ノック   作:サノク

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第19話 信念

 イレギュラーゲート騒動が終わって放課後になり、昇降口から出ようと靴箱から靴を出していると、面白い人たちに会った。

 今日のヒーローであった三雲くんと、例の白い頭の少年だ。

 

 私が声をかけると二人も気づいたようで、振り返った。三雲くんは若干冷や汗をかいているようにも思えるけど、いつものことだったかもしれない。

 

 「三雲くん、お疲れ様。」

 「高橋さん、お疲れ様。

 あっ、こいつは空閑遊真。転校生なんだ。」

 三雲くんはそう私に言うと、今度は空閑くんに声をかける。

 「空閑、彼女は高橋サキ。ボーダー隊員だ。」

 「よろしくね、空閑くん。」

 私はそう彼に微笑みかけたが、彼はじっと私を見つめ、近く間を空けてから口を開いた。

 「遊真でいいよ、俺もサキって呼ぶから。」

 「じゃあ、遊真くんで。」

 そう返すと、彼は興味深そうに「ふうん……。」と呟いた。

 「どうしたんだ?空閑。」

 三雲くんが不思議に思ったのか尋ねたが、彼は「ちょっとね。」と曖昧にはぐらかすだけだった。

 私は彼が何かに気づいたのかと思い、会話に不自然なところはなかったか思い返したが、もしそうだったら三雲くんも気づいているはずだ。

 ごく自然の流れだったし、彼の振る舞いにあまり意味もない可能性もある。

 今はそんなことがあったと覚えておくだけでいいだろうと、特に何かするわけでもなく、門に向かうと騒ぎ声が聞こえてきた。そして、見えた人物にゲッと内心こぼした。

 遠目でもハッキリ分かった。A級嵐山隊の、木虎藍さんだ。(ちなみに同学年。)

 彼女には先ほど口答えしたのもあり、顔を合わせずらい上に、少し私は彼女が苦手なのだ。なんというか、単純に怖い。二宮さんや犬飼さんから感じる男性特有のプレッシャーとはまた違うトゲトゲしさというか、敵対心というか……。言うべきことは言うタチなので先ほどは意見を述べたが、できるならば彼女を敵に回したくないというか……。

 私たちに気づいた木虎さんがこほん、と咳払いすると三雲くんと同行する旨を述べる。こちらに視線を向けられたのを感じ、私は一度家に帰ってからボーダーに行きます、と言った。遊真くんと三雲くんに別れを告げ、木虎さんに会釈してから彼らとは別れた。

 

 その道の途中、何かの気配を感じた気がして足を止め、辺りを見回す。通る人や車以外、何も見つけられない。……。草が動く音がした。風はない。足音を立てずしゃがみ込み、草原を分けたがそこには何もなかった。

 

 動物だったのかもしれない、と自分を納得させる。視線は感じられない。私を見ていないなら、それなら、おそらく大丈夫だ。そう結論づける。

 しかし、立ち上がった途端、サイレンが街に響き渡った。驚いて空を見上げると、橋の方向に大きな、見たことがないトリオン兵が見える。

 これは、予定を変更した方が良いな、と考え歩いてきた道を少し戻ってから、方向を変える。

 

 

 

 ーーーーその、少し前から、遡る。

 

 「イレギュラーゲート!?」

 「えぇ、そうよ。」

 イレギュラーゲートの存在。三雲はボーダー隊員だが、C級、つまり正隊員ではないため、そのこと教えられていなかった。そんな彼に、木虎は少し満足気に頷く。彼女は加えて今の街の状態、そしてその危険性を説明する。それからその例をあげるかのように言った。

 

 「昨日から7件、あなたたちの学校で起こったようなものと同様の事件が起きているわ。」

 「それ、ヤバイじゃん。」

 遊真が率直に指摘すると、その態度に口を引きずらせた木虎も答える。

 「もちろん分かっているわ。今、本部のエンジニアが全力で原因を究明しようと、」

 しかし、遊真は最後まで待たず、遮って言う。

 「違うよ。そんなに開いてて、街に被害は出てないの?」

 そうされたことによって、一瞬木虎の表情は恐ろしいものになったが、内容を理解し、腕をくんで深刻そうに口を開いた。

 

 「……先の事件のうち、6件はたまたま非番の隊員が近くにいて出なかったわ。」

 

 「6件?」

 合わない計算に、怪訝な声が三雲の口から漏れる。

 「最初の1件は……。」

 そこで木虎の口は止まった。

 非番の隊員はおらず、建物に被害は出たが何故かトリオン兵は倒されていた。しかも、隊員のトリガー反応はその周辺になかった。そんな謎の多いことを説明するのは、馬鹿馬鹿しいと思ったのだ。

 だから、木虎は代わりにこう口にした。

 「私に聞くより、友人の彼女に聞いた方が良いんじゃないかしら。」

 「彼女?」

 「知ってるんでしょう、高橋サキ。"B級"部隊のオペレーターよ。

 彼女はその事件の時に現場にいたらしいわ。私は彼女にそこまで興味がないから、詳しく知らないけど。」

 最後の一言を聞いた遊真は"相変わらずこいつ、つまんない嘘吐くなー。"と思っていたが、隣の修が何か言おうとしていたので口をつぐんだ。

 「高橋さんとは友人というよりかは……。」

 「高橋"さん"?あなた、彼女のことはさん付けで呼んでるのね。」

 当初の呼び捨てをさん付けに変えさせていた木虎は、それに気づいて苛立ったように指摘した。もっとも、それは最初とは違い、目立ちヒーロー扱いされた修だけへの対抗心ではなさそうだが……。

