三人で訓練を初めてから一週間が過ぎた。
未だに恐怖心は拭い切れないものの、移動や砲撃等の一通りの動きは出来るようになって来た。
「司令官」
「ん〜、どうした?」
「そろそろ大丈夫だと思うんだ」
「本当に大丈夫か?別に無理に出撃する必要はないぞ」
気遣っているのかただ離れたくないだけなのかは分からないが俺は胸を張って答える。
「大丈夫さ、それに前にも言ったがこれが私の存在意義なんだ。行かせて欲しい」
本音を云えばやはり山本に四六時中見つめられるのは色々ときついからだ。
「……分かった、電はどうする?」
「これはあくまでも私の勝手だ、電はもう少し慣れてからでも全然構わない」
「わ、私も行くのですっ!」
「……そっか、分かった」
出来る事なら電には危険な目に合わせたくない……だけど自分がああ言った以上、電の意思を曲げるなんて事は出来ない。
「じゃあ港で待ってる、君たちは補給したら来てくれ」
「了解」
「了解なのですっ」
俺達は訓練で使用した弾薬と燃料を補給した後、山本の待つ港へと急いだ。
「お、早かったな」
「司令官を待たせてしまっているからね」
「気にしなくても大丈夫だぞ?」
「そうは行かないさ」
あれでも一応上官になる訳だしな、なんて。
「それじゃあ、行ってくるよ司令官」
「司令官さん、行ってくるのです」
「二人共気を付けるんだぞ!何度でも言うが厳しいと思ったら直ぐに戻るんだぞ!」
相変わらず心配症な山本を背に電と微笑み合いながら前進する様に念じる。
「はわわっ!?」
「電っ、大丈夫かい!?」
「だ、大丈夫。ただまだ動き出す感覚に慣れないなぁって」
そう言って照れた様に頬を掻く電が飛びつきたくなるくらい可愛かった。
「……そ、そうだね。そのうち慣れるさ」
俺は気を落ち着かせるために帽子を深く被り視界を閉ざした。
「…………」
「…………」
「あ、あの……響ちゃん?」
波を掻き分ける音と鳥の声だけが耳に残っていたが不意に電から話し掛けてきた。
「へ?あ、どうしたんだい?」
「あのね、深海棲艦について知ってたら教えて欲しいのです」
「深海棲艦についてかい?」
電は無言で頷いた。
「それは……」
俺はどう答えようか悩んだ。
電が折角聞いてきてくれたんだから知っている事を答えてあげたい……しかし、電が知らない事を知っているのは不自然ではないだろうか。
少なくも俺より先に建造されている電が知らない事はやはり知っているべきでは無いか。
「済まない、私には分からない。けど司令官ならきっと知っているんじゃないかな」
「そっか……そう、だよね」
「力になれなくて済まない」
「ううん、ありがとう響ちゃん」
恐らく
それでも電の浮かない笑顔が俺の心に引っかかる。
しかし、空気を読まない敵は突然水面から飛び出してきやがった。
「グオォォォオ!!」
「響ちゃん!あれは!?」
「あれが恐らく深海棲艦だろう。電、砲戦開始するよ!」
「り、了解なのです!」
電は返事とともに撃ち始めるも怖いのか目を瞑ってしまっていた。
あれじゃ当たらない所か敵の攻撃すら見えていない!
俺は強大な敵を前に恐怖で震える
「電!怖いのは分かる、私も怖いさ。だからゆっくりで良い……目を開けるんだ」
俺はイ級に向けて砲撃を放ちながら電に目を開けるよう促す。
「だって……怖いよぉ」
しかし、今の彼女には厳しかった様だ。
俺が無理に出撃しようとしなければ彼女をこんな目に合わせる事も無かったんだ……俺のせいで……ならば!
「電、下がれるかい?」
「響……ちゃん?」
「ごめん、私が無理に出撃しようなんてしなければ……とにかく下がって」
「でも、そしたら響ちゃんが!」
「大丈夫、不死鳥の名は伊達じゃない」
俺だってある意味不死鳥なんだ、ならやってやる。
根拠の無い自信を胸に自身を奮い立たせ魚雷を構える。
「ウラァーーー!!」
魚雷を放射状に放つもイ級は難なくすり抜けて反撃とばかりに魚雷を放ってくる。
「当たらないさっ!」
魚雷を上手くすり抜け反撃に出ようと背部に付いた連装砲を構えるが……
「ぐっ!……沈まんさ」
既に放たれていたイ級の砲撃が俺の肩に炸裂する。
発狂しそうな痛みを歯を食いしばって堪え、更に接近する。
そして遂に確実に魚雷を当てられる距離まで近付いた。
「これで終わりだ、ダスビダーニャ」
魚雷を三本放ち直ぐに急速回頭をする。
その直後、激しい爆風と波が
「うぐぁっ……かはっ……」
服は所々破れとても恥ずかしい格好となってるが、そんな事も気にならないくらい激痛が俺を襲っていた。
「響ちゃん!響ちゃん!?」
「い……なづ……ま?」
良かった、電は護れた……響には申し訳無いが彼女が無事で何よりだ。
この後、電に曳航され無事に帰ってきた俺は、山本にお姫様抱っこをされるという辱めを受けながら直ぐに入渠ドックへ運ばれたのだった。
正直動く事すら出来なかった彼女?達にはイ級すらキツイと思うんですよね〜