龍田は重巡棲姫に
そうすれば彼女達を逃がす事ができ、そして龍田を追っていた重巡棲姫は目的を失い必要以上に追いかける事も無いだろうと感じていたから。
だが現実は龍田が沈む事を許さなかった。
龍田が重巡棲姫へ突撃しようと覚悟を決めた直後、重巡棲姫へと正確な砲撃の雨が降り注いだのだ。
「ヴェァァァ……ニクラシヤァ……ッ!」
「長門?いや……」
長門ではないと断じる。
ここの長門にあれほどの命中率は無く、何よりも飛んできた方角が違う。
ならば誰だと龍田は飛んできた方向を振り向く。
「そこの艦隊!後はこの大和に任せてこの戦域を脱出なさいっ!」
龍田の向いた先には戦艦大和、そして応援を呼びに戻った響の姿があった。
「あら〜てっきり諦めたのかと思ったわ〜?」
「そのセリフは後で司令官に言うといい。そして遅くなって済まなかった」
「何があったかは後で聞きましょう、とにかく助かりました。後は頼みますね」
白雪は響の返事に引っ掛かりつつも感謝を伝えた。
そして龍田、長門を残し撤退を開始した。
「ニガスカ……シズメェ!!」
「貴方の相手はこっちですよ!」
白雪達を追い掛けようとする重巡棲姫へ大和は再び一斉射を浴びせる。
「ヴェァァァッ!!イマイマシイ……」
重巡棲姫が大和へ狙いを変えた直後、足元が大きな水飛沫を上げて重巡棲姫を包み込んだ。
「
「グッ……ガァッ!ニクラシイ……ヤクタタズドモメッ!」
怯んだ所を畳み掛けるように長門の四十一センチ連装砲が重巡棲姫を襲う。
「ど、どうだちくしょう!!」
直後、重巡棲姫は眩いくらいの光を放ち始める。
近くにいた龍田達が目を覆う中、重巡棲姫と思われる者の声が辺り一帯に響き渡った。
「ヤクタタズドモニ……コノ……ワタシガ…………ムネンダ……コンナ……イヤ……ムシロ……ココロガ……カラダも……これは…………そういう、ことなの……?私は、本当は……」
段々と光が弱まっていき、完全に発光が治まったそこに重巡棲姫の姿は無く、ブロンズヘアーのセミロングの少女だけがただ立っていた。
「ボンジョルノ!ザラ級重巡ザラです!龍田お姉様に近づく人には容赦しません、よろしくね!」
「…………へ?」
何とか救援が間に合い誰一人欠けることなく帰路に着くことが出来た俺達であったが、かなり微妙な空気になっていた。
それこそ一番の功労者である大和がいたたまれない位に。
原因としては二つ、一つは俺が憤りに任せて鎮守府であった事を全て話してしまった事。
話を聞いたみんなは当然の如く山本に対して憤りを露わにしていた。
龍田は元から期待してないのか特に気にしていないようだったが。
全てを話した事に少しだけ反省はしているがどうなるかは山本の誠意次第だろう。
そして二つ目は……
「…………」
「龍田、大丈夫かい?」
「そうねぇ〜、姉の仇がすぐ隣にいるのに止めを刺せないどころかずっと腕を組まれている状況が大丈夫に見えるのなら工廠で検診を受ける事をお薦めするわ〜?」
「だよね……」
「響ちゃん?あんまり龍田お姉様に近付くとザラは怒りますよ?」
今回の騒動の原因である重巡棲姫が実は龍田にぞっこんな転生者だという事だ。
まだ実際に確認していないので転生者かどうかは分からないが是非とも転生者であって欲しい所だ。
龍田にして見れば仲間の仇が突然艦娘になって自分の事を慕っているなどと言われても到底容認は出来ないのだろう。
それでも手を出さない辺り、複雑な心境と共に龍田の優しさが見て取れる。
「力になれず済まない、帰投する迄は我慢してくれるかい?」
「しかたないわねぇ、言うだけ無駄そうだものね〜?それよりも……帰ったらそっちの方が大変そうだけど大丈夫かしらぁ〜?」
