原作に突入しますが、同時にランク戦も行われているという設定です。
前回の話からよって2ヶ月ほどとんでます
第18話 イレギュラーゲート、開門
「転校生?」
学校に登校すると早々に話題なっていたことが耳に入ってきた。
「そう!この時期に!みんなボーダー関係者なんじゃないかって、噂してる!」
やけにテンションの高い友人は、しかし途端声を潜めて聞いてきた。
「で、どうなの?実際。」
なるほど。今現在学校でボーダー隊員であることを公表しているのは私だけだ。(公表しているというか、テレビや雑誌にでているのでみんな知っているというほうが近いだろうか?)
なので彼女は私に真偽を確かめに来たのだろう。
「さぁ?知らない。」
私は肩をすくめてこう返す。本当に知らないのだ。
私とて全ての隊員を把握しているわけではないし、三門市にわざわざやってきた転校生というのは確かにボーダー関係者の可能性が高いが、4月にやってきて5月に入隊した自分の例を振り返ると、まだ入隊していないことだって考えられる。それに、知っている範囲で、同級生のボーダー隊員が転校するということは聞いていないから分からない、と言うしかない。
ただ友人は私の発言をはぐらかしたと思ったらしい。
あの手この手で揺さぶりをかけてくるが、もちろんスルーだ。
ただ彼女の発言で気になることがあった。
"「転校生、三組なんだって!!」"
確か……三組には、メガネをかけているC級の隊員がいたはずだ。……そう、確か、三雲君。前ボーダーであった時、見覚えがあったので声をかけたら、言わないでほしいと頼まれたことがある。
ボーダーであることを隠している彼には少し可哀想かもしれないな……イヤフォンをつけながらそう思う。基地へ向かっていると、刹那、バチッと痺れるような寒気が身体中を覆った。
あたりに悲鳴が上がる。
私は目を見開き、うそ、と思わず呟いた。
画面上で見慣れた黒い穴が空間に広がる。そこから出てくるあったのはまぎれもない、トリオン兵。
ゲートが、目の前で開いたのだ。
警報が耳を流れていく。
ズドン、と大きな衝撃音を立ててモールモッドがこちらに降り立ってきた。
私は走って建物の陰に隠れた。端末を急いで取り出して本部に連絡をかける。
「B級茶野隊オペレーター、高橋です!今いる場所から10メートルほど北にゲートが出現しました!」
「オペレーター?どういうことだ!」
忍田本部長らしき声が返ってくる。
だが、どういうことも何もない!
「市街地に、ゲートが出現したんです!」
一瞬、端末の向こうが固まったのを感じた。
しかし、すぐに音が聞こえてくる。
「場所を特定しました。モールモッドが1体確かに発生しています!」
「っ!今一番現場に近い隊員は!?」
「非番の戦闘員は誰も近くにいません!」
その言葉を聞いて体が震えてくるのを感じた。最悪だ。
ガタンと背を預けていた建物が揺れる。あいつが近くに来ているのだ。逃げないと!
私はその場を離れる。
「防衛任務に当たっている隊は!?」
「一番近いのは三輪隊ですが、他の地点へ向かっていて諏訪隊が次に近いです。」
運がない、私はそう思わずにいられなかった。
「出動要請!」
「もうかけています!」
「あとどれぐらいで着く!?」
「基地からあまりにも距離があるので……十分はかかる、かと。」
ヒュ、と風が通るような音が聞こえた。私ではない。あちらの誰かだ。
十分。長い、長すぎる。被害の拡大はまぬかれないだろう。
ふぅ、体から端末を話してから私はため息をはく。一周回って冷静になってきた。
あたりを見回す。私はポケットに入れているトリガーに手を当てた。オペレーター全員に支給されているものだ
最悪、これを使う必要があるだろう。武器も何もない。もちろん、緊急脱出機能もないが、生身よりは遥かにマシだ。だが、これを使えば……
「高橋くん!聞こえているか!?」
「はい、聞こえています。」
「現場に部隊が到着するまで残り九分だ!君は自分のことを最優先して、身を隠せ!」
「高橋、了解です。」そう言い切る前に、言葉を失う。建物が崩れ落ちるような音と大きな破壊音が聞こえた。まさか……。
私は壁がはがれ落ちた建物の中に入り、屋上へとかけ上がった。
「高橋くん!?どうした!?高橋くん!」
上から見下ろした風景に驚いてから、黒い何かがそこから飛ぶように離れていったのを目にする。
あれは……白い頭の、少年?
