで、最後は陶子が引き受けてくれた。

 

 そういえば、この時初めて「留美」「絢香」って呼びあうようになったんだっけ。

 ふう、やっと「留美」「八幡」の関係に並んだよ~! 

 

 

 

 *********

 

 

 

 今日は、完成した脚本を持って、出演者と比企谷さんで実際のステージを見に来ている。

 舞台の上で本を持ったまま、だいたいの動きを確認。

 

 気をつけなきゃならないのは、現実に人と話すときと違って、セリフを言う時に相手と客席の間ぐらいの方向を向くこと。そうやって客席から顔が見えるように、声が通るようにするんだってさ。

 これが意識してやらないとなかなか難しい。つい、話す相手を真っすぐ見ちゃうんだよねー。

 

 

 

「せんぱ~い、ちょっとこっち良いですか~」

 

 一通り流れの確認が終わったころ、一色さんがホールにやって来て、比企谷さんに何か相談をはじめた。……肩をぴったりくっつけるみたいに並んで、ふたりでファイルを覗き込んでいる。

 

 うーん……なんだかこの一色さん、気のせいかもしれないけど、急に比企谷さんにモーションをかけ始めたような……。

 最初はそうでもなかったよね? いつからだろう。……雪ノ下さんと由比ヶ浜さん達が来てから……かな。急にライバル心が出たとか? もし彼女まで比企谷さんに好意を持ってるとしたら、留美はますます大変だよなぁ……。

 

 

 

 結局、比企谷さんはそのまま一色さんに連れて行かれてしまった。

 みんなが舞台を降りて自分の持ち場に帰っていく。その時留美と二人になったので、思い切って比企谷さんとの関係を聞いてみた。

 

「それで? 前から気になってしょうがなかったんだけど……留美と、あの比企谷さんってどういう関係なの?」

 

「どうって……。前に話したことあると思うけど、夏の林間学校の時にお世話になって……」

 

 うんうん、それは前にも聞いたってば。 

 

「えぇ~~。でもさ、なんかお互い名前で呼んでるし、最初は親戚とか、ご近所さんとかかなーって思ったけど、そーゆうんでも無さそうだし、この間なんか嬉しそうに頭撫でられてるし。……それに、そういう時、留美が比企谷さんを見る時の目がさ……」

 

「え、私の目?」

 

「マジ? 自覚無いの?」

 

「うん。そんなに変な目、してるかな」

 

 あんなとろんとして幸せそうな表情をしておきながら、自覚が無い……だと……。

 

「変、っていうか……その、目の中にハートマークが見えるというか……」

 

「な…… え?」

 

 おおっ、珍しく動揺してる。なんかかわいなぁ。もうっ! こっちが照れちゃうっての。

 

「やっぱその、好き、なんでしょ?」

 

 ここでど真ん中の疑問をぶつける……さすがに怒るかな?

 

 留美は小首をかしげて少しだけ考えると、

 

「うーん。よく分かんない」

 

 と、照れるでも怒るでもなく、「ほんとにわかんない」みたいな顔で答えた。

 

「えぇー、なんで?」

 

 アレで好きじゃないとか言うつもりかね? そんな考えが顔に出てしまったのか、

 

「あ、もちろん嫌いなわけじゃないけど……だって、高校生と小学生だよ?」

 

 彼女はそう言い加える。

 

「いいじゃん! 高校生との大人っぽい恋とか、ちょっと憧れあるなぁ」

 

 冗談めかして言ったけど、これは本音。あたし、自分の背が高いのもあってか、同じ小学生の男の子には興味がない。それに、漫画なんかの影響かもしれないけど、「彼氏の顔を見上げて話す」のにはちょっと憧れる。

 

「だからさぁ、留美はもっとぐいぐい行こうよぉ」

 

「絢香……面白がってるだけでしょ……」

 

「へへっ。やっぱわかる?」

 

「あのねぇ……」

 

 留美はちょっと困ったような顔で呆れたように言う。

 

 あ、マズったかな……。恋愛のことあれこれ言われるの嫌いな子もいるよね……。

 

