ノック   作:サノク

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第24話 チカラ

 遊真くんの黒トリガー争奪戦は思いもしない方向へ動いた。まず、忍田本部長派が玉狛支部と手を組んだことで、嵐山隊が迅悠一側に味方した。両者はにらみ合い、少しの間のあと、戦いは始まった。

 

 瞬間。爆発、銃声そして斬撃。交わされる剣戟の音がヘッドフォンを通じて耳に流れ込む。

 レーダー上ではいくつもの点が入り乱れて動き、とてもではないが追い切れるものではなかった。ひどい混戦だ。はっきり言って常軌を逸している。

 訓練で犬飼さんたちの対人オペレートをしたときとは訳が違う。十人近くが入り乱れる戦場で、彼らは一瞬のうちに考察と取捨選択を繰り返しているんだ。

 そしてそれを統括しているのが私。そう自覚して、体が無意識に強張る。だけど、二宮さんに無理を飲んでもらったのだ。無様を晒すわけにはいかない。

 ごくりと生唾を飲み込み、震える声音をごまかすべく努めて強気な声をマイクに送った。

 

 「おそらく数分後に戦局は少なくとも二分されると考えられます。」

 

 返事はない。それでいい。二宮さんはすでに戦いに集中しているのだ。

 

 「私の考えでは"私たち"の勝利条件は辛勝、時間切れ、敗北のいずれかです。」

 

 時間切れと敗北は言わずもがな、こちら側が辛勝しても私たちの目的は達成される。玉狛支部には精鋭のA級部隊がいるはずだ。おそらく、迅悠一が彼らを連れてこなかったのは、もしもあちらが負けた場合、彼らに対処してもらうため。

 もっとも、それはおそらく迅悠一にとっても仕方ない場合にとる策だろう。彼には未来が視えている。ならば、最善、次善の策は用意されていると思っていい。

 だけど、それを私が知ることはできない。その三つのうちどれかがその未来につながると逆算から予測はできても、どれが遊真くんたちにとって最善なのかは分からない。だから、私がするのはこの三つの勝利条件に落とし込めるよう"調整"するだけ。

 

 大きく息を吸い込む。ここは、自分の感覚を信じるところだ。

 

 「その時は迅さんがいる方に二宮さんがいってください。」

 

 耳にノイズが横切る。目の前のレーダーは動き始める。

 心臓がやけにうるさい。

 

 予測した通り、隊は嵐山隊を足止めする役割と迅悠一を倒す役割に分けられた。

 

 二宮さんが後者に入る。同じ役割のメンバーは太刀川隊と狙撃手、そして菊地原さんのようだった。

 合流してくるメンバーも合わせ、残りの三輪隊と風間さんと歌川さんは足止めにはいるらしい。

 

 他はともかく、風間隊を割ったのはおそらく菊地原さんのサイドエフェクトだろう。風刃はいまだ未知数なトリガーだ。その証拠に、視覚共有された画面から菊地原さんが"消えた"。カメレオンを使ったのだ。

 

 頭が焼け死にそうだ。それほど考えに考え尽くして、未来を視ようとしている。緊張で手に汗がにじむ。

 

 戦局は再び動き出す。

 

 私は二宮さんの視界に経路を映し出す。

 

 狙撃手たちもそれぞれ配置につき、二宮さん、出水さん、太刀川さんが迅悠一と向かい合う。

 

 「出水!射線を通らせろ。」

 

 「はいはいっと、『メテオラ』!」

 

 なんという過激な作戦だ……。出水さんがトリオン量にモノを言わせたメテオラでここら一帯を更地にしたようだ。

 黒い煙が立ち上り、太刀川さんがその隙にも迅悠一に襲いかかる。

 弧月と風刃がぶつかり合い、音を立てた。

 

 「いい囮だ。くたばれ太刀川。」

 

  太刀川さんと迅悠一が居る位置に向かって、二宮さんの分割されたアステロイドが飛翔する。

 

  なんというか、物騒すぎる。行動自体は作戦どおりとはいえもう少し隠す努力くらいは見せてほしい。一応太刀川さんは味方という設定のはずだ。頭がくらくらしてきた。

 

 どうにか正気を取り戻し、私は、通信を入れるべく口を開いた。

 

 「二宮さん、行動は素晴らしいですがもう少し隠してください。」

 

 「太刀川はこのぐらいでは死なない。」

 

 「口の方です。」

 

 釘を刺しながら画面を見る。どちらも先ほどのアステロイドは避けたらしい。

 現在スナイパー陣、二宮さんと出水さんが迅さんを狙いながら、太刀川さんが近接して攻撃しているが、迅悠一はそれを受け流し、後ろへ後ろへ下がりながらスナイパーの攻撃も避けている。

 

 画面を見ていると秘密通信が入った。カメレオンで身を隠している菊地原さんからだ。

 

