~2066/08/12/23:46_響~
「うー、響ー!ここ教えてー!」
教科書を開いて何時間目だろうか、暁型駆逐艦一番艦、暁は、妹である暁型二番艦、響に足をばたばたさせながらごねた。
「……ここはね、両辺にルートをかけてエックスに付いてる乗数を外すの」
いま彼女達が解いているのは、皆さんご存知二次方程式だ、解を出すのになかなか手こずったという方も多いだろう
「???響、日本語話してる?ロシア語話してない?」
「……現実逃避はやめなよ」
あきらかに逃げている暁に対して、響はじっと見つめる。
「うっ……、に、逃げてないもん‼」
「目が泳いでる」
「うっ……」
さっきからずっとこの会話の繰り返しである、いい加減ラチがあかない
「暁、早くしないと電と雷が帰ってくるよ?」
ここにいない二人、暁や響と同じ、同型の姉妹艦の電と雷のことだ。
「うー、だって二次方程式すごく難しいんだもーん!これじゃ宿題おわんないよー!」
「だからわざわざ手伝ってるんじゃないか」
そう、彼女達が必死にやってるそれは、地獄の紙切れ、宿題だ。
「だからってごねても宿題は終わらないよ」
「うー!」
さっきは一次方程式でつまっていたのに、こんどは二次方程式だ、いったいいつになったら終わるのだろう、響は嫌気がさしてきて、窓の外を見つめた。
すごく綺麗な三日月だった。
~2016/07/11/15:26_ひびき~
船が意思をもつなんて、この人たちは考えたことすらないんじゃないかな。
私の名前はイージス護衛艦DDH-192ひびき。音響測定艦じゃないよ、護衛艦だよ。
「本日、自衛隊創設以来初の、アメリカの領海を護衛するためにここ呉基地からイージス護衛艦、「ひびき」が、5日間の航海に出発します!」
「帽ふれー」
今日から私は初の本格的海外支援に赴くのだ。一緒に訓練してきた仲間(船員)と共に。
「……頼んだぞ、ひびき」
そういって私に語り掛けてくる人は一人しかいない。
「CIC、艦橋。豊後、状況報告」
「現在、予定より二分遅れで進行中、それ以外に問題はなし」
「了解」
豊後誠一等海佐、私の大好きな人で、私の砲雷長。
私に最初から乗っていた人。私の事を私以上に使いこなしてくれる、私だけの砲雷長。
「対水上戦闘よぉい」
誠さんの号令と同時に、戦闘は始まる。
「対水上戦闘よぉーい、これは演習である、繰り返す、これは演習である!」
さあ今日は最終訓練だ、こんごう姉さんに遠慮なくぶっぱなしちゃうよ!
「トマホーク、攻撃始め‼」
復唱の後、私のVLSから、対艦用ミサイル、トマホークが発射される。
「よーし、こんごう、しっかり防いでくれよー」
誰かがそう呟いたそのとき。
バッコォォォォォォォォォォォォォォォン‼
(船)体に何かあたった、しかも私に大穴を開けて。
「な、何が起きたーっ‼」
「砲雷長!海中からの魚雷です!」
……これが、世界で初めて目撃されたヤツら、後には何十年と続く戦いの発端となったヤツら。
いくつもの船を沈め、人類を絶望に陥れた。
「深海棲艦……?」
誠さんは、ふと呟いた