 冷や汗をかいた修が軽く説明をしようとする。

 しかし、その時だった。レプリカが遊真の耳元で囁いた。

 「木虎の言う通りだったな、"開く"ぞ。」

 遊真が空を見上げる。夕焼け色に染まった空。大きな赤い橋。清らかに流れ続ける川。その全てを台無しにするような、チリのような、墨のような汚れが現れる。

 最初は気にもかけないような小さい円が、真空での電気かなにかのように周りに細い線を出しながら、大きく、大きくなっていく。それは瞬きの間だった。

 

 

 そして、再びイレギュラーゲートは開門された。

 

 次に目を開けた時、遊真たちは巨大な空に浮かぶトリオン兵が一体発生したのがわかった。

 警報(サイレン)が鳴り響く。

 もはや一刻の猶予もないと判断した木虎は、自分一人で戦うことを決意する。

 たとえ、それが見たことのない相手だったとしても、ボーダー隊員として敵を倒すこと。それが彼女の役割だと、彼女は信じているからだ。

 

 そしてまた、三雲修も決意した。トリガーを手にとることを。

 それを見た木虎は責めるような目で彼を見た。

 「あなた、また隊務規定違反を犯すつもり?」

 「あぁ。例え、戦えなくとも……やれることはあるはずだ。」

 「だから規則を破るの?」

 「違う。それは……僕がそうするべきだと思うからだ!」

 やれることがあるから規則を破るのではなく、自分がそうするべきだと思い、そう行動する結果、規則を破ることになる。そう三雲修は言った。

  三雲修は木虎の言う通り、ボーダー隊員として、英雄になる資格を持ち合わせていない。古きを省みると、英雄とは才能が必要不可欠だ。それも、圧倒的で、他を寄せ付けないような。彼の動きとトリオン量はそれに遠く値しない。

 だが、おそらく彼は全く別種の才能を持ち合わせている。どちらかといえば、むしろ……そういった人々を惹きつけ、彼らの心を動かすような、そんな才能を。

 彼が心の扉をノックする。そしてこのように、その一人、空閑遊真も、また決意するのである。

 

 

ーーーー

 ボーダーの基地に避難した私は、とりあえず作戦室へ向かって隊の予定を整理しようとしていた。

 その道中、メールを見ながら歩いていたので曲がり角で人が来たのに気付かず、ぶつかってしまう。とっさに「すみません。」と言い顔を上げた。そして驚いた。黒いスーツ、高い身長、傷の入ったきつく恐ろしい顔立ち。相手はボーダー上層部、その中でもトップといえる城戸司令だったからだ。端末はしまった。

 怒られるかと思ったが、なかなか相手の反応がこない。不思議に思って表情をうかがうと、どこかあっけにとられたような、驚きを示していた。

 

 「君は……。」

 そう聞こえたので私は「B級茶野隊オペレーターの、高橋サキです。」と名乗る。

 

 しかし、なおも城戸司令は黙ってこちらを見つめていた。

 

 

 「城戸司令……?」

 自分の声が無意識に漏れたのかと思ったが、それは違った。彼の後ろにまるで側近のごとくつかえていた、おそらく年上で隊服からしてA級の隊員が訝しんだように声をかけたのだ。私が彼を見ると、黒い髪の彼もまた、戸惑ったようにこちらを見つめ返してきた。

 

  しばらくして、城戸司令は我に返ったように「いや……なんでもない。」と返答してから、私に「歩きながら端末を見るのは危険だ。やめておきなさい。」と言って足早に去っていった。

 

 今度は私がそれをあっけにとられて見送ると、「高橋。」と声がかかる。振り向くと、先ほどの黒い髪の彼だった。

 「俺はA級三輪隊の三輪秀次だ。イレギュラーゲートの一件は聞いた。災難だったな。」

 「いえ、いつもお疲れ様です。」

 A級三輪隊……。ボーダーに入隊したばかりの時、派閥を探った際に聞いたことがある。

 確か、隊自体がバリバリの城戸派で、特に目の前の彼は派閥の筆頭のはずだ。なるほど……だから城戸司令に近いのか。そして、私に噂よりはフレンドリーに話しかけてくださるのも同じ城戸派だからだろうか?

 「高橋は……城戸司令のお知り合いなのか?」

 「いえ……心当たりはありません。」

 私は言葉を選び慎重に返す。

 「そうか。いや、かなり優しく接せられていたようだったから気になったんだ。 それだけだ。君にも任務があるだろう、頑張ってくれ。」

 そう言うと、彼は城戸司令を追いかけていった。

 三輪先輩か。かっこいいんだけど、なんだか、うん、あの対応がいつもならいいんだけど違いそう。かっこいいのにな……。

 いささか残念に思いながら、城戸司令の近くにとり入れることができれば、それが一番良かったんだろうけど今の立場でもまずまずだし、高望みはしないほうが身のためだろうと判断する。彼らは何か、恐ろしい。

 あの雰囲気は何度も身に覚えがある。会社の仲間で、あるいは潜入先で。隙のないほどの信念。それに覆われた感情と決意、そして行動。それが破られるのは信念が崩れたときだけ。そういうターゲットは取り入るのにとても苦労するし、危険性が高すぎる。味方なら頼りになるが、これを相手にするとなると骨折り損のくたびれ儲けそのものだ。

 だが、彼らを見たことで私も背筋が伸びた気がした。自分の信念、すなわち任務の成功を貫かないといけない。

 そう決意することができたのだ。

 そしてその信念が生かされる日が来たのは、あまりにも早かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・三雲くんとサキちゃんはノックする人とノックそのものなイメージ
・サキちゃんのタイプは三輪さん(外見のみ)

原作キャラクターをカッコよく書けてるか不安。

そういえばセンター試験が終わりましたね。受験生の方は見る時間なんてないでしょうが、二次、悔いのない選択をしてくださいね。

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