「あ、ゴメン。……こういうの嫌だったらもう言わない」

 

 そう彼女に謝る。留美にはこんなことで嫌われたくはない。

 すると留美は少し表情を崩して言う。

 

「ううん。……ここだけの話にしてほしいんだけど、正直、自分でもちょっとは自覚あるよ。八幡のこと、好きなのかな、って」

 

 認めたっ。そんなに素直に答えるとは。

 

「! だったら……」

 

「でも、八幡から見たら、多分私は妹みたいなもので……どう考えても恋愛対象にはならないと思うんだよね……」

 

 留美は小さく溜息をつく。

 

 そうかなぁ、傍から見てると、二人で居てもおかしくないと思うけどな。……でもまあ、雪ノ下さんとか由比ヶ浜さんとかと比べちゃうと、どうしたってそう考えるよね。

 

「うーん……確かにすぐには……。あ、でもさ、あたしら来年は中学生じゃん。中学生と高校生なら、さ」

 

 あたしが話を続けようとすると、

 

「ふふ。今はこの話はいいよ。まあ、自分でもホントのところ分かってないんだし。……もし良かったら、また相談乗って」

 

 留美はそう言って笑った。あたしはそれ以上何も言えず、

 

「うん。それはもちろん」

 

 とだけ言って頷いた。

 

 

 

 話題が途切れ、何となく二人無言のまま講習室に帰ってくる。

 

 ドアをくぐると、比企谷さん、雪ノ下さん、書記の藤沢さんと、それにもう一人、見慣れない女の子の四人が一つの机を囲むようにして話をしているところだった。赤くて細いフレームの眼鏡を掛けた小柄な女の子。

 

 気が付くと、並んで歩いてた留美がいつの間にか立ち止まって、あたしから数歩遅れている。

 

 思わず振り向いたあたしの目に映った彼女の姿は、まるで幽霊を見て立ちすくんでいるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 あの時……怯えるような表情を一瞬だけ見せた留美はしかし、その後は普通に笑顏でその娘――藤沢泉ちゃん――と話していた。

 

 総武高の書記の藤沢沙和子さんの従妹で留美の同級生。演劇の背景を描くために途中から参加してくれるという。

 ちょっと大人しい感じの子で、絵がものすごく上手だ。……この「上手」っていうのが普通のレベルではなく、本格的な、いわゆる「プロを目指す」レベルの絵で……聞けば、絵の専門学校の特科コースに、高校生・大学生に混じって通っているそうだ。

 

 彼女はいつも黒と黄色の表紙のスケッチブック持ち歩いていて、何か思い付いたことがあるとそれに鉛筆でサッと何かを描いている。普段は眼鏡をしておらず、小柄なのもあって少し幼く見える彼女だけど、絵を描く時には眼鏡を掛けていて、その時の表情はずっと大人びて見える……って、この鉛筆9Bっ? そんなのあるの?

 

 

 

 その後の留美と藤沢さんの様子を見てると…… なーんかギクシャクしてるんだよねぇ。話の内容なんかや話し方はなんだか親しそうなのに、突然どっちかが言葉に詰まったみたいになって、気まずい雰囲気になったり……。

 何かはあるんだろうなと思うんだけど……表面上はお互い仲良くしてるので無理に踏み込むことも出来ないし、それに藤沢さんは毎日来るというわけでもない……。

 

 まあ、そんな感じで順調に劇の準備は進んで行き、今日は保育園の子たちとの初練習。といっても、代表の子以外は、天使の格好でケーキとお菓子を配ってもらうだけなんだけどね。ただ……。

 

「るーちゃん、このろうそくおもしろいねー。ぐるぐるだねー。火がついたらきれい?」

 

「そーだねー。あ、けーちゃんはあんまり見たことないの?」

 

「えーと、さーちゃんが『火はあぶないから』って小さいろうそくしかつけてくんない」

 

 留美と話してるこの代表の子が、もう超カワイイの。

 例の天使コスプレセットを身に着けた姿は……何これ天使?本物の天使なの? お家に持って帰りたいっ!

