入渠から帰ってきた俺の足取りは非常に重かった。
出撃を急ぎ電を怖い目に合わせた挙句、山本に再三言われたにもかかわらず初陣で大破してしまうなんて……
そんな負い目から俺は執務室の前を先程から行ったり来たりしているのだ。
「うぅ……このままここに居ても埒が明かないけれど、しかし……」
そうして何度目かの執務室を通り過ぎようとした時、唐突に扉が開け放たれた。
「ひゃ!……いっ!?」
俺は驚きの余り足がもつれ思い切り尻餅を着いてしまった。
「何時までそこに……ってわりぃ!大丈夫かっ!?」
「響ちゃん!?」
「だ、大丈夫……」
俺は心配そうに駆け寄って来る山本に返答しつつ、立ち上がってお尻の埃を払った……だけだったが自身のとはいえ少女の臀部に触れた感覚に俺は何とも言えない背徳感に襲われるもそれを顔に出さない様に努めて冷静を装った。
「本当に大丈夫か?顔が少し赤いぞ」
「ほ、ほんとに大丈夫だよっ」
全然隠せてなかった……
俺は二、三深呼吸してから改めて二人に頭を下げた。
「それよりも……今回は電にも司令官にも迷惑を掛けちゃって、ごめん」
「響ちゃん……あの、私は……」
山本は電の言葉を制する様に俺に問いかけてきた。
「なあ響、何を謝っているんだ?」
「な、なにって……私が出撃を急いだせいで電に無理をさせてしまった。それに、や……司令官に再三言われたのに無理して大破してしまった」
「そうか、そこまで分かっているならもう大丈夫だな」
「え……怒らないのかい?」
何で無理したんだと、心配かけるなと。
そう言われると思っていた俺はつい聞いてしまった。
すると山本は笑顔で俺の頭を撫でながら答えた。
「確かにな、お前がボロボロで帰ってきた時は気が気じゃなかったさ。でもな、お前達はこうして帰ってきてくれたし、無理をした事も自覚している。ならそれで良いじゃないか、次に活かせるんだから」
そして山本は最後に褒めてくれた、よく帰って来てくれたと。
「あ……う………ひっく……」
少女となった俺に瞳から零れ落ちるものを抑える術は無く、遂には膝から崩れ落ちてしまった。
「え?ちょっ、響ちゃん!?ほ、ほらっ。全然怒ってないよ?」
山本が何か言っていたが必死に涙を堪えようとする俺の耳に入って来る事は無かった。
……穴があったら入りたい。
「ま、まあそういう時もあるってな?」
「そうなのですっ、恥ずかしがる必要は無いのです!」
俺は十分前の自分を思い出し、その余りの恥ずかしさによって顔から火が出そうになり部屋の隅で体育座りのまま蹲っていた。
俺とした事が山本の言葉に不覚を取るとは……赦せん!!
「あ、あれ?なんか殺気立ってない?」
「ひ、響ちゃん。大丈夫、です?」
し、しまったっ!?電の声が少し震えているじゃないか!
ここは気持ちをを落ち着かせて冷静に対応しないと。
「あ、ああ大丈夫だよ」
「あ、あのね……今回の事があってやっぱり響ちゃんにも伝えておこうと思った事があるのです」
電が伝えておきたい事?愛の告白……はないか。
だとすると何だろう。
「改まってどうしたんだい?」
すると、電の口から意外な真実が飛び出してきたのだ。
「私…………実は、本当の電ではないのです」
「え……?」
「あっはっは、やっぱりそういう反応になるよなっ!」
横で笑っている山本は置いといて電は今なんて言った?
電じゃ……ない?
「えっ……と、深海棲艦だった……ら知らないなんて言わないか。じ、じゃあっ!他の艦娘だった……とか?」
俺は敢えてほかの可能性を尋ねるが電は首を横に振るばかりである。
「え……じゃあ……」
「私の名前は
だが、やはり彼女は俺や山本と同じ転生者であった。
「え……あ、そう……なんだ」
「あっはっはっ!因みに俺も元々この世界人間じゃないんだわ、
まさか、そんな事が……いや、山本がいる時点でその可能性はあったのか。
つーか、そうなると色々と不味いかも知れん。
もし、転生者じゃない艦娘が建造されたりしたらバレてしまう。
しかし、あんな醜態を晒したのが俺だと山本に知られる訳には行かないっ!
頼む響っ、今だけはそのクールビューティを貫いてくれぇ!!
「へぇ……それは驚いたね」
「いやな、変なオッサンが号泣しながら第二の人生をなんとか〜って言うから響に会いたいって言ったら此処に連れて来られた訳よ」
「私はこの子が私の為に泣いてくれていたの、出来れば助けたかったのです……って」
山本は爆笑しながら、
俺はと言うと、必死に言い訳を考えていた。
「あ、もしかして響も別の世界からの訪問者だったりとか?」
「わ、私は……」
さて、どうするか……
艦娘であることを押し通すか?――この世界の知識が無い以上直ぐにぼろが出るだろうし、何より既に
じゃあ転生者である事は話すが
ならば…………
「……分からないんだ」
「分からない?」
「記憶喪失……なの?」
「さあ。記憶喪失なのか元々無いのか、別の世界から来たのかどうかも分からないんだ」
……よし、これなら深くは追及されないだろう……代わりに場の空気が重くなってしまったが。
「だ、だからといって悪い事ばかりじゃないさ。辛い事を覚えていても気が滅入ってしまうだろ?」
「それは……そう、ですが」
う~む、なにか他に安心させる様な言葉は無いものか……
俺が言葉を紡ごうと考えているとそれを察したのか山本から援軍がやって来た。
「……ま、それもそうだなっ!それに過去が無いならこれからみんなで作っていけばいいさ」
「そうなのですっ!私達で響ちゃんの楽しい過去を作って行くのです!」
「あ、ああ。そうだね」
山本のナイスフォローによって重い空気を払拭する事に成功した所で、俺は罪悪感を感じながらもこれからの事について持ち掛ける。
「えっと、これからは真綱ちゃん……って呼んだ方が良いかな?」
「いままで通り電でいいのです!」
「分かった。電、私達はこの世界の事をあまり知らないからこれから勉強していこうと思うんだけど」
「それは名案なのです。深海棲艦の事も知れば怖くなくなるかもしれないのです」
「そうだね、ただ残念な事に何処に資料があるか分からないんだ」
「それは……電もまだ分からないのです」
そう、一日中執務室に山本と二人きりなのが耐えられなかった俺はこの世界の事を知ろうと度々鎮守府内を散策していたのだったが、資料庫らしき所は空っぽでパソコンにも何も入っておらずオフラインの為ネットも使えなかったのだ。
つまり、他に資料がありそうな場所を探す所から始めなければならなかったのだ。
そこに俺達の会話を聞いていた山本はなにか合点がいったらしく手を叩いて言った。
「あ、そういう事ね。それだったら俺の部屋に全部揃ってるぞ?」
「は……?」
他作品を同時に投稿し続けている人は話やキャラクターがこんがらがっていかないんでしょうか?私はショート寸前です。
特に山本の話し方が荒っぽくなったり逆に門長が……なんてなりそうで怖いです。