「まあ、多分大丈夫さ……司令官も何を言ったのか十分に反省するべきだしね」
「あの子達がやり過ぎない様に止めてあげるのよ〜」
「ん、わかってるよ」
無事鎮守府に帰投した俺達は大和に燃料弾薬を必要分補充し、自身の鎮守府に戻る大和を見送った後艤装を外して執務室へと入った俺達が目にしたのは既に両頬をパンパンに腫らしたまま椅子に腰掛ける山本の姿だった。
「みんなっ!無事に戻ってきてくれてありがとう」
「けっ……よく言うぜ」
「…………」
「まずはお前達全員に謝らせて欲しい。その様子だと響から聞いているとは思うが俺は響可愛さにお前達を見捨てる事も考えてしまっていた。いや、実際諦めようとしていた。だが、響に言われ深雪に頬が膨れ上がるまで叩かれて目が覚めた」
俺達は何も言わずに山本の話に耳を傾けていた。
「俺は今後どんな絶望的な状況であろうがお前達を誰一人として見捨てないとここに誓う!だからお前達が赦してくれるのなら今一度俺の傍にいて欲しい。何があっても絶対に護る!だからっ────」
「私は信じるよ、私の事を快く迎えてくれた提督が私達に誓ってくれたんだもん!」
「わ、私も司令官さんの事を信じるのです」
「はぁ……仕方無いですね、なら私達を護れるようにしっかりと教育しなければなりませんね」
「那珂ちゃん……電……白雪さん……」
「ま、まあ白雪さんが言うなら仕方ねぇ。次は無ェからな」
「もちろん分かっている」
ま、皆も許したみたいだし山本も十分反省した様だし一件落着かな……こっちは。
俺は何も言わずにザラの方を見やる。
龍田に振り払われて腕からは離れているがこっちのやり取りを気にすることもなく絶えず龍田に熱い視線を送っている。
「所で……さっきからずっと龍田を見つめている娘は……」
「はっ、重巡ザラです!粘り強さが信条です。提督、龍田お姉様と恋仲になんてなったら消しますから、よろしくね!」
「えっ……と、よろしく?」
山本が返すも既に視線を龍田に戻し見事にスルーされていた。
「ねぇ提督〜?この子を何処か別の鎮守府に送れないかしらぁ〜?」
「い、いや。せっかく来てくれたんだし……」
「なら私を移動させて貰えないかしら〜」
「龍田っ!?だ、大丈夫だって!鎮守府に慣れればザラも落ち着くんじゃないか?多分……」
「う〜ん……響ちゃんからも提督に言って貰えないかしら〜?」
え?俺?う〜ん……
「え……っと、龍田さんが困っているのは分かるんだけど……真面目な話ザラさんを龍田さんから遠ざけるのは危険……だと思うな」
「危険?どういう事かしら〜」
俺の発言に納得がいかないらしく龍田は少し威圧的に俺に聞き返した。
「ほ、ほら。ザラさんの執念を考えるともし遠ざけても平気で無茶しそうだし。それで龍田さんにも他の鎮守府にも迷惑が掛かっちゃうくらいだったら此処で解決策を考えた方が良いかなっ……て」
勿論ザラが常識人ならそんな事はしないだろうし俺の考え過ぎかも知れない……けど、もしそうなったら今回みたいな事が起きないとも言えない。
龍田には申し訳ないけどその辺りは周りで何とかサポートして行こうと思う。
「駄目……かな?」
「だ〜め……と言いたいけれど、貴女の考えは分かったからぁ、貴女に免じて今は我慢してあげるわ〜?」
「済まない、そう言ってもらえると助かるよ」
これで取り敢えずは……
「…………ジー」
ま、まあ一段落ついた……かな?
話し合いが終わり、解散となったので俺は殺意が篭ってそうな視線を背中に受けながら執務室を後に部屋へと帰って行った。
こっちはスラスラ進みましたねぇ。
ザラさんが転生者かは証言は取れず……(;´・ω・)