そしてまたファンになります。
敵主力には辿り着けなかったが鎮守府初の軽巡である那珂ちゃんがドロップしたので俺達はその事を山本に報告をしに来ていた。
「初めまして、俺がこの第二鎮守府の提督である山本徹だ」
「艦隊のアイドル那っ珂ちゃんだよぉ?みんなよっろしくぅ!」
明るく名乗りを上げる那珂ちゃんを
「提督に進言する、今すぐこいつを解体するべきだ」
「は?いや、何言ってんだよ
山本は当然の様にその進言を却下する。
当たり前だ、まだ六隻も揃って居ないうえに初の軽巡で更には第三艦隊解放の鍵となる川内型の一人で改二迄が艦娘最短の那珂ちゃんである。
普通に運営していた提督なら少なくともこの段階で解体しようなどとは言い出さないだろう。
そんなトップランカーとは思えない事をこいつは真剣に言っているのだ。
「こいつは
見かねた白雪が
「〜〜〜〜ッッ!!!?」
すると今度は声にならない叫びを上げながら脛を抱えてその場に倒れ込んだ。
「さ、流石にやり過ぎじゃない……ですか?白雪さん」
「艤装が着いている状態では急所を狙わなければ止められませんから」
白雪の容赦ない一撃に山本は怯えながら訊ねるも白雪は言外に問題はないと答えた。
「そうなんだ……そ、そうだ那珂ちゃん。一つ質問してもいいかな」
「何ですかぁ〜?アイドルにプライベートな事は聞いちゃ駄目ですからねぇ〜?」
「うん、まあこれ以上無いくらいプライベートな事だけどさ……君は転生者かい?」
白雪のから聞いた話によれば通常の艦娘は転生という単語自体あまり馴染みが無いらしい。
彼女達自身が艦艇から転生した存在ではあるものの意識的には生まれたでは無く目覚めた────つまり前世では無く過去の記憶という感覚らしい。
だから転生者という言葉に反応を示した時点で通常の艦娘では無い事が分かるのだが……。
「……ナナナ那珂チャン生マレタバババッカリダカラ分カンナイナー(棒)」
丸分かりだった……つか嘘つくの下手過ぎて泣けてきた。
「いや、そんなテンパりながら言われてもな……」
「心配しなくても大丈夫なのです、ここにいる殆どの方が別の世界から転生してきているのです」
「え……?ほほほ本当に?」
「ああ、恐らく白雪以外は皆転生者だぜ」
「むぅ……なんか仲間外れにされている気がしますね」
「ち、ちがっ!?そ、そういう事では無くてですね!!?」
「冗談です、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか……」
山本に鬼の様に恐れられた白雪は平静を装いながらも少しだけ影を落としていた。
まあ、あれを見た後じゃ流石に仕方ない気もするけれど……。
「まあ、認識のズレを修正する為に一応聞いているだけなんだ。別に深く詮索するつもりは無いから安心していいよ」
「うん……」
「あ、因みに君の事はなんて呼んだら良いかな?」
山本の問い掛けに那珂ちゃんは暫し悩んでからゆっくりと答えた。
「やっぱり那珂ちゃん……って呼んで欲しいな。昔の事は忘れたいから……良いかな?」
「……わかった、では改めて」
山本は身なりを正し、真面目な顔で那珂ちゃんと向き合う。
「川内型軽巡洋艦三番艦那珂っ!」
「はっ、はいっ!」
突然の事に那珂ちゃんも思わず背筋をピンと伸ばし答えた。
「貴艦を我が鎮守府の一員として認めるっ!今後の活躍を期待している!」
「はっ!有り難き光栄で御座います!ご期待に添えられるよう精一杯精進させて頂きますっ!」
「…………」
「…………」
「………ぷっはははっ!やっぱ柄じゃねぇわ」
「え?えぇ!?」
突然始まった真面目な空気を崩したのもまた山本であった。
山本はひとしきり笑い終えると今度はいつも通りの笑顔で右手を差し出した。
「ま、ああ言ったけどそんな気負わなくて良いからな?それと長い付き合いになるだろうしこれからもよろしくな」
「…………うん、よろしくねっ!皆もよっろしくぅ!!」
那珂ちゃんは山本の右手を確りと握り返し、そしてこっちを振り向いて心からの笑顔を振り撒いていた。
その目尻は薄らと濡れている様だった。
那珂ちゃんは解体しません。