 

 んん? 今、留美のこと「るーちゃん」って呼んでた? それに留美も「けーちゃん」とか。なにそれズルい。あたしも混ぜてもらおう。

 

「ねーねー、けーちゃん? おねーさんのことも『るーちゃん』みたいに呼んでー」

 

「いーよー。おねえちゃん、おなまえなんていうの?」

 

 彼女がくりくりのお目目で可愛く聞いてくる。

 

「あたしは、『あやせ あやか』っていうんだけど……」

 

 けーちゃんはほんのちょっとだけ視線を上にやるようにして考え、

 

「じゃあ、『あーちゃん』」

 

 そう言って彼女は、にぱっと天使の笑顔……癒やされる……。

 

「へへっ、ありがとー、けーちゃん」

 

「うんっ、あーちゃん」

 

 ぐはっ、これは想像以上に嬉しい。

 ……テレレテッテッテッテー「あやかは『あーちゃんのしょうごう』をてにいれた」

 

 

 

「じゃあほら、陶子もっ」

 

「え、私も?」

 

「ほらほら」

 

「あ、ええと私は、『なかはら とうこ』だよ」

 

「じゃあ、『とーちゃん』」

 

「「ぷっ」」

 

「とーちゃ……ちょっと絢、それに鶴見さんまで何笑ってんのよ!」

 

 陶子はムッとした顔で私たちに言い、

 

「ね、ねえけーちゃん? ちがうのないかなぁ」

 

 けーちゃんにそうお願いする。

 

「んーとね、あ、『トコちゃん』は?」

 

「トコちゃん……うん。ありがとうけーちゃん」

 

……テレレテッテッテッテー「とうこは『トコちゃんのしょうごう』をてにいれた」……しつこい。

 

 

 

 

「あ、そうだ綾瀬、今ちょっとだけいいか?」

 

 見事「あーちゃん」の称号をゲットし、意気揚々とホールを出ようとした所で比企谷さんに声を掛けられた。ちなみに留美達は先に「お花摘み」へ。

 

「はい大丈夫ですよ。でも……わざわざなんです?」

 

「いやその、留……鶴見と藤沢の事なんだが……」

 

「ぷ。別に言い直さなくてもいいですよ。比企谷さんが留美を名前で呼んでんのなんて最初からですし」

 

 そう言うと、彼は少しだけ照れたように頭を掻きながら、

 

「まあ、な。ただ、そもそも俺は誰かを下の名前で呼ぶってのに抵抗があってだな」

 

 と、よく分からない言い訳をする。

 

「えぇー? だったらなんで留美のことだけは名前で呼ぶんですかぁ?」

 

 すると、比企谷さんは少し言いよどみ……

 

「そういえば綾瀬は留美と違う小学校だったな……。その……留美にとって、『下の名前で呼び合う』って事には、俺らが普通に思うより大きな意味があるみたいなんだわ。

 だからまあ、留美がそう呼んでほしいって言うんならそんくらいはしてやろうと……まあそんな感じだ」

 

「なんでそこまで……」

 

「まあ、責任っていうか……夏にちょっといろいろあってな」

 

 夏……例の林間学校の時のことか。……留美は、「お世話になった」としか言わないけど……。

 

「なんだかよくわかりませんけど、まあとにかく留美と泉ちゃんの話、ですよね」

 

「おお、そうだったな。スマン」

 

「いえ」

 

「あの二人の様子……どう思った?」

 

 あぁ……。へへっ、やっぱ比企谷さん、留美のことよく見てるなぁ。

 

「その、無理に笑ってる、とかそういうことですよね?」

 

「おう。藤沢に聞いた話では……ああ、うちの書記の子の方な。……で、あの二人、前は本当に仲良かったのに、半年ぐらい今みたいな状況が続いてるらしい。

 

「半年も……ですか?」

 

 そこまでとはさすがに意外。ギクシャクしたにしても、もっと最近の事かと思ってた。

 

「ああ。ただ、俺が見た限りあの二人はお互い元のように仲良くしたいと思ってる……ように見える。だから、何かきっかけさえあれば……な」

 

