ー重巡棲姫ー
重巡という艦種でありながらその耐久と装甲は姫級だという事を知らしめるには充分なものであった。
その上先制雷撃も行い、更には個体によってその火力は大和型、雷装は駆逐艦島風にまで匹敵する事があるという。
つまり何が言いたいかと言うと……どう考えても平均練度三十に満たない艦隊で戦っていい相手じゃないと俺は思う。
ゲームなら超絶運が良ければB勝利位は取れるかもしれないがどう足掻いてもここは現実であり運頼みが出来る程お気楽には考えられない。
「白雪、これは流石に撤退するべきだ」
「解っています。皆さん、作戦を中断しこれより撤退戦を開始します!長門さん。殿は任せました」
「うえっ!?まじで?龍田の方が練度高いじゃん!」
「彼女はまだこちらに来たばかりです。それに戦艦である貴方なら僅かでもダメージが通り足止めができる可能性がありますので」
「ま、まあ白雪さんの期待には応えるぜ」
そう言って
そうして俺達が撤退しようとした所で龍田はおもむろに呟いたのを決して聞き逃さなかった。
「逃げても無駄よぉ〜?あいつはずぅーっと追い掛けてくるのだからぁ〜」
「龍田っ!もしかして鎮守府が壊滅したのはあいつによってなのかい?」
「そうよ〜、あれは私に取り憑いた死神の様なもの。私を残して全てを奪い去って行くの」
まさかそんな事があるなんて。
俺はてっきり偶然が重なってしまっただけだと思っていた。
まさかそんな事情が有るなんて思っても見なかった。
「龍田、教えてくれてありがとう。ただ、もうちょっと早めに教えてくれた方が助かるかな?」
俺は何故だかこんな状況にも関わらず呑気に龍田へと感謝を伝えていた。
勿論内心穏やかでは無い。
このまま戻っては山本を危険に晒してしまうし、かと言ってここで倒す方法が見つかってる訳でもないのだから。
ただそれでも感謝はその場で伝えなければと思ったのだ。
だけど龍田は俺の発言の何かが気に食わなかったらしく食い気味に突っかかってきた。
「早めに伝えたらどうしたの〜?私を解体でもしたのかしらぁ〜」
「そうじゃないさ、みんなで対策を練る時間が出来ただろ?」
「どうせ貴方達も信じようとしなかったわ」
「どうしてだい?そんな嘘をついたところで龍田には得は無いと思うんだけど」
「だってそうでしょ〜?姫級がたった一隻の艦娘を追い続けて周りの艦娘や提督だけを標的にしてるなんて与太話にしたって出来が悪過ぎじゃない?」
龍田が自分で言ったように得が無いというのはつまりはそういう事だ。
もしそれが嘘なら言う意味が無いどころか深海棲艦のスパイだと思われかねないような発言なのだ。
そして恐らくは今までの提督は思考をそこで完結させてしまっていたのだろう。
それじゃあ他人に不信感を抱くのも当然かも知れない。
ならば龍田を責めるのは間違っているのだろう。
「済まない龍田、さっきまでのは全て忘れて欲しい。そして改めて言わせてくれ。教えてくれてありがとう」
「…………」
龍田からの返事は無かったが龍田のお陰で俺達がやらなきゃいけない事がハッキリとした。
「白雪、聞いていたかい?」
「ええ、多少面食らってますが撤退は出来ないと言う事は理解できました」
「えっマジでっ!?じゃあどうにもならねーじゃん!」
けど何か打開策はある筈だ……考えろ……
「そうですね……順当に考えて援軍を頼みましょう」
「援軍?でも鎮守府には深雪しか残って居ないんじゃ」
しかし白雪は首を横に振り言葉を続けた。
「司令官に他所の鎮守府から援軍を要請して貰うんです」
他所から?そうか、俺達に倒せなくても高練度の艦隊なら重巡棲姫を倒す事が出来るはずだ。
「そうだね、そうしよう。となると誰かが伝えに行かなきゃならないね」
練度や動きを考えると電を此処に残しておくのは危険だしやっぱりここは……
しかし俺が言うよりも先に口を開いたのは白雪だった。
「そうですね……それでは響さん、連絡役を頼めますか?」
「えっ!?電を此処に残しておくのかいっ!」
「そうです、一番危なっかしいのは電さんだからこそ私達でサポートできる場所に居てもらうのです」
「うっ、確かに撤退中に接敵しないとは限らないか……」
それに今は考えてる時間も惜しい。
電の事は皆に任せて俺は少しでも早く援軍を連れて戻ればいい話だ。
「分かった、じゃあすぐに戻る」
「頼みましたよ。皆さんは生存を第一に考え迎撃に当たって下さい!!」
「「了解っ!!」」
後ろを白雪達に任せ、俺は全速力で山本の元へと走って行った。
1ー4を突破すれば平凡な日常が帰ってくる筈何ですっ!
今暫くお待ちくだされ!