 〈菊地原です。だいたいあの人のもつ風刃のブレード性能は分かりました。

 聞こえる"音"からして、多分スコーピオンより軽くて弧月と同程度以上には硬いです。〉

 

 さすが、いい耳をしている。菊地原さんの通信でだいたいの迅悠一の強さがわかってきた。

 

 〈なんだよそれクソチートじゃん!〉

 

 出水さんが反応する。確かに、それもそうだ。

 

 〈でもあの人逃げてばっかだし、そんな強いんですか?一部の人たちだけでも玉狛に行って黒トリガー取りに行った方がいいんじゃ?〉

 

 ……余計なことを。今さっきまで感心していた気持ちがそのままいらだちにかわる。

 これは悪い流れだ。菊地原さんは賢い人で、私もそんなところを尊敬しているが、今となってはそれがわずらわしい。

 なんとしてでも、遊真くんへの襲撃は回避しないといけない。

 

 〈おいおい、迅さんが弱いって?それは一発でも攻撃決めてから言えよ、キクッチー。〉

 

 これは……冬島隊の当真さんか。諜報として身を潜めている菊地原さんをすごく煽るな……。だけどとてもありがたい。

 

 〈それは遊んでるあんたが言えることか?当真さん。〉

 

 〈迅さんの未来視でどうせ見切られるんだ。当たらねー弾は撃たねぇ主義なんだよ俺は。No.2のおまえと違ってな、奈良坂。

 つーわけで、太刀川さん、俺は嵐山たちの方に行くわ。あっちには佐鳥もいるしな。〉

 

 なんでこの人迅さんのほうに分けた時何も言わなかったんだ……。私にしては嬉しいけど。

 

 〈オーケー。ちゃんと仕事してこいよ、当真。〉

 

 〈っ!太刀川さん!〉

 

 そんな当真さんを許した太刀川さんに、煽られた奈良坂さんが思わず、という風に声を上げる。

 

 〈狙撃手に対する最大の対策はそれを制する狙撃手だ。その点で言えばあいつの判断は悪くない。当真一人で十分だがな。〉

 

 二宮さんがそれを軽くなだめる。おそらくは、なだめている。

 

 ……そう、二宮さんがいうように狙撃手に対する最大の対策はそれをけん制する狙撃手……。だが、迅悠一はたった一人で狙撃を完全に回避してる。

 これが未来視……。

 

 〈二宮さん。奈良坂と古寺と協力して迅さんを俺たちで追い詰めません?〉

 

 〈物量で潰すつもりか。いいだろう。〉

 

 〈おいおい、俺は置いてけぼりか?出水。〉

 

 〈太刀川さんはさっきとおんなじ、バチバチやっててくださいよ。〉

 

 出水さんは軽くそういうが、このシューターとスナイパーだらけの戦場でタイミングをピタリと合わせて迅悠一に斬りかかる太刀川さんは並みの身のこなしではない。なんだか二宮さんがライバル視するのも分かる。

 

 出水さんは軽くスナイパーたちと打ち合わせするとさっそく屋根の上から迅悠一を見下ろし、攻撃する。

 

 「『バイパー』!」

 

 それに合わせて二宮さんが巨大なトリオンを分割し始める。

 

 「『アステロイド』+『アステロイド』」

 

 「『ギムレット』!」

 

 「うわ、トリオン量の暴力かよ!?」

 

 そう言いながらも迅悠一は地形を巧みに使ってそれを避けていく。時にブレードをシールド代わりに、軽い身のこなしだ。

 

 「うっへぇ、迅さんマジチートじゃん。俺ら射手(シューター)No.1、No.2二人の総攻撃なのに。」

 

 「出水、お前あんまつまんない嘘つくなよ!」

 

 迅悠一は、おそらくニヤリと笑ったのだろう。続けて撃たれたスナイパーたちの銃弾は外れた。

 

 だが息をつく暇もなく、太刀川さんが斬りかかる。

 

 まばゆいブレードが交差する。それを見ながら私は画面のレーダーに映る反応に、ひゅっと息を呑んだ。

 

 「カメレオン!」

 

 私の叫びを聞いた二宮さんが、その意味を理解し、迅悠一の背後を見る。だが、私たちにできることはない。

 

 迅悠一は今、太刀川さんと斬り合っている。黒トリガーのブレードは一つしかない。それはもう使われているのだ。ならば、奇襲から身を守れず迅悠一にスコーピオンが突き刺さるのは当然かと思われた。

 

 

 ーーだが。

 

 

 「風刃 起動ーーーー。」

 

 

 その未来視(ちから)は、その当然すら凌駕した。

 

 迅悠一は大きくかぶりを振る。緑の大きな刃が宙を横切る。

 

 それは地面を伝わり、菊地原さんの腕をそのまま切り落としたのだった。

 

 




なんで二次創作にオリ主オペレーターものがないかわかった気がします



今回の投稿は様々な方に助けていただきました。またこの作品を見てくださっているすべての方、ほんとありがとうございます(土下座)

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