「でも……きっかけって言っても……」

 

「まあ、今すぐでなくても、自分たちの小学校以外の場所、例えばここで一緒に何かをやることで少しずつ変わって行くかもしれない」

 

「はい」

 

「で、二人が気まずくなったりギクシャクした時にうまくフォローしてくれるヤツがいればなぁ、と」

 

「なるほど、それをあたしに。……でも、なんであたしなんです?」

 

「お前たち二人が、名前で呼び合ってるから、ってのが一つ。……さっき言ったみたいに、留美にとって『名前で呼ぶ子』は特別だと思うからな……。

 あとは、何となく綾瀬なら大丈夫って感じがしたから。……どうだ、頼んでもいいか?」

 

「もちろんです。あたし、留美のこと好きですし。あと、それから……」

 

「ん?」

 

「さっき比企谷さん、『責任』とか難しいこと言ってましたけど……留美は比企谷さんに、『留美』って呼ばれるのとっても嬉しそうです。……だから、大丈夫ですよ!」

 

 上手く言えない……何が大丈夫なんだか……。でも、ニュアンスは何となく伝わったようで、比企谷さんは眩しいものを見るように目を細め、

 

 

 

 さわさわっ、とあたしの頭を撫でてくれる――って、ひゃぁぁぁ~~。こ、これ、留美限定じゃ無いのっ!?

 

「なんつーかその、ありがとな」

 

 ふわぁ~~、あったかくってちょっとだけ重い……でもその僅かな重さが気持ちよくって……。な、なんという破壊力。これが八幡大菩薩の右手に封印されし能力(ちから)かッ。……いやそうじゃなくてっ。

 

 それに比企谷さん、何フツーに『ありがとな』とか言ってるんですか! ちょっとは動揺したり恥ずかしがったりしなさいよ!

 

 ……けど、これ……留美が気持ちよさそうにしてたのわかるわ。なんだか脳みそ溶けそう……。

 

「……はう……」

 

 

「お、スマン。つい……な」

 

 あたしが動作不良を起こしてるのに気付いた彼がすっと手を引っ込める。「つい」って……。

 

「いえあのあの……はう……」

 

 くそう、比企谷さんの手が離れた時、もうちょっと撫でて欲しい……とか思っちゃったじゃないか。ここは反撃の時だ。あたしは無理やり心を立て直し、

 

「へへっ、それなら今度は、あたしのことも『絢香』って呼んでくださいよ~」

 

 そう言って、わざとらしく上目遣いをしてみる。

 

 比企谷さんは、ちょっとだけびっくりしたような顔をして、

 

「……あや……」と言いかけたものの、

 

「やっぱやらん。恥ずい」

 

 そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

 えぇ~~、あなた乙女の頭を撫でておいて今更ですかぁ……。

 

 

 

 斯くしてあたしは、「留美と泉ちゃん対策特命係」(脳内変換)としての任務を受けたのでしたっ。

 

 

 新しい友達 続 につづくっ。

 

 

 




 
 ……幕間なのに「つづく」とか……

 さて、今シリーズ初、留美以外の視点でのお話です。
 最初は、「クリスマス編の裏話を絢香視点でサクッと短めに書こうと思ってたんですが……。話半分の時点でもう本編一話よりも長くなってしまうという……。
 そんなわけで、次回もこのお話の続きです。


 ちなみに、「原作ヒロインが八幡に恋してるのを、オリジナルヒロイン視点で生暖かく見守る」というスタイルは、「ハーメルンの俺ガイルSS書き」といえば五指に入るであろう有名作家さんのいろはSSのパクr……ゲフンゴフン、……オ、オマージュです。
 私はこの作品のオリジナルヒロインが大っっっ好きで、実は「絢香」の名前の一字はこの彼女からいただいているのですよ。……○ーちゃん☆さん、無断ですいません。


 ご意見、ご感想お待ちしています。 ではでは~。



 4月23日 誤字修正。 また報告いただきありがとうございます。
 4月24日 誤字等修正。 いつも報告ありがとうございます。

 5月3日 誤字修正。不死蓬莱さん報告ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。