「高橋くん!応答しろ!」
私は端末に耳を当てた。
「隊員は必要がありません。
モールモッドが、倒されました。」
▲
イレギュラーゲート。私が遭遇した警戒区域外に出現するようになった門(ゲート)は、そう名付けられた。
初めて開いたイレギュラーゲートの近くにいた人物として報告書を取りまとめながら、私はいい加減にしてください、と言う。
さっきから泣きついてくる茶野さんと藤沢さんにだ。
「だってサキお前、死ぬかもしれなかったんだぞ!」
「生きてて……本当によかったぁああ!」
「それ、二万回聞きました。これ提出しに行くんで離してくださいよ!」
そりゃ、私だって最初は泣いてくださる二人に感動したし、怖かったと思わずこぼしてしまった。(多分それがいけなかったのだろう。お二人を調子に乗せてしまった。)だがこれが始まってもう二時間だ。長い。
未だにおいおい泣き続ける二人を無視して作戦室をでる。あの二人……特に茶野さんは女々しすぎるところがある。本当は女の子か何かじゃないんだろうか……。いや、これは失礼だな。
私ははぁ、と意味もなくため息を吐く。しかし、その途中で耳に当てたイヤフォンから声が聞こえてきたのを察知し、トイレの個室の中へ入った。
"どうなっているんですか!鬼怒田さん!警戒区域外にゲートが発生するなど……!"
"今現在調査中だ!"
これは、根付さんのスーツにつけている盗聴器から流れてくる音声だ。内容を察するに、今日のことだろう。根付さん、鬼怒田開発室長双方が苛立った声をたてている。
"まぁまぁ根付さん、落ち着いてください。実害は当初想定されたより少なかったですし、何よりオペレーターの……高橋さん?だったかな、彼女も無事だったじゃないですか。"
"しかし……。"
"そのことについてだが、不可解な点もある。"
これは、忍田本部長の声だ。私は緊張感に包まれた。心臓が音を立てる。
"モールモッドを倒した何者かの正体が分からないということだ。"
そこで私は息をはいた。疑われているわけではないらしい。まぁ、今回はそんな行動もとっていないので当たり前か。
"その話は、現場にいた隊員の報告書がきてからでもいいだろう。"
……これは、いま持っているこの書類、つまり私のことだ。続く議題が関わりのないことへ移ったことを確認して、私はトイレをでる。今度こそイヤフォンを外して、会議室へ向かった。
▲
1度あることは2度もあるのだろうか?翌日、学校で鳴った警報(サイレン)にそう思わずにはいられなかった。イレギュラーゲートがまた発生したのだ。
「サキ……。」
不安そうに見つめてくる友人に微笑みかける。
「訓練通りに動いたら大丈夫、行こう。」
とは言っても、三門第三中学校は市のかなり外側、つまり基地から遠い。おそらく、今回も現着には時間がかかるだろう。
教室の窓から見たが、発生したのはモールモッド2体……。この学校にはボーダー隊員は……C級隊員の三雲君しかいない。C級は訓練トリガーな上に確か、ボーダー外での使用は禁止されてたはず。
状況は、厳しい。
「ネイバーが校内に入ってきたぞ!」
おそらく、このままじゃ……確実に被害が出る。
そう思った。私には、それを数分か食い止めるための手段がある。オペレーター用のトリガーでも、それぐらいはできるはずだ。だが、そんなことをすればバレてしまうのだ。
私はこのトリガー、もっと言えばトリオン体で姿を変え、情報を集めていた。
昨日使うのを戸惑ったのもそれが理由だ。中学生は門限が厳しいという理由で早退するふりをしてトリオン体で姿を変え、活動していた。だから設定がそのままなのだ。こうして二度目があるとは思わず、昨日も同じことをしていたので、おそらくは……バレる。そしてこのことがバレればドミノ倒しのように連鎖して、最も隠さなければいけないことすら暴かれてしまうかもしれない。
そのリスクは、何に変えてもとりたくなかった。
私は屋上へ友人と共に走った。そして、着いたそこでモールモッドが撃破されるのを、確かに見た。
しかし、そんなことはありえないのだ。屋上で聞いた限り、戦っていたのは三雲君。彼はC級で、この際トリガーの使用許可云々は置いておいたとしても、あのお粗末な……いや、訓練用のトリガーでトリオン兵が倒せるなんて……。
