Kirito side
俺は今、コペルというプレイヤーとリトルペネントの胚珠を取りに来ている。理由はもちろん、アニールブレードを手に入れるためだ。
悲劇が起きたのはそんな時だった。なんとコペルが実付きの実を割ったのだった。
は?なんで、コペルも実付きの危険性は知っているはず。
そのままコペルは隠蔽を使い、逃げる。
MPKだ。モンスターを使ったプレイヤーキル。略してMPK
デスゲームでこんなことをする人がいるとは思わなかった。目の無い、リトルペネントに隠蔽スキルは効果がないので俺もコペルも、あっという間に数十匹のリトルペネントに囲まれる。終わった。完全に絶望だ。
10匹程をポリゴンに変えたとき、後ろから悲鳴と何かがポリゴンに代わる音がする。
俺は戦闘中にもかかわらずそちらを振り向いてしまった。そして驚愕する。
そこにあったのは、ポリゴンへと変わっていくコペルとそれに山のようにたかるリトルペネント。つまり人が死ぬ瞬間。モンスターが人を殺す瞬間。
俺は思わず動きを止めてしまう。
それが、終了の合図となった。
腹に鈍い衝撃を喰らい剣が手から吹き飛ぶ。
今度こそ終わりだ。剣が落ちた先には、敵。逃げるにも全方位に敵がいる。
いつの間にかコペルを殺した奴まで集まってきていた。体力が赤に差し掛かる。
「ごめんなスグ」
静かに目を閉じる。
そして終了を告げる打撃は… やってこなかった。
恐ろしい速さの斬撃が聞こえてくる。
しばらくし、音がやんだ。どれくらい経ったのか。恐ろしく長く感じたが、おそらく数分の出来事だろう。
恐る恐る目を開けるとそこにいたのは。
黒いフードを被っているが、その動きは毎日見ていた背中。その周りに浮かぶ恐ろしい量のポリゴン片。すでに敵は全滅した後だった。
恐ろしい速さで敵に反撃を許さない最速の狩人。
かつて俺と最前線を走っていた、ほとんど無言のプレイヤー。
「自分のことぐらい自分で守れよ。最強のベータテスターさんよ。」
その低くかすれるような声。
「ハチ。」
それは俺の唯一のパートナー。
ハチの姿だった。
八幡 side
ゲームが始まって数日がたった今。俺は今日もリトルペネントを狩っている。
実付きの実を割り、寄ってくる敵を次々と切り裂く。
ソロで実を割るという自殺のようなことをするのは最初こそきつかったがだんだん体が慣れてきて、今では終わった後もHPは4分の1も削れていない。
こんな危険な狩りを1日で何度も繰り返しているわけだから、昨日のリトルペンネルの討伐数は、軽く1000を超えていて、今までに取った胚珠の数は38個だ。
おかげで何度、アニールブレードの修繕に行ったことか。その代りにアニールブレードの強化もできて今では+5になった。運よく強化は一回も失敗していない。装備も現段階では最強装備だ。勿論マントは忘れない。
今も100匹近いリトルペンネルを狩りつくし、一息ついてポーションを飲んでいた時だった。
「グァーーーッ」 「パリーン」
誰かの断末魔が聞こえる。無視しようと歩き出すがそこでプレイヤーを殴る音がして歩を止める。
まだ誰かいるらしい。しかも結構危ない状況で。
「まぁ遺品を回収する為だしな。」
俺は自慢の速度でその音のもとへ行き、群がるリトルペンネルを一瞬で吹き飛ばした。
プレイヤーはキリトか。目を瞑ってるとか死ぬ気満々かよ。
そんなことを考えながらソードスキルをふんだんに使い、リトルペンネルを狩っていく。
リトルペンネルをすべてポリゴンに変える。
ことは数分だった。ただの作業に過ぎない。俺はキリトの方を見ずに言い放つ。
「自分のことぐらい自分で守れよ。最強のベータテスターさんよ。」
「ハチ。」
こいつはこいつで何か言ってるが知らん。というか遺品は… あった。人の死んだ跡って考えると少し気持ち悪いな。
俺は次々と、遺品をアイテム欄に収納していく。
キリトはそれを呆然と見つめていた。
そのキリトにポーションを投げてやる。
「キリト。まずはポーションを飲め。」
キリトが慌てて全快するまでポーションを飲むのを横目で見ながら話を続ける。
「お前、リトルペネントの胚珠、ドロップしたか?」
「え、あ、いや、まだだけど…」
目の前で人が死んだら気を落とすのも当たり前か。どうせ自分のせいでとか考えてるんだろうな。関係ないからどうでもいいけど。
「この胚珠。お前に売ってやる。代金はアニールブレードの強化アイテムと、情報だ。どうする。」
「そしたらお前はどうs「お前は馬鹿か?」あっ。」
俺はアニールブレードを掲げて見せる。
「とっくに、取ってるよ。胚珠は売るために集めてるだけだ。」
「そうか。ありがとな、助けてくれて。」
「勘違いするんじゃねえよ。俺は遺品を回収しに来ただけだ。」
俺はそういいながら胚珠を投げる。
そう。俺は助けようなどという気は無かった。あったのかもしれないが、それは表のものではない。
「ホルンカに戻るぞ。代金はそれからだ。」
そう一言いいホルンカに向けて歩き出す。
キリトの顔には笑顔とまではいかないが、ほっとしたような表情が浮かんでいた。
Let's八幡チート♪