私が訓練用のトリガーの優先順位を下げたのはその種類の少なさだけではない。性能の悪さだ。
この半年間、トリガーの情報に関しては満遍なく集めてきたつもりだ。その自信が私の眉をしかめさせていた。
まぁ、何はともあれ、一応イレギュラーゲートの騒ぎは収まった。生徒の流れのまま中庭に出る。三雲君が校舎の奥から逃げ遅れたと思われる、白髪の生徒を背負ってやってきた。
……そう、白髪の生徒を。
もしかしてあの生徒は昨日の……いや、まさか。しかし、そう考えれば今の説明がつく……。私は彼をチラリと見た。
うーん。分からない。
彼が昨日の少年である可能性または三雲君が実力を隠していた可能性がある。今の所、まだ断定はできない。
今はこのことは私の胸の中にしまっておこう。あの報告書にも彼のことは書かなかった。
そう考えていると、ボーダー隊員が到着したようだった。嵐山隊。私は彼らと三雲君の会話を黙って見ていた。主に喋っていたのは嵐山さんだが。
だが、途中で雲行きが悪くなってきた。木虎さんが隊務規定違反であるC級の基地外でのトリガー使用を指摘したからだ。正しいのは間違いないが、心情的に三雲君の方に私は傾いていた。
派閥で考えると、嵐山隊は忍田派、三雲君はC級だしおそらく無所属だ。これで嵐山隊が城戸派だったら私は口出しができなかったしするつもりもなかったが、これなら存分に言える。
「私の意見を述べてもいいですか?」
「君は茶野隊のオペレーターの……。」
「雫!?」
私は嵐山の発言をガン無視した。
「高橋サキです。」
嵐山さんは「あっ。」という感じの表情をする。絶対私の名前知らなかったな。
「B級の……意見があるなら聞くわ。」
「では、まず質問をします。これは、オペレーターに配布されているトリガーです。」
自分のトリガーを掲げてみせる。
「それがどうしたの?」
「もちろん、ご存知でしょうが緊急時には私たちはこれを使うことでネイバーに対抗することが許されています。
私は先ほど、もし基地からの隊員が間に合わなかったらこれを使用しようと考えていました。」
半分は嘘だ。それほど使う気なんてなかった。
「果たしてそれでも隊務規定違反になるでしょうか?」
「それは意味が違うでしょう。そのトリガーの使用目的は"自衛"だわ。彼のしたことは、」
「そうですね。三雲君のしたことは自衛ではなく、"みんなを守った"ことです。」
彼女は顔をしかめたが、私はそのまま続ける。
「もう一つ質問をします。なぜC級が基地外でトリガーを使ってはいけないのですか?」
「それは……彼らが未熟だからよ。オペレーターのトリガーとは違って訓練用のトリガーには曲がりなりにも武器のトリガーがあるわ。」
「だから、彼らには自衛すら許されない……そういうことですね?」
「そんなことは言っていないわ。」
「基地外での使用禁止とはそういう意味ではないのですか?」
「それは……。」
詰まった。これはいけるか?
「そもそもこのルールは警戒区域にちゃんと門(ゲート)が開く、通常通りの生活を想定されて作られたと思われます。ルールには守らせるためのルールとルールを守るためのルールがありますが……いま、このルールは後者に"成り下がってしまっている"と思います。ですから、今回のルール違反は見逃してもいいのではないかと。」
通常通りなら、木虎さんの言うことが全面的に正しい。ルールを守るのは基本だ。だが、いまはある意味異常事態だし、三雲君があまりにも不憫だ。まぁ、私が彼を助けるのはトリガーを使わずにすんだのは彼のおかげだからだけど。
嵐山さんの顔を見る。
「以上です。」
「新しい観点からの意見だな。しず……サキ、君もボーダー本部に報告書をあげておいてくれないか?」
「……承知しました。」
この人、人の名前を覚える気があるのだろうか?胡散臭く感じ、嵐山さんを見たが、あの笑顔を向けられたので目をそらした。
その先で、あの白髪の彼と目があった。目を細めた彼は私をじっと見つめていた。
・イレギュラーゲート、開門
・主人公1日一回のペースで遭う
・主人公の運はEX
・嵐山さんは天然……?
主人公が来ることで結構細かい流れとかがいろいろ変わっています。
この長さで物語に重要な話は一点だけという……